人形つかい(19) 夜の途中 K自動車港北工場の正門前には、橋本さんが待ち構えていた。K自動車のビルや工場に部外者が入るには通常、事前入館登録も含めて面倒な手続きがいろいろあるが、橋本さんが臨時の入館証を用意しておいてくれたおかげ... 2011/09/26 Comment(12) 人形つかい(18) 夜の始まり 1月31日、月曜日。19:00。東海林さんとぼくは、自社の自分の席に座っていた。といっても、開発作業を行っていたわけではない。すでに「承認くん」の最新バージョンはK自動車内のサーバにデプロイされ、テス... 2011/09/19 Comment(10) 人形つかい(17) 果てしなき修正の果てに K自動車の仕事始めに合わせて、総合テストも1月10日より再開された。ぼくたちはそれまでに、残っていた6件の修正をほぼ完了させていた。「ゼロになりましたねえ」ぼくは安堵のため息をついたが、東海林さんは浮... 2011/09/12 Comment(6) 人形つかい(16) つかの間の休息 「疲労の後の休息ほど、楽しいものはない」と言ったのはサー・ウォルター・スコットという詩人だ。石川啄木や幸田露伴やカントも同様に「労働の後の休息は最高!」という意味の言葉を残している。残念なのは彼らがみ... 2011/09/05 Comment(8) 人形つかい(15) いつかのメリークリスマス 零号デモまでの2週間を一言で表すなら、「大混乱」だった。その主な原因は、K自動車港北工場内のどこかで行われているらしい総合テストにあった。毎日のように乱発される変更仕様書を見ていれば、総合テストが満足... 2011/08/29 Comment(14) 人形つかい(14) 冬がやってくる 月曜日。零号デモの2週間前。睡眠のおかげで、蓄積していた疲労を少しは減らすことができたようだった。ぼくは少なくともうわべだけでも人間らしさを取り戻したような気分で、エースシステムの開発室に入った。入っ... 2011/08/22 Comment(9) 人形つかい(13) 契約書が存在する理由 翌日の朝、エースシステムで進捗表を開いたぼくは、首を傾げた。昨日の帰りに確認したときは「未実装機能数:10」だった。だが、高杉さんが宣言した通りであれば、この数字は5になっていなければならない。単にま... 2011/08/15 Comment(15) 人形つかい(12) 増殖する作業、減少する時間 カレンダーが最後の1枚になり、カットオーバーまで2カ月を切った。この時期になると、さすがにオンスケとはいかず、数日程度だが遅れが出るようになってきた。テスト部門からのフィードバックによって、いくつかの... 2011/08/08 Comment(3) 人形つかい(11) それでもオンスケ 週に1度の情報共有ミーティングは、横の情報連携を強化するためには有益だった。横というのは、主にうちとライズさんとのことで、それまで何となく存在した会社間の壁のようなものが、ベルリンの壁のように崩壊した... 2011/08/01 Comment(3) 人形つかい(10) 第1回情報共有ミーティング 議事録 11月1日、高杉上級SEから、情報共有ミーティングを週に1回のペースで実施する、との通達があった。これは簡単に言えば、右手がやっていることを左手にも知らせよう、という目的で行うものだ。これまで、橋本さ... 2011/07/25 Comment(12) 人形つかい(9)上級SEは無慈悲な夜の女王 結局、橋本さんからの確認完了の電話は、終電ギリギリになって、ようやくかかってきた。ぼくは礼を言うのもそこそこに、PCをシャットダウンし、戸締まりを確認し、セコムのコンソールでロックをかけると、駅に向か... 2011/07/19 Comment(2) 人形つかい(8)鳴り止まない電話 数日後にぼくたちの手元に届いた設計書は、これまで「橋本」だった担当者名が「高杉」と変わっていた。このことは「承認くん」開発プロジェクトを陰で仕切っていた高杉さんが、前面に出てきたことを意味しているよう... 2011/07/11 Comment(12) 人形つかい(7)上級システムエンジニア 翌日の夕方過ぎに自社に戻ったとき、ぼくは橋本さんのランチで得た情報――「上流の分野に口を挟むな」という言葉を除いて――を、東海林さんに話した。東海林さんは、黙って聞いていたが、話が終わると「そんなこと... 2011/07/04 Comment(5) 人形つかい(6) タンスターフル その日、ぼくは1人でエースシステムの開発室で実装作業を続けていた。