契約者情報に電話号の項目はありません。顧客情報にならあります
■契約者情報に電話号の項目はありません。顧客情報にならあります
マンションの契約管理システムのリプレイス案件をやっていたときのことでした。ときはカットオーバ直後。旧システムと1カ月間の並行稼働。ユーザーがようやく使い始めて、不平やら要望やら、障害やらが多く出始めたころでした。
ユーザーの質問に対応するためQA票を作成し、毎日上がってくる質問に答える日々が続いておりました。そんな中、とあるユーザーからの質問と若手くんの回答が目に留まりました。
[質問]
契約情報に電話番号の項目はないのですか?
[回答]
契約情報に電話番号の項目はありません。顧客情報にならあります。
実際に、契約情報に電話番号の入力項目はなく、顧客情報にはあります。これは、事実です。しかしこのQA票はユーザーに返すことをストップせざるを得ませんでした。
■事実は答えか
ユーザーは新旧のシステムを使っています。従って、契約情報に電話番号の項目がないのは知っているはずです。事実をわざわざQA票で問い合わせてくるには、それなりの理由があるからです。そこで再度システムを調べてみると、旧システム契約情報には電話番号の項目があり、新システムには項目がなかったことが判明しました。
単純な仕様のモレなのか、それとも何らかの理由があって新システムでは項目を削ったのかは分かりませんが、少なくとも質問者は、
「新システムで項目がなくなった理由は何か?」
もしくは、
「新システムに項目がなく、業務上困ってるんだ」
ということを言いたかったわけです。対して、回答はどうでしょうか。
「契約情報に電話番号の項目はありません」
という回答に対しては、恐らく
「そんなことは分かっている!」
というのがユーザーの反応でしょう。だから、どうしたら良いのか? というのがユーザーが本当に知りたいことなのですから。その問いに対して、
「顧客情報にならあります」
という回答が追い打ちをかけます。
通常、顧客情報はマンションの契約する前の状態。そして、契約情報は契約したあとの状態。マンション契約という形態上、当然、契約すると引越すわけで、契約前と後では電話番号は異なります。
すなわち、顧客情報の電話番号と、契約情報の電話番号は「電話番号」という項目名が同じでもまったく異なる情報であり、この回答はユーザーにとって意味のない内容ということになります。
恐らく、この回答を見たユーザーはイラッとするでしょう。
■自分に見えているものだけが世界のすべてではない
ここから若手くんへの教育を兼ねて、例え話をします。今、若手くんとユーザーの間に円柱形をした茶筒があるとします。若手くんはその茶筒を真上から見ており、ユーザーは真横から見ています。若手くんにとって茶筒は円に見えていますが、ユーザーにとっては長方形に見えます。
その茶筒の縁に欠けている箇所があったとしましょう。若手くんからみると、円のちょうど90度の角度の箇所が欠けています。さて、このことを若手くんはどうやってユーザーに伝えれば良いでしょうか。
「90度の位置が欠けています」――これでは伝わりません。そもそも、ユーザーが見ているのは円ではありません。恐らく欠けている箇所は長方形の四隅のどこかか、辺のどれか。もしかしたら、死角になって見えないかもしれません。
だとすると、若手くんがまず行動しなければならないことは、ユーザーがどのように茶筒を見ているか知ること。ユーザーがどの角度から茶筒を見ており、どのように見えているかを想像した上で、ユーザーの目線で伝えなければなりません。
「右上の角が欠けています」、もしくは「右の辺の上から1/3のところが欠けています」などです。
もし若手くんがユーザーと同じ場所で茶筒を見ていれば、ユーザーにはどう見えているか容易に想像することができます。しかし、若手くんとユーザーがそれぞれ離れた場所で茶筒を見ているとしたら、まず若手くんはユーザーがどのように茶筒を見ているか聞き出すことから始めないといけないのです。
■十分に発達した科学技術は、魔法と見分けが付かない
このことは、システム運開時のQA票に限ったことではなく、コミュニケーション全般に言えることです。自分が見えている世界を相手も見ているとは思わず、コミュニケーションを取る際の場(自分と相手との間にある法則)と、お互いの座標(自分と相手の立位置)を共有し、情報を発信する際は座標と法則を踏まえて発信すること。これらができないと、コミュニケーションは成立しません。
ここで若手くんを少し擁護する必要があります。
これらを踏まえると、実は若手くんの回答だけではなくユーザーの質問にも問題があったということになります。本当に知りたいことを質問できていないのですから。
しかしアーサー・C・クラークの言葉を借りるならば、ITシステムは多くのユーザーにとって魔法のようなものです。すべてを把握し、うまく説明する術をもっているわけではありません。だとするならば、その時点で若手くんとユーザーとの間にはコミュニケーションハンディが存在することになります。ならばわれわれの方から少し、歩み寄る必要があるのではないでしょうか。
結局、若手くんの擁護にはなりませんでしたね……。
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コメント
ardbeg32
あいや、この若手君は顧客が横から見ている事自体に気がついていないと思うのですが如何でしょうか?
当初のQAでも顧客が「~は無いの?」と聞いてくることについて脊髄反射してるだけで、「何故そんなことを聞くのだろう?」という一段突っ込んだ「何故」が欠けております。また本文でもご指摘されている通り、確かに電話番号という日本語的には正しくとも全く意味のない情報を顧客に伝えようとしています。
つまり、この手の若手は「何の為にお客様はこの質問をしているのだろう」というなぜなぜ分析という発想が訓練されてない、また自分事としてお客様の質問を捉えていない、この2点の訓練が足りていないと私は考えます。