第2回 キャリア発見の流れ
前回のコラムでは、キャリアそのものについて筆者の考えをお話ししました。今回は、ここからさらに一歩話を進めてみましょう。
自分の強い想いを込めた、自分が目指したい将来の姿がキャリアであるのは分かったと。
でもね、でもね……、そもそも目指すべきキャリアなんてモノが見つけられない場合はどうすればいいんでしょう?
「あっ、俺もそうだわw」
なんて思われた方、いらっしゃいませんか?
これは筆者がキャリア・コンサルティングを行ってきた中で感じたものですので、実際には少し違うかもしれませんが、ほとんどのITエンジニアはキャリアという言葉を知ってて、その必要性や重要性を頭では理解しています。それにもかかわらず、ご自身のキャリアを明確に思い描いているITエンジニアは、10人中1人いれば良い方ではないでしょうか。
このことは、ITエンジニアがキャリアを形づくる上で非常に重要なことを示しています。それは……、
ほとんどのITエンジニアは、どうやって自分自身のキャリアを見つけたらいいか、その方法が分からない!
ということです。
でも、よくよく考えてみると、そりゃそうです。今まで誰もキャリアの見つけ方なんて教えてくれなかったのですから、分かるはずがありません。
しかし……、自分自身のキャリアを見つけられないと、どうなるか分かりますか?
答えは簡単。
会社や社会によって与えられた仕事に紐づいたキャリアが形づくられるだけの話です。
つまり、今までの経験で身につけた技術やスキルに基づいたキャリアがおのずとできあがってしまう、ということですね。
「それだったら、俺は今の仕事好きだし、このままずっと続けていこうと思っているから、これでいいの?」
えぇ、いいんじゃないでしょうか。あなたの場合は思う存分今の仕事を邁進してください。でも、そうじゃない場合もありますよね。例えば、こんなケースです。
佐藤さんは現在28歳、これまでやってきた仕事はITサービスエンジニア(運用保守技術者)1本で5年間頑張ってきました。今の仕事に不満はありません。しかし、このままだと佐藤さんはITサービスエンジニアの技術やスキルばかり身についていくので、将来に一抹の不安を感じています。しかし、だからといって他にできることもないし、やりたいことも見つからないので、結局は今の仕事を続ける毎日を送っています……。
佐藤さん自身に仕事に「不満」はないようですが、仕事への「不安」はあるようです。佐藤さんがこのままITサービスエンジニアを続けることは、佐藤さんにとって最適なキャリアだと言えるでしょうか?
恐らく、「そうじゃない」と答える方が多いのではないでしょうか?
それでは、なぜ「そうじゃない」のかをちょっと考えてみましょう。
・
・
・
(小1時間ほど)
・
・
・
どうですか? いい答えは浮かびましたか? 筆者なら、佐藤さんの置かれている状況をこう見立てます。
「ITサービスエンジニアの仕事を続けたとして、将来その仕事に需要がなくなってしまったらどうしよう。その時には既にやり直しも効かない年齢になってるんじゃないか? だとしたら、本当に今のままで自分はいいのだろうか?何か違う道を考えた方がいいんじゃないだろうか……?」
こんな心の声が聞こえてきそうです。しかし、同時に、
「だからと言って、他に何が自分にできるんだ?毎日の仕事は一生懸命にやってきたから、今の仕事には自信も誇りもある。だけど、他の仕事はさっぱり分からない。そんな自分が何か違う道を考えても失敗するだけじゃないのか? そんなリスクを負うくらいなら、今の仕事を続けている方がいいんじゃないか?」
こんな心の声も聞こえてきそうです。この葛藤こそが、佐藤さんの不安の源ではないでしょうか。だからこそ、このままの状態で仕事を続けて行くことが、佐藤さんにとって最適なキャリアとならない、と感じるのではないでしょうか。
この問題、一見ややこしそうに見えますが、問題の構造自体は簡単です。佐藤さんの不安は、佐藤さんのやりたいこと、そこに行き着くための方法を見つけられば解決に向かって進んでいけると思いませんか?
ただ問題は、どうやって佐藤さんのやりたいこと、そこに行き着くための方法を見つけられるかで、その答えが見当たらないから難しく感じるのではないかと思います。
今回の本題は正にコレなんです。
「どうすれば自分のやりたいことを見つけ、そこに行き着くための方法を見つけられるのか?」
これを今回から何回かに渡って、じっくり考えてみたいと思います。いやぁ、前置きが長かった……。それでは、話を進めましょう!
まず最初に、キャリアを見つけるための枠組みについて考えてみましょう。
前回のコラムで田中さんへのキャリア・コンサルティング例をご紹介しましたよね? アレをちょっと思い出してください。
■田中さんへのキャリア・コンサルティング例
- なぜ、田中さんは出世ルートをキャリアと考えているのか? なぜ、現場で仕事をつづけることをキャリアとして考えられないのか? (田中さんの心の底に隠れている想いや考えを導き出す)
- 出世ルート、現場でのモノづくりしか目指すべき仕事や業務がないのか? (他の仕事や業務についての選択肢はないのかを調査する。)
- 1で導き出された田中さんの想いや考えと、2で調査した仕事や業務を統合し、田中さんが本当に納得し目指すことができる仕事や業務について実現可否を含め検討する。
コレ、実はちゃんとしたルールに則ったものなんです。決して、筆者が適当に考えたものじゃありません……。少し専門的な言葉になりますが、キャリア・コンサルティングでは、
- を自己理解
- を仕事理解
- を意思決定
と呼びます。これらはキャリア・コンサルティングを行う上での基本的な流れになっています。※
※実際にはもう少し複雑な過程を踏みますが、ここではイメージを掴んでいただくために、この3つに限定します。
ちなみに、筆者が適当に考えた訳ではない証拠に、厚生労働省のキャリア・コンサルティングに関するページを見てください。ほら、ちゃんと載ってるでしょう(エヘン!)。
ここからわかるように、本来キャリア・コンサルティングとは、キャリア・コンサルタントがクライエント(この場合、田中さんのことです)に対して、(本人が納得する)キャリア形成が行えるよう、決められた流れに従ってクライエント(田中さん)にコンサルティングし、キャリア形成を支援することを言います。その決められた流れとは「自己理解→仕事理解→意思決定」のことを指します。
つまり、前回の田中さんのキャリア・コンサルティングでは、
1.田中さん自身をもっとよく知る!(自己理解)
↓
2.田中さんの身の回りにある仕事・業務をもっとよく知る!(仕事理解)
↓
3.田中さんと仕事・業務を合致させる!(意思決定)
という流れを踏むことで、田中さんのキャリアを見つけ出そうとしていました。この流れは、キャリアを見つけるためには有効ですので、ご自身のキャリアが見つけられない! という方はぜひ意識しておいてくださいね。
■キャリア発見の流れ
- その人自身をもっとよく知る!(自己理解)
- その人の身の回りにある仕事・業務をもっとよく知る!(仕事理解)
- その人と仕事・業務を合致させる!(意思決定)
話が長くなりましたので、今回はここまでです。次回はこの続きで、キャリア発見についての1つ1つの段階についてもう少し詳しく見て行きましょう。
それでは、また次回お会いしましょう!