第21回 四方山話(4) ITエンジニアを目指す人へ
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
最近、学生さんと接する機会がちょくちょくあります。そのときにいろいろな質問を受けたりするのですが、今回はその辺の話をネタにしたいと思います。
■未知な職業としてのITエンジニア
筆者が学生さんからよく受ける質問に、こんな内容があります。
『将来、プログラマを目指してるんですが、今から何をすればいいですか? 心構えを教えてください! 』
この質問、答えに窮します。もちろん、優等生的に答えるのであれば、
『学生の時分にITパスポート試験やOracle Master Bronzeのような試験に合格しておき、基礎レベルの技術スキルを身に付けておいた方がよいですね。また、最近ではシステム開発の流れや概要がまとめられた書籍がたくさん出ていますので、あらかじめそういった情報を吸収しておいた方がITエンジニアとしてのスタートダッシュは切りやすいと思いますよ』
ということはできます。そして、このように答えると、大抵の学生さんは大きくうなずき、われ先にとメモを取ろうとします。こういった姿勢は立派だと思いますし、筆者も好きです。しかし、同時に「きっと、聞きたいことは違うところにあるんだろうなぁ」とも感じます。それは、なぜか?
■その後の小川さん
その答えの前に、社会に出た後のITエンジニアを見てみます。そういえば、過去のキャリコン事例※で新卒社員のキャリアについて考えたことがありました。夢と希望と不安を抱えて社会に出たITエンジニア1年生である小川さんが自分の理想と仕事の現実のはざまで悩むという話でしたが、この話には続きがあります。それを少し紹介します。
※過去のキャリコン事例:『第12回 キャリコン事例(5) 新入社員が抱く理想と現実の狭間で』です。
《その後の小川さん》
- 現場の上司にプログラマとして働きたいことを伝え、OJC-A(Oracle認定Javaアソシエイツ)の資格を取得。その努力が認められ、入社から1年後、社内のWebアプリケーション開発のプログラマとして働くことになった。
- それから2年間はがむしゃらにプログラマとして働き、社内では誰しも認める有能なプログラマになった。
- しかし、本人はこれから先どうしていけばいいか分からなくなってきている。
その後の小川さんの話は、機会があれば別のキャリコン事例として紹介したいと思いますが、どうして小川さんは希望の職種であるプログラマで仕事ができるようになったにもかかわらず、そこから先の方向性が見えなくなってしまったのでしょう? その答えはプログラマという職業を目標にしてしまったことにあります。
プログラマという職業を目標にした人から見ると、難しいプログラミング言語を駆使してプログラムを作成する姿は、まさに理想の職業なのかもしれません。また、最近ではiPhoneやAndroid端末で動くアプリを作りたいと考えている学生さんも多くいるようですので、なおのことプログラマという職業が目標になり得るのかもしれません。
しかし、実際のプログラマは、与えられた設計書を基に納期までに確実に稼働するプログラムを仕上げることが求められます。しかも、それがルーチンワークのようにずっと来る日も来る日も続きます。そこには自分が作りたいプログラムを作る姿より、納期に追い立てられ、残業続きでプログラミングをしなければならない姿の方が多くなっていくでしょう。クリエイティブにプログラミングするというより、次から次へとさばくようにプログラミングをするといったイメージの方が近いかもしれません。そうして、プログラミングの数をこなしていった結果、効率良くプログラミングするスキルを身に付け、有能なプログラマと呼ばれるようになった--それこそが、その後の小川さんの姿なのです。
小川さんは目標をプログラマに置いてしまったため、小川さんの想いはプログラマになった段階で達成できてしまっているのです。プログラマになれた当初、小川さんは自分の環境に満足して仕事をしていました。しかし、暫く経つとその環境が当たり前になってきて、仕事に"慣れ"が出てくるようになりました。そうすると少しずつ仕事に面白みがなくなってくる。しかし、仕事は次から次へと振られてきます。その作業の繰り返しが、いつしか小川さんにとって疑問になってきたのでしょう。「本当に私はこんなことがやりたかったのか? 」と。
■やりたいこと=職業、は正しい?
先の学生さんが投げた質問、それはプログラマになることを前提にした質問です。もし、この質問をした学生さんがやりたいこと=職業と考えているとしたら、先の小川さんのようにその職業に就いたらそこで目的が達成してしまう懸念があります。しかし、実際にはその職業に就いてからが本当の意味でのスタートなんです。それでは、どう考えればよいか?
職業はあなたの想いを実現するための手段である
これに尽きます! ですので、筆者はこれからITエンジニアを職業として目指そうとされている学生さんには、以下のことを考えるようオススメしています。
《ITエンジニアを職業として目指す人へ》
- 具体的なITエンジニアの職業が明確になっていない人
あなたが仕事を通じて実現したい想いは何かをじっくり考えてみてください※。それが見つかったら、あなたの想いを実現するITエンジニアの職業を探してみてください※。
※実現したい想いは何かをじっくり考えてみてください:手前みそですが、想いを知ることについては『第3回 自分の何を知る?』もご参照ください。
※ITエンジニアの職業を探してみましょう:再び手前みそですが、ITエンジニアの職業を知ることについては『第4回 あなたが望む仕事とは?』もご参照ください。
- 具体的なITエンジニアの職業が明確になっている人
その職業で仕事をすることであなたが実現できる想いは何かをじっくり考えてみてください。それが見つかったら、あなたは本当にその想いを実現したいと本気で思えるかどうかを自問自答してください。
もし、本気で実現したいと思えるのであれば、その職業こそが今のあなたが目指すべき職業だといえるでしょう。
しかし、そうでなければ、いったんその職業を脇に置いておき、もう1度あなたが仕事を通じて実現したい想いを見つめ直してみてください。それが見つかったら、その想いを実現するITエンジニアの職業を再度探してみましょう。
そうして見つかったITエンジニアの職業と、最初に考えていたITエンジニアの職業とを比較して、どちらの仕事を本気でやってみたいと思えるかを考えてみてください。
そうやって見付けたITエンジニアの職業を、
『本気で、全力で取り組んでやろう! 』
と強く考えることが、学生さんにとって必要な心構えではないかと筆者は考えます。