イノウーの憂鬱 (16) パートナー企業 ダリオスは10年以上前に、当時のマーズネット株式会社の受注管理のためにJavaで作成されたシステムだ。開発案件の見積作成、受注に関する各種管理業務から始まり、数年かけて少しずつ機能を積み上げてきた。現... 2020/08/24 Comment(14) イノウーの憂鬱 (15) ローカルルール マスクの利点の一つは、口元の表情を隠せる、ということだ。ぼくが思わず鳴らした舌打ちは、幸いなことにマスクのおかげで誰にも気付かれずにすんだ。7月1日の朝、全員出社すること、という伊牟田課長の命令により... 2020/08/17 Comment(14) イノウーの憂鬱 (14) 蛇の舌 「ところでさあ」斉木室長は周囲を見回してから声を潜めた。「イノウーちゃん、笠掛くんと何かあった?」またそれか。ぼくはうんざりした。先週以来、ぼくとマリの共通の関係者から、折に触れて訊かれてきた質問だ。... 2020/08/11 Comment(12) イノウーの憂鬱 (13) 内憂外患 最後まで続いていた首都圏の移動自粛も、6月19日には全面的に解除される見込み、と報道されると、待ちかねたように、停滞していたビジネスが活動を再開した。ペンディングになっていた、エースシステムの受発注管... 2020/08/03 Comment(17) イノウーの憂鬱 (12) ラクトアイス 「伊牟田さんって、なんで......」思わず大きな声を出したが、膝の上に座っていたかわいい生きものが、驚いたようにぼくを見上げたので、慌てて口を閉じた。「ふう」木名瀬さんがため息をついた。「やっぱりそ... 2020/07/27 Comment(20) イノウーの憂鬱 (11) ピクニック 6月5日の空は、まるで奇跡のように晴れ渡っていた。ここ数日のぐずついた天気がウソのようだ。平日の金曜日、有休取得日、ピクニック当日、そして雲一つない晴天。きっと日頃の行いがいいからに違いない。ぼくは午... 2020/07/20 Comment(6) イノウーの憂鬱 (10) GWに休める会社 「おつかれさまでした」木名瀬さんの言葉に、ぼくは肩の力を抜いて、両手をダラリと垂らした。29日の午後から、ほぼ2日間にわたって作ってきた検温登録システムは、5月1日の午前7時に無事リリースすることがで... 2020/07/13 Comment(9) イノウーの憂鬱 (9) 椅子とキーボード 「椅子も買ってもらえばよかったな」ぼくはぼやいた。「え?」マリが訊き返した。「なんすか?」「椅子だよ、椅子」ぼくが座っているのは、ダイニングチェアにカテゴライズされるだろう、古い木製の椅子だった。この... 2020/07/06 Comment(22) イノウーの憂鬱 (8) 緊急事態 冷静に考えれば、社員の一人が新型コロナウィルスに感染したところで、直ちに全社的な影響が出るものではないが、本能的な恐怖が拙策に走らせたようだ。家族からの連絡を受けた総務課は、ただちに社のトップ層、つま... 2020/06/29 Comment(8) イノウーの憂鬱 (7) 初仕事 プレゼンテーションの結果、テレワーク用ノートPC申請フォームは、正式にシステム開発室が構築することに決定した、と斉木室長を通じて連絡が入ったのは15時30分過ぎだった。決定までの時間が予想を大幅に下回... 2020/06/22 Comment(2) イノウーの憂鬱 (6) 訪問者たち 15時まで7分を残して、紙芝居アプリケーションの構築は何とか完了した。ギリギリまで時間がかかったのは、いくつかの理由がある。その一つは、Webサーバとしての環境作成作業に想定外の時間を要したことだった... 2020/06/15 Comment(11) イノウーの憂鬱 (5) 紙芝居 システム開発室に戻った途端、マリは怒りを爆発させた。「なんなんすか、ありゃあ」マスクを通してでさえ、その声は廊下に届きそうだった。「お医者さんや看護師さんが、汚染されてるとでも言いたいですか。感謝して... 2020/06/08 Comment(12) イノウーの憂鬱 (4) 増殖する要望 「......シングルサインオンは」ぼくは必死で頭を回転させた。「えーと、普通にWebAPIを読みにいくことができると思います。HTTPなので」「データはXMLですが」木名瀬さんが問い返す。「問題ない... 2020/06/01 Comment(9) イノウーの憂鬱 (3) テレワーク狂想曲 プログラマはテレワークを導入しやすい職種だ、と言われる。