ハローサマー、グッドバイ(6) やがて明ける夜 「いや、しかし疲れたね」島崎さんはうちわで顔を扇ぎながらつぶやいた。「普段、使わない筋肉をたっぷり使った」「こういうことだと言っておいてくれていたら」ぼくは落ちていたダンボールの切れ端をうちわ代わりに... 2015/03/23 Comment(6) ハローサマー、グッドバイ(5) 説明にならない説明 ボリスによる概要説明が終わった後、谷少尉が、ぼくを部屋に案内してくれた。「明朝は7時にモーニングコールが入ります」谷少尉はぼくに告げた。「それまで、このドアは中からは開かなくなります。シャワールームや... 2015/03/16 Comment(9) ハローサマー、グッドバイ(4) 戦闘証明済 肝心なことを聞き忘れていた、と気付いたのは、先ほどの会議室に戻り、島崎さんと合流したときのことだった。谷少尉が言った通り、他のエンジニアはすでにいなくなっていた。「きっと鳴海さんが残る、と思ってたよ」... 2015/03/09 Comment(10) ハローサマー、グッドバイ(3) アイズワイドシャット JSPKFの隊員が、バンド隊員と呼ばれる理由は、その前身であるICZF――統合対Z軍――に遡る。Z戦争4年目の10月、ベルリンを奪回するためにドイツで行われた2週間にわたる大激戦の後、EUのネットメデ... 2015/03/02 Comment(21) ハローサマー、グッドバイ(2) 選別基準 階段を上った先は、短い廊下になっていた。廊下の照明は全部点いているし、温度は控えめだがエアコンも効いている。うらやましい。さすが、独自の財源を持つ内閣直轄の治安維持組織だ。廊下の両側にはドアが4つ。一... 2015/02/23 Comment(10) ハローサマー、グッドバイ(1) ネコの手 「お名前と会社名をどうぞ」ぼくの目をまっすぐ見つめながら、静かに言ったのはJSPKF第18特殊作戦群第1分隊長、谷少尉だった。右目の上に大きな傷跡が残っているその精悍な顔には、これまでくぐり抜けてきた... 2015/02/16 Comment(17) 賢者の贈り物 (後) 一足先にミスタードーナッツに着いて、奥の席を確保した。店内は混んでいたが、テイクアウトの客の方が多く、イートインコーナーは空席が目立っている。マサルは10分ほど遅れて到着すると、少し息を切らしながら店... 2014/12/25 Comment(19) 賢者の贈り物 (前) 「で、相談って?」私は喧噪の中、目の前に座っているクミに訊いた。横浜駅西口近くにある魚寅本店は、年末、金曜日、20時過ぎという条件が揃っているために満席だ。女子の2人組というのは私たちぐらいで、他のテ... 2014/12/24 Comment(7) 罪と罰(終) 歩み去る人々 また冬と呼ばれる季節が巡ってきた。12月も半ばを過ぎ、街があわただしくなっていく。毎年、ビルの空調が暖房に切り替わる頃になると、週に1度ぐらいの割合で、カスミさんが手作りのお菓子を持ってきてくれていた... 2014/06/16 Comment(97) 罪と罰(48) ツーマンセル カスミさんの退職が公になると、社内、特にWebシステム開発部には少なからぬ動揺が走った。ただし心の底から驚愕した、という人はおそらく1人もいなかったのではないだろうか。誰もがカスミさんの行き場を心配し... 2014/06/09 Comment(64) 罪と罰(47) 折り合い 今日はこういう日なのか、と私は暗い気分になった。何か話があると言われて聞いてみると、いい話とは真逆の内容を語られる。次に誰かに話がある、と言われたら、多忙か空腹か生理痛を理由に断ろうと心に決めた。3番... 2014/06/02 Comment(36) 罪と罰(46) IT統制 驚いたか驚かなかったか、と問われれば、もちろん驚いた。ただ、私が驚いたのは、その内容ではなく対象人物だった。嶺井課長に話があると言われたとき、私はてっきり飛田をもう連れてくるな、と言われるのかと思った... 2014/05/26 Comment(57) 罪と罰(45) ずっとお城で暮らしてる どんな業界にも独特の用語というものがある。IT業界で使われるエビデンスやアサイン、ミッションクリティカルなどの単語は、業界外の人が耳にしても、すぐには意味がわからない言葉ではないだろうか。私自身、友人... 2014/05/19 Comment(131) 罪と罰(44) 五十嵐さんのいない八月 「とにかく!」甲高い声が脳の奥深くまで突き刺さった。「これじゃあ使えません。私はしっかりお伝えしましたからね。直していただきますよ!