第602回 理論と実践のはざまで
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
この時期は国家資格キャリアコンサルタントの受験シーズンで、私も対策講座や各種トレーニングをやらせてもらうことが多くなります。そのような中で「試験対策として学んでいることは実務で使えるのか? 」という話が良く出てきます。そこで今回は試験対策として学んだことが実務に活かせるのかどうかについて、私の考えを書きます。
■キャリコンの定番、システマティックアプローチ
キャリコンが相談者のキャリア形成を行う上でよく使われる技法にシステマティックアプローチがあります。これは1980年代頃に提唱されたキャリア論で、様々な考え方を折衷的・包括的に取り入れた面談技法で、システマティックに展開することが特徴です。その流れは概ね以下のようになります。
・相談者との間に関係性を築く(関係構築)
・問題の本質を把握し、共有する(問題把握)
・目指すべき目的・目標を定義する(目標設定)
・目的・目標に至る方策を検討する(方策実行)
このシステマティックアプローチはキャリアコンサルティングに適用させやすく、キャリコンと言えばシステマティックアプローチと言われるほど有名な技法となっています。そのため、国家資格キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能士の実技試験ではシステマティックアプローチを使う前提で試験が行われていると言っても過言ではありません。
■システマティックアプローチは実際に使えるのか?
このようなシステマティックアプローチですが、実際にやってみると相当難易度が高いと感じると思います。というのも、目の前の相談者に寄り添いその気持ちや考えに共感しながらも、面談の流れをフェイズごとに分けてどのタイミングで何を話すのかを考えながら対話を進めていかなければならないからです。私たちは普段このような対話をしないため、こうした対話の方法に慣れておらず、それがシステマティックアプローチをより一層難しく感じさせます。これが国家資格キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能士の試験の難易度を上げている理由でもあります。
こうした難易度の高さからシステマティックアプローチは机上の空論とし、実践では使えない技術だと捉えられてしまう風潮があります。過去に著名な先生が実際にシステマティックアプローチされている動画があり、それを解説される勉強会があったのですが、その解説されている先生(この方も著名な方です)ですら「これは〇〇先生だからできるんでしょうけどね」のようなことを言っておられました。そのくらい実務で使うのにはハードルが高い難易度なのかもしれません。
■理論と実践のはざまで
しかし、私はこう考えます。理論を実践できないのは練習が足りないからだと。理論は実践できてこそ価値のあるモノだと私は考えます。
過去の理論家の先生が提唱された数々の理論はすべて机上の空論なのかと言えば、私はそうでないと思います。それぞれの時代に求められている何かしらの背景があり、そこから理論が生まれたのだと推測します。それは、絵空事ではなく目の前の相談者を救おうとする想いの表れだったのではないかと思うのです。
こうした想いを難しいからと片づけてしまうのは、私は努力不足だと感じるようになりました。私は特定の団体や先生についてキャリコンを学んでおらず、日々の実践の中で数々の理論を自分なりに実践し体得してきました。そうした立場だからこそシステマティックアプローチはただの理論ではなく、それは実践できるための技法であることが分かります。それを机上の空論と感じるのは、私からすれば単なる練習不足、理解不足です。
このようなことはその人の考え方ひとつです。3層構造モデルを使った説明になってしまいますが、使おうとする理論が難しいというのただの事象、事柄です。それに対してどう感じ、考えるのかはその人次第です。難しいから無理だと考えることもできれば、難しいから何度も練習しようと考えることもできます。それがその人の行動を生み出します。無理だと思えばその人はシステマティックアプローチを机上の空論だと捉えるでしょうし、何度も練習しようと考えれば体得できるまで練習するでしょう。私は後者でした。
私は普通にシステマティックアプローチを用いたキャリア面談ができます。試験対策のトレーニングでシステマティックアプローチをデモンストレーションできます。それは私が単に私が練習して習得したからです。ただそれだけです。
どんなことにおいてもそうです。目の前の出来事に対し、どう捉えるかはその人の自由です。その人の考え方ひとつで見え方は変わってきます。それが理論と実践のはざまにあるモノだと私は思います。