GOODなリーダーは団結を生み、BADなリーダは分断を生む。そして世界は分裂している
5月12日、某新聞の見出しが目にとまりました。トヨタの決算発表会の記事です。
「トヨタ、営業利益79.5%減 21年3月期見通し」
世の中ははコロナ一色。その中で、この見出しはコロナ禍による経済ダメージか
とネガティブな印象を受けます。ところが豊田社長のスピーチを読んで見ると、
まったく違った印象が見えてきます。
トヨタ 2020年3月期決算説明会 Ⅱ部 豊田社長スピーチ
対象の来期営業利益の部分を抜粋すると
そして2021年3月期の見通しです。今回のコロナ危機では、リーマン・ショック以上の販売台数195万台、前年比約20%の減少が見込まれるものの、営業利益は5000億円の黒字確保を見込んでおります。これは現時点での見通しではありますが、何とかこの収益レベルを達成できたとすれば、これまで企業体質を強化してきた成果と言えるのではないかと思っております。
「営業利益80%減」ではなく、「5000億円の黒字確保」と言っているのです。
スピーチ自体も新聞記事とは正反対にとてもポジティブな印象を受けます。
一方の日産は、今期の営業利益が850億円でコロナの影響でさらに下方修正する
ことがアナウンスされています。決算発表会が遅れているので、一概に比較する
ことできませんが、2月に開催されたの第三四半期決算発表会時のCEOスピーチ
も見てみましょう。
日産 第三四半期決算発表会時のCEOスピーチ
印象的には、数字の説明に終始しており、いろいろ頑張ってんだけど世界情勢が
悪く厳しい結果になった。いまもいろいろと対策を講じているところだから、今
後に期待してね、という感じでしょうか。
トヨタと日産、トップスピーチを見比べたときの大きな違いは、メッセージを伝
えたい相手の違いにあるように感じます。日産が数字の説明に終始しているのは
投資家や株主に対する説明に主眼を置いているのに対して、トヨタは社内、グル
ープ会社、サプライチェーンを構成する関係会社にメッセージを伝えることを主
眼としているように感じます。そのため、豊田社長が就任してから、取組んでき
たことと、その反省。今後目指していることと危機感がバランスよく説明されて
います。だから、これまで培てきたことと乗り切った危機の流れのなかで、今回
のコロナ禍と来期の予測を織り込むことで、安心感と更なる精進、すなわち団結
を促しているように感じます。
基本的に経営者は、危機を煽る傾向にあります。「大丈夫」と言ってしまうと、
何かが起こって予想が外れた際、読みが甘いと叩かれたり、現場が危機感をなく
してしまったりと、経営者にとってのメリットはあまりありませんが、「危ない」
「危険だ」と言っておけば、うまくいけば自分の功績になるし、うなくいかなく
ても最初から見越してた通りになった、と言い訳ができます。
ようするに、「この壺を買わないとあなたに禍が起こるよ!」と壺を売り、何も
なければ「壺のおかげで禍が回避された」。なにか起これば、「壺のおかげでこ
れくらいの禍ですんだ」という霊感商法と同じですね。もしかすると、「ヒトと
の接触8割削減をしないと42万人死亡」というのも同じ類のものかもしれません。
そういうことを考えると、まだ緊急事態宣言も解除されず経済ダメージがこれか
らどうなるかわからない時期に、触れざるを得ないとはいえ、あえて来期の営業
利益に触れた豊田社長のスピーチは素晴らしいと思います。そして、この時期に
来期の営業利益の見通しを立てることができるということは、それだけでもつよ
い経営基盤をもっているという証左でもあるのでしょう。
「GOODなリーダーは団結をうむ」
リーダーとは、環境に適応するために組織に変革をもたらすことが役割。そのた
めには進むべき道を示し、動機付けと啓発をおこない、組織の人心をひとつにし
なければなりません。これができなければ、変革は成しえないでしょう。
「BADなリーダーは分断をうむ」
一方でリーダーとしての資質のない人がリーダーの役割にいる組織は不幸です。
変革を成しえないだけではなく、組織内に疑心暗鬼を生んでしまいます。もと
もと組織は分裂しています。エントロピー増大の法則とでもいうのでしょうか。
放っておくとバラバラになることはあっても、まとまることはありません。で
も一方で組織はまとまりたがっています。だからBADなリーダーには求心力がな
いので、派閥ができて派閥闘争をはじめます。派閥闘争に明け暮れる組織に緊急
事態は乗り切れません。
今のような非常事態、きっとリーダとしての資質が問われるのでしょう。
経営トップのスピーチを眺めながら、そんなことを考えてみました。