プログラミングという作業だけを見れば、それは正しい意見だ。それまでテレワークという働き方を経験したことがなかったぼくも、実際に始めてみるまでは、... 2020/05/25 Comment(11) イノウーの憂鬱 (2) 転職 ぼくの名前は井上ヨシオ。29才、独身。横浜市に本社を持つマーズ・エージェンシー株式会社に勤務している。社会人になってからは、同じ横浜市内のサードアイというシステム会社に勤務していたのだが、大学時代に仲... 2020/05/18 Comment(8) イノウーの憂鬱 (1) 新規開発案件 「ちょっと待ってくれ」ぼくは画面を見ながらヘッドセットに言った。「じゃあ、それぞれのhtmlファイル内でjQuery使いたかったらどうするの?」「スクリプトをってことですか?」笠掛マリが画面の中から答... 2020/05/11 Comment(12) 蜂工場 (終) セクションD 眼前で展開する事態があまりにも混沌としていて、トシオは言葉を失っていた。二人の"佐藤"は、顔も体型も、声の抑揚さえ酷似していて、服装が違っていなければ、全く識別ができない。新たに登場した方の佐藤は、白... 2020/04/13 Comment(16) 蜂工場 (9) アーカム 「おい」コウジが怒鳴った。「ふざけるな!」佐藤は冷たい一瞥を向けただけで、ドアの方へ向かった。トシオに片手を広げ、5分ですよ、と念を押し、急ぎ足で出て行く。トシオはその後を追おうとしたが、片肘を掴まれ... 2020/04/06 Comment(18) 蜂工場 (8) 駒木根サチ マリエの戦場が広大な仮想空間の一部分に過ぎないことを、サチはすぐに知ることとなった。膨大な量子情報が、無数の螺旋状の波となって絡み合い、複雑に重なり合う空間だ。それは究極的には、この宇宙の構造そのもの... 2020/03/30 Comment(6) 蜂工場 (7) 台場トシオ 新しい仕事を始めて三日が経過し、トシオが指揮するプログラマたちは、佐藤が言うところの<蜂>を19個作り上げた。それらのクラスがどのように使用されたのか、トシオとプログラマたちには通知されていない。まだ... 2020/03/23 Comment(9) 前のページへ 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 次のページへ SpecialPR
イノウーの憂鬱 (16) パートナー企業 ダリオスは10年以上前に、当時のマーズネット株式会社の受注管理のためにJavaで作成されたシステムだ。開発案件の見積作成、受注に関する各種管理業務から始まり、数年かけて少しずつ機能を積み上げてきた。現... 2020/08/24 Comment(14)
イノウーの憂鬱 (15) ローカルルール マスクの利点の一つは、口元の表情を隠せる、ということだ。ぼくが思わず鳴らした舌打ちは、幸いなことにマスクのおかげで誰にも気付かれずにすんだ。7月1日の朝、全員出社すること、という伊牟田課長の命令により... 2020/08/17 Comment(14)
イノウーの憂鬱 (14) 蛇の舌 「ところでさあ」斉木室長は周囲を見回してから声を潜めた。「イノウーちゃん、笠掛くんと何かあった?」またそれか。ぼくはうんざりした。先週以来、ぼくとマリの共通の関係者から、折に触れて訊かれてきた質問だ。... 2020/08/11 Comment(12)
イノウーの憂鬱 (13) 内憂外患 最後まで続いていた首都圏の移動自粛も、6月19日には全面的に解除される見込み、と報道されると、待ちかねたように、停滞していたビジネスが活動を再開した。ペンディングになっていた、エースシステムの受発注管... 2020/08/03 Comment(17)
イノウーの憂鬱 (12) ラクトアイス 「伊牟田さんって、なんで......」思わず大きな声を出したが、膝の上に座っていたかわいい生きものが、驚いたようにぼくを見上げたので、慌てて口を閉じた。「ふう」木名瀬さんがため息をついた。「やっぱりそ... 2020/07/27 Comment(20)
イノウーの憂鬱 (11) ピクニック 6月5日の空は、まるで奇跡のように晴れ渡っていた。ここ数日のぐずついた天気がウソのようだ。平日の金曜日、有休取得日、ピクニック当日、そして雲一つない晴天。きっと日頃の行いがいいからに違いない。ぼくは午... 2020/07/20 Comment(6)
