ご迷惑をおかけしました。なんて言葉はいらないーY君の脱走ー<原因探求のうち後編>
前々回の「ご迷惑をおかけしました。なんて言葉はいらないーY君の脱走ー
<発端編>」に続いて、前回、その原因探求の前編として、「ご迷惑をおか
けしました。なんて言葉はいらないーY君の脱走ー<原因探求のうち前編>」
を書かせていただきました。今回は、その後編です。
プライベートにトラブルがあったために仕事に身が入らず、ミスをした、とい
うことで、いったん落ち着いたかの様に思えた4年前のY君問題ですが、実はそ
の後も彼の上司とは、Y君をいま担当しているお客様から外し、別の新しいお
客様を担当させる方法を模索しておりました。
その理由のひとつが、Y君の無自覚さ。自覚がないというより、虚偽の報告や
対応漏れでお客様に迷惑や心配をかけているにも関わらず、口でご迷惑をおか
けしました、とはいうものの全くもって平然としているところ。開発で挫折し
たときは仕事中ずっと辛そうでしたが、この時は加えてプライベートでもトラ
ブルを抱えていたにも関わらず、後悔や思いつめた様子、悪びれたところは、
なにひとつ感じられないことへの違和感でした。
もうひとつの理由は、お客様の窓口担当者から聞いたとても残念な言葉でした。
その方はお客様側の担当として、ずっとY君を相手にしてくれていたのですが、
退職されることにり送別会を開かせてもらいました。その席で、じつはY君を
担当から外すように要請しようとしていた、と仰られたのです。長い間、親し
くさせていただいていたので驚きでした。理由を尋ねると、Y君には何かを相
談しても解決しようとしてくれない。困ったことが起きたから相談しているの
に真摯に受け取ってくれず、通り一辺倒の回答しかくれないので先にすすまな
いから、と。
システムは使い続ければ使い続けるほど機能追加や改善が行われ高度化してい
きます。また、使ってもらっているお客様もレベルアップしてゆくので、問合
せや相談も高度化、複雑化してゆきます。そのシステムとユーザの成長が我々
のコンセプトでもあるのですが、Y君自身がその成長についてこれていないため、
お客様の不満になっている、というのが、その時の考えでした。だから、レベ
ルアップした今のお客様からいったん離れ、自分のレベルにあった別の新しい
お客様を担当してもらう方が本人のためではないかと。
しかし残念ながら、その手を打つ前にカタストロフしてしまいました。
実のところ、カタストロフの直接的な引き金はコロナ禍であったと考えていま
す。コロナ対策でY君は別の作業場所での業務となり、上司の目が届かなくな
りました。また、お客様とのやり取りも電話やメール中心となりY君だけで対
応することが多くなりました。進捗会議などもなくなり、情報共有が疎かにな
ってしまいました。
要は、コロナ禍にともなう業務形態の変更により、Y君へのチェック機能が弱
くなってしまったのです。
引き金はコロナ禍での業務形態の変更にあったとして、カタストロフに至る原
因は何であったか。それは我々が、Y君の仕事に対するモチベーションやイン
センティブのありかの見誤りではないかと考えています。システム開発を生業
としている我々は、どうしても自分たちの作ったシステムがお客様の役に立っ
ているかということを中心に、お客様が喜んでくれた、頼りにしてくれている、
お客様の問題が解決できた、ということがモチベーションやインセンティブに
なっています。反対にクレームや障害は胃が痛い思いをします。特にカスタマ
ーサービス担当はユーザと直接対峙するため、この傾向が強い、と思っていま
した。現にそう考えるメンバーは多いので、Y君もそうだと思い込んでいたの
ですが、実はY君のモチベーションやインセンティブはそこにはなかったでは
ないかと。
その根拠として考えるのは、Y君が辞表を持ってきたときに社長が面談を行っ
たのですが、その際に辞めたい理由に、見積や資料作成のやり直しを何回もさ
せられる、ということをあげたこと。Y君はカスタマーサービス担当なので年
間保守費の中で作業していますが、お客様からの要望のなかには機能追加要件
もあり、その場合は見積を提出して別途費用をいただきます。作業工数自体は
開発メンバが見積りますが、それを金額換算して説明、提出するのはカスタマ
ーサービスの役割となります。その作業が無償(保守範囲内)か有償かの判断
もあり、当然レビューにかけないといけませんし、提出時には上司の承認も必
要となります。そのレビューでやり直しが入るのが本人は嫌だったようです。
当然、保守範囲内か、有償か。有償の場合はその見積根拠を説明することは顧
