第20回 四方山話(3) コミュニケーションをキャリアっぽく考えてみる
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
キャリア・コンサルティングを行っていると、「コミュニケーションがうまくなりたい」という声をよく聞きます。そこで、今回はコミュニケーションについてキャリアっぽく考えてみます。
■ITエンジニアとコミュニケーション
そもそも、コミュニケーションとは何か? Wikipediaによると、こんなことが書かれています。
『生命体 (人間、動物、植物、微生物など)が、感情、意思、情報などを、発信受信応答、つまりは、相互連絡関係をもとうとすること』
少し難しい言い回しですが、要するに、自分が発したモノ(感情、意思、情報など)を相手にキャッチしてもらえる関係性を作り上げることといえそうです。このコミュニケーションがITエンジニアの仕事において重要であることは、もはや疑う余地はないでしょう。なぜコミュニケーションが重要なのか? それは、ITエンジニアは仕事を遂行する上で人との関わり合いが必要な職業だからです。システム開発を例に挙げると、
- 要件や仕様を決めるための、ユーザー(お客様)との関わり合い
- プロジェクトを遂行させるための、上司やリーダーとの関わり合い
などがあります。こういった関わり合いが上手な人ほど、この業界では重宝がられます。だから、誰しもコミュニケーションが重要だと考えるのでしょう。
ところが、実際に仕事で人との関わり合いを持ってみると、これがなかなかうまく行かない。自分の言いたいことがうまく相手に伝わらないことにもどかしさを感じることもあれば、相手の話がよく理解できずに話を終わらせてしまうことだってあります。こういう経験が積もり積もって、
『はぁ、私ってコミュニケーションが苦手だなぁ……』
と感じたりします。とはいえ、仕事なのでコミュニケーションを取らないわけにもいかない。そうなると、苦手意識を持ったままコミュニケーションを取り続けることになり、更なる苦手意識を生み出してしまう……という負のスパイラルに巻き込まれてしまいます。
しかし、ここで逆転の発想をしてみます。もし、今まで苦手としていたコミュニケーションが得意になったとしたら、この先どんな将来が見出せるでしょう?
それはもう、バラ色の人生しかありませんよね!? だから、ITエンジニアがコミュニケーション能力を高めるというのは、キャリアの観点から見ても本当に大きな意味を持つと筆者は考えます。
■関わり合いについて、もうちょっと深く考えてみる
それでは、ここからはコミュニケーション能力を高める方法について考えてみます。先ほど、「関わり合いが上手な人ほど、この業界では重宝がられる」と書きましたが、この関わり合いというキーワードに着目してみます。
関わり合いって具体的に何のことを言ってるのか? 自分と相手が互いにモノ(ここでは情報に限定します)を出し合い、キャッチし合える関係性のことをコミュニケーションというのであれば、コミュニケーションは、
- 自分の情報を相手に伝える(話す)能力
- 相手の情報をキャッチする(聞く)能力
に分けられます。つまり、関わり合いは、自分の情報を相手に伝える(話す)こと、相手の情報をキャッチする(聞く)ことを指します。だとすると、話す能力、聞く能力をアップさせることが、コミュニケーション高めることにつながりそうです。
■話すってどういうこと?
筆者は常々「話す」という行為は、相手に伝えたい内容をどのように伝えるかで決まると考えています。
話す内容(何を話すか? )+伝え方(どうやって話すか? )→話す
こう考えると、話す能力をアップさせるためには、以下の2点をクリアすれば良さそうです。
《話す能力をアップする方法》
- 話す内容を自分の中でまとめられるか?
- 相手へ効果的に伝える方法で伝えられるか?
話す内容を自分の中でまとめるためには、思考法や考え方を修得することが適しています。
《代表的な思考法》
- 論理思考(ロジカル・シンキング)
- 批判思考(クリティカル・シンキング)
- 仮説思考など
《考え方の視野を広げる思考法》
- 水平思考(ラテラル・シンキング)
- コーチング的な考え方(リフレーミング)など
また、相手へ効果的に伝えるためには、相手の心に響きやすい言葉を選ぶことが適しています。
《響きやすい言葉の要素》
- 口調(優しい、柔らかい、厳しい、丁寧、くだけた、ハッキリ、つぶやきなど)
- 話すテンポ(早い、ゆっくり)
- 言葉の抑揚(大きい、小さい)
ただ、こういった話す能力は一長一短で身に付くモノではありません。しかし、効果的に訓練する方法はあります。それは、プレゼンテーションをやってみることです!
