蜂工場 (8) 駒木根サチ
マリエの戦場が広大な仮想空間の一部分に過ぎないことを、サチはすぐに知ることとなった。膨大な量子情報が、無数の螺旋状の波となって絡み合い、複雑に重なり合う空間だ。それは究極的には、この宇宙の構造そのもののミニチュアモデルでもある。全く同じ構造を持つSPU と呼ばれる別の宇宙が、サチのいる宇宙と螺旋構造のごく一部で接しているため、本来なら発生しないはずの影響を相互に及ぼすことが可能になっている。マリエは、その脆弱性を利用した攻撃に対抗するPO――プログラミング・オペレータの一人だった。アーカム・テクノロジー・パートナーズにPO は大勢いて、それぞれ重要な役割を担っているが、マリエが受け持つのは、最重要防衛ポイントだった。
初日のサチの勤務時間は12 時間で、そのほとんどはマリエの話し相手になることに費やされた。翌日は14 時間、三日目はほぼ終日だった。本来、インターンシップ期間中の所定労働時間は8 時間のはずだが、サチが帰る素振りを見せると、マリエは敏感に察知して、裏切り者、と言いたげな目つきで睨んだ。
え、ひょっとして帰ろうとしてる? してねーよね、まさか。あたし、もう18 時間ぐらいずっと仕事してんだよ。身体が不自由な13 才の子供が頑張ってるのに、大人が疲れたから帰るなんて言わねーよね。佐藤のおっさんから聞いたと思うけどさ、この部屋、シャワーもトイレも仮眠用ベッドも付いてるんだよ? あたしが食べらんないおいしそうな食い物と飲み物がぎっしり詰まった冷蔵庫もあるじゃん。テレビだって見られるしWi-Fi つなぎ放題。着替えとか化粧品とか、その他諸々の欲しいものあれば、内線一本で何でも持ってきてくれんのよ。なのに、なんで帰る必要あんの? 意味わかんないんだけど。
声帯はマリエが自由意志で動かせる数少ない器官の一つだ。それを限界まで使い潰してやろうとでもするかのように、マリエは短い仮眠の時間を除いて、ずっと喋り続けた。驚異的なプログラミング能力を持っていても、話の内容は一般的な中学生が好むものと大差なかった。様々なアイドルグループの詳細なプロフィール、流行りのJ-POP の正確な歌詞、驚くほど詳細なファッションやコスメのテクニック、バズっているネット動画、SNS でトレンド入りしている話題とソース、どの芸能人が何のドラマに出演し、過去に誰と恋愛関係にあったか、または誰と破局に至ったか、コンビニで発売予定のスイーツなどだ。同世代の女子と大きく異なるのは、マリエが口と同じぐらい指を動かし、会話とプログラミングを並行して実行していることだ。通常の人間には概要を把握することさえ困難な仮想空間を、頭の中で鮮明にイメージできるらしく、激しさを増す敵からの攻撃に対する防御グリッド構築を、ほとんど休むことなく継続している。あたしの頭蓋骨の中には、確率的な意味で存在する複数の脳があって、それが別々に動いてるの、とマリエは言ったが、それが事実なのかジョークなのか、サチには判断ができなかった。当然サチはマリエの心身の消耗を心配した。体力のある成人のプログラマでさえ、マリエの数倍は休憩を取るだろう。だが、マリエは心配するサチの言葉を聞き流すだけだった。
多忙を極めているらしい佐藤は、移動の途中に数十秒程度立ち寄って様子を確認するぐらいだったが、四日目の朝は珍しく数分間ほど部屋に逗留し、サチに満足そうな顔を見せた。四日持ったのは駒木根さんが初めてです。
これまでにマリエ専属のケア担当として雇用され、四日以上継続した人間は皆無だった。マリエの果てしないお喋りに疲れて辞めていくか、可哀想な子供に対する同情で接してくることにマリエが反発するか、世間知らずの子供に上から目線で価値観を押し付けようとして痛烈な反撃を受け、再起不能なまでに強烈なダメージを負うかのいずれかだったからだ。
マリエには、一般の病院であれば、人件費を除いた単純コストだけでも月に数百万円以上を要するほどの、未承認の治験薬を含む高度な医療が惜しみなく与えられていた。当初、サチは、この費用を負担する代償としてアーカムがマリエにプログラミングを強要しているのかと考えていた。だが数時間を一緒に過ごしただけで、実はこれがWIN-WIN の契約だと知った。アーカムはマリエの驚異的なプログラミング能力を利用し、マリエは通常では得られない最先端テクノロジーを駆使して、仮想空間の中を縦横無尽に駆け回ることができる。現実世界では決して手にすることができない自由と力を満喫できるのだ。一般人の安上がりな同情などお呼びでないのは当然だ。
果てしないお喋りの中にマリエが決して含めないテーマがいくつかある。自らの生誕、幼少期、寝たきりになった原因、両親など、過去に関する全ての事項だ。話したくないというより、サチが見た限り、自分自身の過去に関心もこだわりも持っていないようだ。自分に残された時間が長くないことを知っていて、どうあがいても変えられないことなどに、自分の思考能力を費やすことをムダだと考えているのかもしれなかった。いずれにせよ、マリエの思考は現在と未来に向けられていた。
もっとも自分の過去に興味がなくても、他人のそれは異なるようで、四日目の午後遅く、サチがアーカムに雇用された経緯について、会話の流れの中で質問をしてきた。サチは勤務していた学校を辞めた理由について、固有名詞は慎重に文脈から除いて話した。マリエはふーん、と答えただけで、特にコメントもしなかった。
ところが、翌日の朝、サチが洗顔を済ませたとき、マリエが呼びかけた。ねえ、サチ先生。サチ先生をはめたのって、こいつ?
