元底辺エンジニアが語る、エンジニアとしての生き様、そしてこれからの生き方

生き様083. 2008年という時代の労働環境を振り返る ~大竹ツカサのナラティヴの手引き~

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ぼくのかんがえたさいきょうのぱそこんですく

皆さんは家の中で一番長く過ごす場所はどこでしょう?
答えは「寝室」もしくは「布団の上」となるはずです。
何故ならば、大人の平均睡眠時間は6~7時間。1日の1/3弱を過ごすわけです。

さて、その次に長く過ごす場所はどこでしょう?
これは人によって答えが異なるのではないでしょうか。
僕の答えは「パソコンの前」です。

年末ぐらいからコツコツと、パソコン回りの環境を弄っています。
PCを新調したり、新しいパソコンデスクを購入したり。
LAN環境の新調やNASの導入なども、結構コストが掛かっています。

特にパソコンデスクについては「これ!」と言える完成品がありませんでした。
ですので部品ごとに分けて導入しています。
もっとも、モニタアームで固定する予定でしたので、完成品はちょっと合いません。
なかなか安くない部品が含まれるので当初は「お金の余裕のあるときに買い足す」
という考えで進めていました。

ですがよくよく考えてみたのです。
家の中で布団の次に長く過ごすパソコンの前。
それならば、しっかりお金を出して、一気に理想の環境を作った方が、生活の質が高まるのではないか?と。

そうして、結構な金額をつぎ込んでパソコンデスクの部品を取り寄せました。
尚、旧パソコンデスクの撤去作業が進まないため(今使ってる!)仮組みのままです。
一部部品は、CDD(ちゃぶ台駆動開発)の方に回っています。
半年前の32インチディスプレイみたいですね!


その時、僕も同じ様な体験をしていた

今回は、度々絡みに行っている感じのある、リーベルGさんの小説に関して、勝手に解説します。
むしろ、「僕の体験をお話するのに、リーベルGさんの物語のお力をお借りする」というのが適切かもしれません。

過去に自分語りの中で触れていますが、リーマンショック後に心を病んでいます
それがきっかけで退職にもなっているのですが、その姿がちょいちょい棚橋さんと重なるのです。
もちろん完全に一致するわけではありません。
「僕の周囲にあった状況」が結構な内容で重なるのです。

今回は、その時代を「こんなこともあったんだ」と振り返りをしつつ、
これからの時代を生き抜くヒントになれば、とお話していきます。

なるべく、同時の時代が分かる資料を調べながら書いています。
ですが、あくまでも当時の白栁の視点が元となります。
当時の一般とは異なることを「これが一般的である」と勘違いしている可能性もありますことを、ご了承下さい。
また、その様な事柄については、コメント欄等でご指摘を頂ければ幸いです。

※※お断り※※
 今回のコラムで取り扱う原典は、フィクションです。
 原典は2008年時の日本の社会を元にしていますが、あくまで創作物です。
 その為、当時の状況と完全に一致しているわけではありません。
 そもそも、フィクションに対して「現実として」の補足を入れています。
 そういう、とても野暮な話であることをご承知下さい。


2008年当時のITエンジニアの労働環境

その10年程前。
1999年12月の労働者派遣法の改正を経て、労働環境が変わります。
これ以降各業種で派遣労働者の割合が年々増加する傾向にありました。
「1999年当時は約100万人いた派遣労働者が2008年には約400万人になった」
という数値が出ている資料もあります。

しかし、ITエンジニア、特にプログラマと呼ばれる職種では少し事情が変わります。
IT業界で多かったのは、「業務請負契約」による「特定派遣っぽいこと」がです。
これに関しては「今も行われている」なのですが、その割合は減っています。
当時、偽装請負などは、【フツーに当たり前】と言えました。

業務請負契約の闇

今では【IT業界の闇の部分】として多くの光があたっている「業務請負契約」です。
しかし、当時はそこに疑問を持つ人は多くありませんでした。
【フツーに当たり前】だったこともあります。
でも一番は「業界全体が稼ぎやすかった」からでしょう。

大きな案件が企業から発注され「一次元請け」となるIT業界大手企業が受注します。
現実の会社を使うと拙いので、リーベルGさんの世界観をお借りして説明しましょう。
前者が「K自動車」。後者が「エースシステム」です。

