Windows Serverを中心に、ITプロ向け教育コースを担当

パフォーマンスチューニングとレコーディングダイエット

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●「速い」「遅い」の根拠は何か

 Windows Vistaに比べ、Windows 7は大幅に「軽く」なったと言われる。Windows 8はさらに軽い。10月18日発売予定で、8月末にも完成すると思われるWindows 8.1はさらに軽くなるのだろうか。

 実際、Windows 7以降の起動時間は確実に短くなっているし、必要な物理メモリ量も減った(余剰メモリは積極的にディスクキャッシュとして使われるので、一見メモリ消費が増えているように見えるが実際は減っている)。

 しかし、OSが軽くなった割に、アプリケーションの実行速度はそれほど変化していない場合が多い。体感速度が上がっているのは、反応を良くすることで全体の速度が上がったように錯覚させる工夫による部分が大きいからだ。

 「速い」「遅い」を論じるには、何をもって「速度」とするかを定義しておく必要がある。クライアントPCでは体感速度が重要だが、サーバでは1秒1秒当たりの処理件数の方がずっと重要だろう。処理件数を増やすには、無駄なタスク切り替えを減らした方が効果的だが、そうすると反応が鈍くなり、操作している人にとっては遅く感じることが多い。

 パフォーマンスチューニングを行ううえで、最も大事なことは現状を把握することと、目的をはっきりさせることである。「遅くなった」「速くなった」というのは感覚的な問題である。実際には遅くはなっておらず「遅くなったように感じる」だけかもしれない。ユーザー体験的には「遅くなったように感じる」こともトラブルだろうが、解決が困難なら「我慢してもらう」のもシステム管理者の立派な対処である。もちろん、我慢してもらう場合はそれなりの説明を行う必要がある。

●レコーディングダイエット

 評論家の岡田斗司夫氏が提唱するダイエット法に「レコーディングダイエット」がある。流行のきっかけとなった『いつまでもデブと思うなよ』(新潮新書)は2007年の発行で、2010年には実質的な改訂版『レコーディングダイエット決定版』(文春文庫)が出ている。Amazon.co.jpでは今年に入ってからもユーザーレビューが何件も追加されている。ダイエット法としては異例のロングセラーである。

 ちなみに『いつまでもデブと思うなよ』の方が文化論の比重が大きく、『レコーディングダイエット決定版』の方がダイエット本として実践的である。私は両方購入して読んだが、どちらも面白かった。

 さて、このレコーディングダイエット、いろいろ誤解されている部分もあるが、基本的な流れは以下のようになる。

  1. 現状把握…自分の食事状況を知る(この時点で食事量を減らしてはいけない)
  2.  
  3. 現状分析…自分の摂取カロリーを知る(この時点で摂取カロリーを減らしてはいけない)
  4.  
  5. 状況改善…カロリー摂取量を抑える

 以下、ダイエットを継続するためのステップがいくつか続くのだが、今回の話題とは無関係なので割愛する。

●計測なくして改善なし

 こうしてみると、レコーディングダイエットがパフォーマンスチューニングと極めて似通っていることが分かる。

  1. 現状把握…OSやアプリケーションの動作状況を知る
  2.  
  3. 現状分析…OSやアプリケーションが消費しているリソース(CPUやメモリ、I/Oなど)を知る
  4.  
  5. 状況改善…リソース消費を抑える

 パフォーマンスチューニングを行うには、まず現状を把握する必要がある。この時点で中途半端なチューニングを行ってしまうと基準値が得られない。基準値がないと、どれだけ改善できたかを測定できない。改善度合いが測定できないと、上司に報告できない。上司に報告できないと、自分の仕事が正しく評価してもらえない。これは昇給や昇進に関わってくる。現状把握を怠ったチューニングに効果がないとは言わないが、効果が分からないのでは価値がない。

 IT運用管理のベストプラクティス集であるITILには「計測できないものは改善できない」というフレーズがある。逆に言えば「改善できるものは計測できる」のである。計測こそが改善のスタートポイントである。

 岡田斗司夫は「レコーディングダイエットは何かを『減らす』目的の多くに応用できるだろう」という。例えば、時間の使い方や無駄遣いの削減に効果があることは容易に想像できる。パフォーマンスチューニングはCPUやメモリリソースの消費量を「減らす」ことが目的だから、レコーディングダイエットと相性が良いのは当然である。

 いや、実際は話が逆である。パフォーマンスチューニングの教科書には必ず「現状分析から始めましょう」と書いてある。「ダイエットは体重のチューニングである」と気付けば、ITエンジニアは岡田斗司夫よりも早くレコーディングダイエットに到達できたはずである(実際、ある程度気付いていた人もいるらしい)。

 IT業界には「肥満」が一杯である。サーバ台数は増え続けるし、ネットワークトラフィックも増加の一方である。クライアントだって増えている。マイクロソフトのイベントでは「メタボリックIT」という言葉も登場したくらいだ。そして、私の勤務先では仮想化関連の講習会受講者に体脂肪率計をプレゼントしたこともある(残念ながら、ITの体脂肪率ではなく、IT管理者の体脂肪率を測定するものだったが)。

 メタボリックIT対策には、ぜひ「レコーディングダイエット」をお勧めしたい。

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