東海林さんは以前担当していたシステムにトラブルがあったため、こちらにはこないことになっていた。この案件は「半常駐」という話だったはずだ... 2011/06/27 Comment(27) 人形つかい(5)システムエンジニアとSQL 誰が誰に頭を下げ、誰が譲歩し、誰が叱責されたのか、それはわからない。数日後に戻ってきた設計書は大幅に加筆訂正されていて、「ローカルフォルダのExcelファイルを開く」という例の仕様は、「サーバ側でテン... 2011/06/20 Comment(14) 人形つかい(4) 実現不可能な仕様を実現する方法 他人を評価する際、第一印象を重視する人としない人がいる。ぼくはこれまでどちらかといえば前者だったし、だいたいのところ、その方法は有効だった。公言したことはないが、人を見る目はそれほど曇ってないんじゃな... 2011/06/13 Comment(13) 人形つかい(3) 私はシステムエンジニア 2度目のエースシステム訪問は、東海林さんとぼくの2人で行くことになった。もう営業的な話をする段階ではないし、技術的な話がほとんどになるので、と東海林さんは言っていたが、黒野さんは不安そうだった。技術部... 2011/06/06 Comment(4) 人形つかい(2)今、そこにある案件 エースシステムの敷地から出た途端、東海林さんは黒野さんにかみついた。「おい、いくつか聞きたいことがあるんだけどな」「まあまあ、立ち話もなんだから、どっか入りましょうよ。喉も渇いたし」そりゃ、あれだけ1... 2011/05/30 Comment(5) 人形つかい(1) 未知との遭遇 彼らには本当に知能があるのだろうか?つまり、彼ら自身の知能が?ぼくにはわからない。どうすればそれがわかるのかも、わからない。ぼくの名前は細川マモル。横浜市内にオフィスを構える小さなシステム開発会社に勤... 2011/05/23 Comment(7) 高慢と偏見(終) エピローグ 私は予定どおり、9月末をもって新部品調達システム開発プロジェクトを後にした。苦楽をともにした開発メンバーと別れるのは寂しいが、正直なところ、これ以上、あの時代に逆行したような開発を続けずに済んで、心の... 2011/02/21 Comment(418) 前のページへ 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 次のページへ SpecialPR
人形つかい(19) 夜の途中 K自動車港北工場の正門前には、橋本さんが待ち構えていた。K自動車のビルや工場に部外者が入るには通常、事前入館登録も含めて面倒な手続きがいろいろあるが、橋本さんが臨時の入館証を用意しておいてくれたおかげ... 2011/09/26 Comment(12)
人形つかい(18) 夜の始まり 1月31日、月曜日。19:00。東海林さんとぼくは、自社の自分の席に座っていた。といっても、開発作業を行っていたわけではない。すでに「承認くん」の最新バージョンはK自動車内のサーバにデプロイされ、テス... 2011/09/19 Comment(10)
人形つかい(17) 果てしなき修正の果てに K自動車の仕事始めに合わせて、総合テストも1月10日より再開された。ぼくたちはそれまでに、残っていた6件の修正をほぼ完了させていた。「ゼロになりましたねえ」ぼくは安堵のため息をついたが、東海林さんは浮... 2011/09/12 Comment(6)
人形つかい(16) つかの間の休息 「疲労の後の休息ほど、楽しいものはない」と言ったのはサー・ウォルター・スコットという詩人だ。石川啄木や幸田露伴やカントも同様に「労働の後の休息は最高!」という意味の言葉を残している。残念なのは彼らがみ... 2011/09/05 Comment(8)
人形つかい(15) いつかのメリークリスマス 零号デモまでの2週間を一言で表すなら、「大混乱」だった。その主な原因は、K自動車港北工場内のどこかで行われているらしい総合テストにあった。毎日のように乱発される変更仕様書を見ていれば、総合テストが満足... 2011/08/29 Comment(14)
人形つかい(14) 冬がやってくる 月曜日。零号デモの2週間前。睡眠のおかげで、蓄積していた疲労を少しは減らすことができたようだった。ぼくは少なくともうわべだけでも人間らしさを取り戻したような気分で、エースシステムの開発室に入った。入っ... 2011/08/22 Comment(9)
人形つかい(13) 契約書が存在する理由 翌日の朝、エースシステムで進捗表を開いたぼくは、首を傾げた。昨日の帰りに確認したときは「未実装機能数:10」だった。だが、高杉さんが宣言した通りであれば、この数字は5になっていなければならない。単にま... 2011/08/15 Comment(15)
