イノウーの憂鬱 (35) サードアイ来社 おみくじの吉凶の種類が決定したのは、1月4日の19時過ぎだった。一時は殴り合い寸前までいった(斉木室長談)議論の末、「大吉、吉、中吉、小吉」の4種類と決まった。順序は比較的早めに合意に達したが、最後ま... 2021/01/18 Comment(14) イノウーの憂鬱 (34) おみくじ 本来なら新たな抱負と希望で満ちあふれるはずの新年は、あいにくと明るいニュースに欠けていた。言うまでもなく、一向に感染拡大が収束しようともしない新型コロナウィルスのせいだ。去年までは、大晦日から1月2日... 2021/01/12 Comment(10) イノウーの憂鬱 (33) サンタクロースからの手紙 ぼくたちは一斉にドアを見た。例外は眠りこけているエミリちゃんだけだ。誰もが身動きできずにいると、チャイムが続いた。今度は苛立ったように3連続だ。「よし」ぼくは意を決して立ち上がった。「出ないわけにはい... 2020/12/25 Comment(11) イノウーの憂鬱 (32) 訪問者 「イノウーさん」マリが深刻な表情と声で言い出した。「ちょっとばかり相談があるんすけど」「金ならないよ」「そんなことじゃないです」「紹介できる男もいない」「あたしが欲しいのはイノウーさんだけ......... 2020/12/23 Comment(5) イノウーの憂鬱 (31) 抽選会 少しだけ深く考えてみれば、きっとわかったはずだった。海外との往来が難しくなっているとはいえ、日本がロックダウンしているわけではない。観光目的での入国はほとんど不可能だろうが、ビジネス目的の入出国は14... 2020/12/21 Comment(6) イノウーの憂鬱 (30) ミカン狩り エースシステムとの事業統合にともない、マーズ・エージェンシーではいくつかの社内規定や制度が変更になった。その一つが健康保険組合だ。それまでの情報サービス産業健康保険組合から、エースグループが運営するエ... 2020/12/14 Comment(20) イノウーの憂鬱 (29) 開発プロセス管理 会議室の中を天使が通り過ぎていく。ぼくは天使を数えるとき、どんな単位を使うのか、などと埒もない考えをもてあそびながら、夏目課長の決断を待っていた。夏目課長の葛藤が、物理的な質量を持った波のように伝わっ... 2020/12/07 Comment(37) イノウーの憂鬱 (28) 特権ID 10月1日からシステム開発室の新しい管理者となった夏目課長は、初日から早速いくつかの改革を断行した。まず、週に2日の出社しての定例ミーティングは、毎週水曜日の午後のリモート会議へ変更された。そのため課... 2020/11/30 Comment(24) イノウーの憂鬱 (27) 引き際 9月30日までの間、伊牟田課長はシステム開発室のメンバー全員に様々な雑務を命じた。全社員の検温データのグラフ化、テレワークにおける勤務時間の増減グラフ、rivendellの全ソースのステップ数一覧など... 2020/11/24 Comment(21) イノウーの憂鬱 (26) 審判の日 評価者チームの3名は、翌日には規定通りにレビュー評価報告書を提出した。報告書がシステム開発室のメンバーに対して開示されたのはずっと後になったが、その必要はほとんどないぐらいだった。数年ぶりに実施された... 2020/11/16 Comment(22) イノウーの憂鬱 (25) クラス、例外、ロガー、型定義 「ごめんなさい!」マリは深々と頭を下げた。「ダメダメで情けなくて根性なしで口だけ番長で能なしでチビで貧乳で地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もなくて......」「もうそれぐらいでいいから」... 2020/11/09 Comment(46) イノウーの憂鬱 (24) 存続の危機 「イノウーくん」木名瀬さんはぼくを睨んだ。「あなたはマリちゃんに何をしたんですか」以前も、こんな感じで木名瀬さんに詰問された気がする。ぼくはデジャヴを振り払って訊き返した。「マリちゃんがどうかしたんで... 2020/11/02 Comment(23) イノウーの憂鬱 (23) 特訓 休日の人気のないオフィス。どちらも独身の男女。手を伸ばせば触れられる距離。シチュエーションによっては、甘い何かが発火しても不思議ではないが、今、このときに限っていえば、その可能性はゼロに近いほど低かっ... 2020/10/26 Comment(53) イノウーの憂鬱 (22) 善悪の彼岸 今日は記念すべき日だ。この部屋に引っ越してきて以来、初めて1日に女性が3人も訪問してきた。