蜂工場 (6) 駒木根サチ 信じられない、という言葉を、平均的な市民は一生に何度使うのだろう、とサチは半ば麻痺した頭で考えた。雑談の中の接ぎ穂や、意味を持たない修飾語ではなく、心からのそれを。1,000回ぐらいか、それとも10,... 2020/03/16 Comment(6) 蜂工場 (5) 台場トシオ 翌日の午前8時50分、トシオは相模原市の中心部にある小さなビルに足を踏み入れた。昭和の時代に建てられたとおぼしき、古ぼけた5階建てのビルで、エントランスには<大東パーク第2ビル>のプレートが、やや傾い... 2020/03/09 Comment(16) 蜂工場 (4) 駒木根サチ 多くの場合、問題解決の特効薬となる時間は、サチの問題に限っては効果を発揮してくれなかった。例のツイートは、繰り返しリツイートされ、学校への問い合わせの数は増加する一方だった。サチの住所はあっさり特定さ... 2020/03/02 Comment(11) 蜂工場 (3) 台場トシオ メンバーたちの献身的な努力にも関わらず、猶予期間の初日から改修作業には遅れが発生し、トシオは好ましくない進捗状況をTBTに報告しなければならなかった。顔をしかめて報告を聞いた事業部長代理は、まず遅れた... 2020/02/25 Comment(7) 蜂工場 (2) 駒木根サチ この人は一体、何歳なんだろう、と駒木根サチは考えた。目の前に座っている佐藤、と名乗った男性は、30代から50代であれば何歳であっても違和感のない雰囲気だった。服装はビジネスカジュアルというのか、薄いベ... 2020/02/17 Comment(9) 蜂工場 (1) 台場トシオ あなたに仕事を提供したい。その男はそう言った。横浜中華街に近い観光ホテルのラウンジだった。薄い雲が空を覆っているが、2月にしては暖かな午後だ。台場トシオは44才。3年前に妻と娘を離婚という形で失い、半... 2020/02/10 Comment(10) イノウーのプログラミングなクリスマス (終) 「いいね、いいんじゃない?ずっとよくなったよ」斉木係長は褒めちぎったが、イノウーは少しも安心しなかった。次の言葉が正確に予想できたからだ。「でもさ、一ついいかな」イノウーが考えたことは二つだった。同じ... 2019/12/25 Comment(13) イノウーのプログラミングなクリスマス (2) 日曜日の午前11時少し前、サイゼリヤに着いたイノウーは、すでにボックス席に座っている木名瀬を発見し、急いで駈け寄った。「すみません。お待たせしました」木名瀬は読んでいたKindleをパタンと閉じると、... 2019/12/24 Comment(11) イノウーのプログラミングなクリスマス (1) 「イノウーちゃん、ちょっといい?」斉木係長が声をかけてきたのは、12月20日の18時少し前だった。井上ヨシオ、通称、イノウーは反射的に警戒モードに切り替えながら、表面的には愛想のいい笑顔で応じた。「は... 2019/12/23 Comment(8) 夜の翼 (25) こぼれたコーヒー その種族がどのように誕生し、どのような進化を遂げ、今、どこにいるのか、詳しいことはわかっていない。わかっているのは、想像を絶する知性によって、時間の本質を突き止めることに成功した種族である、ということ... 2019/12/16 Comment(17) 夜の翼 (24) 銀の弾丸 「そっかあ」リンが感に堪えたように呟いた。「defaultdictか。これで存在チェックをなくせるじゃん」「へー」マイカも興奮した口調で言いながら左右を見回した。「forのelseって、breakと組... 2019/12/09 Comment(15) 夜の翼 (23) 青いまま枯れてゆく 私は彼らが死んでいくのを聞いていた。『リドリー、チェンを援護しろ』『おい、誰か、マガジン残ってないか』『タンゴ3からシックスへ、応答願います』『魚面が10時の方向に8、いや9......』『バカ、そっ... 2019/12/02 Comment(8) 夜の翼 (22) バタフライ・エフェクト 苅田親子の交換が終わったのは、19時を30分ほど過ぎた頃だった。交換は警備部に一任したので、私は苅田ルミと顔を合わせずにすんだ。人質交換の中継映像を、私は戻ってきたサチと一緒に、オペレーション車両の中... 2019/11/25 Comment(15) 夜の翼 (21) コラテラル・ダメージ 「ぼくに何かご用があるとのことですが」ユアンはニコニコしながら私の前に座った。「それともうちの会社にでしょうか。