魔女の刻 (9) アマチュア 細川くんに買いにいかせたコンビニ弁当でランチを済ませた後、私は開発センターを出て交差点を渡り、市役所の正面入り口を通った。暇そうな顔の職員に場所を尋ね、階段を3階まで上る。庁舎にはもちろんエレベータが... 2017/10/30 Comment(25) 魔女の刻 (8) 30秒ルール 冬の雨は出勤する社会人をうんざりさせる。ただでさえ寒い上に、身体や顔が濡れるので不快感が二乗になる。しかも今日は霧雨だ。雨が素直に地面に到達せず、風にあおられて全方向から襲いかかってくるのだから始末が... 2017/10/23 Comment(15) 魔女の刻 (7) トレーニングデイズ トレーニング期間中に不要と判断されたのは、田熊システムだけではなかった。火曜日の18:00、自動的にブラウザが起動され、「Aフレ習熟度テスト」とタイトルのついた画面が表示された。Q1からQ20までのボ... 2017/10/16 Comment(18) 魔女の刻 (6) カバーストーリー 午後からは予告通り、Aフレのトレーニングが開始された。トレーニングを担当するのは、エースシステムからやってきた小谷野という40過ぎのトレーナーだった。再びフリースペースに集められた私たちに向き合った小... 2017/10/10 Comment(22) 魔女の刻 (5) 白い魔女 どんな業界でも同じことだろうが、時代のニーズやテクノロジーの進歩によって、否応なしに変化の波にさらされているのはIT業界も変わらない。日本有数のSIerであるエースシステムも例外ではなかった。むしろ図... 2017/10/02 Comment(11) 魔女の刻 (4) 開発センター 私が初めてくぬぎ市に降り立ったのは、説明会の翌週の火曜日、1月24日の午前8時45分だった。空はすっきりと晴れ渡り、遠い山並みの輪郭が視認できるほどだったが、私の気分は天候に同調していなかった。ここへ... 2017/09/25 Comment(14) 魔女の刻 (3) 夢の跡 白川さんが言葉を切ると、耳が痛くなるような静寂が落ちた。ネットやニュースで断片的に耳にしていたことではあったが、改めて一連の事象として提示されると、地方自治に無知な私にさえ、くぬぎ市の民間委託施策が「... 2017/09/19 Comment(7) 魔女の刻 (2) 予兆 この業界の実情を知らない人が、プログラマへ抱いているイメージはどんなものだろう。私の専業主婦の友人によれば、ロジカルで理知的で、数字に強く、スーパーの買い物でさえ綿密に立案した事前計画に基づいて実行す... 2017/09/11 Comment(23) 魔女の刻 (1) 深夜勤務 誰にでもささやかな幸せ、と呼べる何かがある。私の場合は、寒い夜にベッドの中で毛布にくるまりながら、短編小説を1話か2話読むことだ。ここ数日間のお供は、もう何度目かになる「シャーロック・ホームズの冒険」... 2017/09/04 Comment(32) 飛田ショウマの憂鬱 (終) 今日も寒い一日になりそうだ。飛田は窓から差し込む弱々しい陽射しを見ながら思った。空一面に灰色の雲が広がっている。神奈川県の平野部は降水確率40%となっていた。微妙な確率だ。もうすぐ東雲工業へ外出の予定... 2017/03/27 Comment(35) 飛田ショウマの憂鬱 (19) ドラマやマンガでは、登場人物が会社を辞めるとき、退職願や退職届、または辞表を上司に提出することになっている。黙って手渡す場合もあれば、痛快なセリフと共に叩きつけることもある。飛田はどの行動も取らなかっ... 2017/03/21 Comment(24) 飛田ショウマの憂鬱 (18) 「リストラ担当か」長谷部が面白そうな顔で飛田を見た。「どうしてそう思ったんだ?」「想像だ」「聞かせてみろよ。違ってたら笑ってやる」「何らかの理由で」飛田は考えをまとめながら言葉に変換していった。「うち... 2017/03/13 Comment(40) 飛田ショウマの憂鬱 (17) 返事を保留して会議室を出た飛田は、すぐに長谷部を探したが、すでに八十田建設に外出した後だった。このところ、長谷部はかつての首藤のように、新旧の顧客先に足繁く通っていて、席を温める時間が少なくなっている... 2017/03/06 Comment(39) 飛田ショウマの憂鬱 (16) 権力は腐敗する。政治や一流企業のトップなどの遠い世界で使われる言葉だと思っていたが、飛田は自分のすぐ近くで実例を見ることになった。