Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

自己主張

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月刊「Windows Server World」の連載コラム「IT嫌いはまだ早い」の編集前原稿です。もし、このコラムを読んで面白いと思ったら、ぜひバックナンバー(2008年12月号)をお求めください。もっと面白いはずです。

なお、本文中の情報は原則として連載当時のものですのでご了承ください。

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「日本人は日本人論が好きだ」と、日本人はよく言うが、今月も日本人論である。今回のテーマは「日本人の自己主張」だ。

●日本人は自己主張が下手?

日本人は自己主張が下手だと言われる。日本語で書かれたブログの多さを考えると、これは奇妙なことである。ほとんどのブログは「日記」だろう。人に見てもらうために書いた日記は自己主張以外の何物でもない。

こんなに多くの人が自己主張したがっているのに、下手というのはちょっと信じがたい。ブログの中には、良い文章も悪い文章も混じっている。多くのブログを読めば、良い技術を身に付けて、自分のブログの質を上げていくことができるはずだ。ブロガーたちは他人のブログを読んでいないのだろうか。

議論となるともっと苦手だ。パソコン通信時代、多くのフォーラムで真剣な議論が行われた。しかし、こうした議論に参加したいと思う人は少ないらしい。パソコン通信時代の友人は一様に「mixiのコミュニティはぬるい(真剣度が足りない)」と言う。mixiの盛況ぶりを見ると「ぬるいコミュニティ」こそが求められている姿なのだろう。

この「ぬるさ」が何に由来するのか考えてみた。どうも「議論」は「自己主張」に結びつき、それが「わがまま」と同一視されているからのように思う。日本で「自己主張の強い人だ」と言った場合、常に悪い意味になる。

英語だと必ずしもそうではない。他にも、例えばAggressiveという単語は「攻撃的」と訳されるため悪い印象が強いが、「積極的」という良い意味で使うことの方が多い。Different(違う)も、良い意味で使われることが多いという。

そう考えると、積極性や差異を求めない日本の風土が見えてくる。自分の意見を主張するのは、他の人の意見と違うからである。積極的に自分の意見を提示する「議論」や「自己主張」が嫌われるのは当然かもしれない。

●親の自己主張:子どものしかり方

筆者が、ガラパゴス諸島に旅行したとき、米国人家族と一緒になった。ある日、子どもが「こんなところ、もう嫌だ」とぐずっていた。父親は、

君が嫌な気持ちになるのは、君が興味を持てないようなところに連れてきたボクの責任だ。だけど、これは君にとってとても素晴らしい体験になるとボクは思ったんだよ。その気持ちは分かってくれるかな。

と言っていた。10歳に満たないであろう男の子に対して、こういう説教ができることに筆者は感心した。親が子どもに自己主張しているのだ。

米国のテレビアニメに「キング・オブ・ザ・ヒル」(*1)というコメディ作品がある。米国の田舎町(作品の設定はテキサス州)の家族はこんな感じだろうと想像できる作品だ。そこでは、父親が子どもによく説教をする。最初は「とにかく言うことを聞きなさい」と強制するのだが、そのあとで(たいていは翌日)自分がどういう気持ちでしかったのかという説明が入ることが多い。日本のアニメは世界最高レベルだが、こういうシーンはほとんど見たことがない。

アニメ「サザエさん」に登場する父親たちは、自分の気持ちを表現するのが下手である。波平さんはカツオをよくしかるが、理由を話すことはほとんどない。子どもたちは、情緒と屁理屈で行動している。「クレヨンしんちゃん」も「ちびまる子ちゃん」も、論理的にしかられるシーンは記憶にない(*2)。

日本の多くの子どもは、許容と抑圧で教育される。自分自身を振り返っても、理屈で説教された記憶はほとんどない。

●ファストフード店での自己主張

ファストフード店は、オーダーすると決まったものが決まった方法で調理されて出てくるものだ。ところが、ここでも米国ではさまざまな自己主張をしないといけない。フライドチキンの店に行けば、肉の部位を聞かれる(モモとかムネとか)。サンドイッチを頼んだときは選択肢の多さにくらくらした。

米国ではハンバーガーでもコーヒーでもさまざまなカスタマイズができる。実は、日本でも対応してくれるそうだが、あまり一般的ではない。某コーヒーチェーン店で「メープルラテからホイップクリームを抜いて、エスプレッソショットを追加」と頼んだら「メープルシロップは入れますか?」と聞かれたことが2回ある。

1回目は驚きながらも「はい」と答えたが、2回目は「メープルシロップ抜いたらメープルラテじゃなくなりますので(入れてください)」と言ってみた。外資系コーヒーチェーン店でも似たような注文をしてみるが、間違えられたことはない(複雑すぎて店員が復唱できなかったことはある)。

●職場での自己主張

日本の製造技術は世界でもトップクラスだが、それは現場からの改善提案活動に負うところが大きいと言われている。製造ラインの工員が、業務改善の提案ができるくらいだから、自己主張ができないわけではない。業務改善提案であっても、そこには自分の意思が必ず入るからだ。

ただし、今までの業務改善活動は「QCサークル」に代表されるグループ活動だった。少人数のグループ内で発言するのは難しくない。しかし、現在は電子掲示板や電子メールで、直接自己主張しなければならない機会が増えている。また「グローバル化」と称した「米国化」が進んでいる事情もある。「米国化」が必ずしもいいとは思えないが、米国化を拒否するのは難しいだろう。社会が自己主張を求めているのである以上、順応しないわけにはいかない。

