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イノウーの憂鬱 (47) パブリッシャー

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 パブリッシャーという職種があることを知ったのは、牧野社長の話を聞いた後、自分なりにゲーム業界について調べたときだった。簡単に言えば、ゲームそのものを作成するのがデベロッパーで、ゲームの販売、宣伝、広告、流通などを行うのがパブリッシャーだ。厳密に言えば、パブリッシャー企業の中にデベロッパー部門があったり、人気ゲームを多数リリースするなどして知名度を上げたデベロッパーが、パブリッシャーへと転換することもあるらしいが。最初はデベロッパーが作ったゲームをパブリッシャーに売り込むのかと思ったが、パブリッシャーがゲームタイトルを企画し、デベロッパーに開発を依頼することの方が多いらしい。どこかIT 業界の構造にも似たところがある。
 SIer がそうであるように、パブリッシャーも大企業であることが多い。一つのゲームが失敗しても、赤字を吸収できるだけの資力がなければならないのだから当然だ。また最近では、英語圏のみならず中国にも販売を拡大することを想定して企画することが多いので、ローカライズ、各国の法律問題、権利問題などをクリアできる部門などにも人員が必要になる。コロナ禍による巣ごもり需要増加が続く中、インドアのエンターテインメントは成長が見込まれるので、ゲーム業界への就職、転職を希望する人は増えているそうだ。現在では、単にゲームが好きだから、というだけでは突破できないほど、狭き門になっているらしい。
 「古里と申します。よろしくお願いします」
 そう言って名刺を差し出したのは、ぼくと同世代の男性だった。身長はぼくと同じか少し低いぐらいだが、横幅はかなり細い。それでいて、ひょろっとしたところがないのは、定期的な運動で適度な筋肉量を維持しているからだろうか。細身のスーツがよく合っている。もっともストイックな印象はそこまでで、肩から上は真逆のスタイルだ。まず、保守的な人なら眉をひそめるほど髪が長く、その一部はヘアゴムで頭頂部に結わえられている。一流企業の社員が、初めての企業を訪問するときのヘアスタイルではないが、さらにこの男性は、顎ヒゲまで生やしていた。きちんと整っているところをみると、無精髭、というわけではなく、ファッションの一部だ。フレームの太いメガネは屈折率がゼロなので伊達なのだろう。その奥の細い目には、自分のやるべき仕事は心得ています、と言わんばかりの光が宿っている。軽く頭を下げはしたが、それは社会人としての最低限の礼儀としてかろうじて許容されるだけの角度でしかなかった。全身から自信がにじみ出ていて、それを隠そうともしていない。
 ぼくの経験からすると、こういう態度の人間は、だいたい二種類に分類される。経験とスキルに裏打ちされた自信がある人と、勤めている会社の名前で武装しているだけの人だ。以前に仕事で関わったグーグルの営業マンや、オラクル社のスペシャリストは前者だった。某メーカーから技術サポートで来たエンジニアや、大手SIer のパッケージ保守担当主任などは後者だった。この男は果たしてどちらなのか。
 受け取った名刺に印字されている「ノヴァ・エンターテインメント」という会社名には聞き覚えがなかったが、それはぼくがゲーム業界にうといせいで、会社の規模はマーズ・エージェンシーよりも大きい。某芸能プロダクショングループの傘下にあり、ここ数年で急激に成長している。名刺は紙ではなく薄いプラスティックで、超新星を意匠化したのか、放射状に伸びるイエローの幾何学模様が第2 象限部分を埋めていた。
 古里氏は、大竹専務、斉木室長、ぼくの順に名刺を渡したが、マリには別の対応を行った。親しげな表情で笑いかけると「よ、笠掛、久しぶり」と声をかけたのだ。
 「どうも」マリは失礼にならない程度の無愛想さで応じた。「お元気そうで」
 「なんだよ、冷たいじゃねーか。笠掛の頼みだから、スケジュールをむりくり空けて来たんだぞ」
 「あー、そうすか。それはそれは、お忙しいところ申しわけありませんでしたね」
 「ったく、素直じゃねーんだから。そりゃあ、俺たち、価値観の違いから最終的には別々の道を行くことを選択したけど、それなりに深い付き合いだっただろ」
 「付き合ってません!」マリが叫んだ。「ちょっと、いい加減なこと言わないでください」
 「もう終わったことだぜ? 昔のアオハルの苦い思い出ってだけだろ。隠さなくてもいいじゃねーか」
 「そもそも始まっていませんから」マリは冷たく答えると、ぼくを見て訴えた。「本当なんですよ」
 「ぼくは別に何も......」
 「あー、いいかね」大竹専務が咳払いして介入した。「少し早いがそろそろ行こうか」
