いつも再発防止策にモヤモヤする
障害を起こすといつも、原因究明と再発防止策というのが検討される。それ自体は当たり前の話であるが、いつもその結論にはモヤモヤする。障害の大小はあれど、出てくる結論に大差がないからだ。
手順書やチェックシートに足りない項目があった。手順書通りに作業を行わなかった。ダブルチェックしていなかった。作業責任者が役割が形骸化していた、確認していなかった。ステークホルダーとのコミュニケーションが不足していた。原因は凡そそんなところ。再発防止策は、手順書、チェックシートを見直した。作業は手順ごとに指差し確認とダブルチェック確実に遂行する。ステークホルダーとの打合せを密にする。社内教育を実施する、再度総確認を行う等々。
いずれも、今さら?前もそんなこと言ってなかったけ?というような内容ばかり。前と異なる作業だから、見直された手順書やチェックシート、確認内容は異なるのかもしれないが、目新しい再発防止策や、なるほどね、という対策を見たためしがない。何故、そのような結論にしかならないのだろうか。少し考えてみたい。
もしかしたら、そんなレベルの低いことをやっているのはお前の所だけだ、と言われるかもしれない。もしかしたら、同じような悩みを持たれているかもしれない。やっていること、立場が違うので一概に言えないかもしれないが忌憚のない意見を頂けるとありがたい。
なぜモヤモヤするか。端的に行ってしまうと真剣に考えたようには感じられず、どこか他人事感が漂っているのである。それはきっと、原因究明と再発防止策が、迷惑をかけたお客様に向けた説明と説得のための資料なっているからではないかと思う。
障害が起ると、作業当事者で経緯を洗出し、「なぜなぜ分析」を行い、原因分析と再発防止策を纏める。その結果は、部門責任者や客先が納得するまでレビューにかけられ、修正させられる。ところで、「なぜなぜ分析」は言わずと知れたトヨタ生産方式の手法で問題の根本原因の分析と対策を考える手法である。手法なので、それを使って正しい答えにたどりつくには、それなりの知識と訓練が必要だ。トヨタの強さは、常にカイゼンを意識づけることによって、作業員にこの訓練がで行き届いていることにあるが、当然、トヨタではない作業者にも部門責任者にも客先担当者にも、そのような訓練がなされているわけではない。加えて作業当事者だけで実施してしまうと、彼らの限られた知識範疇での分析になるので、根本原因にたどり着くとは考えにくい。問題を分析するには、様々な観点の幅広い知識が必要になる。例え部門責任者と顧客でレビューをおこなったとしても、彼ら技術に関しての専門知識を有していないこと踏まえると、この結論には技術からの考察が足りていないことがわかる。
こういう実態を鑑みると、障害を起こした際の原因究明と再発防止策の検討は形骸化されており、各々の作業内容は異なるかもしれないが、客先との契約範疇としてやっていることは同じことなので、導き出される結論は毎回同じになっている、というのが著者の見立てである。
著者自身も、障害報告をまとめ再発防止策と合わせて客先に説明してきた経験を一度ならずしてきている。その経験からすると、障害を起こした根本原因を本当に突き止め抜本対策を見つけたとしても、それを正直そのまま客先には説明できないことがあるのが現実だ。なぜなら客先とは契約を通しての関係なので、その関係性のなかでの話をするしかないからだ。何故それが根本原因で、だからこれが抜本対策なのだ、という因果関係含めた説明が必要だが、客先との間には知識や情報にどうしても差がある以上、正しく客先には説明できない状況がある。また、もしかした根本原因が契約に触れる、客先からの訴訟リスクにつながる可能性があることも考えると、客先への説明にはどうしても事実をそのまま、という訳にはいかない。
良いか悪いかは別として、起こした障害の根本原因と抜本対策は自社内の経営の問題であり、客先との関係とは別のところにある場合が多いので、客先と合意した建前と、本当に再発防止として取り組まなければならない本音ができてしまう。
だから、その本音のない原因究明と再発防止策には、真剣に考えた痕跡がないと感じてしまうのであろう。証拠に、報告の中に「障害が発生しシステムが止まると、お客様の業務がとまり多大な迷惑をかけることを忘れずに作業に臨むこと」などという言葉は出てくるのに、「障害が発生しシステムが止まると、お客様から損害賠償請求を起こされ経営が傾く可能性がある」というような本音がでてこないので、その危機感が伝わらず、どこか他人事と感じてしまうのであろう。
トヨタ式生産方式、カイゼンは創業家が連綿と受継ぐ危機感がベースとなっていると聞く。だから徹底しており、ここまで強くなった。危機感こそが障害を起こさないための、最大の原動力であると思う。