10人いる! アーカム・テクノロジー・パートナーズ横浜ビルの3階の一室で、チーフ・システムエンジニアの佐藤は満足そうな顔でワイヤレスイヤホンに触れ、通話を終えた。飾り気のない事務用アームチェアをぐるりと回転させる。... 2018/09/10 Comment(26) 魔女の刻 (終) 大いなる遺産 秋が終わりに近づき、空気に冬の気配が感じられるようになった頃、Q-LICは11月末日をもって、地方創生ビジネス事業からの全面撤退を決定した、と発表した。一つの事業部が丸ごと解体され、200人以上の社員... 2018/08/13 Comment(75) 魔女の刻 (46) たったひとつの冴えたやりかた ゴーグルを返却して自席に戻った後、私は今日、予定されている作業を確認しながら、たった今目撃した奇妙な隠しコマンドの意味を考えていた。あれが何かの不具合でないと仮定するなら、誰が、何のために、こんなこと... 2018/08/06 Comment(24) 魔女の刻 (45) 機械の中の幽霊 白川さんが病院からいなくなった、と聞いたのは、7月第一週のことだった。できることならお見舞いに行きたかったのだが、病院の名前を知っていた今枝さんと一戸さんは、決して私たちに教えてくれようとはしなかった... 2018/07/30 Comment(27) 魔女の刻 (44) 告白 「うちの会社が」草場さんは真っ直ぐに私を見ながら言った。「くぬぎ市の前回の開発にも参加してた、って話は前にしたね」「うん、憶えてる。カフェくぬぎね」草場さんと最初に二人きりで時間を過ごした場所だ。「そ... 2018/07/23 Comment(52) 魔女の刻 (43) カットオーバー 結局、私はセレモニーでのアテンド業務を全うすることができなかった。今枝さんがパスワードを入力した直後は、KNGSSSに何の変化も現れず、私は不安と緊張を等分に味わいながら待った。高杉さんや今枝さんも同... 2018/07/17 Comment(51) 魔女の刻 (42) あなたが私にくれたもの 不意に周囲が薄暗くなった。大ホールの天井や壁面の照明が同時に落ちたんだ、と気付くのに数秒かかった。とはいえ、メインエントランスの他、数カ所に採光窓が設けられているので、視覚に不自由はない。誰が落とした... 2018/07/09 Comment(53) 魔女の刻 (41) インフルエンサー 午前7時にスマートフォンのアラームで叩き起こされた私は、数分間抗った後、渋々身体を起こした。眠りにつく直前の記憶が曖昧で、もしかするとスーツのまま寝てしまったか、と一瞬焦ったが、下着姿で毛布にくるまっ... 2018/07/02 Comment(60) 魔女の刻 (40) 不法侵入 午前4時40分。私は、開発センターに戻る車の助手席に座っていた。ハンドルを握っているのは細川くん。後部座席に瀬端さんが同乗していた。瀬端さんはエース社員の車で開発センターを出たのだが、途中で口実を作っ... 2018/06/25 Comment(28) 魔女の刻 (39) 若宮カズオのナラティブ(後) 少し前から、遠くで鳥がさえずっているような音が聞こえていた。私は気にせず若宮さんの物語に見入っていたが、若宮さんが「このまま進めます」と言ったとき、右腕の袖を引っ張られているのを感じて映像を停止した。... 2018/06/18 Comment(22) 魔女の刻 (38) 若宮カズオのナラティブ(前) 私の周囲に広がっているのは、ICTセンタービルの6階、開発センターだった。ただし、雰囲気は少し違っていた。今よりもデスクの数が多く、フリースペースの場所にまで所狭しと配置されている。どのデスクにもプロ... 2018/06/11 Comment(27) 魔女の刻 (37) 弓削ゼンジロウのナラティブ ○居酒屋(夜)騒々しい店内、多くの客。弓削、Q-LIC社員1、社員2、テーブル席で談笑している。3人とも、手にビールジョッキ。弓削「(大声で)だいたいあいつら、この仕事の重要性ってもんがわかってねえん... 2018/06/04 Comment(26) 魔女の刻 (36) 沢渡レナのナラティブ 不意に鳴り響いたサイレンに、沢渡レナは驚いて立ちすくんだ。手にはビニールに包まれた三色ボールペンを掴んだままだ。狭い店内には3、4人の客がいたが、レナと同じように驚いて周囲を見回している。とっさに連想... 2018/05/28 Comment(62) 魔女の刻 (35) チャット 私と細川くんが手早く出かける準備を整えている間に、高杉さんもいくつかの指示を矢継ぎ早に下していた。