胸肉ではなくモモ肉をオーダーしたり、ホイップクリームを除いたりするのに理由はいらない。しかし、仕事上の提案の場合は常に理由が必要だ。「嫌だから」では理由にならない。動機は感情的なものでも構わない。むしろそれが普通だ。しかし、提案書には客観的な理由が必要だ。

何かを頼まれたとき、忙しいので断りたいことがある。先輩に頼まれたからというだけの理由ですべて引き受けてしまうと自分の仕事ができなくなる。しかし、いきなり断ると人間関係に支障が出る。自分の言いたいことを主張しつつ、相手の主張を受け入れるコミュニケーションスキルを「アサーティブコミュニケーション」と呼ぶ。

アサーティブ(assertive)の名詞形はアサーション(assertion)で「主張」という意味だが「自己主張(self-assertion)」の意味もある。「自己主張」が持つ悪い印象を避けるため、カタカナで呼ぶようだ。アサーティブコミュニケーションは今後ますます重要になる。早いうちに身に付けたい技術だ。筆者自身は、そういう概念があることも知らずに苦労した。

アサーティブコミュニケーションには専門の講習会もあるが、簡単な心掛けである程度改善できる。ポイントは4点。第1に「否定文を使わない」(「聞き上手」でも書いた)。第2に「反語を避ける」。疑問文の形式をした意見の押しつけは嫌われる。第3に「自分の気持ちは主張しない」。第4に相手を否定する代わりに代案を出すことだ。

例えば、金曜日の午後5時に先輩社員から仕事を頼まれたとしよう。こう言ったら喧嘩になる。

今何時だと思ってるんですか、ボクだって忙しいんだから、無理に決まってます。

そこで「無理」という否定的な言葉、「思ってるんですか」という反語、「忙しい」という自分の気持ちを分析してみよう。そうすると、無理な理由は「標準的な就業時間が過ぎていること」と「他の仕事をしていること」が分かる。この2点を主張しつつ、結論の「できない」を「どうすれば実現できるか」という提案に変え、感情を示す言葉を排除してみよう。

今は金曜日の午後5時です。今日中に仕上げないといけない仕事がまだ残っています。火曜日の朝ではだめでしょうか。どうしても月曜日ということであれば、今やっている仕事を来週に延ばせるか、××さんに相談してみます。

これで納得してもらえるかどうかは分からないが、ずいぶんと印象が変わったことは分かるだろう。否定文がないので、先輩社員の行動を否定しているとは思われない。感情を含んでいないので「単に嫌がっているだけ」とも思われない。しかも、代替を提案しているので、検討の余地がある。それでも「とにかくやれ」と言われることはあるだろう。しかし、少なくとも「理由もなく仕事を嫌がる新人」という印象を与えることだけは避けられたはずだ。

筆者が中学のとき、何が原因か忘れたが友人が音楽の教師に注意されていた。教師の言葉にクラスは大爆笑だったが、大切なことだと思う。

納得できるように言い訳しなさい

(*1)日本でもケーブルテレビなどで放送されている。

(*2)まったくないわけではない。例えば「魔法の天使クリィミーマミ」では、泣いて欲しいものをねだる娘に「泣くというのは暴力と同じだ、暴力で自分の要求を通してはいけない」と父親が諭すシーンがある。

■□■Web版のためのあとがき■□■

細長いパンに具を挟んだサンドイッチを「サブ」と呼ぶ。薔薇(ばら)とも捕物控とも関係ない。サブマリン(潜水艦)の意味だそうだ。なるほど、潜水艦の形に似ている。ファストフード店「サブウェイ」の名は、もちろんサブから来ている。

そのサブウェイ、日本ではかなり苦戦しているらしい。その原因の1つが、選択肢の多さのためだといううわさがある。実は「お任せ」と言えば適当に作ってくれるそうだ。また、店員におすすめを尋ねることもできる。試してみてほしい。

そして、慣れたら自己主張してみよう。

Comment(1)

コメント

日本人には、意思がない。が、恣意 (私意・我儘・身勝手) がある。
英米人は恣意の人を相手にしない。
'Shame on you!' (恥を知れ)と一喝して、それで終わりである。
恣意の人は、子供・アニマルと同等である。

子供・アニマルの状態になるのは、日本人としても恥ずかしいことである。
だから、普段は胸のうちに秘めている。
いずれにしても、腹の底にたまっていて、公言できない内容である。

言葉にするのをはばかられる内容であるから、言外の行動に出る。
それで、本人は、わけのわからぬ暴動を起こす。
この問題に対処するには、本人のリーズン(理性・理由・適当)を理解するのではなくて、周囲の者の察しが必要である。
察しは、他人の勝手な解釈であって、本人の責任とはならない。

その内容を「真意は何か」と言うふうに、本人に問いただすこともある。
言外の内容は、言語を介しては通じにくい。腹を割って話さなくてはならない。
日本人といえども、恣意の内容は公言をはばかられることである。
恣意の実現のためには、赤子になったつもりで、皆の衆に甘えさせてもらうものである。
こうした人情話をするには、是非とも談合が必要である。

英米人は、リーズンを求めている。
英語で答えるときは、リーズナブルな内容を提出しなければならない。
以心伝心・言外の内容などを求めていない。
'Be rational!' (理性的になれ) にも、'Shame on you!'にも意味がある。
日本語の理性には意味はなく、恥も英語の内容とは違ったものになっている。

だから、英文和訳の方法により英米文化を取り入れることは難しい。
日本語による英語教育の振興にも限界がある。


http://www11.ocn.ne.jp/~noga1213/
http://page.cafe.ocn.ne.jp/profile/terasima/diary/200812

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