街で見かけたガジェットを分解してわかったこと・わからないこと色々レポート

第25回: マイコンの電源にも便利「乾電池USBチャージャー」を分解してみよう

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皆さん、こんにちは。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、これまで分解したガジェットの中で興味深かったものをダイジェストで紹介していきます。


はじめに

今回の分解はセリアで2011年から販売されている超ロングセラー商品「乾電池USBチャージャー」です。以前ダイソーで売られていた同様の商品との比較もしてみます。

​パッケージと製品の仕様を確認してみる

セリアの「乾電池USBチャージャー」は携帯電話(いわゆるガラケー)全盛期時代からずっと100円(税別)で販売されているロングセラー商品です。

01_パッケージの外観

パッケージの外観

輸入販売元は「片山利器株式会社」 (http://www.katayama-riki.co.jp/)、型番は「BBJ01」です。

「使用上の注意」には「携帯電話やゲーム機、MP3プレーヤなどを充電」の記載があり、iPhoneやスマートフォンの充電には使用できないと記載されています。使用できる乾電池はアルカリ乾電池とニッケル水素電池で「マンガン乾電池は使用できません。」との記載があります。

02_パッケージの使用上の注意表示_抜粋

パッケージの使用上の注意表示(抜粋)

​本体を分解してみる

本体の電池ボックス部分の蓋を外すと、メインボードは電池ボックスの横のケースでおおわれている部分にあります。
ケースの固定は接着剤なので、小型のマイナスドライバを隙間に差し込んでひねると開封できます。
電池ボックスの電極とメインボードはリード線で接続されています。

開封した本体

開封した本体

​使用されている部品を確認してみる

※回路図を書き起こしたものは筆者のマガジン(note)にあります。

メインボード

メインボードは紙フェノールの片面基板です。

基板表面にはUSB-Aコネクタと昇圧用インダクタと整流ダイオード、出力電圧充電用の電解コンデンサが実装されています。

メイン基板表面

メインボード(表面)

基板裏面(パターン面)に実装されている部品は全て面実装です。

裏面の半導体部品は昇圧コンバータICのみです。USBのデータライン(D+/D-)にはVBUS-GNDを抵抗分割する形で抵抗が接続されています。

電池ボックス・電解コンデンサのGNDとUSB出力のGNDはUSB-Aコネクタの金属シェルを経由しての接続となっています。

メイン基板裏面

メインボード(裏面)

回路としては基本的な昇圧チョッパ回路です。

USBのD+/D-端子には、出力電圧(5V)を抵抗分割して接続されています。抵抗分割比はいわゆる「Apple Charger(1A)」となっています。(「USB充電の仕様」についてはコラムの第13回を参照)

主要部品の仕様

昇圧コンバータIC BL8530(互換品)

09_昇圧コンバータIC

昇圧コンバータIC

表面のマーキングが削られていて読み取ることができませんでしたが、機能とパッケージ(SOT-89-3)およびピン配置より上海贝岭股份有限公司(SHANGHAI BELLING Co.,ltd. https://www.belling.com.cn/ )の「BL8530」の互換品であることがわかりました。「BL8530」のデータシートは以下から入手できます。

https://pdf1.alldatasheet.jp/datasheet-pdf/view/469766/BELLING/BL8530.html

整流ダイオード 1N5819

10_整流ダイオード

整流ダイオード

昇圧動作時の逆流阻止に使われているダイオードは表面に「1N5819」というマーキングがあります。「1N5819」は耐圧40V/出力電流1Aの整流ダイオードで、同じ型番の互換品が複数の会社で作られています。

データシートは米DIODES Incorporated (https://www.diodes.com/ )のものが以下から入手できます。

https://www.diodes.com/assets/Datasheets/ds23001.pdf

パワーインダクタ 10uH(4mm x 6mm)