プレゼンテーションとは、相手に自分の考えを理解してもらうために行うコミュニケーション技法の1つです。あなたの考えを相手に理解してもらうためには、あなたの考えを理論立てて話せるようにしておかなければなりません。当然、話す内容にはストーリー(流れ)ができてくるでしょう。
相手はそのストーリーをたどっていくことで、あなたの考えを理解するというゴールにたどり着かなければなりません。しかし、もし相手がゴールに行き着く前に、疑問や不安を感じてしまうようであれば、ストーリーをに詰め直す必要があります。素晴らしいストーリーを作り上げるためには、話す内容をあなたの中でまとめ上げなければならないのです。
さらに、相手があなたのストーリーをたどってもらうためには、相手を惹き込む話し方が必要です。決してうまく話す必要はありませんが、相手に理解してもらう話し方をしなければ、相手はあなたのストーリーをたどってくれません。そのためには、伝え方を磨かなければならないのです。
ですので、話す能力をアップさせるためにはぜひともプレゼンテーションをやってみてください。お題は何でもOKですし、相手は誰でも結構です。また、話す内容が頭の中でまとめづらいのであれば、プレゼンテーション資料をPowerPointを使ってみてもいいでしょう。
最近ではITエンジニアもPowerPointを使って企画書や提案書、説明資料などを作ることが多くなりました。PowerPointでプレゼンテーション資料を作ると、話す能力と書類作成能力の両方がアップしていきますので、正に一石二鳥です。そう言えば、abekkanさんのコラムでPowerPointを駆使する小学生のお話があります。興味深い内容ですので、こちらもぜひ参考になさってください。
■聞くってどういうこと?
話を元に戻して、今度は「聞く」という行為についても考えてみます。一般的に考えれば、聞くという行為は「相手の発する情報を聞き取ること」を指します。しかし、この言葉には「相手は自分の言いたい情報を話すことができている」という前提があります。
自分の言いたいことを相手に伝えるのは、なかなか難しいことです。ひょっとしたら、相手は自分が言いたいことの半分しか言えてないかもしれません。その半分の情報だけを聞き取って、本当に相手の話を聞いたといえるでしょうか? ですので、ここでは聞くと言う行為を「相手の発したい情報を聞き取ること」と考えることにします。
情報を「発したい」ということは、まだその情報は相手から発せられていません。発せられていない情報をどうやって聞き取るのか? それには、相手に情報を発してもらうしかありません。そのためには、相手が情報を発してもらえるような聞き方をします。その方法として、キャリア理論にはアクティブ・リスニング(積極的傾聴)※という方法があります。
※アクティブ・リスニング(積極的傾聴):アメリカの臨床心理学者であるカール・ロジャーズ教授によって提唱された来談者中心療法で使用される技法。キャリア・コンサルティングにおいて最も重要視される技法の1つです。
アクティブ・リスニングとは普通の聞くという行為からさらに一歩深く踏み込んで、より相手の話を聞き入れようとする聞き方です。
《アクティブ・リスニング(積極的傾聴)の方法》
- 評価や批判をせず、あいづちやうなずきを使って相手の気持ちを受け入れる態度で聞く
- 相手がそのときに感じ、表現している感情を受け取るように聞く
- 相手が体験しているが、はっきりと意識化されていない感情を読み取るように聞く
こうやって見てみると、相手が発したい情報を聞き取るためには、相手の身になって、親身に話を聞くことに徹することといえそうですね。
■キャリア形成から見るコミュニケーションの必要性
ここまで、ITエンジニアにおけるコミュニケーションの必要性から、話す、聞くといった能力を向上させる方法について筆者の考えを書きました。そもそも、私たちは日常生活を送る上で何かしらのコミュニケーションを取っています。そのため、誰しもある程度のコミュニケーション能力は持っています。
しかし、目指したいキャリアがある場合、そのキャリアに見合うだけのコミュニケーション能力を有しているかどうかはを判断しなければなりません。もし、自分のコミュニケーション能力が足りないと感じた場合、他の技術スキルなどと同様に、自らの力でコミュニケーション能力を引き上げなければならないのです。そう考えると、ITエンジニアにとってコミュニケーション能力は、キャリアを作り出す上で必要不可欠で重要な要素といえるのではないでしょうか。
コメント
紹介ありがとうございます。
言われてみると、たしかにPowerPointは話す能力と書類作成能力の向上の一石二鳥ですね。
私はアクティブリスニングが下手なので磨かなくては。説教されたときの、馬の耳に念仏リスニングなら得意なのですが。(笑)
abekkanさん、
コメントありがとうございます。
何気に「聞く」って難しいですよね?
馬の耳に念仏リスニングが得意!? それは相手の話に心が動かないということでしょうから、客観的に物事を聞き取れる能力をお持ちなのでは!