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無能な上司の作り方

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先日起こったauの大規模通信障害にて、緊急記者会見を開いた同社社長の評価が
一部技術系ネット民から好意的に受け止められている、という記事を見かけまし
た。自らの言葉で行った状況説明と、記者からの質問への的確な回答。iOSと
Androidとの仕様差分まで言及した技術造詣の深さが、高評価につながったよう
です。

もうひとつ、障害時にとった経営陣の対応が高評価だったのが2020年の東証のシ
ステム障害です。この時も、経営陣はベンダーの所為にするのではなく、技術面
含めてきちんと説明して神対応と評価されました。

しかし障害時の対応がどんなに評価されようと、障害が起こった責任は免れ難く
当時の東証社長は引責辞任をされました。おそらく、この東証の件があったから
でしょう。ネットでは早くも、au社長の引責辞任を惜しむ声が上がっているよう
です。

日本の経営者は、上がりポストとしてその地位にいる人が多く、決められた任期
をそつなく過ごせればよいと思っているのではないか、と感じております。
そのため、何かが起こっても理解が追い付いていないので、他人の所為にする、
説明を丸投げする、言い訳する、自分が被害者と主張するなど、頓珍漢な発言を
してしまい炎上するのではないかと。

いまはVUCAの時代。高度成長期のように、どこかに成功モデルがあってそれを
適用すれば成長し続けられる時代とは異なり、いろいろなことが急に変わってゆ
き、予想ができず不確実、様々なことが複雑に絡まりあい、正解が曖昧。まさに
auの輻輳障害を地で行くような時代では、経営者は難しい舵取りを迫られます。
そしてそのような時代にはマネージャータイプではなくリーダータイプの経営者
が求められます。

マネージャータイプとリーダータイプの違いは何かというと、行く先がわかって
いてそこに上手くたどり着けるようコントロールするのがマネージャー。しかし
行く先がわからない場合、目標を設定してそこにたどり着くまでのルートを開拓
しなければなりません。その役割を担うのがリーダー。だからVUCAの時代には
リーダーが必要になるのです。

リーダーは問題解決の当事者です。彼の判断がチームの将来を左右し、その結果
の責任をすべて負わないといけません。だからひとつひとつの判断が重要になり
ます。正しい答えはないので、より生存確率が高い方法を選ぶ必要があります。
適切なタイミングで、より生存確率が高い方法を選択し続ける、これが正解がわ
からない時代での生残り方です。したがってリーダーは環境を知り、状況を知り、
技術を知り、現場を知らなければ適切な判断はできません。判断にサイコロを振
るわけにはいかないのです。

そんなリーダーの真価は、トラブル時に顕著に表れます。まっとうなリーダーは
判断責任をきちんと果たしているので、状況や原因の説明、トラブル解決に向け
た方針提示がきちんとできます。判断責任をはたしていない似非リーダーは、判
断を丸投げしたりサイコロを振っているので、まっとうな説明もできませんし、
トラブル解決に向けた方針も提示できません。そういった意味では、auや東証の
経営者はまっとうなリーダーといえるのでしょう。

いっぽうで、リーダータイプ経営者が高評価を得るということは、そうではない
経営者がいかに多いか、ということかもしれません。高度成長期からVUCAへの
時代の変化にともない、求められる経営者増像も変わった転換期だから仕方ない
のかもしれませんが、実情はもう少し深刻であるように感じています。ベンチャー
など新興の企業は別として、既存企業では次期経営者候補であるミドルマネジメ
ント層が無能化しつつあるのではないかと思えるからです。

状況はこんな感じ。VUCAの時代。問題は曖昧で不確実で、複雑で変化に富んで
います。リーダータイプではない経営者は、ミドルマネジメント層に問題を丸投
げにします。権限が限られているミドルマネジメント層では到底そのような問題
に対処できません。手をこまねいていると、業を煮やした経営者が無知で無責任
で頓珍漢な指示をミドルマネジメントに命令。余計に混乱したミドルマネジメン
トは思考停止に陥り、その指示をそのまま現場に丸投げ。当然現場は反発します
が、どうしようもないミドルマネジメントはこう言います。だって上が言ったか
ら。

かつて、野中郁次郎氏はミドルのアップ&ダウンが日本企業の強み、と言いまし
た。だとしたら、そのミドルが無能化していることが、今の日本の凋落の一番の
理由ではないかと。
あくまで自分周辺の狭い範囲で感じたことなので、杞憂かもしれません。ただ、
その狭い範囲でも無能化していったミドルマネジメントを何名か見かけています。

本コラムを書く中で、システム障害で引責辞任した東証の社長が執行役員として
もどっていることを知りました。現社長が今後DXを進めるには必要不可欠な人
材だと呼び戻したとのこと。良い話だと思います。技術にあかるくリーダシップ
も発揮でき、かつ失敗も経験している。こんなに貴重な人材を無駄にしない現社
長もきっと良い経営者なのでしょう。auは今後どうなるかはわかりませんが、た
だただトラブルのみを糾弾し、貴重な人材を排除するだけの社会にはなってほし
くないと思っています。

Comment(8)

コメント

たーじん

「全てを説明できる経営者というのはほとんど存在しない。」
という考えには至らないでしょうか。

理想は説明できる事とは思いますが、それほどの能力を持った人は滅多にいません。
私自身が、同じ立場になった時にどうするかと考えたとき、全てを説明する事は出来ないと思っています。

「言うは易く行うは難し」です。
このコラムを解釈すると社長が会見で説明できなければ無能となります。
本当にそうでしょうか。よく考えた方が良いと思います。

匿名

経営層が技術を理解しているというのは頼もしいですね。
問題を正しい方向で修正していこうという期待が持てます。

ここがきちんとできない経営層だと、正論を言うマネジメント層が離反して退職。
残った人たちは問題をパススルーする人たちばかりになります。

たーじん

山無駄様
ご返信ありがとうございます。

「当然、経営者としての評価は説明することだけで決まるわけではありませんが、自分が当事者となり真摯に問題に取り組めば、自ずと説明はできる」と言う点ですが、これは説明できない分野も存在すると私は思っています。

私の会社の社長はIT分野の経営者としては有能だと思います。判断能力、バランス取りに優れています。
ただ、私が携わっていたシステムは説明は不可能でした。
IT関係以外の工業規格、制御、エネルギー理論まで理解する必要があり、説明する人は別に存在していました。

「世の経営者の免罪符」とは思っていませんが、スティーブ=ジョブズがプレゼンで成功をおさめてから、経営者の説明方法だけに注目されすぎている様な気がします。

問題が発生した際に、炎上を最小限に収める手腕が経営者に求められることであり、その手段が「経営者が良い説明を行う」という事だけでは無いと思います。

匿名

auの社長が技術的詳細な箇所まで説明できたのは、結果論かなと思っています。
経営者として、自社(自分の責任範囲)のビジネスを自分事として、しっかりととらえていたことが重要かなと感じています。
auの件では、現場からの報告を、なぜ障害が発生したのか、復旧するまでにはどのようにすればよいのかを、しっかりと自分事としてとらえ、理解しようという姿勢でいたからこそ、技術的な詳細な箇所の説明が可能であったのではないか思っています。(報告する側も障害理由の論点をきっちりとまとめたうえで報告されているのではと想像します)
また、東証の件では、自社の主たる取引のシステムの障害であったため、はっきりと「東証の責任」と発言されたし、結果引責辞任されました。(執行役員として戻ってこられるのですね、戻す決断をした現経営陣素晴らしいです)

自社のビジネスを自分事としてとらえてないサラリーマン社長には無理でしょう。

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