ITエンジニアへの5分間キャリア・コンサルティングやってます!

第19回 四方山話(2) 偶然をキャリアっぽく考えてみる

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 こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。

 今回もキャリコン事例はお休みして、コラムを書いています。ここのところ、偶然という言葉を耳にすることが多かったので、今回のネタは「偶然」にしてみようと思います。

■出会いが自分を変えてくれるんです!

 キャリア・コンサルティングをしていると、将来の姿をイメージしてもらうことがあるのですが、あるタイミングで劇的にキャリアが変わることを想定している方が結構います。

『社長が集まる会合で、ある社長がボクのことを気に入ってもらい、その社長から引き抜かれて、大きな仕事を任されるんです』

『転職の採用面接で、将来上司になる人が私の能力を買ってくれて、重要なポジションで仕事をさせてもらえるようになるんです』

 ちなみに、当の本人は大真面目です。ちゃかしているとかふざけているとかそんな素振りは一切なく、じっくり考え抜いた上での回答です。なぜ、このように思うのか、その人に理由を聞いてみると、過去に似たような体験をしたことがあるがあるからだそうです。これは、私たちにも少なからず身に覚えがあることではないでしょうか。例えば……、

  • 偶然配属された現場の上司が素晴らしい人で、その人との出会いが自分を変えた
  • 偶然立ち寄った本屋で見付けた本に雷が落ちるくらいの衝撃を受け、考え方が大きく変わった

 こんなことが人の一生の中では結構起きるからです。だから、いろいろな出会いがその人を劇的に変えるのだと、心のどこかで思っているのではないでしょうか。

■偶然をコントロールするキャリア

 実は、この「偶然」をコントロールしてキャリアを創りだす考え方がキャリア理論にはあります。米スタンフォード大学のJ・D・クランボルツ教授が提案したキャリア論に「計画的偶発性理論(Planned Happenstance Theory)」という難しい名前の理論があります。この理論は、

『人のキャリアの8割は予想しない偶発的なことによって決定される。その偶然を計画的に設計し、自分のキャリアを良いものにしていく』

という考え方に基づいています。簡単にいえば、計画的に偶然を引き起こし、その偶然を使って自分のキャリアを創り出していこう! という壮大なモノです。そして、この理論では偶然を引き起こすためのは5つの考え方があるとしています。

《計画的偶発性理論の5つの考え方》

  • 何事にも好奇心を持つこと!
  • 一度やってみたことは継続してやり続けてみること!
  • ものごとを楽観的に考えてみること!
  • 柔軟な考え方を持つこと!
  • リスクを背負うことを厭わないこと!

 これらの考え方を持ち、日々開かれた心(オープンマインド)でものごとに接することで、偶然の出会いを引き寄せられるそうです。別の言い方をすれば、あえてキャリアの目的を定めず、いろいろな体験をしてみることで、偶然の出会いがその人の方向性を定めていくという考え方になります。

■偶然を生かせない理由

 ただ、これは筆者の感想ですが、この考え方のままだとITエンジニアには実践しにくいような感じがしています。実は、筆者も過去に計画的偶発性理論をITエンジニアに勧めたことがありました。しかし、その時はどの人もなかなか結果が出ませんでした。なぜこんなことが起きるのかと筆者なりに考えたところ、以下のような考えになりました。

 そもそも、なぜ偶然を引き起こす必要があるのか? それは、その偶然をキャリア実現に生かしたいからです。つまり、この場合、偶然を引き起こすことは目的ではなく手段と考えるべきです。ですので、偶然を引き寄せた後のこともちゃんと考えておかなければなりません

 しかし、計画的偶発性理論は偶然を手繰り寄せること重きが置かれており、手繰り寄せた偶然をどのように生かすかが本人次第になってしまっているように思うのです。

 もし、手繰り寄せた偶然を生かせる人なら、計画的偶発性理論は非常に強い力を発揮するでしょう。しかし、手繰り寄せた偶然を生かす術を知らない人はどうなるか? 恐らく、その偶然を活用できないまま時間が流れてしまうか、単に見過ごしてしまうのでしょう。

 そして、このことは偶然に対する考え方にも大きく影響します。計画的偶発性理論では開かれた心(オープンマインド)でものごとと接することを謳っていますが、そもそも、ITエンジニアが偶然を生かしたキャリアを考える場合、ある程度キャリアの方向性が見えた上でその偶然を生かそうとします。つまり、偶然を手繰り寄せる目的があらかじめ決まっているのです。ちょうど最初の例で言えば、『社長のコネを期待したい』とか『転職先の上司に能力を買ってもらいたい』が偶然を手繰り寄せる目的に当たります。

 しかし、この状態でキャリアの目的を定めずにいろいろなことを体験する開かれた心(オープンマインド)の考え方でものごとに接してしまうとどうなるか? 筆者が思うに、恐らくはキャリアの方向性が散漫になったり、キャリアの目的意識を薄れさせてしまうのではないでしょうか。

