中華料理のサービスレベル
私は中華料理が好きである。油断すると週に4回くらい昼食に中華料理を食べている。米国に行ったら必ず中華料理を食べるし、イタリアでもイギリスでも中華料理を食べた。アフリカでも食べたくらいだ。イギリスの中華料理店は、なぜかメニューの最終ページがカレーだ。唐天竺の区別が付いていないのだろう。
残念ながら中華料理店にはサービスレベルの低い店が多い。そう見えるだけかもしれないが、同意見の人を3人見つけたので、これは「みんな言っている」と主張していいくらいだ。
例えば、京都の宝ヶ池にある某チェーン店では、あまりの接客態度の悪さに店員を説教したことがある。このチェーン店は安いことで有名なので、もともと期待はしていないが、それにしてもひどかった。
以前の勤務先近くにある中華料理店は、味はいいのだが料理が運ばれる時間にばらつきがあり、しかも、よくオーダーを間違える。先日も間違えたので「大丈夫ですよ、慣れていますから」と言ってみた。ここはランチが1000円を超えるので、決して大衆店ではない。
●サービスとしてのIT
ITを技術ではなくサービスとして捉えようという意見がある。私も賛成である。ITは業務を支援するサービスであり、バックエンドにどんな技術が使われているかは関係ない。どんなに高度なシステムでもトラブルが多ければ意味がないし、サポートが良ければ多少の不便さは許容できる(ただし後述するように、これには限度がある)。
しかし、行き過ぎたサービスは問題を起こすこともある。IT部門では、顧客(社内のことも社外のこともある)のサービス要求に応えるため、大変な努力をしている。ところが、どんなに頑張っても顧客からは「もっとがんばれ」という声しか聞こえてこない。このままでは、IT部門の人員不足でサービスが立ちゆかない。
●このままでは全員が……
昔、米国で電話が普及し始めたころ
「このまま電話加入者が増えれば、米国国民全員が電話交換手になっても追いつかない」
と言われたらしい。似たような話はIT業界にもあった。これは「ソフトウェア危機」と呼ばれ
「このままコンピュータの利用が進めば、世界中の人がプログラマになっても追いつかない」
というものだ。
結果はどうなったか。電話の場合「ダイヤルイン」という仕組みが考案され、交換手そのものが不要になったというのが公式な解釈だが、私の意見はちょっと違う。
「本来交換手が行っていた作業を単純化して『ダイヤルイン』という形に置き換えた」と考えるべきで、つまり「国民全員が交換手になった」のである。
ソフトウェアの場合はどうか。多くのアプリケーションに「マクロ」が実装され、職業プログラマではない人でもプログラムを組むようになった。営業職の人なんか、筆者よりもよっぽどVBAを使ったスクリプトに精通している。世界中の人がプログラマになったのである。
●セルフサービス
ITについても同じである。IT部門がすべての仕事をするのではなく、一般社員にIT部門の仕事を任せてしまう動きがある。これを「セルフサービス」と呼ぶ。マイクロソフトは以前から「セルフサービス」と「ピアサポート」つまり同僚(ピア)による相互補助を重視してきた。マイクロソフト社内では、社員は自分が使っているPCの管理権限を持っているのはそのためである。
Windows 7からは、この考え方がさらに強化された。例えばトラブルシューティング機能が強化され、自分で簡単に対応ができる(こともある)。マイクロソフトの方がデモをしていたのはオーディオのミュート機能だ。オーディオをミュートした(無音にした)状態で「音が出ない」とサポートに電話をかける人は結構多いらしい。Windows 7では、トラブルシューティングツールを起動すると自動的にミュートを解除してくれる。TCP/IPの設定だって、(運が良ければ)適切に構成してくれる。
システム管理システムであるSystem Center製品には「セルフサービスポータル」という仕組みがあり、許可されたユーザーはWebベースで仮想マシンの追加や削除、管理ができる。
●セルフサービスの功罪
セルフサービスには利点と欠点がある。利点はIT部門の負担が軽くなることと、利用者の期待をコントロールできることだ。始めからセルフサービスだと分かっていれば過剰な期待はしない。社員食堂に一流レストランのサービスを求める人はいないだろう。
欠点は、セルフサービスにより余計に問題を大きくしてしまうことだ。筆者はネットワークトラブルに直面した同僚の会話を聞いたことがある。
「ネットワークがつながらないんだけど」
「どれどれ…… よく分からないので、私の設定と比較してみましょう」
「えーと…… あ、これだ、IPアドレスが違う」
ご存じとは思うが、IPアドレスはコンピュータごとに異なる値を設定する必要がある。現在ではDHCPという仕組みにより自動構成するのが一般的だが、当時はそうではなかった。セルフサービスの対象範囲を上げ過ぎると、かえって問題を大きくしてしまう。このさじ加減はかなり難しい。
●結局どの中華料理店に行くか
かつての勤務先の近くには4軒の中華料理店があった。一番よく行くのは冒頭で紹介したサービスレベルの低い店である。同僚と出掛けたら、食事中の3分の1の時間はサービスレベルの低さについて話をしているくらいの店だ。しかも、4店舗中最も高価である。
そんなに文句を言うのだったら行かなければいいのだが、他の店は騒がしかったり、席の間隔が狭かったり、何より料理の味が悪いという問題がある。結局のところ、サービスレベルというのは基本となる「味」があってこそのものである。もちろんランチに対して最高級の味を求めるわけではない。だが、基本的で最も重要な考慮事項であることは確かだ。
ITをサービスとして捉える考え方は正しい。セルフサービスも悪くない。しかし、それらの工夫は基本となる技術基盤に一定の品質があってこその話である。Windowsは、特別な設定をしなくても修正プログラムを自動的にインストールしてくれるし、ファイアウォールも構成してくれる。追加のサポート料金も取られない(最初にパッケージ代金を払っているからだが)。いろいろ問題はあるにしても、Windowsはなかなか良いOSだと思うのだがいかがだろう。
コメント
mayo
初めてコメントさせて頂きます。
気になった表現があったのでコメント。
・ソフトウェア危機
プログラマーが足りなくなるのではなくてプログラムの品質が悪すぎるという問題。
(危機の根本は、複雑性と予測と変化である。wikipediaより)
・全員がプログラマーになった
当初パソコンと呼ばれ家庭に普及したものは自分でコードを書くのが普通だったので全員プログラマーだった。
Basicとかで○とか書いて遊んでいた人がマクロ使っていろいろやってるんだろうなーというのが私の認識です。
なんの関わり合いもない人がマクロとか組めるようになっていってるとは思えないです。
中華料理屋はサービスが悪いのが多いのは納得です。
それでも行ってしまうのも納得です。(笑)
横山哲也
コメントありがとうございます。
「ソフトウェア危機」の本質は御指摘の通りですが、同時期に「人数不足」という指摘もあったんです。
以下の最後から2つめの段落をご覧ください。
http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0807/15/news127.html
誤解を招く表現であったことをお詫びします。