どちらにせよ、いい話だと嬉しいですね」とりあえずオペレーション車両の安全は確保できたもの... 2019/11/18 Comment(13) 夜の翼 (20) タスクリスト とにかく進行中の事態が多すぎる。しかも放置も先送りもできない事態ばかりだ。私は貴重な数秒を使って、脳内でタスクリストを作った。・正門外で合唱しているスターウィズ教信者たち・学校周辺をうろついているディ... 2019/11/11 Comment(15) 夜の翼 (19) 指揮権限委譲 私は続きを待ったが、佐藤管理官が「イース空間」の詳細を説明してくれる様子はなかった。それどころか、私とプライベート通話中であることさえ忘れたかのように、小声で「エルトダウン・ファクターが......」... 2019/11/05 Comment(8) 夜の翼 (18) 歌おう、感電するほどの喜びを! シュンたちの回収はスムーズに完了した。ハウンドの傭兵部隊の生き残りによる抵抗を懸念されたが、指揮官のA6が死亡したことで、すっかり任務継続への熱意を失ったらしく、ホレイショー率いるソード・フォース分隊... 2019/10/28 Comment(5) 夜の翼 (17) 校庭のディープワンズ 『リン!』星野さんの怒鳴り声が響く。『そのコピーはダメ。deepcopyを使う。それから四番目のリストはタプルに変更。ハル、しっかりナビしなさい』「はい」ハルは震える声で答えた。「すいま......」... 2019/10/21 Comment(11) 夜の翼 (16) 遺伝的アルゴリズム オペレーション車両は制限速度を大幅に超える時速で港南台第二中学に向かっていた。カズトは市販されているノートPCを与えられ、嬉々として中学校のセキュリティシステムへの侵入を始めている。残りのPOは端末の... 2019/10/15 Comment(6) 夜の翼 (15) 助っ人 ユアンが茫然自失に陥ったとしても、それはごく短時間だった。すぐに余裕と落ち着きを取り戻し、佐藤管理官に答えたユアンの顔に浮かんでいたのは素直な感嘆だけだ。「どうも、佐藤さん。正直......やられまし... 2019/10/07 Comment(10) 前のページへ 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 次のページへ SpecialPR
蜂工場 (6) 駒木根サチ 信じられない、という言葉を、平均的な市民は一生に何度使うのだろう、とサチは半ば麻痺した頭で考えた。雑談の中の接ぎ穂や、意味を持たない修飾語ではなく、心からのそれを。1,000回ぐらいか、それとも10,... 2020/03/16 Comment(6)
蜂工場 (5) 台場トシオ 翌日の午前8時50分、トシオは相模原市の中心部にある小さなビルに足を踏み入れた。昭和の時代に建てられたとおぼしき、古ぼけた5階建てのビルで、エントランスには<大東パーク第2ビル>のプレートが、やや傾い... 2020/03/09 Comment(16)
蜂工場 (4) 駒木根サチ 多くの場合、問題解決の特効薬となる時間は、サチの問題に限っては効果を発揮してくれなかった。例のツイートは、繰り返しリツイートされ、学校への問い合わせの数は増加する一方だった。サチの住所はあっさり特定さ... 2020/03/02 Comment(11)
蜂工場 (3) 台場トシオ メンバーたちの献身的な努力にも関わらず、猶予期間の初日から改修作業には遅れが発生し、トシオは好ましくない進捗状況をTBTに報告しなければならなかった。顔をしかめて報告を聞いた事業部長代理は、まず遅れた... 2020/02/25 Comment(7)
蜂工場 (2) 駒木根サチ この人は一体、何歳なんだろう、と駒木根サチは考えた。目の前に座っている佐藤、と名乗った男性は、30代から50代であれば何歳であっても違和感のない雰囲気だった。服装はビジネスカジュアルというのか、薄いベ... 2020/02/17 Comment(9)
蜂工場 (1) 台場トシオ あなたに仕事を提供したい。その男はそう言った。横浜中華街に近い観光ホテルのラウンジだった。薄い雲が空を覆っているが、2月にしては暖かな午後だ。台場トシオは44才。3年前に妻と娘を離婚という形で失い、半... 2020/02/10 Comment(10)
イノウーのプログラミングなクリスマス (終) 「いいね、いいんじゃない?ずっとよくなったよ」斉木係長は褒めちぎったが、イノウーは少しも安心しなかった。次の言葉が正確に予想できたからだ。「でもさ、一ついいかな」イノウーが考えたことは二つだった。同じ... 2019/12/25 Comment(13)
