ふつーのプログラマです。主に企業内Webシステムの要件定義から保守まで何でもやってる、ふつーのプログラマです。

イノウーの憂鬱 (34) おみくじ

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 本来なら新たな抱負と希望で満ちあふれるはずの新年は、あいにくと明るいニュースに欠けていた。言うまでもなく、一向に感染拡大が収束しようともしない新型コロナウィルスのせいだ。去年までは、大晦日から1 月2 日までは帰省すると決まっていたが、今年は実家から「帰ってくるな」と申し渡されたため、ぼくは年末年始の休暇を、横浜市から出ることなく過ごすことになった。
 しかも今回は冬休みが長い。本来なら仕事納めである12 月29 日と1 月4 日は有給休暇取得奨励日とされ、5 日も業務に差し障りがなければ、できるだけ休むように、と言われていた。システム開発室は、急を要する案件を抱えているわけではないから、相談した結果、夏目課長以外は有給休暇を取得することになった。29 日から数えて8 連休だ。
 「イノウーさんは何して過ごすんですか?」
 実質的な仕事納めである28 日の夕方、マリに訊かれたぼくは、たいして考えることなく答えた。
 「寝正月」
 「大掃除はしないんすか」
 「するよ」ぼくは広くもない室内を見回した。「大が付くほどの掃除にはならないだろうけど」
 「よかったら手伝い行きましょうか?」マリは笑顔で提案した。「ほら、こないだみたいに、誰かをかくまうようなジョーキョーになったら、隠す場所が必要じゃないすか」
 あんなことが何度もあってはたまらない。ぼくはマリの申し出を丁寧に断ると「よいお年を」と言ってTeams から抜けた。
 寝正月、の宣言を、ぼくは実行することにした。29 日の午前中に1 時間と少しで室内の掃除を終えると、長い冬休みを乗り切るための事前準備に取りかかる。まず、近所のイトーヨーカ堂を二往復して、30 才の成人男性を一週間生かしておけるだけの食料品を買い込んだ。レトルトカレーやカップ麺を数種類、食パン、チーズ、ハム、少しばかりの野菜、焼き肉用の味付け肉パック、切り餅、トンカツや中華などの冷凍食品の惣菜。大晦日と正月用には、特上パック寿司としゃぶしゃぶ肉を奮発した。プラス嗜好品として、2 ダースの缶ビール、ペットボトルのウーロン茶、それに大量のスナック菓子。
 続いて、積ん読になっていた本――大半は電子書籍――の中から、読破したいシリーズものをSF、ホラー、ミステリーからピックアップしておいた。並行してAmazon プライムビデオの中で、映画と海外ドラマもいくつかセレクトした。予備兵力としてオンラインゲームもいくつか目星を付けておく。
 こうして整えた万全の準備の元、30 日から開始した寝正月プロジェクトは、1 月2 日の夜には破綻していた。
 トラブルが発生して会社から呼び出しがかかったわけではない。休暇中でも1 日1 回はメールチェックを義務づけられていたが、届いていたのは、自分宛に自動送信しているサーバの死活監視結果ぐらいだ。問題はぼく自身にあった。仕事から、正確に言うならプログラミングから離れている毎日に、飽き飽きしている自分に気付いたのだ。
 何ヶ月も続いているテレワーク生活の影響もあったに違いない。テレワークだと衣食住環境と職場が同じなので、日常生活と仕事との距離が短くなる。起床して15 分後には朝食をかじりながら仕事を開始しているし、夜は夕食後や寝る前でも、思いつくと昼間に書いたコードのリファクタリングをしていたりする。プログラマとしての仕事が好きではない人であれば、きっぱりと一線を画するのだろうが、ぼくはこの生活が苦にならなかった。一日も早いコロナ禍の収束を願う気持ちは人後に落ちないが、アフターコロナでも、この生活はずっと続いてほしいぐらいだ。
 そのリズムがすっかり全身に浸透していたらしく、数日間、コードから離れていただけで、禁断症状に似た状態になってしまった。本を読んでいても、映画を観ていても、いつの間にか頭の中でJava やPython のコードを書いていることに気付くことが何度もあった。重度のワーカホリックだ。
 以前に仕事で知り合ったユーザ企業の社内SE の男性は、ぼくと同じくソフトウェアベンダーからの転職だったが、土日祝日を問わず、社内のシステムのことが頭から離れない、と話していた。ベンダー時代は様々な案件にアサインされるので、気持ちが強制的に切り替わるが、社内SE だと限られたシステムを維持していくことが主業務だ。そんな環境に身を置いていると、開発業務とは比べものにならないほど、担当システムのことばかり考えるようになるらしい。ぼくの現在の状態も、それと似ている。
 いっそ仕事をしてやるか、とも考えたが、緊急対応でもない作業では、休日出勤にも時間外労働にもならないので、少し悔しい気がする。夏目課長に休日出勤を申請しても許可される見込みはない。斉木室長なら融通が利いたのだが、伊牟田前課長も夏目課長も、その手の横紙破りを受け付ける管理者ではなかった。
