街で見かけたガジェットを分解してわかったこと・わからないこと色々レポート

第4回: eMarker内蔵!ダイソーの万能Type-CケーブルでUSB PDプロトコルを見てみよう

»

こんにちは。「100円ショップのガジェット」を中心に電子機器を色々と分解をしているThousanDIYです。
このコラムでは、ガジェットを分解する中での発見や感想をつらつらと書いていきます。


スマートフォンのUSB急速充電器、最近は家電量販店やネットショップでも「USB PD」対応の製品をよく見かけるようになってきました。

USB PDでは充電器だけではなく、使用するケーブルによっても最大充電電流が決まるという特徴があります。

第4回は、そんな「USB PD」対応の充電器とデバイスがどのようなやり取りをしているか、という「USB PDプロトコル」を個人でも購入できる機器を使って確認してみます。

今回のターゲット

ダイソーで「USB PD」の最大100W での給電に対応した「何でも使える 万能ケーブル」が売っていました。今回はこのケーブルを確認に使ってみます。

01_パッケージの外観.jpg

ダイソーの「何でも使える万能ケーブル」

パッケージには「最大100W PD USB2.0対応」「eMarker搭載」の記載があります。

USB充電の規格であるPD(Power Delivery 3.0)では、充電される機器(デバイス)が充電器と通信して「USB PDパワールール」(対応している電圧・電流の情報)を取得、その情報にしたがってデバイス側が使用する電圧・電流を決定します。

通常のType-Cケーブルに流せる電流は規格では最大3Aまでなのですが、ケーブル自体に「eMarker」と呼ばれるICを搭載することで、最大5Aの電流を流すことが許可されます。USB PDの最大出力電圧は20Vですので20V x 5Aで「最大100W」となります。

もちろん、ケーブルの充電ライン(VBUS, GND)のインピーダンス(抵抗値)も5Aを流すために十分小さい必要があります。

ケーブルの結線と充電ラインの抵抗値の確認

まずはBit Trade OneのUSB CABLE CHECKER 2 (https://amzn.to/2XZ5lzG)」 を使いケーブルの結線と充電ラインの抵抗値を確認しました。

03_結線と抵抗値.jpg

ケーブルの結線と充電ラインの抵抗値の確認

結果はパッケージの仕様通りで、充電ライン(VBUS, GND)、USB2.0の通信ライン(D+/D-)Type-Cの制御信号(CC)が結線されていました。USB3.xの通信ラインはちょっとだけ期待したのですが、やはり未結線でした。これも仕様通りです。

充電ラインの抵抗値は150mΩ*とかなり小さく、大電流に対応した設計になっていました。
*通常のモバイルバッテリーや充電器の付属ケーブルは実測で300-600mΩ程度。

分解してみる

本コラムは「ガジェット分解ライフ」なので、とりあえず分解してケーブルの中を見てみます。

外装をはずす

まずは、コネクタ部分の金属の外装をニッパ等で切って取り外します。

内部には樹脂で固められた基板があります。樹脂を取り除くと、ケーブルの片側の基板にはICチップ(eMarker)がついています。

05_メインボード_eMarker搭載側.jpg

開封したコネクタ部分のeMarker搭載側の基板(写真は左右が表裏)

ケーブルのリード線(8)は直接ハンダ付け、VBUS(赤)GND(黒)は大電流対応のためにリード線を2本使用しています。

結線を確認する

プリント基板のパターンを追いかけて Type-CプラグとeMarker ICの結線を確認しました。

07_回路図.png

USB Type-CプラグとeMarker ICの結線

USB Type-Cのプラグからは、USB2.0の結線(VBUS,GND,D+,D-)に加えてUSB PD用の信号(CC,VCONN)が結線されています。

eMarker ICにはCC(PD通信ライン)VCONN(PD制御IC用電源ライン)が接続されていて、USB PD対応の充電器とデバイスが接続されたことをeMarkerでも検出してPDの通信を行います。

USB PDの規格では、CCVCONNUSB Type-Cコネクタの上下対角の位置に配置されており、充電器側でCCラインの抵抗値を検出することで、挿入したコネクタの裏表に応じてCCラインとVCONNラインを入れ替える仕様となっています。

CCラインの抵抗は個別にはなく、eMarker ICが内部に抵抗を内蔵していると思われます。

eMarker ICはQFN 6ピンのパッケージで裏面にGNDパッドがあります。表面のマーキング「332 2048」を手がかりに調べたのですが、素性にたどり着くことはできませんでした。

