第18回 四方山話(1) リーダーをキャリアっぽく考えてみる
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
これまでキャリコン事例をいくつかご紹介してきましたが、たまにはコラムっぽいことを書いてみたいと思います。
筆者はキャリア・コンサルタントの他に企業向け研修の企画、実施なども行っていますが、研修のオーダーとしてよく出てくる話題にリーダーの育成があります。そこで、今回はリーダーについて考えてみます。
■そもそも、リーダーって何する人ぞ?
リーダーの話を始めると、大抵はリーダー(シップ)論の話が出てきます。ですが、ここでは難しいことを抜きにして、リーダーをキャリアっぽく考えてみます。ところで、そもそもリーダーって何をする人なのでしょうか? これがハッキリしていないと、この先の話が進まないので、まずはこのことを明確にしておきましょう。恐らく、いろいろな考えや意見があると思いますが、筆者はこう考えます。
リーダーとは、チームの目的を遂行させる人である
リーダーはある目的を達成させるために集められた複数のメンバーで構成されているチームを率いています。であれば、リーダーにはチームの目的を遂行させることが求められているといえるのではないでしょうか。
さらに、ここから話を進めて、リーダーはどうやってチームの目的を遂行させるのかを考えてみると、メンバーというチームの資源を使ってチームの目的を遂行させようとするはずです。だから、リーダーはメンバーを上手に動かすことが求められます。
しかし、これが意外と(かなり)難しい。一般的にリーダーは実務能力のある人が任されるケースが多いですが、いざリーダーをやってみると、
『誰も俺の言うことを聞きゃーしない……』
『メンバーが好き勝手なことをしててチームがまとまらない……』
となったりします。とてもじゃないですが、こんな状況じゃチームの目的を遂行させることなんかできません。そうなると、仕方がないのでリーダーがしゃかりきに仕事をして、メンバーの穴埋めをする。そして、リーダーは、
『結局、俺がやるしかないのかぁ……、でも俺がやってたらダメなんだよなぁ……(しみじみ)』
と1人感じるのです。
『リーダーの下で仕事させてもらいたいっス! 』
メンバーにこんなことを言ってもらうなんて、夢のまた夢。そんなメンバーなんてこの世からすでに絶滅したんじゃないかって思うくらいです。そして、今日も暇そうにしているメンバーたちを尻目に、リーダーは1人忙しく仕事をするのです。でも、これって本当にメンバーが悪いんでしょうか?
■どうしたらメンバーは動くのか?
当たり前の話ですが、メンバーだって「人」です。想いもあれば感情もあります。何でもかんでもリーダーの言うとおりなんかにはなりません。リーダーの言うことを聞かないメンバーには1人1人それ相応の理由があるんです。だったら、どうすりゃメンバーを動かすことができるのでしょうか……?
人は何かをするためには、「やろう! 」という気持ちが必要です。この気持ちのことを“やる気”“モチベーション”といいます。人はやる気、モチベーションがあるからこそ、行動を起こそうとします。それはメンバーであっても同じ。メンバーがリーダーの気持ちを代弁するかのごとく自発的に行動し、チームに貢献するような動きをするためには、それに見合うやる気、モチベーションがメンバーに必要なのです。
つまり、リーダーがチームの目的を達成させるためには、メンバーにやる気、モチベーションを持たせてあげる必要があるのです。これこそがリーダーに求められるスキルといえるのではないでしょうか?
■やる気、モチベーションを引き上げるために必要なモノ
それでは、どうやってメンバーのやる気、モチベーションを引き上げることができるのか? それは、メンバーに"対価"を与えることで実現させます。やる気、モチベーションを引き上げることに見合う対価をメンバーに与えることができれば、メンバーは自らやる気、モチベーションを引き上げ、行動を起こしていきます。さぁ、リーダーのあなた、今すぐメンバーに対価を渡しましょう!