既婚女性が一人、未婚女性が二人。そのうち一人はぼくの膝の上に座り、一人とはもう少し濃密な接触を行った。モテ期到... 2020/10/19 Comment(24) イノウーの憂鬱 (21) 乗り越えられる試練 マリのこと、と話を切り出しておきながら、木名瀬さんはなかなか次の言葉を発しようとせず、手を伸ばしてエミリちゃんの髪を撫でていた。エミリちゃんは、腰を下ろしたガンダルフの挿絵を、指でなぞりながら、何か話... 2020/10/12 Comment(53) イノウーの憂鬱 (20) 冷やし中華 足首の捻挫で良かったことがあるとしたら、定例ミーティングのために出社する必要がなくなったことだ。これまで伊牟田課長は、週二回の定例ミーティングは「万難を排して」出席するよう求め、有給休暇を申請しても、... 2020/10/05 Comment(24) イノウーの憂鬱 (19) セキュリティ強化 プログラマという職業は、健康を害する要素には事欠かない。長時間のデスクワークによる筋力の低下や腰痛、不規則な食事時間、糖分やカフェインの過剰摂取、ストレスによる暴飲暴食、睡眠不足やドライアイや腱鞘炎。... 2020/09/28 Comment(13) 12人の怒れるプログラマ 「お客様のなかにプログラマの方はいらっしゃいませんか」もしあなたが飛行機に乗っていて、こんなアナウンスが聞こえてきたらどうするだろうか。手を挙げる?それとも寝たふりを決め込み無視する?わたしは後者を選... 2020/09/14 Comment(20) イノウーの憂鬱 (18) ベンダーの論理 「どうも、お時間をいただきまして」前回の顔合わせから2週間後、7月14日。再び、来社したマギ情報システム開発の古橋さんは、深々と頭を下げた後、額の汗をハンカチで拭った。今日も雨天で蒸し暑い。同行の三津... 2020/09/07 Comment(21) イノウーの憂鬱 (17) 変更仕様書 ぼくがサードアイから給料をもらっていた頃、ユーザ企業のシステム部門担当者と話をする機会が何度かあった。新人の頃は、システム部門に所属しているぐらいだから、システム構築やプログラミングについての知識も、... 2020/08/31 Comment(15) 前のページへ 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 次のページへ SpecialPR
イノウーの憂鬱 (35) サードアイ来社 おみくじの吉凶の種類が決定したのは、1月4日の19時過ぎだった。一時は殴り合い寸前までいった(斉木室長談)議論の末、「大吉、吉、中吉、小吉」の4種類と決まった。順序は比較的早めに合意に達したが、最後ま... 2021/01/18 Comment(14)
イノウーの憂鬱 (34) おみくじ 本来なら新たな抱負と希望で満ちあふれるはずの新年は、あいにくと明るいニュースに欠けていた。言うまでもなく、一向に感染拡大が収束しようともしない新型コロナウィルスのせいだ。去年までは、大晦日から1月2日... 2021/01/12 Comment(10)
イノウーの憂鬱 (33) サンタクロースからの手紙 ぼくたちは一斉にドアを見た。例外は眠りこけているエミリちゃんだけだ。誰もが身動きできずにいると、チャイムが続いた。今度は苛立ったように3連続だ。「よし」ぼくは意を決して立ち上がった。「出ないわけにはい... 2020/12/25 Comment(11)
イノウーの憂鬱 (32) 訪問者 「イノウーさん」マリが深刻な表情と声で言い出した。「ちょっとばかり相談があるんすけど」「金ならないよ」「そんなことじゃないです」「紹介できる男もいない」「あたしが欲しいのはイノウーさんだけ......... 2020/12/23 Comment(5)
イノウーの憂鬱 (31) 抽選会 少しだけ深く考えてみれば、きっとわかったはずだった。海外との往来が難しくなっているとはいえ、日本がロックダウンしているわけではない。観光目的での入国はほとんど不可能だろうが、ビジネス目的の入出国は14... 2020/12/21 Comment(6)
イノウーの憂鬱 (30) ミカン狩り エースシステムとの事業統合にともない、マーズ・エージェンシーではいくつかの社内規定や制度が変更になった。その一つが健康保険組合だ。それまでの情報サービス産業健康保険組合から、エースグループが運営するエ... 2020/12/14 Comment(20)
