第24回: 660円なのにちゃんと走るよ!「ラジコンカー」を分解してみよう(後編)
皆さん、明けましておめでとうございます。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、昨年に引き続き2023年もこれまで分解したガジェットの中で興味深かったものをダイジェストで紹介していきます。
ダイソーで売っている本格的な無線コントロールの「ラジコンカー」、前回の車体(受信側)に引き続き、今回はコントローラ(送信側)を紹介します。
パッケージと製品の外観
送信機は車体の大きさに比べて大き目で操作しやすいサイズです。送信機は単三乾電池x2本で動作し、使用周波数は27MHzとなっています。
本体と送信機
パッケージの特長表示
送信機の外観
送信機はラジコンのプロポ風で「前進・後退」「右折・左折」の2個のスティックと金属の「送信用アンテナ」がついています。電池動作ですが、電源をON/OFFするようなスイッチはついていません。
送信機の外観
分解してみる
送信機は背面のコーナー付近の4か所のビスを外すことで開封できます。
受信用のアンテナはプリント基板裏面のパターンに接触するように基板固定用のネジで一緒に固定(共締め)しています。ちなみに、固定ビスは開封時点で錆びていました。
各スティックの操作はプッシュスイッチのON/OFFのみで、スティックの移動量の検出等は行わないシンプルな構成です。
開封した送信機
プリント基板を主要部品を調べてみる
メインボード
(回路図や回路動作の細かい解説はnoteのマガジンにあります)
メインボードは紙フェノールの片面基板で、表面には基板の型番(JX-4T25)と基板の製造日(2019/8/17)が表示されています。
無線周波数を決める「水晶振動子」は27.145MHz、基板のシルクに周波数表示があり水晶振動子を変更することで複数の周波数に対応できる仕様です。本製品では「27MHz」のところがマークされていました。
メインボード(表面)
基板裏面(パターン面)に実装されている半導体部品はコントローラICと2個のNPNトランジスタです。送信用のアンテナの接触部はパターン上にハンダが盛られています。
メインボード(裏面)
コントローラIC YX4116
コントローラIC
深圳市宇鑫微电子有限公司(http://www.yxdzkj.cn/)の4ボタンリモコン玩具送信機チップ「YX-4116」です。
製品ページはこちらでデータシートもここから入手できます。
http://www.yxdzkj.cn/product/277938304
ファンクションコードも「前進+加速(W2 x 16))」をサポートしていないこと以外は本体の受信用デコードIC「FMRX2BMS」と一致していますので、ラジコンでは一般的なコード構成だと思われます。
NPNトランジスタ(Q1) S9014
S9014
「発振回路」に使われているトランジスタは、表面のマーキング「J6」から「S9014」という型番の汎用NPNトランジスタとわかりました。直流電流増幅率(hFE)が200~1000と比較的大きいので、27.145MHzの水晶振動子と組み合わせて「PEARCE BC回路」の発振用に使われているようです。
同じ型番の互換品が複数の会社で作られていて、データシートは富芯森美半导体(深圳)有限公司(FuxinSemi, http://www.fuxinsemi.com/)のものが以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2101141105_FUXINSEMI-S9014_C908255.pdf
NPNトランジスタ(Q2) S8050
S8050
「出力回路」に使われているトランジスタは表面のマーキング「J3Y」より「S8050」という汎用NPNトランジスタであることがわかりました。これも同じ型番が複数の会社で作られています。
データシートは江苏长电科技股份有限公司(JIANGSU CHANGJIANG ELECTRONICS TECHNOLOGY CO.,LTD, https://www.jcetglobal.com/)のものが以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1810010611_Changjiang-Electronics-Tech--CJ-S8050_C105433.pdf
動作波形確認
27MHzのラジコン波形は詳しく見たことがなかったこともあり、実機で波形を測定して回路の動作を確認しました。
以下は「前進スイッチ(K1)」を押した時のコントローラIC(U1)の8番ピン(OSC)と6番ピン(DOUT)の出力波形です。
コントローラの出力波形
スイッチが押されると「OSC端子」は「H」になり、「発振回路」が搬送波の発振を開始します。「DOUT端子」からはラジコンコードにあわせた「シリアルコード」が出力されます。
シリアルコードは「前進コード」「終了コード」の2種類が出力されており、スイッチが押されている間は入力に応じたコード(上の波形では「前進コード」)が、スイッチが離されると固定の「終了コード」を一定期間(実測で178ms)出力して送信を停止しています。
出力される「シリアルコード」は受信側のデコードIC「FMRX2BMS」のデータシートに記載された「ファンクションコード」と一致しており、「エンドコード」は4個のW2パルス(500Hz、Duty比1:3)、「ファンクションコード」は機能に応じたn個のW1パルス(1KHz、Duty比1:1)となっています。
FMRX2BMSのファンクションコード一覧
「前進コード」部分の波形を拡大してみると、一覧表の「前進」のコードが送られていることが確認できます。
コントローラの出力波形(拡大)
この時のアンテナ波形を測定すると、コントローラのシリアルコードによってON/OFFされた搬送波(27.145MHz)が出力されている事が確認できました。
アンテナの出力波形(拡大)
まとめ
送信回路・受信回路ともに無線部分はディスクリート部品を組み合わせた「アナログ回路」となっていてます。操作コマンドを処理する「コントローラIC」はラジコン周波数の影響はない構成となっています。
いわゆる「枯れた商品」である「ラジコン」ですが、分解してみることでアナログ回路とデジタル回路の絶妙な組み合わせで出来ていることがわかりました。
送信側・受信側ともに、コントローラは共通のままで水晶発振子とアナログ回路部分の部品定数を変更するだけで任意のラジコン周波数に変更できる、というよく考えられた「機能の棲み分け」だという感想です。
次回更新は2週間後の1/17(火)の予定です。次回はコントローラを紹介する予定です。