11_パワーインダクタ

パワーインダクタ

昇圧用のパワーインダクタはラジアルリードタイプで、サイズは直径4mm x 高さ6mm、インダクタンスは実測で10uHです。

出力電流はこのパワーインダクタのサイズ(磁気飽和電流)で決まりますので、大きなサイズのものに変更することで電流容量を増やすことができそうです。

出力特性の確認

本機が実際にどれくらいの電流まで出力できるかを電子負荷を使用して測定しました。

使用する電池はアルカリ電池とニッケル水素電池の両方で比較しています。

12_出力電流-電圧特性

出力電流-電圧特性

出力電圧はアルカリ電池では約300mA、ニッケル水素電池では約200mAでUSB充電規格(BC1.2)で動作が禁止されている領域(500mAまでは4.75V以上)を下回っています。

抵抗分割比で規定の「Apple Charger(1A)」も満たせていませんので、使用上の注意に記載どおりiPhoneやスマートフォンの充電には使用できないと判断してよさそうです。

ダイソーの同様商品と比較してみる

すでに販売が終了してしまったのですが、ダイソーでも単3乾電池2本を使用する「電池式モバイルバッテリー」(以下、ダイソー版)が100円(税別)で2019年はじめまで販売されていました。当時購入したものが手元にありますので、セリアの商品と比較してみました。

13_ダイソー版のパッケージと製品の外観

ダイソー版のパッケージと製品の外観

メインボードを比べてみる

セリアのメインボードと並べてみると、ダイソー版のメインボードはガラスエポキシ(FR-4)の両面基板でワンランク上になっています。

14_ダイソー版とセリア版のメインボード

ダイソー版とセリア版のメインボード

ひと目見て昇圧用のパワーインダクタのサイズが違うことがわかります。(ダイソー版は直径6mm x 高さ8mmと一回り大きいです)。

昇圧コンバータICは「BL8530互換品」、整流ダイオードは「1N5819」の面実装タイプとセリア版と同等品を使用しています。

回路的には、USBのD+/D-端子が接続されていて、USB充電規格(BC1.2)の「Dedicated Charger」(最大供給電流1.5A)となっています。

出力特性の確認

ダイソー版についてもアルカリ電池とニッケル水素電池の両方で出力特性を測定しました。

16_ダイソー出力電流-電圧特性

ダイソー版の出力電流-電圧特性

出力電圧はUSB充電規格(BC1.2)で動作が禁止されている領域(500mAまでは4.75V以上)をアルカリ電池・ニッケル水素電池ともにギリギリ引っかかっています。

ただ、出力電流は約500mAとセリア版の約300mAに比較して大きく取れており、機種にもよりますが、スマートホンの充電も何とか可能なレベルです。販売終了してしまったのが残念です。

まとめ

発売元の片山利器株式会社は本業は刃物や工具の会社ですが100円ショップ向けのスマホ・USB機器も取り扱っていて、ホームページの"Items"を見るとよく見かける商品が多数あります。

元々「利器」とは「鋭利な刃物」という意味があり「文明の利器」から来ているそうです。そういう意味では100円ショップの商品を扱うのも何となく納得できる気がしました。


次回更新は2週間後の1/31(火)の予定です。次回から数回は「身近なガジェットから手に入れられるセンサー」の特集を予定しています。

Comment(1)

コメント

ミスター・サタン

こんにちは。いつも連載楽しみに拝読しております。
今回の「電池2本でUSB」タイプで、「マンガン乾電池は使用できません。」とされている理由やダイソー版とセリア版での変換効率(使用可能時間と言ったら良いですかね)の違いが気になりました。
また、少し前にダイソーで4本タイプ(Hi-Disc製造)が500円で売られていましたがこちらは電池を入れておくと電源スイッチをオフにしていてもいつのまにか電池が空になってしまうひどいものでした。2本タイプには電源スイッチがありませんが機種によって待機電流の違いもありそうですね。

4本タイプのスイッチ付きはもう信用できなくなりましたが、
乾電池USBは災害時非常用電源としての備えになり得るのか?
こんなテーマでもう少し掘り下げた記事をぜひお願いします!

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