こちらに急行している途中の今枝さんに電話して、行き先をセレモニー会場に変更させてから、エースシステムの... 2018/05/21 Comment(22) 魔女の刻 (34) プロセス 「考えてみれば奇妙だ」東海林さんは言った。「production環境が壊れたこと、バックアップが消えたこと、白川さんと連絡が取れないこと。どれか1つなら、いや2つ同時でも、100歩譲って偶然と言えない... 2018/05/14 Comment(55) 魔女の刻 (33) 3 月26 日 午前2時を過ぎても見通しは暗かった。全身をけだるい疲労が浸食しつつあるのが感じられる。無理もない。本来なら、今頃は深い眠りの国にいるはずなのに、高い集中力を要する仕事に脳細胞をフル回転させているのだか... 2018/05/07 Comment(22) 魔女の刻 (32) 3 月25 日 子供の頃、私の愛読書の一つは「若草物語」だったが、作者のルイーザ・メイ・オルコットが、Thereisalwayslightbehindtheclouds.(雲の向こうはいつも青空)という言葉を残してい... 2018/04/23 Comment(26) 魔女の刻 (31) ゼロ号テスト 「おーい、おばさん!」突然、開発センターに響いた甲高い声に、私は驚いてモニタから顔を上げ、その呼びかけが自分に向けられていることに気付いて二度驚いた。「おーい、おばさんてば!」矢野ユウトくんが、またし... 2018/04/16 Comment(17) 魔女の刻 (30) 血のバレンタイン その後、クラウドサービスがダウンすることはなかったが、レイテンシは高い状態で維持されたまま回復することはなかった。サブリーダーの一戸さんは何度も改善を申し入れていたが、2月上旬になると半ば諦め顔だった... 2018/04/09 Comment(27) 魔女の刻 (29) グリーンリーブス・ダウン 年が明けると、インテグレーションテスト、ユーザテストが開始となった。まだ、一部で結合テストとテスト結果による実装の追加、修正は続いてはいたが、スケジュール的に全ての完了を待ってはいられないため、並行し... 2018/04/02 Comment(11) 前のページへ 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 次のページへ SpecialPR
10人いる! アーカム・テクノロジー・パートナーズ横浜ビルの3階の一室で、チーフ・システムエンジニアの佐藤は満足そうな顔でワイヤレスイヤホンに触れ、通話を終えた。飾り気のない事務用アームチェアをぐるりと回転させる。... 2018/09/10 Comment(26)
魔女の刻 (終) 大いなる遺産 秋が終わりに近づき、空気に冬の気配が感じられるようになった頃、Q-LICは11月末日をもって、地方創生ビジネス事業からの全面撤退を決定した、と発表した。一つの事業部が丸ごと解体され、200人以上の社員... 2018/08/13 Comment(75)
魔女の刻 (46) たったひとつの冴えたやりかた ゴーグルを返却して自席に戻った後、私は今日、予定されている作業を確認しながら、たった今目撃した奇妙な隠しコマンドの意味を考えていた。あれが何かの不具合でないと仮定するなら、誰が、何のために、こんなこと... 2018/08/06 Comment(24)
魔女の刻 (45) 機械の中の幽霊 白川さんが病院からいなくなった、と聞いたのは、7月第一週のことだった。できることならお見舞いに行きたかったのだが、病院の名前を知っていた今枝さんと一戸さんは、決して私たちに教えてくれようとはしなかった... 2018/07/30 Comment(27)
魔女の刻 (44) 告白 「うちの会社が」草場さんは真っ直ぐに私を見ながら言った。「くぬぎ市の前回の開発にも参加してた、って話は前にしたね」「うん、憶えてる。カフェくぬぎね」草場さんと最初に二人きりで時間を過ごした場所だ。「そ... 2018/07/23 Comment(52)
魔女の刻 (43) カットオーバー 結局、私はセレモニーでのアテンド業務を全うすることができなかった。今枝さんがパスワードを入力した直後は、KNGSSSに何の変化も現れず、私は不安と緊張を等分に味わいながら待った。高杉さんや今枝さんも同... 2018/07/17 Comment(51)
魔女の刻 (42) あなたが私にくれたもの 不意に周囲が薄暗くなった。大ホールの天井や壁面の照明が同時に落ちたんだ、と気付くのに数秒かかった。とはいえ、メインエントランスの他、数カ所に採光窓が設けられているので、視覚に不自由はない。誰が落とした... 2018/07/09 Comment(53)
