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クラウドネイティブ

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最近は、クラウドの導入や移行の案件が増えてきている。

我々がAWSを使い始めたのが2009年。当時は日本のリージョンがなかったの米東海岸のリージョンを使っていた。勤怠システムでパフォーマンスがでず遅いとクレームが入った際に、「すみません。サーバがアメリカの東海岸にあって、打刻すると太平洋を横断しないといけないので」などと、適当なことを言っていた頃が懐かしい。ユーザも鷹揚で、「そうなんだ。そりゃ仕方ないな」などと笑ってくれていた。当然、すぐにサーバのスペックを上げてパフォーマンスの問題は解決したが。

当時はまだセキュリティに関しても今ほど煩くない時代だったので、クラウド導入に関してお客様は、何か良くわからないけど安いからOKってな感じで導入が決まることが多かった。ただ、大手はオンプレサーバーを抱えセキュリティに関してもそれなりに意識が高かったので、やはりクラウドはNGというところが多かった気がする。

あれから十数年。クラウドは大きく進化た。東京リージョンができたことはさることながら、当時はセルフ構築できる安価なレンタルサーバ位だったのが、今では完全マネージド型サービスに加え機械学習/人工知能、IoT、仮想現実/拡張現実、ロボットなど200以上のサービスがリーズナブルに提供されている。

2000年頃オンプレサーバを導入するには、キャパシティプランニング(スペックと台数、構成の見積)、発注手配、iDCへの納入・据付、インストール、設定と最短でも1年近くかかっていた。開発期間もお凡そ1年位なのでアプリの設計が終わる前にキャパプラを行わなければならず、リスクをみて多め多めのスペックで見積っていたことを思い出す。それでも見積を誤ってスペック不足が運開後に顕在化することも多々あり。

2000年頃と言いつつ、ついこの間もオンプレサーバを導入する話があり、発注してモノが届くまで6ヶ月と言いながら半導体が不足から納期が延び、1年後でもモノが届くかどうかもわからない状況となっていた。それに比べると、ポチポチと操作しただけで即サーバが立ち上がるクラウドは画期的だ。半導体不足も影響がすくない。この実態にお客様はすぐにクラウドへと傾いた。

クラウドへの移行が進むことは良いことだと考えるが、その見返りとしてクラウドの説明の手間が増えてきていることにちょっと辟易している。お客様の多くがITに対する専門知識を持たない一般ユーザだが、そのお客様に高度化しすぎたクラウドの説明をしなければならない。我々ベンダーとの信頼関係でよくわからないけど任せるよ、というお客様は良いのだが、例えば大手企業のグループ会社や公共性の高い会社などは、自分たちがステークホルダーに安全性を説明しないといけないため、その支援を行う必要がある。

例えば、システムにアップしたファイルを9-11の多耐久性がSLAで保証されたオブジェクトストレージに保存している場合、そのバックをとる、とらないで盛り上がったことがある。9-11の耐久性が保証されているので、さらにバックアップをとる必要はないと思うのだが、今はやりのランサムウェア対策も相まってオフラインバックアップを取りたい、とお客様が言い始めたからだ。

理由ははっきりしており、グループ会社や公共性の高い会社などは規定やセキュリティのチェック票などが整備されており、いずれもオンプレを前提としている内容となっているからだ。例えば、ファイルやデータはバックアップを取っているか?ランサムウェア対策にオフラインバックを取っているか?などが項目に記載されている。システム導入の担当者からすると、クラウドではバックアップを取らなくても大丈夫なことや、オフラインバックアップは非現実的である点などを説明し許可を得ることは非常に手間がかかるので、やっています、と回答したくなる。

その気持ちはわからないではないが、だからと言って無駄な冗長バックアップや、逆にセキュリティレベルを下げかねないオフラインバックアップを実現するわけにはいかない。これは技術屋としての矜持である。オンプレを前提とした規定やチェックリストの趣旨に則りクラウドで実現できる方法で、かつ無駄なコストをかけない現実的な解を探し、お客に提案しなければならない。そして説明のフォローも。これが結構難しい。

クラウドとはハードウェアのソフトウェア化だと思っている。オンプレ環境ではハードウェアの物理的制約を前提に構成を考えないといけないが、クラウドではハードウェアの機能がサービス化され物理的制約から解放されている。そうすると、構成についてはオンプレを踏襲するのではなく、クラウドの特性を生かしたものを考えないといけない。このときに、オンプレだと当たり前だと思っていた構成が当たり前ではなくなり、オンプレの場合は何故このような構成が必要だったのか、ということを改めて問い直す必要が出てくる。

おそらく今後、オンプレを経験せずクラウドしか使ったことのない技術者が多くなるであろう。いわゆるクラウドネイティブ。彼らは物理制約にとらわれることなくクラウドのサービスを使いこなすであろう。しかしオンプレ全盛を生きてきたおじさんたちは、クラウドへの移行時はその価値観を一新しないといけない。そのパラダイムシフトができるかどうかが、次の世代も生き残れるかの重要なカギとなる。

このジレンマは技術屋をやっている限り常に付きまとう。仕事について、苦労に苦労を重ねてようやく身に着けた知識、技術、スキルがいつの間にか気づかない間に時代遅れとなってしまい、必要性がなくなってくる。その間に次世代ネイティブが台頭し、自身は技術者としての存在感をなくしてゆく。打開策は大きく二つ。リスキリングして新しい技術を身に着けるか、今持っている技術を生かせる環境に転職するか。おそらくどちらも安易でないことは想像に優しいであろう。リスキリングといっても、老体に鞭打ちながらネイティブに追い付くには相当な苦労がいる。転職するにしても時代遅れの技術を必要としている企業を探すのも相当な苦労であろう。

そんなことを考えると、技術屋は常に学びと成長が必要だ。未熟な時は早く一人前になろうと常に学びに真摯だった技術者が、一人前になったとたん実務で手一杯となり学びを止めてしまう状況をよく見かける。そして実務も慣れてきたり、出世して偉くなったりしてしまうと、余計に実務も漫然化したり外れてしまったりと、学びと成長からはさらに遠くなってしまう。そこを踏みとどまり、一人前となり実務に慣れてできた余力を次の学びと成長につぎ込んでゆく。そうすれば、今まで積み上げてきた技術にも深みがでてくるであろうし、新しい技術が台頭してきても取り残されることはない。

このことは次世代ネイティブも同様だ。今は技術的優位だが、いづれはその技術が時代遅れになる可能性は高い。そしてこのことは個人にとってはしんどいことだが、業界としては大切なことだ。実はオンプレからクラウドのパラダイムシフトは、スクラップ&ビルドではなく連続性のなかでの起こっている事象だ。オンプレでは解消しきれなかった問題がクラウドで解消はしているが、オンプレの技術や知識がクラウドでまるきりご破算になったわけではない。それはこの業界がまだ未熟で成長途中にあるという証左でもある。成長とは様々な新しい技術が生まれ、淘汰されていくプロセスでもあるので、いま自分が取得した技術は永遠だと思う方が間違っている、ということなのだ。

正直に技術職は因果な商売だと思う。ずっと学びと成長を止めるわけにはいかないから。でも、そのしんどさの先にモノづくりの楽しさがあるのもまた事実だ。そしてユーザの感動と感謝も。技術者は自己投資が必要なのでもらう金銭的対価では割に合わない方が多い。でも、金銭的対価以上に得られる価値も多いので技術職を目指す若人が多いのではないだろうか。いや、そうあってほしいと願っている。

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