 少しどころか、予定時刻まで10 分以上残っていたが、マリは激しくヘッドバンギングして同意すると、一足先にシステム開発室を出ていった。古里氏は肩をすくめて、ぼくに話しかけた。
 「井上さんでしたっけ、大変ですね」
 「はあ?」
 「ほら、あいつ」古里氏はマリが消えていった通路の先を親指で指した。「面倒くさいやつでしょう」
 「別にそんなことは......」
 「気分屋ですからね」ぼくの言葉をスルーして、古里氏はクックッと意地の悪いハトみたいに笑った。「あいつを扱うコツ、教えましょうか?」
 「いえ」こみ上げてきた気分の悪さを押し殺して、ぼくは断った。「笠掛さんとはずっと仕事してきてるので」
 「ふーん。ま、いつでも連絡してください。相談に乗りますよ。あいつのことならよくわかってるんでね」
 その瞬間、この男は好きになれない、と知った。ぼくはスマートフォンに通知があった体を装って返事を避けた。
 「古里さん」大竹専務が小声で言った。「これからの打ち合わせで、やることはわかってますな?」
 「ええ、もちろんです」古里氏は胸を張った。「御社の社長のゲームの提案を聞いて、うちが扱える案件かどうか判断する、ということですね」
 「その判断は、あらかじめお伝えしてある通りに......」
 「おっとっと」古里氏は大げさに手を振った。「私はあくまでも、御社の提案を正当に評価させてもらうだけです。出来レースみたいなことは、どんなデベロッパーが相手でもやってないんです」
 大竹専務は足を止めて声を荒げた。
 「ちょっと待ってくれませんか。それでは話が......」
 「お話ですか」話の主導権を握るクセでもあるのか、古里氏はまた遮った。「弊社が受けた依頼は、ゲーム企画の評価だけだと聞いていますがね。そもそも異例なんですよ、わざわざ訪問してまで持ち込み企画を評価するなんて。今回は私が上に掛け合ったので実現しましたがね。だからといって、御社が希望するストーリーに沿ったリザルトを出すとかありえないでしょう」
 「......」
 「でも、まあ」古里氏は人差し指を軽く振った。「実際のところ、うちの企画部が出した企画でも、実際に製品化まで行くのは5% もないぐらいです。四六時中ゲームのことばかり考えてるプロでもね。笠掛から聞いた話だと、御社の社長さんは、何十年か前にいくつかゲームを作っただけで、ほとんど素人みたいなものなんでしょう? まあ、まず通ることはないんじゃないかと思いますよ。最終的には、お望みのレポートを出すことになりますって。納得いただけましたか」
 とても納得したようではなかったが、とにかく大竹専務は足の動きを再開した。歩きながら、この男で大丈夫か、と問いたげな視線をぼくに刺してきたが、判断材料を持たないぼくは首を傾げてみせるしかなかった。
 到着した会議室では、事前に木名瀬さんが打ち合わせの準備を整えていた。アクリル板のパーティションが設置され、ペットボトルのお茶が用意されている。ぼくたちが入室すると、木名瀬さんは古里氏を席に案内し、自分は牧野社長を呼びに行った。一足先に来ていたマリは、ぼくに何か言いたそうだったが、すぐに木名瀬さんが戻ってきたので諦めたようにうつむいた。
 牧野社長がゆっくり入ってくると、古里氏は立ち上がった。スーツの内ポケットから名刺を出して挨拶し、付け加えた。
 「この名刺は滅菌済みで、抗菌コーティングされていますので、ご心配なく」
 最初はリモートで、ということで進めていた今日の打ち合わせだったが、牧野社長の意向で対面ということになった。高齢の牧野社長に対する配慮から出た言葉だったのかもしれないが、ぼくには「ここまで配慮してやってる」という上から目線に聞こえた。
 牧野社長と古里氏が向かい合わせで座り、ぼくと大竹専務は少し離れた椅子に座った。密になるのを避けるため、他の人たちは退室していった。Teams が起動したノートPC が置いてあり、隣の会議室からリモート参加になる。
 社交辞令のやり取りもなく、打ち合わせは始まった。
 「早速ですが」古里氏は持参したタブレットを手に切り出した。「御社の提案をお聞かせください」
 牧野社長は頷くと、手元のキャンパスノートを開いた。
 「まず私が作りたいのはウィザードリィのようなダンジョンゲームです」
 そう言った牧野社長は、ゲームのコンセプトを熱い口調で語り始めた。世界を破滅に追い込みかけた悪魔が、英雄の決死の戦いの末、地底深くに封じ込められて1000 年。地上で疫病が流行し、多くの人々が倒れている。どうやら地下で悪魔が力を取り戻しつつあるらしい。軍隊が送り込まれたが、地下は迷宮と化していて、悪魔を発見することさえできなかった。そこで王はダンジョンを探索する勇者を募集する......というストーリーだ。
 「私は方眼紙を何枚も使ってダンジョンをマッピングしたものです。今でも大事にファイリングして持ってますよ」
 牧野社長は懐かしそうに話したが、古里氏は大して感銘を受けた様子もなく訊いた。
 「ダンジョンにはどんな敵がいるんですかね」