……と言ったものの、対価って何よ? って話になります。そこで、対価についてもう少し深く掘り下げて考えてみます。一言で対価と言ってもいろいろなモノが想定されますが、筆者は3つの種類に分けられると考えています。
《対価の種類》
- 金銭的対価:金銭や物品を受け取ることで得られる対価。給与アップ、賞与アップなど
- 地位的対価:職位、役職、ポジションを受け取ることで得られる対価。昇給、昇格、資格取得など
- モチベーション対価:コミュニケーションを得ることによって得られる対価。『この職場で仕事がしたい! 』『あの人と一緒に仕事がしたい! 』など
リーダーは、これらの対価を上手に駆使して、メンバーにやる気、モチベーションの向上を狙っていけばいいってことですね。
■リーダーがメンバーに与えられる対価
ただ、現実問題として、リーダーがメンバーに与えられる対価には限界があります。特に、金銭や地位には資源が必要になります。例えば、昼飯をおごるとか、チーム内の簡単な役割を任命する程度なら比較的簡単に与えられますが、それはリーダーが持っている(使うことができる)資源を切り崩していると言い換えることができます。
したがって、その資源を超えて与えることができないのです。そう考えると、金銭的対価、地位的対価をメンバーに与え続けることは難しいと言えます。逆に、資源を必要としないコミュニケーション対価は、比較的メンバーに与えやすいと考えられそうです。
ここで、キャリアに関する理論を1つ。アメリカの臨床心理学者であるフレデリック・ハーツバーグは、仕事に関する満足と不満足に関する理論※を提唱しました。これは2つの考え方から成り立っています。
- 衛生理論:不満の要因(種)に対する考え方で、不満はその要因(種)を取り除かなければ、不満は解消されない。しかし、その要因(種)を取り除いても、十分な満足は得られない
- 動機づけ理論:満足の要因(種)対する考え方で、満足はその要因(種)を満たさなくても、不満にはならない。しかし、その要因(種)を満たすと、大きな満足感が得られる
※仕事に関する満足と不満足に関する理論:ハーツバーグの二要因理論(衛生理論、動機付け理論)といいます。
この理論に先ほどの3つの対価を組み合わせてみます。すると、こんな感じになるのではないでしょうか?
《3つの対価と衛生理論、動機付け理論との関連》
- 金銭的対価 ⇒ 衛生理論
- 地位的対価 ⇒ 衛生理論
- コミュニケーション対価 ⇒ 動機付け理論
つまり…、
- お金や地位を対価としてメンバーに与えても、メンバーの不満を解消させる要因にしかならず、メンバーには十分な満足が得られない
- コミュニケーションを対価としてメンバーに与えると、メンバーの満足を与える要因となり、メンバーには大きな満足感が得られる
と結論付けられます。まとめると、メンバーのやる気、モチベーションを引き上げるためには、
金銭や地位でメンバーの不満を解消するのではなく、コミュニケーションでメンバーに満足を与えた方がより大きな満足感が得られる
と言えます。
■満足をどのようにして与えるか?
それでは、どうやってコミュニケーションでメンバーに満足を与えるのかを考えます。満足の感じ方は人それぞれなので一概に決まった答えはありません。しかし、リーダーがメンバーとコミュニケーションを取ることによって、メンバーに満足を与えることが対価になるので、こういったやり方が考えられます。
《メンバーに対するコミュニケーション対価の例》
- メンバーの話を徹底的に聞いてみる(『話を聞いてもらえた』という満足)
- リーダーとメンバーの想いを共有し合う(『リーダーと想いを共有できた』という満足)
- メンバーの理想の姿を実現させられるリーダーとなる(『理想の自分を作り出してくれる』という満足)
この例の中で1番最後はキャリア・コンサルティングのことを指しています。筆者の経験則ですが、キャリア・コンサルティングを受けられたITエンジニアは、満足度が高く、モチベーションが上がっている状態になる方が多くおられます。これはキャリア・コンサルティングによってITエンジニアに満足というコミュニケーション対価を与えているからだと考えています。
■これからのリーダーに求められるモノ
今の時代は昔と比べて、ITエンジニアの職種、業態が多種多様になりました。こんな時代だからこそ、これからのリーダーは、メンバーの理想の姿、つまりキャリアの実現をサポートするキャリア・コンサルタントとしての側面を持ち、それをコミュニケーション対価として業務に活用していくような人材が求められていくのかもしれませんね。