イノウーの憂鬱 (2) 転職 ぼくの名前は井上ヨシオ。29才、独身。横浜市に本社を持つマーズ・エージェンシー株式会社に勤務している。社会人になってからは、同じ横浜市内のサードアイというシステム会社に勤務していたのだが、大学時代に仲... 2020/05/18 Comment(8) イノウーの憂鬱 (1) 新規開発案件 「ちょっと待ってくれ」ぼくは画面を見ながらヘッドセットに言った。「じゃあ、それぞれのhtmlファイル内でjQuery使いたかったらどうするの?」「スクリプトをってことですか?」笠掛マリが画面の中から答... 2020/05/11 Comment(12) 蜂工場 (終) セクションD 眼前で展開する事態があまりにも混沌としていて、トシオは言葉を失っていた。二人の"佐藤"は、顔も体型も、声の抑揚さえ酷似していて、服装が違っていなければ、全く識別ができない。新たに登場した方の佐藤は、白... 2020/04/13 Comment(16) 蜂工場 (9) アーカム 「おい」コウジが怒鳴った。「ふざけるな!」佐藤は冷たい一瞥を向けただけで、ドアの方へ向かった。トシオに片手を広げ、5分ですよ、と念を押し、急ぎ足で出て行く。トシオはその後を追おうとしたが、片肘を掴まれ... 2020/04/06 Comment(18) 蜂工場 (8) 駒木根サチ マリエの戦場が広大な仮想空間の一部分に過ぎないことを、サチはすぐに知ることとなった。膨大な量子情報が、無数の螺旋状の波となって絡み合い、複雑に重なり合う空間だ。それは究極的には、この宇宙の構造そのもの... 2020/03/30 Comment(6) 蜂工場 (7) 台場トシオ 新しい仕事を始めて三日が経過し、トシオが指揮するプログラマたちは、佐藤が言うところの<蜂>を19個作り上げた。それらのクラスがどのように使用されたのか、トシオとプログラマたちには通知されていない。まだ... 2020/03/23 Comment(9) 蜂工場 (6) 駒木根サチ 信じられない、という言葉を、平均的な市民は一生に何度使うのだろう、とサチは半ば麻痺した頭で考えた。雑談の中の接ぎ穂や、意味を持たない修飾語ではなく、心からのそれを。1,000回ぐらいか、それとも10,... 2020/03/16 Comment(6) 蜂工場 (5) 台場トシオ 翌日の午前8時50分、トシオは相模原市の中心部にある小さなビルに足を踏み入れた。昭和の時代に建てられたとおぼしき、古ぼけた5階建てのビルで、エントランスには<大東パーク第2ビル>のプレートが、やや傾い... 2020/03/09 Comment(16) 蜂工場 (4) 駒木根サチ 多くの場合、問題解決の特効薬となる時間は、サチの問題に限っては効果を発揮してくれなかった。例のツイートは、繰り返しリツイートされ、学校への問い合わせの数は増加する一方だった。サチの住所はあっさり特定さ... 2020/03/02 Comment(11) 蜂工場 (3) 台場トシオ メンバーたちの献身的な努力にも関わらず、猶予期間の初日から改修作業には遅れが発生し、トシオは好ましくない進捗状況をTBTに報告しなければならなかった。顔をしかめて報告を聞いた事業部長代理は、まず遅れた... 2020/02/25 Comment(7) 蜂工場 (2) 駒木根サチ この人は一体、何歳なんだろう、と駒木根サチは考えた。目の前に座っている佐藤、と名乗った男性は、30代から50代であれば何歳であっても違和感のない雰囲気だった。服装はビジネスカジュアルというのか、薄いベ... 2020/02/17 Comment(9) 蜂工場 (1) 台場トシオ あなたに仕事を提供したい。その男はそう言った。横浜中華街に近い観光ホテルのラウンジだった。薄い雲が空を覆っているが、2月にしては暖かな午後だ。台場トシオは44才。3年前に妻と娘を離婚という形で失い、半... 2020/02/10 Comment(10) イノウーのプログラミングなクリスマス (終) 「いいね、いいんじゃない?ずっとよくなったよ」斉木係長は褒めちぎったが、イノウーは少しも安心しなかった。次の言葉が正確に予想できたからだ。「でもさ、一ついいかな」イノウーが考えたことは二つだった。同じ... 2019/12/25 Comment(13) イノウーのプログラミングなクリスマス (2) 日曜日の午前11時少し前、サイゼリヤに着いたイノウーは、すでにボックス席に座っている木名瀬を発見し、急いで駈け寄った。「すみません。