 これらの理由から、筆者は計画的偶発性理論を、そのままITエンジニアのキャリアに生かすことは難しいように思っています。

■偶然をキャリアに生かす方法を考えてみる

 それでは、どうすればITエンジニアは偶然をキャリアに生かせるのか? についても筆者なりに考えてみました。

《偶然をキャリアに生かす考え方》

  1. 目指すキャリアを明確にしておく(目的の明確化
  2. 偶然を期待する時期(時間)や場所を明確にする(タイミングの明確化
  3. 偶然を引き寄せるため、計画的偶発性理論の5つの考え方を使う(方法の明確化
  4. 偶然を引き寄せた後の行動を考えておく(行動の明確化

 まず、「偶然」を使う目的である目指すキャリアをハッキリさせておきます。これによって、偶然を手繰り寄せる行動を行っている最中であっても目的意識を見失わずに済むため、行動を継続させるモチベーションに繋がります。

 次に、偶然を手繰り寄せるタイミングをハッキリさせるため、ある程度の時期(時間)や場所を決めておきます。これは、闇雲に偶然を引き起こすより、狙って偶然を引き起こす方がよりキャリアの方向に結びつけやすくすること、そして、偶然を引き起こすための労力を集中させやすくなるからです。

 タイミングが決まったら、いよいよ偶然を引き起こすための方法である計画的偶発性理論の5つの考え方を使い、実際に偶然を手繰り寄せます。この時、手繰り寄せた偶然を取りこぼすことがないよう、目的意識を強く持って行動するように心がけます

 そうして、偶然を手繰り寄せられたら、その偶然をキャリアに生かすための具体的な行動を取ります。最初の例であれば、自分が社長や上司が必要としている人材であることをアピールするような行動になるでしょう。このような行動は、偶然を手繰り寄せてから考えるのではなく、あらかじめ考えておき、いつ偶然が起きてもすぐに行動できるように準備しておきます。

 こうすることで、計画的に偶然を引き起こし、その偶然を手繰り寄せて目的とするキャリアを実現する流れが出来上がります

■偶然を引き寄せることは婚活と同じ!?

 しかし、改めて『偶然をキャリアに生かす考え方』を見直してみると、何だか婚活に当てはめられそうですね。

《計画的偶発性理論を使った婚活の流れ》

  1. 結婚する意思を明確にする(目的の明確化
  2. 婚活するためのタイミング(合コン会場)を明確にする(タイミングの明確化
  3. いい結婚相手と出会うため、計画的偶発性理論の5つの考え方を使い、偶然の出会いを手繰り寄せる(方法の明確化
  4. 相手を見付けた後、結婚までの行動を考えておく(行動の明確化

 こう考えると、偶然を生かすような考え方は目新しいものでも何でもなく、意識するしないにかかわらず、昔から実践されているモノなのかもしれませんね。

 ということで、ぜひとも偶然を生かして、婚活を成功させましょう! ……い、いや、思い描くキャリアを実現させましょう!

 (補足)今回紹介した計画的偶発性理論は、キャリア理論の中では結構メジャーな部類に入ります。また、ここで紹介した考え方は筆者独自の考え方であり、J・D・クランボルツ教授が提唱された計画的偶発性理論を否定するものではありません。本来の考え方につきましては、こちらに詳しく書かれていますので、ぜひともご一読ください。キャリアに対する考え方がより深くなること、ウケアイです!

Comment(2)

コメント

はじめまして。
私がインターネットの仕事するようになったきっかけは単なる部署異動(前任者が辞めたので穴埋め的な)で、クランボルツ教授の理論を地で行ってる?って思っていました。
当時の私としては全然計画的ではなかったけど、今ではそれでよかったと思っています。
でも「キャリアの方向性が散漫になる」という点はちょっとわかる気がしました。

anegoさん、

いらっしゃいませ!コメントありがとうございます。

anegoさんもそうだと思いますが、誰しも今現在のお立場やポジションに辿り着くまでに、少なからず幾つかの偶然を経ていると思います。
結局の所、計画的に偶然を引き起こす考え方があったとしても、それがその人にとってプラスの方向に導かれるかどうかは、時間が経たないと分からないです。
だったら、その偶然を肯定的に受け入れ、プラスにしてみよう!と考えることこそが、本当は大切なことなのかもしれません。
そして、クランボルツ先生はそれを「オープンマインド」という言葉で表現されているのだろうなぁと思っています。
そうすることが、agegoさんのようにご自身の選択が「それで良かった」と言える秘訣なんだろうなぁと思いました。

「キャリアが散漫になる」というのは、言い方を変えると、「選択肢を広げている」とも取れると思います。
ですので、これから進路を決めようと思っている学生さんや、全く違う異業種に挑戦しようとされている方には向いているでしょうね。
ただ、職業や将来のキャリアがある程度決まっている人が計画的偶発性理論を使うと、その散漫さが仇となる場合が多かったので、私は今回書かせていただいたようなやり方でご紹介するようにしています。。。

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