 「それはスライムとかオークとかゴブリンとか、そういう奴らですよ」
 「一人視点になるんですか」古里市は早口で訊いた。「確かウィザードリィは5 人だったか6 人だったかのパーティを組むんですね。同じ方式で?」
 「そうですね。職業をそれぞれ選択して......」
 「そうなると」古里氏はまた遮った。「イベントタイムを設定して集合することになるわけですか」
 牧野社長は困惑したように相手を見た。
 「集合? ああ、ダンジョンに入る前に宿屋とかでパーティを組む話ですか」
 「宿屋でも銭湯でもなんでもいいんですがね。とにかく参加者が時間を決めて集合するわけですよね」
 「時間を決める......ちょっと意味がわからないんですが」
 「え? ダンジョンにはパーティで入るんでしょう?」
 「そうですが」
 「だったら」声に苛立ちが混じっている。「集合するわけじゃないですか」
 「あの」ぼくは手を挙げた。「いいですか? たぶん古里さんはネット上のプレイヤーが参加する話をしているんだと思いますが」
 古里氏はぼくの方を見て頷いた。
 「もちろん、そうですよ。他に何がある......」古里氏は急に何かに思い当たったように指を鳴らした。「あ、わかりました。もしかしてシングルプレイを前提に話されてるんですか?」
 牧野社長が頷くと、古里氏は短く笑った。
 「ああ、そりゃちょっと無理ですね。一人でプレイするって、そういうのは今どきマーケットがないですよ」
 「そうですか?」ぼくは反論した。「Outer Wilds みたいに一人で遊ぶゲームはあると思いますけど」
 「ゲームシステムやストーリーが面白ければ、そういうのはもちろん成立しますがね。ただダンジョンをひたすら進むだけなんて、そんなのやる人います?」
 「私の世代なら」牧野社長はおずおずと言った。「懐かしくてやりたい、という人はいると思うんですがね。何年もやり続けていた友人もおりますが」
 「その程度の規模のマーケットでは、投資に対するリターンが少なすぎるんです。それに何年もやり続けられる、というのは、ゲームとしてはよくできていても、商売としては失敗です。適度なところで終わってくれないと次が売れません。残念ですが弊社ではお力になれませんね」
 牧野社長は肩を落としたが、ぼくと大竹専務は密かに視線を交わした。牧野社長の失望は理解できるが、ぼくたちが意図した方向に進んでいる。
 「わかりました」牧野社長は顔を上げた。「これは考え直します。次の案を聞いてもらえますか」
 「どうぞ」
 次に牧野社長が話したのは「スターウェブ」に似たゲームだった。宇宙を舞台に領土を拡張していく、というコンセプトを口にした時点で、古里氏は笑って遮った。
 「そういうゲームはですね」古里氏はため息をついた。「PC でもスマホでもたくさんあるんですよ。宇宙じゃなくても、ファンタジー世界でも、戦国時代でも。どう差別化されるんです?」
 「プレイヤー同士が裏で交渉できるようにして......」
 「そんなのは今どき普通じゃないですか。そういう仕組みをわざわざ用意しなくても、SNS でも何でもやり取りはできますよね」
 「バーサーカーを、いえ、それに似たすごい破壊力を持った敵を用意してですね......」
 「ラスボス的な? ありがちですねえ。差別化になってませんよ」
 「惑星を開拓すると、一定の確率で古代の超兵器が発見されて......」
 「ガチャってことですか。それも別に目新しくはないですね」
 「艦隊を作って戦闘で領土を勝ち取って......」
 「普通ですよ、それ」
 「それだけじゃなく、交渉や貿易でも領土が......」
 「うーん」古里氏はタブレットから手を離して、頭の後ろで手を組んだ。「面白みがないですね。知名度のある小説かマンガを原作、ということにして、そこのキャラを出すとかなら別ですが、そういう話ではないんですよね」
 「純粋にプレイヤー同士のやり取りで進めていきたいんです」
 「萌えキャラもなし?」
 「......なしです」
 「残念ですが弊社では扱えませんね。他にはないんですか?」
 牧野社長はキャンパスノートをめくった。
 「ウルティマというゲームがあって、それに似たものを考えているんですが......」
 「ああ、ダメです、ダメダメ」古里氏は話を聞くだけ時間のムダ、と言いたげに遮った。「その手のゲームはもう飽和状態です。よほど世界観を画期的なものにするとかしないと、改めて手を出す意味はないですね。ドラクエみたいな化け物シリーズには勝てないのでね」
 「......そうですか」牧野社長は沈んだ口調で言った。
 少し気の毒になったのか、古里氏は提案した。
 「鉄板で絶対、とはいかなくても、そこそこ売上が狙えるジャンルがあるんですがね」
 「ほう」牧野社長は身を乗り出した。「なんでしょう?」
 「18 禁ゲーム」古里氏は笑った。「いわゆるエロゲーです」
 牧野社長が答える前に、大竹専務が椅子を蹴り飛ばすような勢いで立ち上がった。