飛田が、その実現性と実効性にそれほど期待していなかったMITSUHID... 2017/02/27 Comment(56) 飛田ショウマの憂鬱 (15) 「釈迦に説法だが」カナが言葉を切ったとき、飛田は指摘した。「光秀って、三日天下の奴だろ。不吉なネーミングだとは思わなかったのか」「不吉って」カナはクスリと笑った。「飛田ちゃんでもそういうこと気にするん... 2017/02/20 Comment(47) 飛田ショウマの憂鬱 (14) 昨今の企業のほとんどがそうであるように、シグマファクトリー株式会社にも情報漏洩対応マニュアルが存在する。情報を管理する社員なら、誰もが定年まで見ずに済ませたいシロモノだが、8月9日の午後、シグマファク... 2017/02/13 Comment(60) 飛田ショウマの憂鬱 (13) 4月が心浮き立つ月になるのか、暗然とした月になるのかは、立場や境遇によって異なる。新しい生活、出会い、花見といったありきたりの出来事でさえ、それぞれの事情によって明るい希望であったり、灰色の憂鬱であっ... 2017/02/06 Comment(93) 飛田ショウマの憂鬱 (12) 八十田建設プロジェクトのみなさまへ本日は、待ちに待ったプロジェクトの打ち上げです。楽しみですね!場所と時間は、以前にお知らせしていますが、みなさん、憶えていますか?うっかりさんのためにもう一度添付して... 2017/01/30 Comment(46) 飛田ショウマの憂鬱 (11) 翌週、システム開発課内には、季節の端境期の朝に似た、ぎこちない雰囲気が形成されていた。コートが必要になるのか邪魔になるのか迷うように、課の全員がどのような態度を取るのが正解なのか決めかねていたのだ。そ... 2017/01/23 Comment(54) 飛田ショウマの憂鬱 (10) 3月5日、10:45。ノンレム睡眠状態にあった飛田は、3月1日からの4日間で蓄積した疲労とストレスを分解している真っ最中だった。夢の中でもデバッグしているんじゃないんですか、と野見山などにからかわれる... 2017/01/16 Comment(17) 前のページへ 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 次のページへ SpecialPR
魔女の刻 (9) アマチュア 細川くんに買いにいかせたコンビニ弁当でランチを済ませた後、私は開発センターを出て交差点を渡り、市役所の正面入り口を通った。暇そうな顔の職員に場所を尋ね、階段を3階まで上る。庁舎にはもちろんエレベータが... 2017/10/30 Comment(25)
魔女の刻 (8) 30秒ルール 冬の雨は出勤する社会人をうんざりさせる。ただでさえ寒い上に、身体や顔が濡れるので不快感が二乗になる。しかも今日は霧雨だ。雨が素直に地面に到達せず、風にあおられて全方向から襲いかかってくるのだから始末が... 2017/10/23 Comment(15)
魔女の刻 (7) トレーニングデイズ トレーニング期間中に不要と判断されたのは、田熊システムだけではなかった。火曜日の18:00、自動的にブラウザが起動され、「Aフレ習熟度テスト」とタイトルのついた画面が表示された。Q1からQ20までのボ... 2017/10/16 Comment(18)
魔女の刻 (6) カバーストーリー 午後からは予告通り、Aフレのトレーニングが開始された。トレーニングを担当するのは、エースシステムからやってきた小谷野という40過ぎのトレーナーだった。再びフリースペースに集められた私たちに向き合った小... 2017/10/10 Comment(22)
魔女の刻 (5) 白い魔女 どんな業界でも同じことだろうが、時代のニーズやテクノロジーの進歩によって、否応なしに変化の波にさらされているのはIT業界も変わらない。日本有数のSIerであるエースシステムも例外ではなかった。むしろ図... 2017/10/02 Comment(11)
魔女の刻 (4) 開発センター 私が初めてくぬぎ市に降り立ったのは、説明会の翌週の火曜日、1月24日の午前8時45分だった。空はすっきりと晴れ渡り、遠い山並みの輪郭が視認できるほどだったが、私の気分は天候に同調していなかった。ここへ... 2017/09/25 Comment(14)
