「読み」「書き」「算盤」そして「会話」
前回に引き続き、新人教育に関連して。
新人教育を担当した中堅技術者が嘆いていました。「あいつとは、コミュニケーションが成立しない」。ここ何年か、毎年同じような不満を耳にします。
確かに、新人と教育担当者との会話を聞いていると、会話がなりたっていないことがあります。
- 担当:いろいろと説明して指示をする。最後に「指示された内容は分かりましたか?」
- 新人:「はい、分かりました」
- 新人:その後、自分がやった内容を説明する
- 担当:新人の説明が分からないので、あれこれ質問する
- 新人:「はい、そうです」。担当者からの質問に、短く返事する
- 担当:「ということは、あなたの作業内容は、かくかく、しかじか、こうこう、ですね?」 新人のやった作業内容を、担当が整理して説明する
- 新人:「はい、そうです」といいつつ、目が泳いでいる。きっと何かが違うのだ
- 担当:そのことに敏感に気付いて「何か、違っていますか? 違っていたらいってください」
- 新人:少し困った顔で「い、いいえ。大丈夫です」。何が大丈夫かよく分からない
- 担当:気にはなるが、本人が違うといわないので、次のテーマへ。そして1に戻る
実のところ、このような会話不成立現象は、新人と教育担当者間だけで起こるものとは限りません。かつて一緒に仕事をした、ある会社の中堅エンジニア(仮にA氏とする)との会話も、以下のような感じでした。
- A氏 :「すみません。かくかくしかじか、ができないのですが」
- 自分:あまりに唐突だったので「ん? 何の話ですか?」
- A氏 :「あ、○○××(画面名)です」
- 自分:その画面に関する記憶をたどってゆき、「それは、この前、こうこう、の対応を依頼した件ですか?」
- A氏 :「あ、はい」
- 自分:「できない、とはどういう意味ですか? 技術的に不可能、という意味ですか? それとも、仕様上おかしいといっているのですか?」
- A氏 :「あ、技術的に、です」
- 自分:「技術的に何故できないのですか? そんなに特殊な処理とは思えないのですが」。しばらく、ヒアリングを行う。こちらの質問に対して、A氏は「はい」か「いいえ」の短い返答のみ
- 自分:「はあはあ(少し疲れ気味で)。ということは、Aさんのおっしゃることは、かくかくしかじか、ですね」
- A氏 :「あ、はい」
- 自分:「しかし、それは技術的に不可能ということではなく、Aさんは自分が苦手な画面系の処理を使わずに、DB側で強引に何とかしようとするから、行きづまるのではないですか?」
- A氏 :「あ、はい……少し考えてみます」
新人に限らず、相手の立場を想像して説明する、ということができない人が意外と多くいます(新人は訓練ができていないから割合としては多くなるのでしょう)。相手を意識して説明ができない人は、相手が話すことも聞き取れません。日本人なので、言わんとしていることは分かるのです。だから「はい、分かりました」といえます。でも相手が何をいいたいか、は想像できません。だから相手が望むアウトプットを出せないのです。
では、どうする?
非常に難しいですね。お客さまでもある、知り合いのおじいさんのせりふが思い出されます。「『読み』『書き』『算盤』、そして『話ができること』。当たり前の基礎です。これさえできればあとは何とでもなるのだが、それができない。この年になって、本当にそう思う」
大手企業から中小企業の取締役となられた方で、大手と中小の「基礎力」のギャップに驚かれておりました。大手はこの基礎力の訓練(しつけ?) を行う余力があり、中小はやはりどうしても等閑(なおざり)になってしまうのでしょう(大手、中小という問題ではないのかもしれませんが)。
やはり気長に訓練するしかないのでしょう。多くの書籍を読ませ、文章を書かせ、そして多くの人と会話をさせる。嫌がられようと、うざがられようと。将来、新人に恥ずかしい思いをさせるわけだけにはいきません。
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コメント
ぬ
仕事といえば2次受、3次受、話す相手は同僚以外はチームのリーダーだけ・・・・これを入社以来10年続ければ、A氏のようになっても仕方ない。
山無駄
どうも。はじめまして ぬ様
>仕事といえば2次受、3次受、話す相手は同僚以外はチームのリーダーだけ
A氏は確かにそうですが、私の知っている限りでは、必ずしも所属企業の大小
や仕事の形態だけ技術者のコミュニケーションスキルが決まっているわけで
はない様に思われます。確かに確率的には高いですが…。
やはり企業の教育の問題なんですかね。