イノウーの憂鬱 (10) GWに休める会社 「おつかれさまでした」木名瀬さんの言葉に、ぼくは肩の力を抜いて、両手をダラリと垂らした。29日の午後から、ほぼ2日間にわたって作ってきた検温登録システムは、5月1日の午前7時に無事リリースすることがで... 2020/07/13 Comment(9)
イノウーの憂鬱 (9) 椅子とキーボード 「椅子も買ってもらえばよかったな」ぼくはぼやいた。「え?」マリが訊き返した。「なんすか?」「椅子だよ、椅子」ぼくが座っているのは、ダイニングチェアにカテゴライズされるだろう、古い木製の椅子だった。この... 2020/07/06 Comment(22)
イノウーの憂鬱 (8) 緊急事態 冷静に考えれば、社員の一人が新型コロナウィルスに感染したところで、直ちに全社的な影響が出るものではないが、本能的な恐怖が拙策に走らせたようだ。家族からの連絡を受けた総務課は、ただちに社のトップ層、つま... 2020/06/29 Comment(8)
イノウーの憂鬱 (7) 初仕事 プレゼンテーションの結果、テレワーク用ノートPC申請フォームは、正式にシステム開発室が構築することに決定した、と斉木室長を通じて連絡が入ったのは15時30分過ぎだった。決定までの時間が予想を大幅に下回... 2020/06/22 Comment(2)
イノウーの憂鬱 (6) 訪問者たち 15時まで7分を残して、紙芝居アプリケーションの構築は何とか完了した。ギリギリまで時間がかかったのは、いくつかの理由がある。その一つは、Webサーバとしての環境作成作業に想定外の時間を要したことだった... 2020/06/15 Comment(11)
イノウーの憂鬱 (5) 紙芝居 システム開発室に戻った途端、マリは怒りを爆発させた。「なんなんすか、ありゃあ」マスクを通してでさえ、その声は廊下に届きそうだった。「お医者さんや看護師さんが、汚染されてるとでも言いたいですか。感謝して... 2020/06/08 Comment(12)
イノウーの憂鬱 (4) 増殖する要望 「......シングルサインオンは」ぼくは必死で頭を回転させた。「えーと、普通にWebAPIを読みにいくことができると思います。HTTPなので」「データはXMLですが」木名瀬さんが問い返す。「問題ない... 2020/06/01 Comment(9)
イノウーの憂鬱 (3) テレワーク狂想曲 プログラマはテレワークを導入しやすい職種だ、と言われる。プログラミングという作業だけを見れば、それは正しい意見だ。それまでテレワークという働き方を経験したことがなかったぼくも、実際に始めてみるまでは、... 2020/05/25 Comment(11)
イノウーの憂鬱 (2) 転職 ぼくの名前は井上ヨシオ。29才、独身。横浜市に本社を持つマーズ・エージェンシー株式会社に勤務している。社会人になってからは、同じ横浜市内のサードアイというシステム会社に勤務していたのだが、大学時代に仲... 2020/05/18 Comment(8)
イノウーの憂鬱 (1) 新規開発案件 「ちょっと待ってくれ」ぼくは画面を見ながらヘッドセットに言った。「じゃあ、それぞれのhtmlファイル内でjQuery使いたかったらどうするの?」「スクリプトをってことですか?」笠掛マリが画面の中から答... 2020/05/11 Comment(12)
蜂工場 (終) セクションD 眼前で展開する事態があまりにも混沌としていて、トシオは言葉を失っていた。二人の"佐藤"は、顔も体型も、声の抑揚さえ酷似していて、服装が違っていなければ、全く識別ができない。新たに登場した方の佐藤は、白... 2020/04/13 Comment(16)
蜂工場 (9) アーカム 「おい」コウジが怒鳴った。「ふざけるな!」佐藤は冷たい一瞥を向けただけで、ドアの方へ向かった。トシオに片手を広げ、5分ですよ、と念を押し、急ぎ足で出て行く。トシオはその後を追おうとしたが、片肘を掴まれ... 2020/04/06 Comment(18)
蜂工場 (8) 駒木根サチ マリエの戦場が広大な仮想空間の一部分に過ぎないことを、サチはすぐに知ることとなった。膨大な量子情報が、無数の螺旋状の波となって絡み合い、複雑に重なり合う空間だ。それは究極的には、この宇宙の構造そのもの... 2020/03/30 Comment(6)
蜂工場 (7) 台場トシオ 新しい仕事を始めて三日が経過し、トシオが指揮するプログラマたちは、佐藤が言うところの<蜂>を19個作り上げた。それらのクラスがどのように使用されたのか、トシオとプログラマたちには通知されていない。まだ... 2020/03/23 Comment(9)