第22回 四方山話(5) 火消し屋の肩書を持つ者
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
筆者はキャリア・コンサルタントとして日々働いていますが、たまにITエンジニアっぽいことをすることがあります。最近、システム開発現場に火消し屋として入る機会がありました。ちょうどそのころ、コラムニストのな-Rさんが炎上案件の鎮圧屋を主人公にしたコラムをスタートされており、妙な偶然を感じていました。そこで、今回は火消し屋をネタに取り上げてみたいと思います。ちなみに、今回は各段落の見出しに深い意味はありませんので、そこは気にせず流してください……。
■火消し屋が何をしているか、知っているかい?
そもそも火消し屋とはどういった人なのか、まずはここから入ってみます。火消しとは読んで字のごとく、“火を消す”と書きます。ここでいう“火”とはシステム開発における納期遅延のことを指します。決められた期日(工数ではないです)までに決められた成果物や納品物を納められない状況を、“火が噴いている”とか“炎上している”といった言い方で揶揄されます。その燃え上っている火を鎮火すること、言い方を変えれば納期遅延を解消することを仕事とするITエンジニアを“火消し屋”、もしくは単に“火消し”などと呼びます。
■火消し屋は損な役回りなのさ……
火消し屋の仕事は非常に多岐に渡ります。それは、現場に投入されるポジションや役回りによって大きく変わりますが、おおむね、このような仕事になるのではないかと思います。
《火消し屋の仕事》
- 作業タスクの洗い直し(WBSの引き直し)
- スケジュールの見直し
- 要員管理(要員の確保、作業者1人1人の身体的・精神的状況の把握など)
- 進捗管理(作業状況のモニタリング、スケジュール遅延に対する施策の検討など)
- 品質計画・管理(テスト計画などの作成、成果物のレビューなど)
- 顧客折衝・報告(顧客、ユーザーとの窓口業務)
- その他雑用など
こうやって洗い出してみると、火消しの仕事にはやるべきことがたくさんあることが分かります。筆者の経験では、実際に火消しに入ってみて半分以上が雑用だったことも少なくありません。それくらい火消し屋にはたくさんの仕事が求められます。
■火消し屋に必要なスキルゥ? 特別なモノはねぇよ!
しかし、火消し屋の仕事が本当に大変なのは、これらの仕事を自分自身で作り出さなければならないところにあります。火が噴いている現場では皆自分の仕事に追われており、他人の仕事に構っている余裕なんかありません。
このような状況で、いきなりどこの馬の骨とも分からない火消し屋に懇切丁寧なフォローをしてくれる開発メンバーはほとんどいないと思っていいでしょう。ですので、火消し屋として開発現場に入ったのはいいけれど、ぼーっとしてたら、誰からも声を掛けられることがなく1日が過ぎてしまった、ということは普通に起こります。こうなってしまうと、火消し屋の役割は完全に失敗です。
そうならないためには、先ほど挙げた仕事くらいは最低限自分自身で作り出さなければなりません。しかも、開発メンバーの手は極力止めず、なるべく彼らの負担にならないように動くことが求められます。さらに言えば、火消し屋の仕事は一刻も争う仕事でもあるので、素早く行動し、結果を出す必要があります。火消し屋が開発現場に入場し、現場の状況を開発メンバーに対して事細かにヒヤリングし、じっくり練った対策を1週間後に提示……なんてことは、ほぼ100%あり得ません。とにかく、スピード勝負になります。
従って、火消し屋にはこんなスキルが必要になってくるのではないでしょうか。
《火消しに必要なスキル》
- 現場の温度感を感じ取れること
- 現場の状況を分析し、システム開発案件の着地点を見い出せること
- 指示待ちではなく、自ら自発的に素早く行動できること
- 情報(インプット)を拾い集める力を持っていること
- 結果(アウトプット)を作り上げる力を持っていること
何だかこれだけを見てると、別に火消し屋に限定されたスキルなどではなく、普段のシステム開発でも必要なスキルといえそうです。ただ、火消しということに特化して考えれば、これらのスキルはほぼ確実に必要だと思って間違いないでしょう。
■アンタ、それでも火消し屋になりたいのかい……?
はっきり言ってしまえば、火消し屋の仕事は本当に楽じゃありません。筆者個人は苦行ではないかと感じることもあります。やらないで済むことなら、正直やりたくない仕事だとも思います。それでも、なぜ火消し屋の仕事を請けてしまうことがあるのか? それはもちろん、会社や現場からの要請であることもそうなのですが、それ以上に、元ITエンジニアの血が騒ぐというか、巨大な難敵を片付けてやろうという挑戦心が湧いてくるというか、現場を助たいという正義の味方チックな考え方になってくるというか……、とにかく、筆者の場合は気持ちが奮い立つから※だと思います。
※気持ちが奮い立つから:言い方を変えれば、単なる筆者の自己満足です……。
もしかしたら、あなたにもこんな気持ちが湧き起こり、苦難を受け入れてでも火消し屋を目指してみたいと思われるかもしれません。もし、そう思ったときには、
- 《火消し屋の仕事》を1つでも多く体験し、これらの仕事をあなた自身のモノにしてみてください
- 《火消しに必要なスキル》を普段の仕事においてもを意識して行動し、これらのスキルをあなた自身のモノにしてみてください
そうして火消し屋の仕事をすることになった暁には、あなた自身のITエンジニアとしてのプロ意識、言い方を変えれば、あなた自身のITエンジニアとしての意地を心に強く持ち、現場の火を次々と消していってください。
最後の火を消し終えたとき、あなたにはそれまでの苦労を一気に吹き飛ばすほどの何物にも代えられない満足感、達成感が得られると同時に、あなたは火消し屋というキャリアに到達し、火消し屋の肩書を得ていることでしょう! それが、あなたにとって良いことなのか、悪いことなのかは別として……。
そんなことを考えながら「傭兵達の挽歌」を読まれると、これまた面白いのではないかと勝手に思っています(笑)