第614回 自責と他責
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
私は教育に携わる仕事をしているため、人材育成の視点で物事を見ることが多くあります。特に「人が育つ」ということについて最近よく考えるのですが、その中で自責と他責が重要な要素だと思うようになりました。そこで今回は自責と他責について私の考えを書きます。
■自責と他責を三層構造モデルで考えてみる
自責と他責を調べてみるとこのようになっていました。
自責...自分で自分の過ちをとがめること。また、自分に責任があると考えること。
他責...自分以外の人や状況に責任があるとして、とがめること。
(デジタル大辞泉より引用)
端的に言えば自責は自分に責任があるという考え、他責は自分以外の人やモノに責任があるという考えを指します。これをもう少し掘り下げるために私が良く使う三層構造モデルに当てはめて考えてみます。
三層構造モデルの概要は過去のコラムをご覧いただくとして、このようになります。
1層...事柄の層
2層...心の層
3層...行動の層
私たちの身の回りに起こる様々な出来事は1層である事柄の層に入っています。この層には起こった出来事、事実のみが入っており、善悪といった判断は含まれていません。しかしながら、私たちはこの1層にある事柄を目の当たりにすることで感じ、考えます。それが2層である心の層に入ります。そうすると、それが3層である行動として表れます。これが三層構造モデルのベースの考え方です。
ではこの考えで自責と他責と捉えてみるとどうなるでしょうか。自責にしても他責にしても、それはその人に何かしらの出来事があり、その出来事に対して自責や他責に感じたということになります。つまり、この何かしらの出来事というのが1層である事柄の層であり、自責や他責と言った考え方は2層である心の層のことを表しているのです。例えるならば...、
1層(事柄の層)...部下が仕事を失敗した
2層(心の層)...それは部下の責任だ(他責)、それは自分の責任だ(自責)
3層(行動の層)...部下に失敗の責任を取らせる(他責)、自分の管理方法を見直す(自責)
ということになります。
ここから分かることとして、1層である事柄の層はそもそも事柄、事実でしかないため、そこに善悪の評価はありません。それを私たちがどのように捉えるかによって自責にもなれば、他責にもなるのです。
その違いは何か?
それは単純にその人の価値観の違いです。物事を自分事として考える価値観を持っている人は自責として捉えるでしょうし、「〇〇のせい」のように考える価値観を持っている人は他責として捉えるでしょう。
■自責と他責、どちらを望むか?
それでは、自責と他責、あなたはどちらの価値観を望みますか?
この答えに対して多くの人は自責を選ぶと思います。しかし、ここでもう一歩踏み込んでみます。なぜ、あなたは自責を選ぶのでしょうか?
これは私なりの答えですが、私はこのように考えているからです。
「自分を変えることはできるが、相手を変えることはできない」
この言葉はよく言われる言葉なので、ご存じの方も多いと思います。これをもう少し分かりやすく説明するため、ここでも三層構造モデルを使って説明します。
例えば、とても厳しく接してくる上司がいたとします。その接し方をあなたは嫌がっています。これを三層構造モデルに当てはめるとこうなります。
1層(事柄の層)...上司が厳しく接する
2層(心の層)...その接し方が嫌だと感じている
これを「相手を変える」と捉えた場合、上司が厳しく接しないようにするということになるので、これは1層を変えるという意味になります。しかしながら、1層を変えるのは結構大変です。このケースで言えば、上司が接し方を変えてくれなければならないですし、そのためには上司の考えである心の層が変わらないとできません。それって簡単にできることではないですよね。。。
次に「自分を変える」と捉えてみます。これは自分の捉え方、つまり上司の接し方が嫌だと感じていること、この捉え方を変えるということなので、これは2層を変えるという意味になります。なぜ、厳しく接することが嫌なのか。そこを掘り下げてみると自分のバイアスが見えてきます。このケースで言えば「上司は部下に対して優しく接するべきだ」というバイアスがあったからかもしれません。
しかしながら、このバイアスは本当に正しいのでしょうか。上司が厳しく接しなければならない理由があったとしたらどうでしょう。例えば、あなたを育てたい、その一心で心を鬼にして接していたかもしれません。厳しさは上司の愛情の表れだったかもしれません。このように、なぜそのような状況になっているのかを考えることで、今までとは違った新しい視点を導き出すことができるようになります。これが「自分を変える」ということです。
私たちは自分を変えることはできますが、相手を変えることはなかなかできません。自分を変えようとすることを自責、相手を変えようとすることを他責とするならば、どちらが本質的に問題を解決することに繋がるでしょうか。そりゃ、自責ですよね。
■人格の成長段階から自責と他責を捉えてみる
そして、これは7つの習慣のテーマでもある人格の成長とも関係しています。
7つの習慣では人格を「依存」「自立」「相互依存」という3つの段階に分けています。それぞれ、
依存...誰かや何かに依存して生きている状態
自立...物事を自分事として捉えている状態
相互依存...自立している人同士が互いに高め合う状態
のようになっており、依存から自立、自立から相互依存に人格を成長させていく方法が7つの習慣には記載されています。
この依存というのは他責、自立というのは自責という状態を表しています。今回、私は自責と他責を三層構造モデルに当てはめて考えてみましたが、結局のところ、やっていることは7つの習慣と変わらないような気がします。
そう考えると、やはり、他責ではなく自責として物事を捉えられるようになることが人格を成長させるということにもなるのかなと考えています。