お待たせしました」木名瀬は読んでいたKindleをパタンと閉じると、... 2019/12/24 Comment(11) イノウーのプログラミングなクリスマス (1) 「イノウーちゃん、ちょっといい?」斉木係長が声をかけてきたのは、12月20日の18時少し前だった。井上ヨシオ、通称、イノウーは反射的に警戒モードに切り替えながら、表面的には愛想のいい笑顔で応じた。「は... 2019/12/23 Comment(8) 夜の翼 (25) こぼれたコーヒー その種族がどのように誕生し、どのような進化を遂げ、今、どこにいるのか、詳しいことはわかっていない。わかっているのは、想像を絶する知性によって、時間の本質を突き止めることに成功した種族である、ということ... 2019/12/16 Comment(16) 夜の翼 (24) 銀の弾丸 「そっかあ」リンが感に堪えたように呟いた。「defaultdictか。これで存在チェックをなくせるじゃん」「へー」マイカも興奮した口調で言いながら左右を見回した。「forのelseって、breakと組... 2019/12/09 Comment(15) 夜の翼 (23) 青いまま枯れてゆく 私は彼らが死んでいくのを聞いていた。『リドリー、チェンを援護しろ』『おい、誰か、マガジン残ってないか』『タンゴ3からシックスへ、応答願います』『魚面が10時の方向に8、いや9......』『バカ、そっ... 2019/12/02 Comment(8) 夜の翼 (22) バタフライ・エフェクト 苅田親子の交換が終わったのは、19時を30分ほど過ぎた頃だった。交換は警備部に一任したので、私は苅田ルミと顔を合わせずにすんだ。人質交換の中継映像を、私は戻ってきたサチと一緒に、オペレーション車両の中... 2019/11/25 Comment(15) 夜の翼 (21) コラテラル・ダメージ 「ぼくに何かご用があるとのことですが」ユアンはニコニコしながら私の前に座った。「それともうちの会社にでしょうか。どちらにせよ、いい話だと嬉しいですね」とりあえずオペレーション車両の安全は確保できたもの... 2019/11/18 Comment(13) 前のページへ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 次のページへ
イノウーの憂鬱 (2) 転職 ぼくの名前は井上ヨシオ。29才、独身。横浜市に本社を持つマーズ・エージェンシー株式会社に勤務している。社会人になってからは、同じ横浜市内のサードアイというシステム会社に勤務していたのだが、大学時代に仲... 2020/05/18 Comment(8)
イノウーの憂鬱 (1) 新規開発案件 「ちょっと待ってくれ」ぼくは画面を見ながらヘッドセットに言った。「じゃあ、それぞれのhtmlファイル内でjQuery使いたかったらどうするの?」「スクリプトをってことですか?」笠掛マリが画面の中から答... 2020/05/11 Comment(12)
蜂工場 (終) セクションD 眼前で展開する事態があまりにも混沌としていて、トシオは言葉を失っていた。二人の"佐藤"は、顔も体型も、声の抑揚さえ酷似していて、服装が違っていなければ、全く識別ができない。新たに登場した方の佐藤は、白... 2020/04/13 Comment(16)
蜂工場 (9) アーカム 「おい」コウジが怒鳴った。「ふざけるな!」佐藤は冷たい一瞥を向けただけで、ドアの方へ向かった。トシオに片手を広げ、5分ですよ、と念を押し、急ぎ足で出て行く。トシオはその後を追おうとしたが、片肘を掴まれ... 2020/04/06 Comment(18)
蜂工場 (8) 駒木根サチ マリエの戦場が広大な仮想空間の一部分に過ぎないことを、サチはすぐに知ることとなった。膨大な量子情報が、無数の螺旋状の波となって絡み合い、複雑に重なり合う空間だ。それは究極的には、この宇宙の構造そのもの... 2020/03/30 Comment(6)
蜂工場 (7) 台場トシオ 新しい仕事を始めて三日が経過し、トシオが指揮するプログラマたちは、佐藤が言うところの<蜂>を19個作り上げた。それらのクラスがどのように使用されたのか、トシオとプログラマたちには通知されていない。まだ... 2020/03/23 Comment(9)
蜂工場 (6) 駒木根サチ 信じられない、という言葉を、平均的な市民は一生に何度使うのだろう、とサチは半ば麻痺した頭で考えた。雑談の中の接ぎ穂や、意味を持たない修飾語ではなく、心からのそれを。1,000回ぐらいか、それとも10,... 2020/03/16 Comment(6)