そして「一次請け企業」は、プロジェクトの管理の為に数人をアサインします。
当然、これだけではプロジェクトは回りません。
その為「二次請け企業」へ開発の為の人員の調達を依頼します。
そして「二次請け企業」から「三次請け企業」「四次」「五次」…と何処からともなく、様々な企業から人がかき集められてきます。
不思議なことに、この「三次請け」以降の企業は、「二次受け企業の社員」という顔をしてプロジェクトに参画します。
「自社の名刺」と「二次請け企業の名刺」を持つケースもあります。
また「二次請け企業」から数人、三次請け以降の企業の人員管理にアサインされます。

こうして集められた人員は「セキュリティ管理」の名目で一つの建物に放り込まれます。
その場所は発注元企業の敷地内だったり、一次請け企業の借りるスペース内だったり、案件によって様々です。
少なくとも、二次請け企業以降がこの場所の面倒を見ることはありません。
もしかしたら、一次請け企業になる条件の中に「100名規模の開発チームを常駐できる部屋の所持」という条件があったのかもしれませんね!

かき集められた末端にいる「n次請けの作業員」への要求は明確です。
「人月計算で割り出された工数に基づき期限内に、割り振られたタスクを終了させる」
たったこれだけです。
効率的な実装も、ミスの少ない環境も、重視されません。
お題目の様な「コーディング規約」だけが「詳細設計書」と共に渡されるだけです。
仕事の内容によっては「詳細設計書」を製造するお仕事になるかもしれません。

状況によって、残業は許されますが、歓迎されません。
しかし、1ヶ月の勤務時間がある一定時間を減ることは、絶対に許されません。
それは、請負契約の内容が鍵になっています。
「プロジェクトの為に1ヶ月に140~160時間働くことで○万円を支払う」
「多かったり少なかったりしたら、○万円を(下限/上限)時間で割った分を引く」

まぁ、これだけ聞いてもよくわかりませんよね。
例えば、1ヶ月50万円の仕事だとしましょう。
1月の労働時間が159時間までは、50万円が所属する企業に支払われます。
160時間以降は「約3000円×時間」が50万円に追加で支払われます。
139時間を下回ると「約3500円×時間」が50万円から引かれて支払われます。

日本の多くの正社員は、日給月給制で働いています。
このケースで例えてみましょう。
労働者が残業しても、160時間までは請求できません。
ですが、労働者には残業代を支払わなければなりません。
また、何らかの事情で139時間を下回れば、請求額は減ります。
ですが、有給休暇等の正当な理由があれば、その月の給与を減らすとことはできません。
基本的に人件費は固定です。

福利厚生

「n次請けの末端作業員」は、大体20名以下の小企業の所属です。
3保険が付いている以外に、福利厚生というものはあまり望めません。
契約している社会保険団体次第では、それに相当するものが受けられます。
もし「関東ITソフトウェア健康保険組合」だったらラッキーです。
ここは、組合員が利用できる福利厚生が充実しています。
レクリエーションによる同業他社との交流や、保養施設の利用も可能です。

ただ、加入できるのは関東圏に本社がある企業だけらしいです。
他の地域については、僕には知識がないので何も言えません。

多重下請け構造と中抜き問題

仮に「五次請け」の作業員がプロジェクトに参加していたとしましょう。
彼は「五次請け企業」の社員ですが「二次請け企業」の社員として参画しています。
ですが同時に「四次請け企業の社員」でもあり「三次請け企業の社員」でもあるのです。
不思議ですね!

これには契約上のカラクリがあります。
一次請け企業は、二次請け企業に対して大抵こういう条件を出しています。
「このプロジェクトに参画するメンバーは、貴社の社員であること」

この条件に素直に従うと、二次請け企業はどうなるでしょうか?
常に数十人、百余人の人員を雇う必要があります。
この人員を雇って、常に空きがないように管理することは大変です。

ですから「ウチの社員ですよ」って顔をしてしれっと三次請け以降の企業が集めてくれた人員をプロジェクトに参加させます。
契約違反では?と思うのですが、大体こんな感じで通るみたいです。
「いざって時に自社の社員と同じ責任を取れるよね?」
ええ、もちろん責任は下に丸投げしますから大丈夫ですよ!
同じ様な契約を、ひとつ下の企業にして貰っているわけですから。

そして、三次請け企業以降、末端以外の会社は、自分の社員を使うことなく、プロジェクトに人員を提供することになります。
もちろん、提供しているのですから、作業者分の請求を起こします。
そして、受け取った金額よりも少ない額を下請け企業へ支払うのです。
それは「紹介料」や「管理料」という名目で。
もしくは「これしか貰ってないから」と偽って。
右から左へ人とお金を動かすだけで儲かるのですから、無駄に増えるわけですよね!