 「それは論外です」
 「確かにあまり大声でうちが作ってます、とは言いづらいジャンルですが、一定の需要はあるんですよ。それ専用の絵師や制作会社もあるぐらいだし、二次創作のネタにもなります」
 「論外です」大竹専務は繰り返し、社長に向き直った。「社長、まさか乗るつもりではないでしょうな」
 牧野社長は苦笑しながら頷き、古里氏に言った。
 「提案していただいて恐縮ですが、それは私が作りたいゲームではないですね」
 「でしょうね。まあ、弊社としては一応、可能性をお伝えしただけですので」
 「DOOM 的なFPS はどうですか?」
 「やはり飽和状態ですね。戦争アクション映画さながらのリアリティのゲームがたくさんあります。最近はマニアの目も肥えてますから、薬莢の形状が実物とほんの少し違うだけでも、すぐ勉強不足だの手抜きだの言われます。未来世界が舞台でも同じです。昔なら単に<レーザーガン>で良かったのに、今では放熱がどうの、エネルギー源がどうの、波長がどうのと追求されるんです。ああいうのは企画と調査だけでも年単位で時間がかかりますよ」
 「そうですか」
 さすがに牧野社長は気落ちしてきているようだ。打ち合わせの時間は1 時間の予定だから、このまま時間切れまで否定が続けば、牧野社長も現実を知るのではないだろうか。牧野社長に同情しつつ、ぼくは内心、安堵しかけていた。
 「それにしても」もう品切れと見たのか、古里氏はタブレットを押しやって気楽な調子で話しかけた。「いろいろ考えていらっしゃたんですね。そのノートにゲームのアイデアを書いていたんですか?」
 「ああ、そうです。隙間時間でね」牧野社長はキャンパスノートを愛おしげに見た。「設定をあれこれ考えたりしてね。考えてみれば、そういう時間が一番幸せだったのかもしれません」
 「設定というとダンジョンの構造とか、モンスターの属性とか、そういったことですかね」
 「ええ。でも、一番、時間を使ったのは、スターウェブ的なゲームの設定ですかね」牧野社長はノートをめくり、挟んであった紙を取り出した。「これは星図なんですよ。太陽系を中心にこんな感じで星系を配置してね」
 「へえ。拝見してもよろしいですか?」
 牧野社長はその紙をアクリル板の隙間から、古里氏の方に押しやった。受け取った古里氏はそれを広げようとして戸惑った。
 「かなり大きいですね」
 「A3 を4 枚くっつけてあるんですよ」牧野社長は恥ずかしそうに言った。「こんな会社の代表をやっているんだから、何かソフトを使えばいいんですがね。若い頃からずっと手で書いてきたので」
 古里氏は立ち上がると、会議テーブルの空いているスペースに紙を広げ、そして思わず唸った。ぼくと大竹専務も席を立ち、それを覗き込み、等しく息を呑んだ。
 それは素人が作ったとは思えないほど、緻密な星図になっていた。中心にあるのは太陽系で、全惑星と主要な衛星が和名と英語で記述され、直径や太陽からの距離、重力が表になっている。まだ冥王星が惑星だった頃に書かれたらしく、惑星の数は9 個だ。
 太陽系を取り囲むように、様々な星系が配置されている。アルファ・ケンタウリ、バーナード、シリウスなど聞き慣れた恒星もあるし、ラランド21185、ウォルフ359、ロス154、グリーゼ725 など聞き慣れない星系もある。どの星系にも惑星の数、太陽系からの光年、等級などが詳細に記述されている。
 「これは細かく調べてありますね」古里氏がこの会議室に入って以来、初めて感心したような声を出した。「全て実際の星なんですか」
 「ええ、天文雑誌を定期購読しています。今のところ91 の星系ができているんです」
 「それはまた」古里氏は星図を指でなぞりながら言った。「プレイヤーは惑星を開拓していくわけですか」
 「そういう設定です」
 「じゃあ次は惑星の設定ですね」
 「それなら」と牧野社長は別のノートを取り出した。「こっちに書いてあります」
 そのノートを開いた古里氏は、今度こそ、声に出して感嘆した。ノートの各ページには、惑星の直径や自転軸、公転周期、重力、採取できる資源の詳細、動植物の有無、古代文明の遺跡、超空間ゲートなど、様々なデータがびっしり記述されていた。見開きページには、グード図法で惑星の海と陸地が詳細に描かれている。
 古里氏は時間をかけて、ノートをめくった。ぼくは不安な思いに駆られながらそれを見守った。予定していた1 時間にあと5 分となったとき、大竹専務が声をかけたが、古里氏は「私は構いませんので」と言っただけで、顔を上げようともしなかった。
 ようやく古里氏がノートを閉じたのは、80 分が経過してからだった。星図とノートを牧野社長に返した古里氏は、最初の頃の傲慢な態度をすっかり消していた。
 「一度、持ち帰ってよろしいでしょうか」古里氏は言った。「ゲームのコンセプトは相談させていただきたいですが、これだけの設定を捨ててしまうのはあまりにも惜しいと言わざるを得ません」
 牧野社長の顔が歓喜に輝いた。