蜂工場 (5) 台場トシオ 翌日の午前8時50分、トシオは相模原市の中心部にある小さなビルに足を踏み入れた。昭和の時代に建てられたとおぼしき、古ぼけた5階建てのビルで、エントランスには<大東パーク第2ビル>のプレートが、やや傾い... 2020/03/09 Comment(16)
蜂工場 (4) 駒木根サチ 多くの場合、問題解決の特効薬となる時間は、サチの問題に限っては効果を発揮してくれなかった。例のツイートは、繰り返しリツイートされ、学校への問い合わせの数は増加する一方だった。サチの住所はあっさり特定さ... 2020/03/02 Comment(11)
蜂工場 (3) 台場トシオ メンバーたちの献身的な努力にも関わらず、猶予期間の初日から改修作業には遅れが発生し、トシオは好ましくない進捗状況をTBTに報告しなければならなかった。顔をしかめて報告を聞いた事業部長代理は、まず遅れた... 2020/02/25 Comment(7)
蜂工場 (2) 駒木根サチ この人は一体、何歳なんだろう、と駒木根サチは考えた。目の前に座っている佐藤、と名乗った男性は、30代から50代であれば何歳であっても違和感のない雰囲気だった。服装はビジネスカジュアルというのか、薄いベ... 2020/02/17 Comment(9)
蜂工場 (1) 台場トシオ あなたに仕事を提供したい。その男はそう言った。横浜中華街に近い観光ホテルのラウンジだった。薄い雲が空を覆っているが、2月にしては暖かな午後だ。台場トシオは44才。3年前に妻と娘を離婚という形で失い、半... 2020/02/10 Comment(10)
イノウーのプログラミングなクリスマス (終) 「いいね、いいんじゃない?ずっとよくなったよ」斉木係長は褒めちぎったが、イノウーは少しも安心しなかった。次の言葉が正確に予想できたからだ。「でもさ、一ついいかな」イノウーが考えたことは二つだった。同じ... 2019/12/25 Comment(13)
イノウーのプログラミングなクリスマス (2) 日曜日の午前11時少し前、サイゼリヤに着いたイノウーは、すでにボックス席に座っている木名瀬を発見し、急いで駈け寄った。「すみません。お待たせしました」木名瀬は読んでいたKindleをパタンと閉じると、... 2019/12/24 Comment(11)
イノウーのプログラミングなクリスマス (1) 「イノウーちゃん、ちょっといい?」斉木係長が声をかけてきたのは、12月20日の18時少し前だった。井上ヨシオ、通称、イノウーは反射的に警戒モードに切り替えながら、表面的には愛想のいい笑顔で応じた。「は... 2019/12/23 Comment(8)
夜の翼 (25) こぼれたコーヒー その種族がどのように誕生し、どのような進化を遂げ、今、どこにいるのか、詳しいことはわかっていない。わかっているのは、想像を絶する知性によって、時間の本質を突き止めることに成功した種族である、ということ... 2019/12/16 Comment(16)
夜の翼 (24) 銀の弾丸 「そっかあ」リンが感に堪えたように呟いた。「defaultdictか。これで存在チェックをなくせるじゃん」「へー」マイカも興奮した口調で言いながら左右を見回した。「forのelseって、breakと組... 2019/12/09 Comment(15)
夜の翼 (23) 青いまま枯れてゆく 私は彼らが死んでいくのを聞いていた。『リドリー、チェンを援護しろ』『おい、誰か、マガジン残ってないか』『タンゴ3からシックスへ、応答願います』『魚面が10時の方向に8、いや9......』『バカ、そっ... 2019/12/02 Comment(8)
夜の翼 (22) バタフライ・エフェクト 苅田親子の交換が終わったのは、19時を30分ほど過ぎた頃だった。交換は警備部に一任したので、私は苅田ルミと顔を合わせずにすんだ。人質交換の中継映像を、私は戻ってきたサチと一緒に、オペレーション車両の中... 2019/11/25 Comment(15)
夜の翼 (21) コラテラル・ダメージ 「ぼくに何かご用があるとのことですが」ユアンはニコニコしながら私の前に座った。「それともうちの会社にでしょうか。どちらにせよ、いい話だと嬉しいですね」とりあえずオペレーション車両の安全は確保できたもの... 2019/11/18 Comment(13)