マリエの視線を追ってモニタに目を向けると、画面左上に正方形の画像が表示されていた。一目見てサチは息を呑んだ。忘れたくても忘れられない、小柳の顔だった。
どうして......茫然と呟いたサチに、マリエは鼻を鳴らした。これぐらいピースオブケイクよ。で、こいつ、どうしたい?
意味がわからずサチはマリエを見つめた。マリエは課題を理解しようとしない生徒に苛立つ教師のような表情を浮かべた。あのさ、ゴロゴロ寝てるだけに見えるかもしれねーけど、あたしも案外忙しいんだよ。アイドル番組見たりとか、鼻歌うたったりとか、サイトチェックしたりとか、人類の危機を救ったりとか、やることたくさんあんの。そんな中で、サチ先生をひどい目に遭わせた奴に、それ相応の報いを与える手伝いをしてやろっか、って言ってんの。なんかねーの? あるよね。こいつに言ってやりてーこととか、してやりてーこととかさ。不祥事でクビにするとか、株で大損させるとか、大事にしてる車を事故らせるとか。
ちょっと......ちょっと待って。サチはマリエに近付いた。何言ってるの?
もっと過激に痛めつけたい? マリエは楽しそうに提案した。こいつ自称イケメンみてーだから、顔をグダグダにするとかどーよ。半グレにやらせりゃいいんだから。それか、やべー女に引っ掛けるってのもいいね。自慢の娘と変わんねーぐらいの女だったら面白いよ。動画とか撮ってSNS で拡散すんの。あ、これ、先生がやられたやつか。でも、こういう奴だって知れ渡れば、サチ先生の画像だって、信憑性が疑わしくなるかもよ。どう?
やめなさい。サチはようやく厳しい声で制した。そんなこと頼んでないでしょう。頼むつもりもないから。
へー、なんで?
そんなことしても何も生まれないからよ。
うわ。マリエはせせら笑った。偽善者だ。こいつ、どんな奴か知っててそんな言葉吐いてる? ディレクターって立場で、新人アナとか新人女優に何人も手出してんだよ。やべークスリで眠らせて、強引に関係持たされた人もいるし、アイドルに憧れるJK とかも甘い言葉で釣って何人もヤってる。こっそり中絶した子だっているんだ。それなのに、女性の社会進出を阻む壁、みたいな番組やってたり、学校崩壊の特集組んだりしてんだから草だよな。もちろん、そういう女ばっかじゃねーよ。むしろ迫られても断る方が多いよね。こいつ、拒否られると逆に燃えるタイプみたいだから、あの手この手でしつこく迫るんだ。弱み握ったり汚ねー人脈フル活用したりしてさ。それでもなびかないと、今度は、一転して、相手を破滅に追い込むからタチ悪いよね。一昨年、入社二年目の女子アナが、いきなり退社したんだ。バラエティのレギュラー決まった後にだよ。普通、辞めねーよな。なんでだと思う? 未成年のアイドルと飲み会やってる画像撮られたからだよ。女子アナちゃんは、そのタレントが来ることなんか知らなかったんだけどね。もちろん小柳が仕組んだことだよ。そういう奴なんだよ、こいつは。そろそろ報いを受けてもいい頃だと思わねー? 思うよな。無理すんなって。もっと自分の欲求に素直になっていーんだって。サチ先生がやらないなら、あたしが勝手にやろうか。
やめて。サチは自分でも驚くほど大きな声を出し、マリエの左手首を掴んでいた。少し力を加えたら枯れ枝のように折れてしまいそうだった。
ちょっと離してよ。マリエは驚いた様子もなかった。
やめて。サチは繰り返した。勝手なことはしないって約束して。そしたら離す。
どうしてやっちゃダメなのか教えてよ。マリエは面白がるように口元を歪めた。そしたらやらないって約束すっから。