魔女の刻 (3) 夢の跡 白川さんが言葉を切ると、耳が痛くなるような静寂が落ちた。ネットやニュースで断片的に耳にしていたことではあったが、改めて一連の事象として提示されると、地方自治に無知な私にさえ、くぬぎ市の民間委託施策が「... 2017/09/19 Comment(7)
魔女の刻 (2) 予兆 この業界の実情を知らない人が、プログラマへ抱いているイメージはどんなものだろう。私の専業主婦の友人によれば、ロジカルで理知的で、数字に強く、スーパーの買い物でさえ綿密に立案した事前計画に基づいて実行す... 2017/09/11 Comment(23)
魔女の刻 (1) 深夜勤務 誰にでもささやかな幸せ、と呼べる何かがある。私の場合は、寒い夜にベッドの中で毛布にくるまりながら、短編小説を1話か2話読むことだ。ここ数日間のお供は、もう何度目かになる「シャーロック・ホームズの冒険」... 2017/09/04 Comment(32)
飛田ショウマの憂鬱 (終) 今日も寒い一日になりそうだ。飛田は窓から差し込む弱々しい陽射しを見ながら思った。空一面に灰色の雲が広がっている。神奈川県の平野部は降水確率40%となっていた。微妙な確率だ。もうすぐ東雲工業へ外出の予定... 2017/03/27 Comment(35)
飛田ショウマの憂鬱 (19) ドラマやマンガでは、登場人物が会社を辞めるとき、退職願や退職届、または辞表を上司に提出することになっている。黙って手渡す場合もあれば、痛快なセリフと共に叩きつけることもある。飛田はどの行動も取らなかっ... 2017/03/21 Comment(24)
飛田ショウマの憂鬱 (18) 「リストラ担当か」長谷部が面白そうな顔で飛田を見た。「どうしてそう思ったんだ?」「想像だ」「聞かせてみろよ。違ってたら笑ってやる」「何らかの理由で」飛田は考えをまとめながら言葉に変換していった。「うち... 2017/03/13 Comment(40)
飛田ショウマの憂鬱 (17) 返事を保留して会議室を出た飛田は、すぐに長谷部を探したが、すでに八十田建設に外出した後だった。このところ、長谷部はかつての首藤のように、新旧の顧客先に足繁く通っていて、席を温める時間が少なくなっている... 2017/03/06 Comment(39)
飛田ショウマの憂鬱 (16) 権力は腐敗する。政治や一流企業のトップなどの遠い世界で使われる言葉だと思っていたが、飛田は自分のすぐ近くで実例を見ることになった。飛田が、その実現性と実効性にそれほど期待していなかったMITSUHID... 2017/02/27 Comment(56)
飛田ショウマの憂鬱 (15) 「釈迦に説法だが」カナが言葉を切ったとき、飛田は指摘した。「光秀って、三日天下の奴だろ。不吉なネーミングだとは思わなかったのか」「不吉って」カナはクスリと笑った。「飛田ちゃんでもそういうこと気にするん... 2017/02/20 Comment(47)
飛田ショウマの憂鬱 (14) 昨今の企業のほとんどがそうであるように、シグマファクトリー株式会社にも情報漏洩対応マニュアルが存在する。情報を管理する社員なら、誰もが定年まで見ずに済ませたいシロモノだが、8月9日の午後、シグマファク... 2017/02/13 Comment(60)
飛田ショウマの憂鬱 (13) 4月が心浮き立つ月になるのか、暗然とした月になるのかは、立場や境遇によって異なる。新しい生活、出会い、花見といったありきたりの出来事でさえ、それぞれの事情によって明るい希望であったり、灰色の憂鬱であっ... 2017/02/06 Comment(93)
飛田ショウマの憂鬱 (12) 八十田建設プロジェクトのみなさまへ本日は、待ちに待ったプロジェクトの打ち上げです。楽しみですね!場所と時間は、以前にお知らせしていますが、みなさん、憶えていますか?うっかりさんのためにもう一度添付して... 2017/01/30 Comment(46)
飛田ショウマの憂鬱 (11) 翌週、システム開発課内には、季節の端境期の朝に似た、ぎこちない雰囲気が形成されていた。コートが必要になるのか邪魔になるのか迷うように、課の全員がどのような態度を取るのが正解なのか決めかねていたのだ。そ... 2017/01/23 Comment(54)
飛田ショウマの憂鬱 (10) 3月5日、10:45。ノンレム睡眠状態にあった飛田は、3月1日からの4日間で蓄積した疲労とストレスを分解している真っ最中だった。夢の中でもデバッグしているんじゃないんですか、と野見山などにからかわれる... 2017/01/16 Comment(17)