08_eMarkerIC.jpg

eMarker IC

USB PD動作の確認

では、USB PD対応の充電器にこのケーブルを接続してUSB PD動作を確認してみます。

USB PDの解析は、USB充電チェッカー「ChargerLAB POWER-Z KT001(https://amzn.to/3i4T43G)」を使用しました。

Amazonでは7,500円程度で購入できて、各種USB充電の対応状況や、急速充電用のトリガ発生、PCと接続してのデータ取り込みといった機能に対応しています。

USB充電チェッカー「ChargerLAB POWER-Z KT001」

利用可能なUSB PDパワールール

USB PD対応充電器に接続したときの利用可能なパワールールを確認してみます。

USB充電器は手元にあった65W PD対応のもの (出力:5V@3A,9V@3A,12V@3A,15V@3A,20V@3.25A) を使用しました。

充電器の仕様.jpg

使用したPD対応充電器の出力電圧仕様

まずはeMarkerなしのUSB type-C充電・通信ケーブルで接続して利用可能なUSB PD3.0のパワールールです。20Vでの利用可能な出力電流は3.0Aとなっています。

eMarkerなしのパワールール.png

eMarkerなしケーブル接続時の利用可能なPD出力

次にeMarker内蔵の「何でも使える万能ケーブル」を使用したときの利用可能なパワールールです。20Vでの利用可能な出力電流は充電器の最大値である3.25Aとなり、eMarkerが正常に動作していることが確認できました。

eMarker有りのパワールール.pngeMarker内蔵ケーブル接続時の利用可能なPD出力

eMarker情報の確認

KT001はeMarker情報の読みだし機能がありますので、このケーブルのeMarker情報を読みだしてみます。

12_eMarker情報の確認結果.jpg

eMarker情報の確認結果

製品仕様通りの「20V 5A USB2.0」対応であることが最下段の表示で確認できました。

IDHeaderの"0x18001234"やCableの"0x00082050"を手がかりにeMarkerの素性がわからないかとLinuxUSB IDリスト(http://www.linux-usb.org/usb.ids)等を確認したのですが、やはり本製品に該当する情報は見つけられませんでした。

USB PDプロトコルの確認

KT001のPC用アプリケーションソフトにはUSB PDプロトコル」のキャプチャ機能がありますので、それを使用してプロトコルを確認してみます。

デバイスにはUSB PDの急速充電トリガをエミュレートする
USB PD Trigger P30 (https://www.aliexpress.com/item/32997568785.html)
を使用しました。

出力電圧を20Vに設定してデバイス接続時の「USB PDプロトコル」をキャプチャします。

13_USBPDTrigger.jpg

USB PD Trigger

eMaekerなしの場合

まずはeMarkerなしのUSB type-C充電・通信ケーブルを使いログを取得しました。USB PD通信の流れは以下になっています。

1.Data: Source Capability: 充電器→デバイス

出力可能なパワールールを通知

3.Data: Request:デバイス→充電器

出力要求(5th:20V, 3.00A)

5.Control: Accept: 充電器→デバイス

出力要求の受領

7.Control: PS_Ready :充電器→デバイス

出力設定完了(20V出力開始)

14_eMarkerなしケーブル使用時のPDプロトコル.png

eMarkerなしケーブル使用時のPDプロトコル

eMaekerありの場合

次にeMarker内蔵の「何でも使える万能ケーブル」を使いログを取得しました。
PD通信のの最初にeMarker情報の確認が追加となっています。

1.Data: Vender Defined(追加): 充電器→eMarker

Markerを発見したので情報を要求

3. Data: Vender Defined(追加): eMarker→充電器

eMarkerの情報を応答

5.Data: Source Capability: 充電器→デバイス

出力可能なパワールールを通知

7.Data: Request: デバイス→充電器

出力要求(5th:20V, 3.25A)

9.Control: Accept: 充電器→デバイス

出力要求の受領

11.Control: PS_Ready: 充電器→デバイス

出力設定完了(20V出力開始)

15_本製品_eMarkerあり_使用時のPDプロトコル.png

eMarker内蔵ケーブル使用時のPDプロトコル

まとめ

USB PDプロトコルのチェックというと、業務用の高価な機器が必要というイメージがありましたが、1万円以下で買えるUSB充電チェッカーでも基本的なUSB PD機能のチェックができました。

「ダイソーで入手可能なeMarker内蔵ケーブル」も100W対応ケーブルとして問題なく動作しているようです。


中国製を中心に個人でも買える価格(1〜2万円程度)の計測器が増えてきて、高い業務用機器を使わなくても基本的な評価をすることもできるようになっています。

もちろん高価な計測器で精度の高い測定・評価をすることは大事ですが、このような安価な計測器も「特徴を理解してうまく使って行く」ことで電子機器設計の幅が広がって行くと良いな、と感じています。

今回使用したUSB充電チェッカー「ChargerLAB POWER-Z KT001」は、筆者が取り扱い説明書を日本語化して公開しています。もし、気になって購入したときには、ぜひこちらも参考にしてください。

https://note.com/tomorrow56/n/nae9fc5018418?magazine_key=mb8ab521c1a56


次回更新は2週間後の3/1(火)の予定です。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する