いくら非道な相手でも私的に罰を与えるのはよくないから。サチは答えた。後悔することになるからよ。
でもさ。放っておいたら、次の犠牲者が出るかもしれねーんだよ。それでも? 未来の犠牲者を救うことになるじゃん。大丈夫、誰にもバレないし、殺すまでいかないで止めとく。こういう奴はあっさりBAN して楽にしちゃうより、その一歩手前の状態でゆるゆるダラダラ苦しめてやりてーじゃん。そりゃ、ちょっとは痛い目見てもらうけどさ、せいぜい片腕がなくなるとか、チンチンが永久に使えなくなるとか、そんな程度だって。
やめなさい。サチは手に力を加えた。簡単に殺すとか、人を傷つけるとか言わないで。どんな相手でも、暴力や権力を使って一方的に叩いたら、相手と同じレベルに堕ちるってことなの。そうなって欲しくないのよ。それは間違ってる。間違ってるのよ。マリエちゃんは、もっと優しい子だと......
あのさ、サチ先生。マリエは遮った。こんな風に叱ってくれた人は初めて、とか何とか言って感動するとでも思った? 今どき、低予算の学園ドラマでも、そんなシチュじゃ数字取れねーよ。悪い奴はしっかりとことん徹底的に滅びてくれなきゃ、カタルシスってもんがねーじゃん。だいたい、暴力や権力を使うなって、何、寝言言ってんの。あたしが今、何やってると思ってんのさ。たぶん、サチ先生が歯磨いてる間だけでも、10 人ぐらいは再起不能にしてるよ。見せようか?
マリエはサチの返事も待たず、電源が入っていたテレビ画面に動画を転送した。どこかの駅前だ。踏切を電車が通過していき、京急線だとわかった。通勤時間はピークを過ぎているが、駅に向かう人の流れは途切れることがない。その中で、改札に向かうエスカレーター近くの壁にもたれ、タブレットを操作するメガネをかけた若い男がいた。ゲームでもやっているのか、熱心に画面を注視し、しきりに指を動かしている。男の身長よりかなり高い位置からの撮影で、微妙に画面が揺れていた。
いくよ、とマリエが楽しそうに囁き、ソフトウェアキーボードの上を細い指が音もなく動いた。サチが息を詰めて目をこらしていると、不意にカメラが男に急接近した。ドローンによる撮影か、と気付いたとき、男の驚いた顔が真正面から映った。嫌な予感が胸をよぎり、サチは何が起ころうとしているのかも不明なまま、マリエを制止しようとした。次の瞬間、男のメガネが爆発したような強烈な輝きを放った。
画面の中の男は絶叫の形に口を開き、タブレットを取り落として両手で顔を覆った。カメラは再び高度を上げ、サチは俯瞰する位置から、その光景を見下ろしていた。男は顔を手で押さえながら土下座しているようにうずくまっている。近くに転がったメガネは、レンズとフレームが半ば溶解しかかっていた。
大丈夫。死んでない。レーザーで網膜をちょっと焼いただけ。あいつはSPU の下請けか孫請けか曾孫請けみたいなチンピラ。ここのシステムにクラッキングかけてるの。本人は、ちょっとしたバイトでオンラインゲームの裏チートで、コインの荒稼ぎしてるつもりなんだけどね。それを止めたってわけよ。
サチは茫然とテレビ画面を見つめた。男は上半身を起こして叫び声を上げているようだ。近くにいた通行人が何事かと寄ってきている。あそこまでしなくても......
サチの呟きを聞いたマリエは大人びた笑いを浮かべた。ああいうのは何千人もいて、日本中に散らばってんの。攻撃開始してくれなきゃ位置特定できないし、特定できても人員をいちいち送り込むことはできねーから。アーカムだって人員が無限にいるわけじゃないんだから。今のは弘明寺駅の近くだったから、ドローンを送り込んだけどさ。地方だとそうもいかないから......