イノウーの憂鬱 (29) 開発プロセス管理 会議室の中を天使が通り過ぎていく。ぼくは天使を数えるとき、どんな単位を使うのか、などと埒もない考えをもてあそびながら、夏目課長の決断を待っていた。夏目課長の葛藤が、物理的な質量を持った波のように伝わっ... 2020/12/07 Comment(37)
イノウーの憂鬱 (28) 特権ID 10月1日からシステム開発室の新しい管理者となった夏目課長は、初日から早速いくつかの改革を断行した。まず、週に2日の出社しての定例ミーティングは、毎週水曜日の午後のリモート会議へ変更された。そのため課... 2020/11/30 Comment(24)
イノウーの憂鬱 (27) 引き際 9月30日までの間、伊牟田課長はシステム開発室のメンバー全員に様々な雑務を命じた。全社員の検温データのグラフ化、テレワークにおける勤務時間の増減グラフ、rivendellの全ソースのステップ数一覧など... 2020/11/24 Comment(21)
イノウーの憂鬱 (26) 審判の日 評価者チームの3名は、翌日には規定通りにレビュー評価報告書を提出した。報告書がシステム開発室のメンバーに対して開示されたのはずっと後になったが、その必要はほとんどないぐらいだった。数年ぶりに実施された... 2020/11/16 Comment(22)
イノウーの憂鬱 (25) クラス、例外、ロガー、型定義 「ごめんなさい!」マリは深々と頭を下げた。「ダメダメで情けなくて根性なしで口だけ番長で能なしでチビで貧乳で地味で暗くて向上心も協調性も存在感も個性も華もなくて......」「もうそれぐらいでいいから」... 2020/11/09 Comment(46)
イノウーの憂鬱 (24) 存続の危機 「イノウーくん」木名瀬さんはぼくを睨んだ。「あなたはマリちゃんに何をしたんですか」以前も、こんな感じで木名瀬さんに詰問された気がする。ぼくはデジャヴを振り払って訊き返した。「マリちゃんがどうかしたんで... 2020/11/02 Comment(23)
イノウーの憂鬱 (23) 特訓 休日の人気のないオフィス。どちらも独身の男女。手を伸ばせば触れられる距離。シチュエーションによっては、甘い何かが発火しても不思議ではないが、今、このときに限っていえば、その可能性はゼロに近いほど低かっ... 2020/10/26 Comment(53)
イノウーの憂鬱 (22) 善悪の彼岸 今日は記念すべき日だ。この部屋に引っ越してきて以来、初めて1日に女性が3人も訪問してきた。既婚女性が一人、未婚女性が二人。そのうち一人はぼくの膝の上に座り、一人とはもう少し濃密な接触を行った。モテ期到... 2020/10/19 Comment(24)
イノウーの憂鬱 (21) 乗り越えられる試練 マリのこと、と話を切り出しておきながら、木名瀬さんはなかなか次の言葉を発しようとせず、手を伸ばしてエミリちゃんの髪を撫でていた。エミリちゃんは、腰を下ろしたガンダルフの挿絵を、指でなぞりながら、何か話... 2020/10/12 Comment(53)
イノウーの憂鬱 (20) 冷やし中華 足首の捻挫で良かったことがあるとしたら、定例ミーティングのために出社する必要がなくなったことだ。これまで伊牟田課長は、週二回の定例ミーティングは「万難を排して」出席するよう求め、有給休暇を申請しても、... 2020/10/05 Comment(24)
イノウーの憂鬱 (19) セキュリティ強化 プログラマという職業は、健康を害する要素には事欠かない。長時間のデスクワークによる筋力の低下や腰痛、不規則な食事時間、糖分やカフェインの過剰摂取、ストレスによる暴飲暴食、睡眠不足やドライアイや腱鞘炎。... 2020/09/28 Comment(13)
12人の怒れるプログラマ 「お客様のなかにプログラマの方はいらっしゃいませんか」もしあなたが飛行機に乗っていて、こんなアナウンスが聞こえてきたらどうするだろうか。手を挙げる?それとも寝たふりを決め込み無視する?わたしは後者を選... 2020/09/14 Comment(20)
イノウーの憂鬱 (18) ベンダーの論理 「どうも、お時間をいただきまして」前回の顔合わせから2週間後、7月14日。再び、来社したマギ情報システム開発の古橋さんは、深々と頭を下げた後、額の汗をハンカチで拭った。今日も雨天で蒸し暑い。同行の三津... 2020/09/07 Comment(21)
イノウーの憂鬱 (17) 変更仕様書 ぼくがサードアイから給料をもらっていた頃、ユーザ企業のシステム部門担当者と話をする機会が何度かあった。新人の頃は、システム部門に所属しているぐらいだから、システム構築やプログラミングについての知識も、... 2020/08/31 Comment(15)