第3回: ローエンドにもRISC-Vが!ダイソーの完全ワイヤレスイヤホンを分解してみよう
こんにちは。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、ガジェットを分解する中での発見や感想をつらつらと書いていきます。
※タイトルに誤解を生みそうな表現があったので修正しました。(2/2 14:00)
Bluetooth接続で左右が独立した「TWS(True Wireless Stereo)イヤホン」、AppleやSonyという大手メーカーから数万円で販売されている高級品というイメージがあったのですが、2021年の春ころから日本国内ではTWSイヤホンの低価格化が一気に進みました。最近ではドラッグストアやコンビニエンスストア、ショッピングセンターにある雑貨店やディスカウントショップでも数千円の製品を普通に見かけるようになりました。
第3回は、そんな「低価格TWSイヤホン」の代表格である、ダイソーの1,100円「完全ワイヤレスイヤホン」について、です。
ダイソーの「完全ワイヤレスイヤホン」
パッケージ
一般的にはTWS(True Wireless Stereo)と呼ばれている「完全ワイヤレスイヤホン」はダイソーブランドの「1000円イヤホンシリーズ No.1」として「TWS001」いう型番で販売されています。
製品パッケージの仕様は以下の図になります。
音楽の連続再生時間はイヤホン単体で「約4時間」、充電ケース使用時で「約10時間」。外出先の移動で充電なしでも1日くらい使えそうです。
本体の機能
充電ケースから出し入れするだけで自動でON/OFFとペアリングを行い、以下の取説のように本体側面にある操作ボタンの押し方で操作することができます。
肝心の音質ですが、AppleのAirPods等の数万円のTWSイヤホンと聴き比べると、音の解像感にはやはり違いを感じますが、通勤や散歩などでの屋外での日常使いでは問題は十分実用に耐える音質です。当然ながら左右での再生タイミングも一致していて問題ありません。
ただし、AppleのAirPods等にある「装着検出」や「ノイズキャンセル」といった機能は本製品にはありません。
本体の外観
パッケージの内容は「イヤホン(左右各1個)」「充電ケース」「USBケーブル(充電専用)」「取扱い説明書(日本語)」です。
イヤホンの外装はプラスチック製です。付属のイヤーピースは小さいサイズ1種類のみなので、自分の耳のサイズに合わない場合は別サイズのものを準備する必要があります。
充電ケースはTWSでは一般的な磁石でイヤホンと電極が接触する構造です。「技適マーク表示」は充電ケース裏面にあります。
イヤホンを分解してみる
イヤホンのケースのツメを外してこじ開けると、内部にはメインボード、LiPoバッテリー、スピーカー、充電電極及び磁石があります。
イヤホンのメインボードはガラスエポキシ(FR-4)の4層基板です。表面にはメインプロセッサ(SoC)・水晶発振子、裏面にはプッシュスイッチ・コンデンサマイク・積層チップアンテナ・LED(R/B)等が実装されています。裏面には未実装のパターン(U4、C8、C16)があります。
メインボードの未実装パターン(U4)にはプッシュスイッチの代わりにタッチコントロールIC(JL223B等)"が実装できるので、基板共用でタッチ操作の製品にも使えるようになっています。
メインプロセッサ AB5376T
メインプロセッサは深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(bluetrum, http://www.bluetrum.com/)製のBluetoothイヤホン用SoCの「AB5376T」です。製品概要は以下で公開されていますが、詳細仕様は未公開でした。
http://www.bluetrum.com/product/ab5376t.html
パッケージはQFNの20Pin、少ないピン数でBluetoothヘッドセット機能をワンチップで実現しています。
このSoCの特徴としては、「32bit RISC-V + DSP拡張(52MHz)」を採用しているということです。ローエンドの製品にもRISC-Vの波は確実に押し寄せているということを感じました。
その他の主な機能は以下となります。
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Bluetooth v5.0準拠
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Programable GPIO
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内部電源用DC-DCコンバータ内蔵
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LiPo充電制御
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フラッシュメモリ:無し(搭載版は「AB5376A」という型番)
充電ケースを分解してみる
充電ケースのツメを外してこじ開けると、内部はメインボード、LiPoバッテリー及び磁石で構成されています。
LiPoバッテリーはメインボードに直接両面テープで固定されています。
充電ケースのメインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板です。表面には充電制御IC・インダクタ・充電用コンタクトピン、裏面にはマイクロUSBコネクタ・LED(R/B)が実装されています。
充電制御IC FM9688A
充電制御ICは富满微电子集团股份有限公司(SUPERCHIP, http://www.superchip.cn/)製のMobile Power Management IC「FM9688」です。
充電制御ICの主要機能は以下の2つです。
- USB電源(VBUS=5V)からLiPoバッテリーへの充電
- LiPoバッテリーの電圧を5.1Vに昇圧し、+/-端子を経由してイヤホンへ充電
データシートは、メーカーのページでは公開されていないのですが、ALLDATASHEET.COMで入手することができます。
https://pdf1.alldatasheetcn.com/datasheet-pdf/view/1144610/FUMAN/FM9688.html
このICはLiPoバッテリーの「トリクル/定電流/定電圧」という3段階での充電や、チャージソフトスタート(直接定電流充電に入る時、充電電流を設定値まで徐々に上げるよう制御)という、LiPoバッテリーへのダメージを保護する機能もサポートしています。
まとめ
メインプロセッサの製造元である深圳市中科蓝讯科技股份有限公司(bluetrum)は2016年設立という比較的若い会社ですが、RISC-V Internationalの「Strategic Member」(https://riscv.org/members/)となっています。
RISC-V Internationalのメンバーリストより抜粋
「オープンの命令セットアーキテクチャ (ISA)」であるRISC-Vはライセンス料が必要ないので、コストが下がるという一面もありますが、筆者はこれまで、ローエンド製品でのRISC-V採用の事例を聞いたことがありませんでした。
まさかダイソーの商品でRISC-V搭載製品に出会えるとは、ちょっと驚きました。
本製品はTWSイヤホンとして必要最低限の機能に絞って1チップで製品を実現しているのに加えて、基板の未実装パターンにICを追加することでタッチ対応にできるように拡張性も配慮されていました。
インターネットの分解関連のサイト(例えば https://www.ifixit.com/)ではハイエンドのTWSイヤホンの記事を見つけることができます。それらと本製品の構造を比較してみると、非常にシンプルにできていることがわかります。
「機能を割り切ってコストを抑える」SoCが開発され、それを使った共通のデザインが提供されコストダウンが進むという「エコシステム」がうまく回っている事例だと思います。
次回更新は2週間後の2/15(火)の予定です。
コメント
水の誠一
技術の進歩は早いですね。楽しく拝読させて戴きました。
ThousanDIY
コメントありがとうございます。分解して調べたらRISC-Vでびっくりしました。第2回のJieLiと今回のbluetrumは個人的に注目しています。