働いている世のエンジニアの手助けになることを願う独り言

要件定義の席で、エンジニアの脳内はすでにフル稼働している話

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ITエンジニアとして長く仕事をしていると、要件定義の打ち合わせというのは単なる会話ではなく、小さな「脳内開発会議」だということに気づきます。

クライアントが話し始めた瞬間、こちらの頭の中ではすでに「どんな構成にするか」「画面はどう分けるか」「どこでエラーが出そうか」「運用フェーズでトラブルになりそうなポイントはどこか」などが、勝手に並列処理で動き始めます。

つまり、要件を聞くことと、設計・開発を考えることは、エンジニアにとってほぼ同時に起きている現象なんですよね。

プロは要件を聞きながら、頭の中で設計と開発が始まっている

打ち合わせの席で、話をただメモしているだけなのか、それとも頭の中で設計図を組み立てているのか。この差は、経験を積めば積むほど如実に出てきます。

プロとして現場を任されるエンジニア、テクニカルディレクター、SEは、クライアントの言葉を聞きながら同時にこう考えています。

  • 既存システムと整合性は取れるか
  • データ構造は破綻しないか
  • 運用時に現場が困らないか
  • この要望をそのまま形にしたら、納期とコストはどう跳ねるか

もし打ち合わせ中に、頭の中で設計と開発のイメージがまったく動いていないとしたら、それはまだ「プロ」とは言いにくい状態かもしれません。厳しい言い方ですが、要件定義は単なる「聞き取り」ではなく、「実現可能性のリアルタイム判定」の場でもあるからです。

脳内で辻褄が合わないと、顔が曇っていく問題

そしてもうひとつ、エンジニアあるあるがあります。

要件定義の話を聞きながら、頭の中で設計と開発のイメージを組み立てていくと、どこかで「これはかなり難しいぞ」「この条件とあの条件、同時には成立しないぞ」と気づく瞬間が訪れます。

その瞬間、エンジニアの顔にうっすらと影が差します。本人としては無表情を保っているつもりでも、眉間だけは正直です。「あ、今なんか計算が合わなくなったな」と他のメンバーにバレてしまうあの感じです。

イメージとしては、クライアントが楽しそうに話しているのに、こちらの内心ではこうなっています。

  • 「この仕様とこの運用、同時にやるとオペレーションが回らないな...」
  • 「既存システムとつなぐとデータが破綻する気配しかしない...」
  • 「テスト観点が一気に増えるぞ...これは...」

要するに、頭の中で「この設計は危険です」という警告ランプが点灯すると、顔にも出てしまうわけです。

開発経験がない人が聞いてくる要件は、たまに壮大すぎる

一方で、開発経験がない人がクライアントから要件を聞いてくるケースもよくあります。営業担当やディレクターなどが、前向きな姿勢でヒアリングしてくれるのはとてもありがたいことです。

ただ、エンジニア目線でその要件を改めて聞いてみると、

  • 「どうやって実装する前提なんだろう...?」
  • 「この条件をすべて満たしたら、ほぼフルスクラッチ案件レベルでは...?」
  • 「予算と納期、大丈夫かな...?」

と感じるような内容になっていることも珍しくありません。

それでも、開発経験がない人がヒアリングすると、

  • クライアントの「本当はやりたいこと」が素直に引き出される
  • 話が前向きにふくらみやすい
  • 結果的に、新しい取り組みやサービスに発展することがある

というメリットがあります。これはこれで、とても大切な価値です。

経験者の慎重さ vs 未経験者の前向きさ

逆に、経験豊富なエンジニアが最初から要件定義に入ると、

  • 「それをやるなら、ここも直さないといけません」
  • 「その仕様だと、運用現場がかなり大変になります」
  • 「この条件を全部満たすなら、今の予算では難しいです」

といった、現実的で慎重な発言がどうしても増えてきます。これはネガティブなのではなく、トラブルを避けるためのリスク管理として正しい姿勢です。

ただ、そうやって「できる/できない」「やる/やらない」を瞬時に判定できてしまうがゆえに、話の広がりが抑えられてしまうこともあります。

つまり、

  • 経験者の要件定義は「正確で安全」だが、話が広がりにくい
  • 未経験者の要件定義は「伸びしろと可能性」があるが、現実とのギャップが大きくなりやすい

という、一長一短の関係になりがちです。

本当にすごい「超ベテランエンジニア」とは

では、理想的な「超ベテランエンジニア」とはどんな人でしょうか。

個人的な感覚ですが、本当にすごい人は、

  • 要件を聞いた瞬間に、リスクも工数もすべてだいたい見えている
  • それでも顔にも態度にも出さない
  • いきなり「それは無理です」とは言わず、話を広げながら整理していける

そんな人のような気がします。

たとえば、

  • 「そのアイデアいいですね。少し段階を分けて実現していきましょうか」
  • 「全部を一気にやると大変なので、まずここから始めるのはどうでしょう」
  • 「運用現場の負担を下げるために、こういう形に変えてみるのもアリですね」

といった具合に、

「リスクと現実は理解した上で、前向きな形に翻訳して返してくれる人」

こそが、本当の意味での超ベテランなのかもしれません。

要件定義の席は、すでに開発のスタートライン

要件定義は、単なるヒアリングの場ではありません。エンジニアにとっては、

  • 設計の第一歩であり
  • リスクを察知する瞬間であり
  • プロジェクトの未来を形づくるスタートライン

でもあります。

開発経験のある人の慎重さと、開発経験がない人の前向きさ。その両方をうまく組み合わせながら、クライアントの「やりたい」を現実的な形に落とし込んでいく。そのプロセスこそが、エンジニアリングの面白さであり、難しさでもあります。

今日もどこかの会議室で、誰かの頭の中では密かに設計が始まり、誰かの眉間では静かにデバッグが進んでいます。その裏側を知っていると、要件定義という時間も、少し違って見えてくるかもしれません。


どこかで、エンジニアの価値を少しでもベースアップする手助けが出来てれば幸いです。
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