イノウーのプログラミングなクリスマス (2) 日曜日の午前11時少し前、サイゼリヤに着いたイノウーは、すでにボックス席に座っている木名瀬を発見し、急いで駈け寄った。「すみません。お待たせしました」木名瀬は読んでいたKindleをパタンと閉じると、... 2019/12/24 Comment(11)
イノウーのプログラミングなクリスマス (1) 「イノウーちゃん、ちょっといい?」斉木係長が声をかけてきたのは、12月20日の18時少し前だった。井上ヨシオ、通称、イノウーは反射的に警戒モードに切り替えながら、表面的には愛想のいい笑顔で応じた。「は... 2019/12/23 Comment(8)
夜の翼 (25) こぼれたコーヒー その種族がどのように誕生し、どのような進化を遂げ、今、どこにいるのか、詳しいことはわかっていない。わかっているのは、想像を絶する知性によって、時間の本質を突き止めることに成功した種族である、ということ... 2019/12/16 Comment(17)
夜の翼 (24) 銀の弾丸 「そっかあ」リンが感に堪えたように呟いた。「defaultdictか。これで存在チェックをなくせるじゃん」「へー」マイカも興奮した口調で言いながら左右を見回した。「forのelseって、breakと組... 2019/12/09 Comment(15)
夜の翼 (23) 青いまま枯れてゆく 私は彼らが死んでいくのを聞いていた。『リドリー、チェンを援護しろ』『おい、誰か、マガジン残ってないか』『タンゴ3からシックスへ、応答願います』『魚面が10時の方向に8、いや9......』『バカ、そっ... 2019/12/02 Comment(8)
夜の翼 (22) バタフライ・エフェクト 苅田親子の交換が終わったのは、19時を30分ほど過ぎた頃だった。交換は警備部に一任したので、私は苅田ルミと顔を合わせずにすんだ。人質交換の中継映像を、私は戻ってきたサチと一緒に、オペレーション車両の中... 2019/11/25 Comment(15)
夜の翼 (21) コラテラル・ダメージ 「ぼくに何かご用があるとのことですが」ユアンはニコニコしながら私の前に座った。「それともうちの会社にでしょうか。どちらにせよ、いい話だと嬉しいですね」とりあえずオペレーション車両の安全は確保できたもの... 2019/11/18 Comment(13)
夜の翼 (20) タスクリスト とにかく進行中の事態が多すぎる。しかも放置も先送りもできない事態ばかりだ。私は貴重な数秒を使って、脳内でタスクリストを作った。・正門外で合唱しているスターウィズ教信者たち・学校周辺をうろついているディ... 2019/11/11 Comment(15)
夜の翼 (19) 指揮権限委譲 私は続きを待ったが、佐藤管理官が「イース空間」の詳細を説明してくれる様子はなかった。それどころか、私とプライベート通話中であることさえ忘れたかのように、小声で「エルトダウン・ファクターが......」... 2019/11/05 Comment(8)
夜の翼 (18) 歌おう、感電するほどの喜びを! シュンたちの回収はスムーズに完了した。ハウンドの傭兵部隊の生き残りによる抵抗を懸念されたが、指揮官のA6が死亡したことで、すっかり任務継続への熱意を失ったらしく、ホレイショー率いるソード・フォース分隊... 2019/10/28 Comment(5)
夜の翼 (17) 校庭のディープワンズ 『リン!』星野さんの怒鳴り声が響く。『そのコピーはダメ。deepcopyを使う。それから四番目のリストはタプルに変更。ハル、しっかりナビしなさい』「はい」ハルは震える声で答えた。「すいま......」... 2019/10/21 Comment(11)
夜の翼 (16) 遺伝的アルゴリズム オペレーション車両は制限速度を大幅に超える時速で港南台第二中学に向かっていた。カズトは市販されているノートPCを与えられ、嬉々として中学校のセキュリティシステムへの侵入を始めている。残りのPOは端末の... 2019/10/15 Comment(6)
夜の翼 (15) 助っ人 ユアンが茫然自失に陥ったとしても、それはごく短時間だった。すぐに余裕と落ち着きを取り戻し、佐藤管理官に答えたユアンの顔に浮かんでいたのは素直な感嘆だけだ。「どうも、佐藤さん。正直......やられまし... 2019/10/07 Comment(10)