第32回 電子工作に便利「ミニヒートプレート」を分解してみよう
皆さん、こんにちは。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、これまで分解したガジェットの中で興味深かったものをダイジェストで紹介していきます。
最近電子工作クラスタの間で話題になっている、5cmx5cmでハンダリフローに使える「ミニヒートプレート」を購入しました。
マイコン制御+USB PD(65W)対応というこの商品、どのような構造なのか分解して確認してみました。
パッケージと製品の仕様を確認してみる
「ミニヒートプレート」はMHP30という型番で*2023年5月にAliexpressセール価格(62%オフ)で約2,600円で購入しました。
同じ製品は複数の業者から販売されていて、値段も結構ばらついています。
※"MHP30"というのは別製品の型番で、ミニヒートプレートの代名詞として検索ワードとして使われているだけとの情報をいただきました。
製品はきちんと箱に入った状態で(角がつぶれていましたが)届きました。パッケージにはメーカー名(GDCPH)と簡単な操作方法を記載したシールが貼ってあり、その上から型番(GYCA0031-001)を記載したシールが貼られています。
ちなみに、GCDCPH(http://www.gdcphcap.com/en/)はスーパーキャパシターをメインにしている会社で、サイトをみても本製品はどこにも載っていませんでした。
到着した製品パッケージ
付属品は特になし。製品仕様は製品ページに載っている内容のみです。操作は本体にある2個のボタンの組み合わせで行います。
製品仕様
本体の外観
本体のヒートプレート(加熱テーブル)は5.5cm x 5.5cm 、M5Stackと並べるとちょうど同じサイズ感です。
本体のサイズ感
本体正面には温度と各種情報を表示するLCDパネルが、背面には電源用のUSB Type-Cポートと2個の操作ボタンがあります。
ヒートプレートと制御部の間は金属製の六角スペーサーとプリント基板で三段構造になっていて、制御部に熱が伝わらないようになっています。
実際にUSB PD 65W対応の充電器を使用して230℃に設定してみましたが、1分程度でほぼ設定温度まできちんと温度が上がりました。
消費電流の実測では230℃設定で加熱中が20V/3A、安定した状態で20V/2A程度です。
ちなみに手持ちのUSB PD 45W(20V/2.25A max)では、加熱を開始するとすぐ過電流保護が動作して出力が停止しましたので、USB PDのパワープロファイル(PDO)に応じて動作電流を制限しているわけではなさそうです。
本体の外観
なお、写真ではわかりにくいのですが制御部のケースは3Dプリント製で触ると積層痕がわかります。
制御部のケースは3Dプリント製
本体を分解してみる
制御部の底面にビスが8本あります。このうちの四隅の4本を外すと底板を外すことができます。
制御部底面のビス
Type-Cコネクタをケースの穴から外して制御基板を引き出します。底面もプリント基板と同じ基材でできていて、インサートナットをスペーサーにして制御基板の穴にビスを差し込むように固定しています。
制御基板とLCDパネル・ヒートプレートはそれぞれ平行リード線で接続されています。
制御基板を引き出した状態
制御基板はガラスエポキシ(FR-4)の両面基板で、部品はすべて片面に実装されています。
GND及びVBUSのパターンは非常に広く、大電流回路であることが一目でわかる設計です。
制御基板
回路構成を確認してみる
3.3Vステップダウンコンバータブロック
ステップダウンコンバーターブロック
"IV7NR"のマーキングの部品はMonolithic Power Systems製のステップダウンコンバータコントローラ「MP2451」、データシートは以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2201101700_Monolithic-Power-Systems-MP2451DJ_C400566.pdf
"SS24"のマーキングの部品は中国でよくある複数の会社が作っている汎用のショットキーバリアダイオード「SS24」、データシートは以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2304140030_Shandong-Jingdao-Microelectronics-SS24_C115726.pdf
回路構成自体はMP2451のデータシートのリファレンス回路とほぼ同じ構成です。フィードバック端子への分割抵抗の値は入手性とコストからE24系列に変更されているようですが、FB端子の電圧(0.8V)に対する分割比から計算するとVoutは3.3Vで設計されています。
MP2451のリファレンス回路(データシートより抜粋)
制御用マイクロコントローラ STC8H3K64S2
制御用マイクロコントローラ
制御用マイクロコントローラはSTCmicroの8051互換コアマイコンSTC8Hシリーズの「STC8H3K64S2」です。STC8Hシリーズのデータシートは以下のページのリンクから入手できます。
https://jlcpcb.com/partdetail/StcMicro-STC8H1K08_36ITSSOP20/C915673
"8H3K64S2"は「SRAM:3k/Flash:64k/Serial:2系統」となります。
USB PDシンクコントローラ CH224K
USB PDシンクコントローラ
USB PDシンクコントローラはWCH(Jiangsu Qin Heng)の「CH224K」、データシートは以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/2204251615_WCH-Jiangsu-Qin-Heng-CH224K_C970725.pdf
CH224Kの仕様ではPD充電器(ソースコントローラ)からのPDO(対応しているパワールール)を制御用マイクロコントローラとやり取りする機能がないので、製品としてはVBUS電圧に対する最大電流は決め打ちしているものと思われます。これは、PD45W充電器で20V供給時に充電器が過電流保護動作で停止する現象とも一致します。
N-Channel Power MOSFET NCE6050KA
N-Channel Power MOSFET
ヒートプレートのON/OFF制御用のスイッチはNCE POWERのN-Channel Power MOSFET「NCE6050KA」、データシートは以下から入手できます。
https://datasheet.lcsc.com/lcsc/1809042027_Wuxi-NCE-Power-Semiconductor-NCE6050KA_C96013.pdf
ヒートプレートのヒーターのGND側に接続されており、制御用マイクロコントローラでON/OFFすることでヒートプレートの温度を制御しています。
制御基板とLCDパネルの接続
LCDパネルとの接続は4線の平行シード線、LCDパネルとの通信はI2Cです。基板上にデバッグ用のシリアルポートのランドがあります。
LCDパネルとの接続部分
制御基板とヒートプレートの接続
ヒートプレートのヒーターとの接続は2本のポゴピンで、制御基板上のスルーホールに当たる形で片方がVBUSに、もう片方はNCE6050KAのドレインに接続されています。ヒートプレートの裏側には温度検出用のサーミスタが貼り付けてあり、サーミスタからの2本の平行リード線が制御基板に直接ハンダ付けされてます。ヒートプレートの最大温度は250℃のため、通常のハンダ付けでは対応できないためにこのような構造になっているものと思われます。
ヒートプレートの接続部分
まとめ
これまでもハンダリフロー用の小型ホットプレートはあったのですが、本製品はUSB PD充電器を電源に使用するため、本体自体は非常にコンパクトにまとまっています。小さく軽いために通常は机の引き出しに保管して、使うときにさっと取り出せるのは非常に便利です。
LCD画面に温度が表示されるので、間違って触って火傷をするリスクも減らせそうです。
価格が手頃ということもあり、Aliexpressでは品切れになっているショップもあるようですので自作基板のリペアをするのであれば、1台持っていても損はないと思います。
次回更新は6/13(火)頃の予定です。