直していただけるんでしょうね!?」「確かに伺いましたが、そのように対... 2014/05/12 Comment(295) 罪と罰(43) エントロピーは増大し、不可逆である 警備室のモノクロモニタに映し出されているのは、2人の男性が言い争っているシーンだった。防犯カメラの解像度が低い映像だが、武田さんと久保さんであることは、本人たちを知っていれば見分けはつく。少し見ている... 2014/04/28 Comment(164) 罪と罰(42) ありがとうとさようなら きっとそれぞれの心の中では、それぞれの思いや葛藤があったのだろうが、週が明けたとき、第2開発課の雰囲気は少なくとも表面的には、元に戻っていた。3バカトリオはいつもの議論を就業時間中に平気で繰り広げるよ... 2014/04/21 Comment(41) 罪と罰(41) 命の別名 「申しわけないですが」アツコさんが乾いた声でつぶやくように言った。「夢物語にしか感じられません。あまりにも理想論すぎて、現実感が感じられないんです」「ほう?」五十嵐さんは笑顔のまま答えた。「現実感ね」... 2014/04/14 Comment(106) 罪と罰(40) 白か黒ではなく、善か悪でもなく 手が挙がった。「私は部外者ですが」アツコさんは五十嵐さんを見つめながら、やや固い声を発した。「質問してよろしいでしょうか?」私は秘かにアツコさんに感謝した。守屋が言っていたように、五十嵐さんの意図はと... 2014/04/07 Comment(101) 罪と罰(39) 少数の犠牲 1月22日、火曜日。14:00。「やあ、久しぶりだなあ」およそ2ヵ月ぶりに第2開発課の定例ミーティングに出席した五十嵐さんは楽しそうに笑った。いつもなら3バカトリオあたりから反応があるところだが、今日... 2014/03/31 Comment(192) 罪と罰(38) まだ修復可能な亀裂 その週末までの2日間で、3バカトリオの間に、微妙に対立するような空気が流れていることを私は知った。それを教えてくれたのは、本郷さんだった。エヌ氏と会った翌日の午後、私は本郷さんと一緒に人事課に出向いて... 2014/03/24 Comment(57) 前のページへ 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 次のページへ SpecialPR
ハローサマー、グッドバイ(6) やがて明ける夜 「いや、しかし疲れたね」島崎さんはうちわで顔を扇ぎながらつぶやいた。「普段、使わない筋肉をたっぷり使った」「こういうことだと言っておいてくれていたら」ぼくは落ちていたダンボールの切れ端をうちわ代わりに... 2015/03/23 Comment(6)
ハローサマー、グッドバイ(5) 説明にならない説明 ボリスによる概要説明が終わった後、谷少尉が、ぼくを部屋に案内してくれた。「明朝は7時にモーニングコールが入ります」谷少尉はぼくに告げた。「それまで、このドアは中からは開かなくなります。シャワールームや... 2015/03/16 Comment(9)
ハローサマー、グッドバイ(4) 戦闘証明済 肝心なことを聞き忘れていた、と気付いたのは、先ほどの会議室に戻り、島崎さんと合流したときのことだった。谷少尉が言った通り、他のエンジニアはすでにいなくなっていた。「きっと鳴海さんが残る、と思ってたよ」... 2015/03/09 Comment(10)
ハローサマー、グッドバイ(3) アイズワイドシャット JSPKFの隊員が、バンド隊員と呼ばれる理由は、その前身であるICZF――統合対Z軍――に遡る。Z戦争4年目の10月、ベルリンを奪回するためにドイツで行われた2週間にわたる大激戦の後、EUのネットメデ... 2015/03/02 Comment(21)
ハローサマー、グッドバイ(2) 選別基準 階段を上った先は、短い廊下になっていた。廊下の照明は全部点いているし、温度は控えめだがエアコンも効いている。うらやましい。さすが、独自の財源を持つ内閣直轄の治安維持組織だ。廊下の両側にはドアが4つ。一... 2015/02/23 Comment(10)
ハローサマー、グッドバイ(1) ネコの手 「お名前と会社名をどうぞ」ぼくの目をまっすぐ見つめながら、静かに言ったのはJSPKF第18特殊作戦群第1分隊長、谷少尉だった。右目の上に大きな傷跡が残っているその精悍な顔には、これまでくぐり抜けてきた... 2015/02/16 Comment(17)