 では趣味と実益を兼ねて、流行りの機械学習の勉強でもするか、とも考えたが、それはそれで他に趣味がないような人間になったような気がして、何か負けたような気分だ。誰が見ているわけでもないので、そんなに見栄を張らなくてもいいのだが、以前、東海林さんに「食えるときに食い、休めるときに休める人間でないと、最終的にはいい仕事はできない」と言われたことがある。この長い休みを心身のリフレッシュではなく、仕事につながることで消費するのは、休んでいるとは言えないだろう。
 いっそ会社で何かトラブルでも発生しないものか。そうすれば、大手を振って仕事ができるのに、などと不穏な考えが浮かび始めた1 月3 日の朝、いつものようにメールチェックをするためにノートPC を起動したぼくは、届いていた一通のメールに目を見開いた。送信者は斉木室長だ。開いてみると、お決まりの新年の挨拶に続いて、このメールを読んだら携帯に連絡ください、とある。時間帯は問わない、とも書いてあった。
 トラブルか、と考えたが、それなら普通に電話してくるはずだ。ぼくはなんだろうと思いながらスマートフォンを掴んだ。電話帳から斉木室長を選び、少し迷った末、通話ではなくSMS を選んだ。メール見ました、と短い文章を送信すると、3 分後に返信が届いた。Teams で話せる? ぼくは了解の返信を送ると、モニタに向き直ってTeams を起動した。すぐに斉木室長からビデオ会議の参加要請が届いた。
 「新年そうそうすまんね」新年の挨拶を交わした後、斉木室長は申しわけなさそうに頭を下げた。「実はちょっと急ぎでやってほしいことがあってね。おみくじって作れるかな」
 「おみくじって、神社とかで引くあれですか」
 「そうそう。今年は4 日の年始社員集会が中止になったじゃない。代わりに社長とか役員の挨拶動画を配信するんだけど、それだけじゃあまりにも味気ないって言い出した人がいてね。ほら、毎年、年始集会で乾杯してるけど、それもないわけだから。何か楽しいことやった方がいいんじゃないかって」
 ぼくは去年の年始集会のことを思い出した。近くにある200 人収容可能なレンタル会議場で10 時から実施された。役員や各本部長のありがたいお言葉を拝聴した後、壁際に設置されたテーブルに置かれたお屠蘇の杯を手に乾杯となった。業務時間中だし、終わった後、客先に出向く社員もいるため、薄目に作ってあったが、おめでたい雰囲気を醸し出すことには成功していたと思う。10 分ほど社員同士でガヤガヤと新年の挨拶を交わし合った後、解散となり、出口に立っていた巫女さんの衣装をまとった女性社員から、箱に入った紅白餅を受け取って社に戻ったのだった。社長と大竹専務は出席していなかった。所用があったためとも、不仲なので互いに顔を合わせるのを嫌ったためとも噂されたが、真実はわからない。
 「確かに、ああいう集まりは、今のご時世じゃ提案しただけでバッシングですもんね」
 「そうなんだよ」斉木室長は頷いた。「紅白餅は総務の方から各社員宅に発送するそうなんだけどね」
 「で、代わりにおみくじですか」
 「Rivendell にその機能作って、総務からURL を全員に通知するって形にしたいんだよ。できるかな?」
 「まあ、ドーン、バーンなやつでなければ」ぼくは考えながら言った。「何回もやるのはありですか?」
 「いや、一人一回の制限はいるよ」
 「それなら処理済みフラグをどっかに記録しておけばいいですね。画面遷移も必要ないし、それほど難しくはないです。いつまでに必要ですか」
 「5 日の朝、動画配信があって、その後にURL を送信したいんだって。間に合う?」
 「はい、大丈夫です」実際、1 日もかからないだろう。
 「休みなのにすまんね。もちろん出勤扱いにしていいから。ま、夏目さんは休日出勤じゃなくて、月内のどっかで振替しろって言うと思うけど。一応、女性たちにも状況だけはメールしとくけど、ヘルプはいる?」
 不要です、と答えると、斉木室長は安堵したような表情になった。犠牲者は最小限にとどめたい、と考えていたのだろう。ぼくは「どうせヒマしてましたから」と言って、斉木室長の罪悪感を減らしてあげたが、ふと思い出して訊いてみた。
 「これ、やろうって言い出した人は誰なんですか」
 「ああ、うん」斉木室長は躊躇った。「実は伊牟田課長」
 「へえ」
 あの人でも社員のことを考えた発言もできるのか、と思ったのもつかの間、斉木室長が簡単に話してくれた経緯を聞いて、その思いは霧消した。このところ失点続きの伊牟田課長は、おそらく点数稼ぎのために「おみくじ」の件を提案したらしい。パートナーマネジメント本部長を飛び越えて、役員に直訴したようだ。29 日のことで、すでにシステム開発室のメンバーは有給休暇消化に入っていた。打診された夏目課長も最初は「すでに課員が休暇中なので」と断ったが、伊牟田課長に「私なら指示しますが、夏目さんはできないんですか」という意味の嫌みを言われたため、要請を受諾するに至った。
 「あの人はさ」斉木室長は必要もないのに声をひそめた。「仕事ができない人が大嫌いだから、伊牟田課長を下に見てるんだよね。その伊牟田課長ができると言っているものを、自分ができないのは我慢ならんかったんだろうね」