そういうことじゃなくて。サチは遮ると、テレビ画面を指した。今、あの男の人に大怪我させたんだよ。わかってる?
マリエは、だから何? と応じた。ケガさせるつもりでやったんだから、ケガすんのはあたりまえじゃん。もしかして攻撃を放置しとけとか言ってる? あいつの攻撃が成功したら、そのせいでどこかの誰かがSPU から送り込まれた化け物に食われたりするかもしれねーんだよ。わかる? 普通にそのへんで暮らしてる誰か。言っとくけど話せばわかるとかありえねーからね。
百歩譲ってそれが必要悪だとしても、マリエちゃんがやる必要はないでしょう?
誰かがやらねーとね。だったらあたしがやるよ。あたし以上に速くトラッキングできるプログラマはいねーし、第一、楽しいじゃん。他の奴にやらせてたまるかっての。で、話戻すけど、小柳はどうすんの? 放置しといていいわけ? あたし的には、今のうちに抹殺しといた方が世のため人のためだと思うんだけどな。
何もしないで、とサチが力なく答えると、マリエはすでに興味を失ったように、モニタから小柳の画像を消した。サチがようやく手を離すと、マリエは何事もなかったようにコーディングを続けながら、挑戦的に呟いた。あたしのこと嫌いになったなら、出て行ってもいいよ。
辞めないよ。サチはフルーツジュースの吸い飲みをマリエの口元に運んだ。今さら辞めない。
そう? 口を湿らせたマリエは横目でサチを見た。無理しなくていーよ。あたしがウンザリしたことにしとくから、ちゃんと給料はもらえるって。
お金なんか......言いかけて、サチは訂正した。いえ、お金は必要だけど辞めないのはそれだけじゃない。私にも職業的なプライドってもんがあるから。クソ生意気な生徒にクソ生意気な口利かれたぐらいで、いちいち仕事放り出せるわけないでしょ。マリエちゃんが辞めろって言わない限り辞めないよ。
プライドねえ。マリエは邪気のない口調でからかった。SNS でフェイクニュース拡散されたぐらいで辞めたじゃん。
そうね。サチは認めた。もう二度としたくないね。
その決心が続くといいね。あたしのためだけじゃなくてもさ。
どういうこと?
聞いたかどうか知らねーけど、新しく子供だけのチームを作るって話があるんだよね。あたしの後輩ってわけ。サチ先生は試用期間終われば、そっちで働くことになるはずだから。どんな奴らが来るのか知らねーけど、そいつらの面倒見てやってよね。あたしがこの仕事できるのは、もう長いことねーと思うから。
サチはマリエを睨んだ。そういうこと言わないでくれる? 性格悪い奴ほど長生きするって言うじゃない。
Who wants to live forever? って歌った人もいるけどね。マリエは即座に返した。
マリエの知識と機知に感心しながら、サチは立ち上がった。じゃあ、今日はこれで帰るね。そういう顔してもダメ。今日は帰ってゆっくり寝て明日の朝早くに来る。ちゃんと来るから。長い付き合いになるんだから、私のプライベートも尊重してもらわないと。仕事ばかりで遊ばない。ジャックは今に気が狂うって知ってるよね、マリエちゃんなら。
あーそー。マリエは手を止めて、右手の中指だけを真っ直ぐ伸ばした。じゃあ、今夜はナース・ファッキン・シスターズが、あたしのおしめを交換してくれるってわけね。嬉しいわ。
そういうこと言うのやめなさい。サチは顔をしかめて注意した。マリエの基本的なバイタルサインは常時モニタリングされていて、何か異常があれば、24 時間待機している医師が飛んでくる。マリエが言っているのは、厳密な意味でのナースではない。定期的に交代でマリエの部屋を訪れ、オムツの交換や、清拭を行ってくれる、医療セクションに属するアシスタントチームのことだ。年代は多様だが、揃ってプロフェッショナルに徹していて、マリエのお喋りに付き合うこともなく、義務的に作業を終えてさっさと出て行ってしまう。
まるで、今の会話を聞いていたかのようにドアが開き、アシスタントの一人が入ってきた。学生の雰囲気を残す幼い顔立ちの女性だ。サチに小さく会釈すると、険悪な表情を浮かべたマリエにひるむことなくベッドに近付いていく。サチは小さく手を振ると、マリエの部屋を後にした。背中にマリエの視線を感じながら。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一週間というインターンシップ期間は瞬く間に過ぎ去り、サチは契約社員としてアーカム・テクノロジー・パートナーズの給与台帳に載ることになった。いずれ、佐藤が話していた子供たちだけのチームが発足するとき、改めて正社員として採用される。サチは医療アシスタントチームと相談し、毎日、9 時から19 時までの勤務時間とし、木曜日を休日とすることにした。もっとも19 時という退社時刻が守られることは、相変わらずほとんどなかったのだが。