また、この構造には大きな問題が隠れています。
それは「n次の数が大きいほど、入金が遅くなる問題」です。
例えば「全ての企業が月末請求の翌月末払い」だった場合を考えてみましょう。

1月に請求した金額を「n次請けの企業」が受け取れるまでの時間は

  • 二次請け:2月末
  • 三次請け:3月末
  • 四次請け:4月末
  • 五次請け:5月末

となります。
※一次請け企業が元の支払い者と想定

ここから給与の支払いとなると、更に期間が空きますよね。
しかし現実はそうは行きません。法律でも決まっています。
1月に請求されたものは、2月末に各企業が同時に支払います。
すると、各企業は支払う為の原資を別途確保しておく必要があるのです。

これをもっと前の、他のプロジェクトに参加している作業員の稼いだ分から取り分けたとするとどうなるでしょうか?
稼いだお金を全て給与として支払うことはできません。
ですので、1月の給与に宛てられる金額が減ります。
こうやって、末端作業員の給料はどんどん削られていくのです。

求められる人物像

「休まず毎日元気に出勤して、指示されたタスクを時間内にこなす」
先に行ったことを補足する様な形になりますが、これだけが当時のIT業界で働く
「末端作業員」に望まれていたことです。
そして、その末端作業員がIT業界で働く人の大多数を占めていたのです。


2008年当時のハラスメントの考え方

この当時、大きく注目されていたのは「セクシャルハラスメント」のみでした。
それも男女間、特に男性から女性に向けて、のみです。

組織内でのハラスメントについて厳しくなったのは2011年以降と記憶しています。
2012年に厚労省が「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ」という動きを見せてからです。

繰り返しになる部分もありますが、当時は多くの会社にとっては「多少の無茶は乗り越えて、お金を稼ぐ社員」というのが良い社員の基準になります。
そして「多少の無茶」は「死なない程度」ど同義です。
「鬱になるヤツは責任感がない」という言葉が当然だった時代ですから。
当然のごとく「パワハラ」も「本人が乗り越えるべきもの」扱いでした。
暴力まで行ったら別ですけどね!

この当時に原典での棚橋さんが受けた色々を「ハラスメント」と通報したとしましょう。
恐らく、とても好意的に見て「本人に注意した」程度で終わるでしょう。
もしかしなくても「キヨドメに握りつぶされる」可能性が高いのです。
「その程度のことに神経質になる人間が悪い」程度の扱いです。
一番に護るべきは「自社の社員」であって「下請け企業の社員」ではないですしね。

【最悪】の結果として「扱いにくい会社」として契約を切られる可能性もあります。
もっと【最悪】なのは「それでも、と諸見が留意した」場合でしょう。
もちろん、この2つの【最悪】は「誰にとって」の主語が異なります。

また「ハラスメント」を決定する重要なファクターが、当時は違います。
現代では「された側がハラスメントと感じたら」という認識が一般化しつつあります。
この当時は「した人間もしくは周囲の大多数がそう感じたら」です。
そして残念なことに「周囲の人間」カウントに入るのは自社の社員以上の立場の人間だけ…となるのです。
もうこれって、奴隷じゃん!


参考資料


誰のために仕事をするのか

本筋からは離れますが『安いニッポン 「価格」が示す停滞(著:中藤 玲)』の中に、コンビニ大手のおにぎりを開発・製造受託している惣菜工場の社員(担当者)の言葉として、以下の文があります。

「僕たち技術開発社は、通常業務が終わったあとに残業までして小さなおにぎりの作り方を試行錯誤している。でも消費者は全然喜ばず、『こっそり小さくしている』とSNSに書かれるんです」

僕の視点では、当然の結果だと考えています。
彼は誰の為に「残業までして」開発をしているのでしょう。
その「小さなおにぎり」を一番喜ぶのは誰でしょう?