 伊牟田課長にとっては、結果がどう出てもデメリットはない。夏目課長が拒否すれば「この程度の簡易なシステム作成も指示できない」と夏目課長を貶めることができる。開発を引き受けても期限内にできなかったり、不具合が出たりすれば、やはり夏目課長の責任を問うことができる。おみくじシステムが正常動作しても、実装担当者、つまりぼくの貴重な連休を潰してやった、という満足感は得られる。
 普段なら下らない社内の勢力争いに巻き込むな、と怒るところだが、無聊をかこっている今は、プログラミングを行うオフィシャルな事情の発生はむしろ喜ばしい限りだ。この点では、伊牟田課長の思惑を外したことになる。もちろんぼくは常識を知る社会人なので、そんな事情をわざわざ知らせてやろうとは思わないが。
 ビデオ会議を終えた後、手短にカップ麺で朝食を済ませると、早速、おみくじシステムの設計と実装に取りかかった。過剰な装飾は求められていないので、タイトルとボタン一つだけの単純な画面とする。ボタンを押したら乱数で、大吉から凶までのどれかを出して表示するだけだ。余裕があったら、グラフィックやサウンドによる化粧を追加していけばいい。
 html テンプレートを作成し、PC とスマートフォンで表示を確認したとき、また斉木室長から連絡が入った。
 「たびたびすまんね」斉木室長は早口で言った。「総務の方からの要望でね、大吉が出た人には、仕事始めに発送する紅白餅の中に、何かおまけを入れたいんだって。さっき乱数で出すって言ってたけど......」
 「そのおまけの数を制御したいってことですか」
 「そうなんだよね。何を入れるのか、まだ決めてないから、数も未定なんだけど」
 「じゃあ、どっかにパラメータで持っておいて、直前に設定するようにします」ぼくはメモ代わりに、ソース内にコメントとして仕様を入力しながら言った。「他の吉凶は乱数でいいんですか?」
 「いいと思うよ。じゃあ、よろしく」
 通話を終えたぼくはロジックを考え始めた。大吉の出現を設定数にするにはどうすればいいんだろう。一番簡単なのは、あらかじめ社員数分の箱を作っておき、大吉だけ分散させて配置しておくことだ。実行順に箱を開けていき、空なら乱数で他の要素を出せばいい。ただ、これをやるには排他制御が必要になる。一人一回、という制御には社員ID をファイルにして書き込めばいい、と考えていたが、データベースを使った方がよさそうだ。
 ぼくはTeraterm を立ち上げ、開発用のPostgreSQL にomikuji データベースを作成した。テーブルの構成を考え始めたとき、またもや斉木室長に呼ばれた。
 「えーとね、大吉以外も数を決めておきたいんだって。大吉だけ特典を付けるのは不公平、って意見が出てね。全部、何か付けることになったんだよ」
 1 月3 日の午前中だというのに、マーズ・エージェンシーでは、部課長が出勤して、おみくじプロジェクト会議でもやっているんだろうか。
 「凶でも付けるんですか?」
 「あ、それそれ、それを忘れてた。凶は出さないってことになった」
 「そうなるでしょうね」ぼくはコメントに追記した。「わかりました。じゃあ、それぞれの数が決まったら教えてください」
 ロジックに大きな変化はない。あらかじめ全ての箱に吉凶を入れておけばいいだけだ。ぼくはテーブル構成に戻ったが、同時にTeams で別のメンバーが呼びかけてきた。
 「あけましておめでとうございます」
 木名瀬さんが穏やかに言い、エミリちゃんを抱き上げてカメラの視界に入れた。ぼくは挨拶を返してから訊いた。
 「どうしたんですか」
 「おみくじの件、斉木さんからメールが来ていたので」
 「ありがとうございます。でも、一人でできる程度なんで心配していただかなくても大丈夫ですよ」
 「もちろんそうでしょうね」木名瀬さんは頷いた。「ちなみに、どんな感じで進めてますか」
 ぼくは仕様を説明した。
 「有効な社員の一覧はJINKYU からAPI で持ってこられますよね。それで5 日の朝にでも事前に割り振っておく予定です」
 「クリスマスパーティのような裏ロジックはないんですね?」
 「聞いてません」
 「急だから言ってくる人もないでしょうしね。凶を出さない、ということは、大吉、吉、中吉、小吉の4 種類ということですか」
 「あれ?」ぼくは首を傾げた。「末吉ってなかったでしたっけ?」
 「神社によると思います。確認した方がいいかもしれませんよ」
 「ですね。それに大吉の次って中吉じゃないんですか?」
 「え? 私は大吉の次は吉だと憶えていたんですが」
 急いでネットで検索してみると、正しい順序というものはなく、各神社や地方でバラバラであることがわかった。
 「本当ですね」ぼくはネットの記述を見ながら言った。「一般的には大吉、吉、中吉の順番とあります」
 「斉木さんに確認しておいた方がいいですよ」木名瀬さんは忠告してくれた。「もし、運勢のいい順にフォントを大きくしてくれとか、色を変えろなどの追加仕様が入った場合、順序は重要になります」
 「確かに......」
 「それにあらかじめ吉凶を決めるのであれば、もう全社員分をまとめて決定して、結果をメール送信する、という手もあります。それなら、排他制御のことなど気にする必要がなくなります」
