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ギークの作り方

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■面接

 目の前に2名の技術者が、営業さんに促されて座っている。

 協力会社からの技術者受け入れ面接だ。1人は20代前半、もう一人は30代前半。ただ経験としては両人とも2年未満。他業種からの転職組である。手元には経歴票も置かれてあるがが経験年数からして、あまり目を引くものはない。したがって、話題は必然的に前職と転職の話が主となってしまう。

 若い方は理系の学校を卒業後、建設業に就職したもののIT業界に転職。その理由は「IT技術者になりたくて」。

 もう1名はもともとIT系の学校に通っていたのだが、体調を崩し休学。復学するも授業についていけず、サービス業に就職。この業界でかなり頑張ってきたが、拘束時間が長いのとIT業界への思いが断ち切れず、転職。

「なぜ、IT業界に憧れるんだろう?そんなに良い業界なんだろうか?」

思わず漏らした私の言葉に、営業さんは笑みは浮かべているものの、少し渋い顔でフォローした。

「まあ、そう仰らずに。若い人が希望と憧れを持って入ってくることは、この業界にとっても大切なことでしょう」

それはまあ、そうではあるが。

■自立・協調・分散型 ギーク集団

 我々は自社製パッケージの開発とサービス提供。加えて受託開発を主な生業としている小さなチームである。まがりなりにもパッケージ商売をするとなると、どうしても大手メーカーやSIerが競合相手となる。お客様からRFPをもらい提案コンペが開催されると、大手の安心感と零細の不安感で最初からハンデ付の争いになることも少なくない。「象とアリンコの戦い」「クジラとミジンコの争い」という言葉が、しょっちゅう社内を飛び交っている。

 そのため我々は大手との違いをアピールしてきた。曰く「早い、安い、美味い」。大手が1年かかるところを半年。ン千万円かかるところをン百万でやれる方法を考え提案し、互角の勝負に持ち込まなければならない。

 しかし、そんな提案は一般的なやり方をしていたのでは実現できない。資源において圧倒的な差がある場合、正攻法で挑んでも力で押しつぶされるのが関の山である。

 では、差別化の提案として必要なものは何か。

 最近では「アジャイル」「クラウド」「DevOps」という方法論やサービスが出てきて我々に味方してくれるが、やはり最終的には技術者一人一人のスキルに帰着する。一騎当千のつわものがいれば、凡庸な千人の軍にも対等に渡り合えるのだ。

 我々のチームにも、そんな一騎当千の技術者が何人かいる。いや、チーム自体が小さいので、割合的には多い。そして彼らは、それぞれ武勇伝や伝説を持っている。

 ・炎上プロジェクトに参画し、2週間で終わらせた
 ・3ヶ月かかるといわれたシステムを、ひとり3週間で作り上げた
 ・2日でデータ構造を作り変え、処理速度を1/100にした などなど

 同時に彼らは難しい。勤務態度にムラがあったり、上に反抗的だったり、コミュニケーションに難があったり。おそらく、普通の職場では評価の分かれる連中だ。

 しかしゴリアテに立ち向かうダビデには、真面目で素直で従順だけど指示がないと動けない技術者より、怠惰で短気で傲慢だけど自分で動いて片づけてくる技術者が必要なのだ。

 そうか、私はギークを探しているのか。


■ギークの作り方

 そのことに気が付いたとき、面談時に感じた違和感の理由が分かった気がした。

 ウチの連中は、「この業界に憧れて」とか「IT技術者になりたくて」とかいう前向きな動機でいるわけではない。きっと。「この業界にしか居場所がない」「開発しかできない」という、そういった連中なのだ。

 だから私は、転職組の前向きな言葉にまぶしさを感じ、つい意地悪な質問をしてしまった
のであろう。

 だとしたら、この面談、少し答えが見えてきた気がした。

 もちろん、この業界に憧れている転職組にギークがいないといっているわけではない。

 私は面談に答えを出すと同時に、ギークをつくるというミッションを持つことになるだろう。

 ギークは先天的資質なのか、後天的に開花するものなのかは分からない。また、自ずとギークになるのか、育成できるものなのかも分からない。そしてギークが本当にIT業界に貢献するかもわからない。

 ただ本当に良いものを作って大手と対等に勝負するには、ギークの存在が必要不可欠であることだけは事実だ。だから今日も技術者と向かいあわなければならない。

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