その答えは「おにぎりの値段が上がらなかった消費者」ではないはずです。
「価格を上げないことで競争力を保てた(と勘違いする)経営者」なのです。

「経営者を喜ばす為にしている仕事で、消費者が喜んでくれない」
文字にしてしまえば、こんな傲慢に聞こえる文章になります。

2008年当時、多くのIT業界で働く人は誰もが「システムを使うユーザー」よりも、
「直接お金を払ってくれる人」の方向を向いて仕事をしていた様に感じます。

現場労働者であれば、自分の会社。
下請け企業であれば、元請け企業。
元請け企業であれば、発注会社。

10年以上が経つ今でも、基本的な構造は変わっていない様に感じます。
でも、10年前より「自分自身の幸せ」に目を向ける人が多くなったな、と感じるのです。
願わくば「100%自分のため」「100%会社のため」などという極論は棄てて、
「60%私事、40%仕事」みたいな、ライフとワークのバランスを個人が決められる時代になって欲しい、と考えています。
もちろん、今より高い収入を目指すなら仕事の比率を上げる必要が出るでしょう。
その兼ね合いも、自分で決められる世間となって欲しい、と願うのです。

以上!




主催イベント宣伝

2021年4月23日(金)に再びオンラインイベントを主催致します。
その名も【超ショート】90秒LT会【2021Spring】です。

春といえば出会いと別れの季節。
何かへの出会いへの期待や、惜しみながら別れたものへの思いを。
もしくは、オンラインイベント登壇の試しに、90秒でお話してみませんか?
どんなイベントになるか見てみたい、という方も参加歓迎!!
他人の目標や登壇を聞くだけでも、勉強になりますよ!

現在、登壇参加者・視聴参加者を募集しております。 上記リンクのConnpassページから、参加登録をお願いします。

また、このイベントは3ヶ月ごとの開催を予定しています。
今回ご都合が悪い方は、是非次回、7月のイベントへの参加をご検討下さい。
宜しくお願い致します。




ミニコーナー:こちらヤマネコシステム技術部三課!

ここは日本のどこかにあるかもしれない「ヤマネコシステム」社。
そこはかとなく、ブラックの香りがするこの会社の日常を、少し覗いてみましょう。

登場人物

三課:受託開発&新サービス開発
 ヒノモト : 主人公 アラサーエンジニア
 ホンドくん : 同僚 どっちかが1年先輩だった気がする
 オラフ先輩 : 社内事情通、噂好き
二課:インフラ課
 ヴァイパ主任:日本大好き外国籍、二課のエース
 アオタくん:雑用係

やぶ蛇

アオタくん「ヒノモト先輩、ちょっと今いいですか?」
ヒノモト「ああ、アオタくん。どうしたの?もしかして例の件?」
ホンドくん「ヒノモト、例の件って何?」
アオタくん「ヴァイパ主任へのお返しというか仕返し作戦の件です」
ホンドくん「お返し?仕返し?」
ヒノモト「ああ。ヴァイパ主任がバレンタインに大量のチョコを贈ってくれたヤツでね」
「ホワイトデーも大量のお菓子が届きそうだからって相談されてさ」
アオタくん「今年届くのはもう止められないから、せめて来年を止めようと」
「二課の全員それぞれから、ヴァイパ主任へそこそこの量のお菓子を贈ったんですよ」
「全員分合わせて相当な量になりましたよ」
ヒノモト「という作戦を考えた」
アオタくん「スポンサーはタツミ課長です」
ホンドくん「へぇ!で、成果は?」
アオタくん「ヴァイパ主任、来年も!って凄く意気込んでます」
「2つの意味で凄く喜んじゃったらしいです」
ホンドくん「2つの意味?」
アオタくん「1つは憧れのイベントができたこと」
ヒノモト「素直にバレンタインのお返しだと思ってくれてしまった、と」
アオタくん「もう1つは日本のお菓子は自分の国のお菓子より美味しい、と」
ホンドくん「オラフ先輩情報でヴァイパ主任が
『日本のお菓子食べ放題で嬉しい!』
って言ってのは…」
ヒノモト「藪をつついて蛇を出す、もとい、藪をつついてヴァイパ主任が出た、かぁ」

(つづく)

余談:二課全員→ヴァイパ主任のお菓子と、ヴァイパ主任→二課全員のお菓子。
その全てを捌いた総務の人達の苦労を誰も知らない。




ITエンジニアの視点で、時事ニュースを5分間で紹介する動画を平日毎日公開してます。
「日々の生活の中にエンジニアリングがある」からこそ、
身近な時事ニュースから学ぶことが重要です。

#ほぼ日ITエンジニアニュース

Comment(2)

コメント

おたみ

こうやって見ると、私の労働環境は 2010 年ぐらいなのかもしれません。orz

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