客満足度の一環です。金目の点で基準が曖昧であったり、説明が不十分ですと
不信感につながります。また機能追加で有償の場合は、会社の売上にも貢献す
るので、これも大切なことなのですが、顧客満足度も会社の売上増もY君にとっ
てはモチベーションやインセンティブではなく、逆に有償の事案が発生すると
見積を作成してレビューをし、やり直しが発生することがマイナスのインセン
ティブに働いていていたのではないかと。
本人にどこまで自覚があったかはわかりませんが、Y君はもともと、サービス
レベルを向上させ、お客様や会社からの評価をあげることは、モチベーション
やインセンティブになりえなかった。
逆に自分で考えないとできない作業、プログラミングや見積、資料の作成は負
担でしかなく、それらをレビューにかけていろいろ言われることは嫌いだった。
通常時は、進捗会議等でチェックが入り、いやいやながらでもやらざるを得な
かったが、コロナ禍で業務形態が変化しチェックが甘くなると、つい嫌なこと
から逃げてしまった。そしてそのツケが一気に回ってしまった。これが、真相
ではないかと考えております。
<発端編>で書きました、いろいろと噴出した問題。発覚したのは年末ですが、
その発端はほとんど春から夏の時期にであり、業務形態が変わった時期と一致
してます。Y君は10年近くカスタマーサービスの担当をしており、それまでい
ろいろと問題を起こしつつも、なんとかやってこれてました。それが、昨年急
にカタストロフしたのは、これまで積み重なっていたこともあるかもしれませ
んが、やはりコロナ禍による環境の変化がきっかけになったと思えてなりませ
ん。
これまで、3回に分けて事象とその原因について探ってきました。次回は<評
価分析編>として、今回たどりついた原因を深堀してみたいと思います。
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コメント
ゆう
ここまでとんでもない人は自分の周りにいなかったですが、
話を聞いていると、ソシオパスだったのかな?どと思ってしまいました。
ソシオパスはパーソナリティ障害の一つらしいのですが、
特徴として、
・衝動的で計画性がない
・嘘をつくのに抵抗がない
・責任感や羞恥心の欠如
・ルールを無視する
・恐怖を感じず、どんな時でも落ち着いている
・他人に共感できない
・愛想はよいので、とても魅力的
犯罪性はないが、社会性がなくとても困った人のようです。
https://www.huffingtonpost.jp/2013/08/30/11_signs_dating_a_sociopath_n_3841308.html
ちゃとらん
なかなか、ハードですね。
読みながら、身近にいる○○さんと、△△さんのまずいところを足して2を掛けた感じがしました。当事者(山無駄さん)にとっては、大変でしょうし、感情的になる気持ちもわかります。私は、あくまで他人事なので、好き勝手言えますが・・・
所で、<評価分析編>…すでに原稿は出来上がってるかもしれませんが、読んでいると、『事実』と『想像』が入り混じっています。評価分析する場合は、事実に基づいて行う必要があると思っています。
このお話、奥が深く、また、いつでもどこでも誰にでも当事者になる可能性がありますので、私も考察してみたいと思いました。(他人事ですけど・・・)
山無駄
どうも ゆう さま
うーん、どうなんでしょう。専門家ではないのでソシオパスかどうかはなんとも。
兆候も当てはまる部分もありはしますが、どちらかというと、もう少し幼稚性を感
じます。いろいろと誤魔化しはするのですが、底が浅く、少し考えればすぐばれる
ことことぐらいわかるだろうに、というようなことばかりです。
それが、パーソナリティ障害の所為かもしれませんが。
山無駄
どうも ちゃとらん さま
長々とお付き合いいただいありがとうございます。<評価分析編>は、まだ着手していませんし、
ちょっと本業が立て込んできたので少し遅くなるかもしれません。
ご指摘通り、これまでの記事には「事実」と「想像」というより「推測」が混在しております。Y君
の本心など(本人ですら)わかりませんし、Y君がとった行動の事実もわかりません。なかなか客先
との関係もあって本件、事実確認が難しいのです。加えてコラムに公開する上で、脚色もしておりま
す。あくまで私が知っている事実をもとに、Y君のことをいろいろと推測し、いくばくか脚色した内
容を公開しております。
そして<評価分析編>では、これまで二編で書いたことが「事実」であった、という前提のもとに、
(Y君のためではななく)我々の将来の糧になる知見を見つけられれば、と考えております。