賢者の贈り物 (後) 一足先にミスタードーナッツに着いて、奥の席を確保した。店内は混んでいたが、テイクアウトの客の方が多く、イートインコーナーは空席が目立っている。マサルは10分ほど遅れて到着すると、少し息を切らしながら店... 2014/12/25 Comment(19)
賢者の贈り物 (前) 「で、相談って?」私は喧噪の中、目の前に座っているクミに訊いた。横浜駅西口近くにある魚寅本店は、年末、金曜日、20時過ぎという条件が揃っているために満席だ。女子の2人組というのは私たちぐらいで、他のテ... 2014/12/24 Comment(7)
罪と罰(終) 歩み去る人々 また冬と呼ばれる季節が巡ってきた。12月も半ばを過ぎ、街があわただしくなっていく。毎年、ビルの空調が暖房に切り替わる頃になると、週に1度ぐらいの割合で、カスミさんが手作りのお菓子を持ってきてくれていた... 2014/06/16 Comment(97)
罪と罰(48) ツーマンセル カスミさんの退職が公になると、社内、特にWebシステム開発部には少なからぬ動揺が走った。ただし心の底から驚愕した、という人はおそらく1人もいなかったのではないだろうか。誰もがカスミさんの行き場を心配し... 2014/06/09 Comment(64)
罪と罰(47) 折り合い 今日はこういう日なのか、と私は暗い気分になった。何か話があると言われて聞いてみると、いい話とは真逆の内容を語られる。次に誰かに話がある、と言われたら、多忙か空腹か生理痛を理由に断ろうと心に決めた。3番... 2014/06/02 Comment(36)
罪と罰(46) IT統制 驚いたか驚かなかったか、と問われれば、もちろん驚いた。ただ、私が驚いたのは、その内容ではなく対象人物だった。嶺井課長に話があると言われたとき、私はてっきり飛田をもう連れてくるな、と言われるのかと思った... 2014/05/26 Comment(57)
罪と罰(45) ずっとお城で暮らしてる どんな業界にも独特の用語というものがある。IT業界で使われるエビデンスやアサイン、ミッションクリティカルなどの単語は、業界外の人が耳にしても、すぐには意味がわからない言葉ではないだろうか。私自身、友人... 2014/05/19 Comment(131)
罪と罰(44) 五十嵐さんのいない八月 「とにかく!」甲高い声が脳の奥深くまで突き刺さった。「これじゃあ使えません。私はしっかりお伝えしましたからね。直していただきますよ!直していただけるんでしょうね!?」「確かに伺いましたが、そのように対... 2014/05/12 Comment(295)
罪と罰(43) エントロピーは増大し、不可逆である 警備室のモノクロモニタに映し出されているのは、2人の男性が言い争っているシーンだった。防犯カメラの解像度が低い映像だが、武田さんと久保さんであることは、本人たちを知っていれば見分けはつく。少し見ている... 2014/04/28 Comment(164)
罪と罰(42) ありがとうとさようなら きっとそれぞれの心の中では、それぞれの思いや葛藤があったのだろうが、週が明けたとき、第2開発課の雰囲気は少なくとも表面的には、元に戻っていた。3バカトリオはいつもの議論を就業時間中に平気で繰り広げるよ... 2014/04/21 Comment(41)
罪と罰(41) 命の別名 「申しわけないですが」アツコさんが乾いた声でつぶやくように言った。「夢物語にしか感じられません。あまりにも理想論すぎて、現実感が感じられないんです」「ほう?」五十嵐さんは笑顔のまま答えた。「現実感ね」... 2014/04/14 Comment(106)
罪と罰(40) 白か黒ではなく、善か悪でもなく 手が挙がった。「私は部外者ですが」アツコさんは五十嵐さんを見つめながら、やや固い声を発した。「質問してよろしいでしょうか?」私は秘かにアツコさんに感謝した。守屋が言っていたように、五十嵐さんの意図はと... 2014/04/07 Comment(101)
罪と罰(39) 少数の犠牲 1月22日、火曜日。14:00。「やあ、久しぶりだなあ」およそ2ヵ月ぶりに第2開発課の定例ミーティングに出席した五十嵐さんは楽しそうに笑った。いつもなら3バカトリオあたりから反応があるところだが、今日... 2014/03/31 Comment(192)
罪と罰(38) まだ修復可能な亀裂 その週末までの2日間で、3バカトリオの間に、微妙に対立するような空気が流れていることを私は知った。それを教えてくれたのは、本郷さんだった。エヌ氏と会った翌日の午後、私は本郷さんと一緒に人事課に出向いて... 2014/03/24 Comment(57)