 (続)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。

Comment(30)

コメント

匿名

また妙な展開になってきた…

匿名

牧野社長やったぜ(歓喜)
牧野社長がいい人過ぎてつい応援してしまうんだよな

匿名

そして似たような設定のゲームが発売される倒錯問題へ・・・?

匿名

設定や世界観の調査に時間がかかるから無理というのは裏を返せばそこをクリアできれば何とでもなるってことだし

匿名

ゲームタイトになっている場所がありました、ゲームタイトルでしょうか?

匿名

そんなの見せられたらワクワクするに決まってんじゃん

読み返してきた

ヘッドバンキング→ヘッドバンギング
Head Bangingなので。

z

同人ゲームを作って売っている経験上、売れるものには最低一人以上の天才が関わる必要があると思う
シナリオなり、システムなり、音楽なり絵なり…

中身次第だろうけど、社長天才かもしれん…と思ったら、自分なら邪魔できんかも…

読み返してきた

ヘッドバンキング→ヘッドバンギング
Head Bangingなので。

しゅう

以前プレイしていた「dyson Sphere Program」という
ゲームが思い浮かんだ~

それにしても専務さん,まじぴえんw
切り札が裏目にでる不運

匿名

ストーリーがどんどん妙な方向に転がって続きが気になりすぎる

匿名

これは古里が持ち帰って、社内で協議した結果やっぱりダメでした……と牧野社長が追っ払われる展開が来る予感。
(そしてその裏では古里が牧野社長のノートに書かれたネタを丸パクリして、新規企画を立ち上げる)

匿名

でもパブリッシャーが乗るんなら、もうマーズネットは関係なくない?
総監督に社長が収まればいいわけで、あとは企画とデベロッパーが作ると。
社長は特に会社で仕事があるわけではなさそうだし。

マーズネットの手を離れる、社長は作りたいものが実現する、パブリッシャーは売れる、で三方よし?