人形つかい(12) 増殖する作業、減少する時間 カレンダーが最後の1枚になり、カットオーバーまで2カ月を切った。この時期になると、さすがにオンスケとはいかず、数日程度だが遅れが出るようになってきた。テスト部門からのフィードバックによって、いくつかの... 2011/08/08 Comment(3)
人形つかい(11) それでもオンスケ 週に1度の情報共有ミーティングは、横の情報連携を強化するためには有益だった。横というのは、主にうちとライズさんとのことで、それまで何となく存在した会社間の壁のようなものが、ベルリンの壁のように崩壊した... 2011/08/01 Comment(3)
人形つかい(10) 第1回情報共有ミーティング 議事録 11月1日、高杉上級SEから、情報共有ミーティングを週に1回のペースで実施する、との通達があった。これは簡単に言えば、右手がやっていることを左手にも知らせよう、という目的で行うものだ。これまで、橋本さ... 2011/07/25 Comment(12)
人形つかい(9)上級SEは無慈悲な夜の女王 結局、橋本さんからの確認完了の電話は、終電ギリギリになって、ようやくかかってきた。ぼくは礼を言うのもそこそこに、PCをシャットダウンし、戸締まりを確認し、セコムのコンソールでロックをかけると、駅に向か... 2011/07/19 Comment(2)
人形つかい(8)鳴り止まない電話 数日後にぼくたちの手元に届いた設計書は、これまで「橋本」だった担当者名が「高杉」と変わっていた。このことは「承認くん」開発プロジェクトを陰で仕切っていた高杉さんが、前面に出てきたことを意味しているよう... 2011/07/11 Comment(12)
人形つかい(7)上級システムエンジニア 翌日の夕方過ぎに自社に戻ったとき、ぼくは橋本さんのランチで得た情報――「上流の分野に口を挟むな」という言葉を除いて――を、東海林さんに話した。東海林さんは、黙って聞いていたが、話が終わると「そんなこと... 2011/07/04 Comment(5)
人形つかい(6) タンスターフル その日、ぼくは1人でエースシステムの開発室で実装作業を続けていた。東海林さんは以前担当していたシステムにトラブルがあったため、こちらにはこないことになっていた。この案件は「半常駐」という話だったはずだ... 2011/06/27 Comment(27)
人形つかい(5)システムエンジニアとSQL 誰が誰に頭を下げ、誰が譲歩し、誰が叱責されたのか、それはわからない。数日後に戻ってきた設計書は大幅に加筆訂正されていて、「ローカルフォルダのExcelファイルを開く」という例の仕様は、「サーバ側でテン... 2011/06/20 Comment(14)
人形つかい(4) 実現不可能な仕様を実現する方法 他人を評価する際、第一印象を重視する人としない人がいる。ぼくはこれまでどちらかといえば前者だったし、だいたいのところ、その方法は有効だった。公言したことはないが、人を見る目はそれほど曇ってないんじゃな... 2011/06/13 Comment(13)
人形つかい(3) 私はシステムエンジニア 2度目のエースシステム訪問は、東海林さんとぼくの2人で行くことになった。もう営業的な話をする段階ではないし、技術的な話がほとんどになるので、と東海林さんは言っていたが、黒野さんは不安そうだった。技術部... 2011/06/06 Comment(4)
人形つかい(2)今、そこにある案件 エースシステムの敷地から出た途端、東海林さんは黒野さんにかみついた。「おい、いくつか聞きたいことがあるんだけどな」「まあまあ、立ち話もなんだから、どっか入りましょうよ。喉も渇いたし」そりゃ、あれだけ1... 2011/05/30 Comment(5)
人形つかい(1) 未知との遭遇 彼らには本当に知能があるのだろうか?つまり、彼ら自身の知能が?ぼくにはわからない。どうすればそれがわかるのかも、わからない。ぼくの名前は細川マモル。横浜市内にオフィスを構える小さなシステム開発会社に勤... 2011/05/23 Comment(7)
高慢と偏見(終) エピローグ 私は予定どおり、9月末をもって新部品調達システム開発プロジェクトを後にした。苦楽をともにした開発メンバーと別れるのは寂しいが、正直なところ、これ以上、あの時代に逆行したような開発を続けずに済んで、心の... 2011/02/21 Comment(418)