20 日が経過する頃から、マリエの仕事は繁忙の度合いを増していた。毎朝、出勤してきたサチは、徹夜したらしいマリエが、テレビも見ずにモニタを睨み、目にも留まらないスピードでコーディングしている姿を目にするのが日課となっていた。キーを叩きながら、お喋りをするスタイルは変わっていないが、会話の中に、それまではなかった仕事の内容が混じる割合が多くなってきたことに、サチはいやでも気付かされた。
あたしが一人で回してるようなもんだけど。ある日の午後、マリエは珍しく深刻な顔でぼやいた。それでも、他のエンジニアの分担分も多数あんだよね。単純な環境構築や、パラメータのバンドル作業もそーだし、ロジックのチェッカー、外の情報のコンバートなんかも必要だし。あたしが最大限に力を発揮するには、そういう地道な作業が欠かせねーんだよね。そのどれが欠けたって、永遠は生まれない、って歌あるけどさ。最近、そういう他のチームの作業に、いろいろ妨害が入ってるみたいなんだな。あたしも余計な作業が増えてて、テレビ見る時間が減ってる。んとにムカつくわ。精神衛生上、ひじょーによくない。ま、あたしはプロだから、メンタルの状態が仕事に影響することなんかないけどさ。よくドラマで、彼氏とうまくいってない女が、仕事中ぼーっとしててミスしたりするじゃん? お前、何考えてるん、って思うわ。
サチが気がかりなのは、仕事の進捗状況などより、激務がマリエの身体に及ぼす悪影響だった。実際、数日前から、マリエの顔色は悪くなってきているし、モニタがアラームを発して医師が駆けつけたことが何度かあった。心配になったサチは、何とか佐藤を捕まえて、負荷の軽減を頼んでみたが、色よい返事は得られなかった。
敵の攻撃方法が急激に変わっていて、過去の対抗パターンが通用しなくなってきているんです。佐藤はサチを説得するように言った。今、別のチームがようやく訓練を終え、防御だけでなく攻撃を遂行できる態勢が整いつつあります。あと少しです。反撃が成功すれば、マリエの負担は相当軽減されるはずです。
あと少しとは具体的に何日なのか、とサチが重ねて質問しようとしたとき、佐藤が握っていたスマートフォンが鋭い電子音を発した。佐藤はサチに断ってから、片耳に装着したワイヤレスイヤホンに触れて通話を開始した。ほとんど言葉を発せず、通話相手の言葉に耳を傾けていた佐藤は、最後にわかった、と答えて通話を終えると、困惑と興奮が混在した複雑な表情でサチを見た。
あんな話をした直後で大変申しわけないとは思うんですが、マリエの負荷が高まりそうです。反射的に抗議の声を上げかけたサチを制して、佐藤は冷徹な声で続けた。反撃態勢が整ったと連絡がありました。攻撃対象を特定するために、マリエを筆頭に、全部門のトッププログラマたちの力が必要となります。そうせざるを得ないんです。敵は30 から50 のポイントから攻撃をしてきていて、我々はその全てを一撃で叩き潰さなければなりません。非常に精緻なマッピング構築が必要になり、それができるのはマリエ他、数名しかいないんです。
(続)
この物語はフィクションです。実在する団体名、個人とは一切関係ありません。
コメント
匿名
マリエレベルのプログラマが他にも数名いるのか・・・
と、思ってしまった
Dai
> 現実的には不可能に近い時間数だった。
ん~、なんか前後との繋がり、流れが今一つな感じ。
> マリエには、「一般の病院であれば、」人件費を除いた単純コストだけでも月に数百万円以上を要するほどの、未承認の治験薬を含む高度な医療が惜しみなく与えられていた。
鍵カッコの部分はいらないような。
匿名
マリエ、クイーンが好きなのかな
リーベルG
Daiさん、ありがとうございました。
確かにちょっと変でした。
あしの
ほんとに細かいところですが、
> やべー女に引っ掛かける
「か」か「け」が不要に思います。
リーベルG
あしのさん、ありがとうございます。
「か」が不要でした。