匿名

相手がプロなんだなあってのがわかるの良いよね

匿名

最初は今までの物語みたいに
vs伊牟田の話
とか何か一つのテーマに沿ったかと思ってたけど、
どうやら日常系?の次から次に起こるまさにイノウーの憂鬱な物語なのね。

匿名

少し違和感。
ゲームの企画段階で大事なのは設定の作り込みじゃなくて
ゲームコンセプトの方じゃなかろうか・・・?
例えば○を○る○とにどれだけすごい緻密な裏設定があったとしても
「ゲーム部分ちゃんとしろや」の一言で片付けられてしまうように。
といってもこちらも素人なのそんなことないよ、と言う人がいたらごめん。

通りすがりのゲーム業界人

こいつ一緒に仕事することになったらぶん殴るタイプだわw

リーベルG

匿名さん、読み返してきたさん、ありがとうございました。
今のいままで「ヘッドバンキング」だと思っていました。

匿名

「大手SIer のパッケージ保守担当主任などは後者だった。」
某之内氏ですね。

きゅういち

シリウスなど聞き慣れた恒星もあるるし、
  ↓
シリウスなど聞き慣れた恒星もあるし、
「る」が一つ多いみたいです。

リーベルG

きゅういちさん、ありがとうございました。
一つ多いですね。

やわなエンジニア

「世界観の解説書が付属するくらい設定は凝ってるけどそれを本編で活かせてなかったゲーム」ってのは牧野社長が遊んでた時代にもあった気がしますが、これもそうなるという可能性はないですかねえ。

ちゃとらん

『設定はすごいけど、デベロッパーがそれを台無しにする…』のが嫌なので、自社で開発がしたい…という事では?
さらに、イノウ―君なら、何とかしてくれるかも? という期待感も相まってる?


問題は、パブリッシャーの彼が『曲者』という事。まだ、善人か悪人か判断付きませんけど。

匿名

イノウ―の憂鬱ってタイトル通りだよなぁ…

育野

ゲーム(アナログゲーム除く)なんてある意味最先端のIT 業界だと思っていましたが
外野ゆえの的外れな印象だったかとちょっと気になりました.
自分がやってる事を関連がある程度のくくりでまとめて語られると,確かにムッとしなくもない.
中の人的には「一緒にするな」案件なのでしょうか.

著作権法的には,アイディアは保護されないということになってるので
パクリゲー作られたらってのは不安.
手書きの星系マップ等の「成果物」があるのは強みなんでしょうが,
手書きゆえに製作時期を証明できなくて泣き寝入り,なんて展開にはならないといいなぁ.
# 古里氏が当初切り捨ててたように,ただの設定から魅力的な世界観を作り込むのがそんなに大変なのであれば
# 世の作家さん(特にSF・ファンタジー系)はもっと尊敬されてしかるべき

匿名

〇〇みたいなゲームって、そりゃ普通に〇〇のシリーズやりゃいいから企画になってないよ。緻密な世界観設定を組み上げて、それで何をするのか、その設定が継続できるのかというのが企画の話。トールキンの指輪物語とかがその例かな。今回のも最終的に持ち帰るのはその世界観部分だし

>全身から自信がにじみ出していて、それを隠そうともしていない。
全身から自信がにじみ出ていて or 全身から自信をにじみ出していて
かなと。

匿名

今回のお話は楽しませていただきました。
話の本質でないのは百も承知ですが、グード図法は地球の各大陸の面積の比率をなるべく現実と一致させるために海洋側にひずみを寄せる表記法なので、社長さんが地球以外の惑星の地図をこれで描いている、という今回の話にはちょっと疑問が浮かびました。

リーベルG

ささん、ありがとうございました。
「にじみ出ていて」ですね。

匿名D

この設定をもとにゲーム化を、じゃなくて、
既存の宇宙を舞台にしたゲームの、
新しい領域の設定のためのダシに、てのもありかな。
その場合は社長さん、どんな顔するんだろう。

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