 ぼくは唸った。
 「思いつきませんでした。やっぱり正月ボケですかね」
 「そのためのチームです」木名瀬さんは画面の外の何かを見た。「私たちはこれから分散初詣に行くので、一度、切りますね。イノウーくん、初詣は?」
 「無神論者なんで」
 ぼくは胸を張ったが、木名瀬さんは感心しない、というように首を横に振った。
 「無理強いはしませんが、世の中には自分の力ではどうしようもなく、結果が純粋な運の勝負になることがままあります。そういうとき、少しでも確率を高めるためにも、やれることはやっておいた方がいいですよ」
 「神頼みですか」
 「意外に効くんですよ、これが」木名瀬さんは本気なのか冗談なのか判別しがたい笑みを浮かべた。「では、これで。何かあればメールかTeams で送っておいてください」
 「ありがとうございます。どうかエミリちゃんとゆっくりしてください。こちらのことは気にしないで」
 「気にしますよ」木名瀬さんは笑った。「あまり無理をしないようにしてください」
 ぼくは急いで斉木室長をTeams で呼び出し、吉凶の種類と順序の件を訊いてみた。斉木室長は「順序かあ」と唸った。
 「実は、運勢のいい順に画面を派手にできないか、って要望が上がってたんだよね」
 「派手にって」ぼくは思わず斉木室長を睨んだ。「ドーン、バーンみたいなのはなしって言ってましたよね」
 「そのつもりだったんだけどねえ」斉木室長は肩をすくめた。「例のあの人が、ただ字が出るだけだと派手さに欠けるから、とか何とか言い出したらしくて」
 「無視すればいいじゃないですか、そんなの」
 「本部長や専務が乗り気になっちゃってね」
 「......その件は後で考えます。で、順序はどうするんですか?」
 「私も大吉、中吉だと思いこんでたからなあ。ちょっと上に確認してみるよ」
 ビデオ会議から退出しそうになった斉木室長を、ぼくは慌てて呼び止めると、Web ページではなく、メールの一斉送信という仕様ではどうか、という木名瀬さんの提案をぶつけてみた。斉木室長は少し考えた後、それも確認する、と言ってくれた。
 斉木室長との通話を終えた後、それを待っていたかのように、マリから連絡が入った。木名瀬さんと同じく、おみくじの件のメールを読んでのことだ。
 「言ってくださいよ」一杯やっていたのか、少し赤い顔でマリはぼくを責めた。「あたしだけハブるなんてひどいっす」
 「ハブったわけじゃなくて、正月休みを邪魔するのは悪いと思ったから」
 「そりゃイノウーさんだって同じじゃないすか。で、今、どんな感じなんすか?」
 ぼくが現状を説明すると、マリは手元のグラスをグッと空けてから言った。
 「わかりました。じゃ、あたしが画面を派手にする方をやります。正月っぽい素材はたくさん持ってますから」
 「メールになるかもしれないよ」
 「そしたら、HTML メールに変えますよ。じゃ、早速、手をつけますね」
 マリは一方的に通話を抜けていった。
 45 分後、斉木室長が連絡してきた。
 「ごめん、まだ決まらない」どうやら会社にいるらしく、背景が先ほどとは異なっている。「公平を期すために部課長全員の合意で決めるってことになって、今、議論してるんだよね。大吉→中吉派と大吉→吉派が拮抗していて、まとまらないんだな、これが。後、末吉も入れる派と不要派に分かれてて......」
 「メール送信の件はどうですか?」
 要素と順序はまだどうにでもなるが、せめてWeb ページか、メールかぐらいは先に決めてもらいたい。マリが作業を始めているのでなおさらだ。
 「それも話はしたんだけど、まだ、そこまで話が進んでなくてねえ。もうちょっと待っててくれる?」
 経過は逐一知らせる、と言い添えて、斉木室長は画面から消えていった。ぼくはため息をついた。単純なシステムだったはずなのに、なぜかだんだん大事になっていく。こんなことなら、質問や提案などせず、こちらで全て決めてしまった方がよかったのかもしれない。
 次に斉木室長がTeams で呼びかけてきたのは、ぼくがレトルトカレーと冷凍たこ焼きの夕食を終えた直後で、観ようと思っていた警察学校のドラマが始まる直前だった。
 「まことに申しわけないんだけど、まだ決定に至らなくて、明日に持ち越しってことになったよ。先に実施方法の件を決めてくれ、と言ったら、そっちはすんなり決まった。メールだと味気ないから、Web ページにしてくれってさ」
 少なくともマリの作業をムダにしなくてすみそうだ。
 「あと、やっぱり何か画面の動きが欲しいんだって。巫女さんが微笑みながら渡してくれる、とか、そんな感じの」
 一回しか使わないシステムに、そんな凝ったアニメーションなどオーバースペックもいいところだ。だが、それを斉木室長に言ったところで何にもならないだろう。
 「善処します」ぼくは答えた。「ただ、あまり時間に余裕がないので、オンラインゲーム並みのクオリティを期待されても困りますが」
 「もちろんできる範囲で大丈夫。じゃ、よろしく」斉木室長は慌ただしく通話を終えた。
 ぼくはまた嘆息すると、Teams でマリのアイコンをクリックした。木名瀬さんの言葉が脳裏に蘇る。来年からは、初詣に行こう、と心に決めた。

