善意の搾取
以前書いたコラムに「それは『逃げ恥』でいうところの善意の搾取だ」という
コメントいただいたことがある。ドラマの「逃げ恥」を見ていなかったので、
その時は「善意の搾取」がどういうことを意味するのかピンとこなかったが、
少し時間ができたのでググって(死語?)ー調べてみた。
商店街の活性化を頼まれた主人公が、いろいろなアイディアを出して手腕を発
揮するが、ノーギャラでいろいろと頼み事をする商店街の面々に、「人の善意
につけ込んで労働力をタダで使おうとする、それは『搾取』です」と断言した。
というのがその出典シーンらしい。
同様の話はよく聞く。出版社から作画を依頼された絵師さんが、ギャラの話を
すると、「え?お金がかかるんですか?じゃあいいです」とドタキャンされた
話は、よくネットに転がっている。
身近な例をとっても「営業行為」という名目のもと、顧客から無理難題を押し
付けられることもしばしだ。
そう考えると「善意の搾取」と「忖度」は、日本人の特質ではないかと思う。
よく言われる、日本人はサービスをタダだと思ってる、といこともその証左で
はなかろうか。諸外国ではサービスには対価を支払うことが前提だ。
もしくは過剰品質問題。示された仕様よりさらに精度の高い品質を作りこんで
しまう日本の製造業。曲がったキュウリを廃棄させる小売業。依頼する側がそ
れを求めるなら「善意の搾取」であるし、実施する側が自らの意思で行えば
「忖度」に他ならない。
加えて、コロナ禍における緊急事態宣言の時短要請も「善意の搾取」であろう。
時短要請に従えば協力金は出るが、協力金は要請に応じた店が被る損害を補償
するものではなく、あくまでも国や自治体の都合による金額なので対価とはい
えない。要請に応じるのはあくまで店や国民の善意なのだ。それなのに応じな
い場合は命令が出て、さらに従わないと過料を課すというのだから、「善意の
搾取」でも悪質度が高い。
善意を搾取した、善意を搾取された結果はいずれも明確だ。最初は上手くいく
が、長続きしない。行き詰まる。最後は場当たり的な対応を繰り返しグダグダ。
当たり前の話である。搾取する側は際限がなくなり、搾取される側は枯渇する
のだから。
ドラマでは主人公は商店街への協力を「やりがいの搾取」といってやめてしま
った(らしい)。日本のサービス業は海外からのお客には高評価だが、サービ
ス業の経営はどこも厳しい。しかも国内でも最高レベルのサービスを提供する
企業の多くが外資である。製造業もJapan as No.1は過去の話で、GAFAに対
抗できる企業はでてきていない。緊急事態宣言も延長に延長を重ねたが、結局
は下げ止まった上にジリ増になり、良いか悪いかわからないままの解除となっ
た。
別にすべての原因が「善意の搾取」にあるというつもりは毛頭ない。また現実
問題として全ての「善意の搾取」を根絶することは不可能ではないかとも思う。
例えば善意に依存しないコロナ対策は何かと考えてみると、時短は要請ではな
く(罰則付きの)命令であり、代わりに店が被る損害をすべて補償することで
あろう。そうすれば曖昧な命令を出せば出すほど補償額は際限なく膨らむ可能
性があるので、国は被害が少なく効果が大きい命令しか出さなくなるかもしれ
ない。ただ一方で、緊急事態で一刻もはやく手を打たなければならない状況下
で、そんなことを考えていたら打つ手が遅れる可能性もあるし、損害補償を請
求しなければならない店側も、その手間と妥当性の判定など待っていては手遅
れになってしまうかもしれない。
要は「善意の搾取」は必要悪、カンフル剤とのしての性質があり、緊急時や一
過性の対応が必要な時にはやってもよいが、これに依存してしまうとロクな結
果にならないことは明らかなので、きちんと対価を支払うことを前提に物事を
考えなければならない。これが原則だ。そして一番の悪は、実際は「善意の搾
取」を行ってるにも関わらず、それを言葉を飾って隠してしまおうとする欺瞞
であろう。人は知らず知らずにこの欺瞞を繰り返しているかもしれない。だか
ら、それを喝破したこのドラマは面白かったのかもしれない。
そんなことを考えてみた。
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コメント
ちゃとらん
> 「善意の搾取」と「忖度」は、日本人の特質
忖度を美徳とでも思っている人もいるでしょうし。
> 日本人はサービスをタダだと思ってる
そうですね。…私もその傾向がありますけど。反省です。
さらに言うと、ソフトウエアもタダだと思われている(材料費が掛からない)傾向があります。さすがにシステム会社に発注する場合には、そんなことはありませんが、ちょっとした改修や機能追加なら「ちょこちょこっとお願い」なんてこともありますから。…困ったもんです。
山無駄
どうも ちゃとらん さん
サブスクモデルがでてきて、ソフトウェアもサービスとして対価を払って利用する、という
ことは認知されてきたのではないかと思います。ただ、ソフトウェア開発はまだ人月単価の
労働集約型ビジネスモデルであるため、こちらもサービスとしてビジネスモデルに変わって
行けばいいのにな、とも思います。
マスター吹越
学校教育と部活動がまさにこの関係でさぁ…
あと文科省が「~教育」の度に新しいもの出してくるけど真面目に減らさないからさぁ…
#教師のバトン プロジェクトの燃え上がりっぷりがまさにこの善意の搾取の行き詰まりですね
山無駄
どうも マスター吹越 さん
詳しくは知りませんが、教職員ってかなりブラックって話は聞きます。部活動って内申に
響くからと生徒は半強制参加で、顧問の先生もサービス残業をしなければならないなんて、
だれのための活動なでしょうね。