魔女の刻 (41) インフルエンサー 午前7時にスマートフォンのアラームで叩き起こされた私は、数分間抗った後、渋々身体を起こした。眠りにつく直前の記憶が曖昧で、もしかするとスーツのまま寝てしまったか、と一瞬焦ったが、下着姿で毛布にくるまっ... 2018/07/02 Comment(60)
魔女の刻 (40) 不法侵入 午前4時40分。私は、開発センターに戻る車の助手席に座っていた。ハンドルを握っているのは細川くん。後部座席に瀬端さんが同乗していた。瀬端さんはエース社員の車で開発センターを出たのだが、途中で口実を作っ... 2018/06/25 Comment(28)
魔女の刻 (39) 若宮カズオのナラティブ(後) 少し前から、遠くで鳥がさえずっているような音が聞こえていた。私は気にせず若宮さんの物語に見入っていたが、若宮さんが「このまま進めます」と言ったとき、右腕の袖を引っ張られているのを感じて映像を停止した。... 2018/06/18 Comment(22)
魔女の刻 (38) 若宮カズオのナラティブ(前) 私の周囲に広がっているのは、ICTセンタービルの6階、開発センターだった。ただし、雰囲気は少し違っていた。今よりもデスクの数が多く、フリースペースの場所にまで所狭しと配置されている。どのデスクにもプロ... 2018/06/11 Comment(27)
魔女の刻 (37) 弓削ゼンジロウのナラティブ ○居酒屋(夜)騒々しい店内、多くの客。弓削、Q-LIC社員1、社員2、テーブル席で談笑している。3人とも、手にビールジョッキ。弓削「(大声で)だいたいあいつら、この仕事の重要性ってもんがわかってねえん... 2018/06/04 Comment(26)
魔女の刻 (36) 沢渡レナのナラティブ 不意に鳴り響いたサイレンに、沢渡レナは驚いて立ちすくんだ。手にはビニールに包まれた三色ボールペンを掴んだままだ。狭い店内には3、4人の客がいたが、レナと同じように驚いて周囲を見回している。とっさに連想... 2018/05/28 Comment(62)
魔女の刻 (35) チャット 私と細川くんが手早く出かける準備を整えている間に、高杉さんもいくつかの指示を矢継ぎ早に下していた。こちらに急行している途中の今枝さんに電話して、行き先をセレモニー会場に変更させてから、エースシステムの... 2018/05/21 Comment(22)
魔女の刻 (34) プロセス 「考えてみれば奇妙だ」東海林さんは言った。「production環境が壊れたこと、バックアップが消えたこと、白川さんと連絡が取れないこと。どれか1つなら、いや2つ同時でも、100歩譲って偶然と言えない... 2018/05/14 Comment(55)
魔女の刻 (33) 3 月26 日 午前2時を過ぎても見通しは暗かった。全身をけだるい疲労が浸食しつつあるのが感じられる。無理もない。本来なら、今頃は深い眠りの国にいるはずなのに、高い集中力を要する仕事に脳細胞をフル回転させているのだか... 2018/05/07 Comment(22)
魔女の刻 (32) 3 月25 日 子供の頃、私の愛読書の一つは「若草物語」だったが、作者のルイーザ・メイ・オルコットが、Thereisalwayslightbehindtheclouds.(雲の向こうはいつも青空)という言葉を残してい... 2018/04/23 Comment(26)
魔女の刻 (31) ゼロ号テスト 「おーい、おばさん!」突然、開発センターに響いた甲高い声に、私は驚いてモニタから顔を上げ、その呼びかけが自分に向けられていることに気付いて二度驚いた。「おーい、おばさんてば!」矢野ユウトくんが、またし... 2018/04/16 Comment(17)
魔女の刻 (30) 血のバレンタイン その後、クラウドサービスがダウンすることはなかったが、レイテンシは高い状態で維持されたまま回復することはなかった。サブリーダーの一戸さんは何度も改善を申し入れていたが、2月上旬になると半ば諦め顔だった... 2018/04/09 Comment(27)
魔女の刻 (29) グリーンリーブス・ダウン 年が明けると、インテグレーションテスト、ユーザテストが開始となった。まだ、一部で結合テストとテスト結果による実装の追加、修正は続いてはいたが、スケジュール的に全ての完了を待ってはいられないため、並行し... 2018/04/02 Comment(11)