 (続)

 この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。また、特定の技術や製品の優位性などを主張するものではありません。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 皆様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

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Comment(10)

コメント

h1r0

マーズエージェンシーは不景気で他に仕事ないのかな
部長課長がこんなことに時間をかけるなんて笑

匿名

最後の写真かわいい

匿名

寒中お見舞い申し上げます

本年も月曜朝の楽しみとしたいと思います。

匿名

正月休み返上で暇なことやってるなw

匿名

部下の休暇を邪魔しないのも課長の役割だと思いますが。
本年もよろしくお願いいたします。

匿名

最後の肉が高すぎる(笑)

のり&はる

えぇっ!2Kgで2,000円でっせ奥さん!

匿名

あの大きさで2kgとは相当中身が詰まっていると見た (`・ω・´;)

しかし100g当たり2021円なのに内容量が2021gで2021円ってのは計算が...
(とどうでも良い突っ込み)

今年も週明けの楽しみにしております。

匿名

こんな感じで理解していたので全く不思議とは……
つくづく人間の受け取り方は千差万別だなあと思います(関係ないかw)
普段 100g 2021円
正月特価 2021g 2021円

左肘が痛い

加工日 2021.01.01
賞味期限 2021.12.31
五回分買い置きしても1万円位で年末まで保つなら欲しいかも

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