ITエンジニアへの5分間キャリア・コンサルティングやってます!

第550回 PMBOK第7版について考える

»

 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 最近はプロジェクトマネジメント関係の講座開発や研修登壇などを行っています。特に現在はPMP(Project Management Professional)の受験対策講座のリリース準備をしている関係で、PMBOKのことを深く学び直す機会が増えてきました。

 私がプロマネをやってたのは今から約15年前位までなので、その時と今とでは大きく流れも変わってきていることを再認識しています。そこで、今回は私がPMBOKを学び直す中で感じていることを書きます。

■予測型アプローチと適応型アプローチ

 今更感もありますが、PMBOKとは「プロジェクトマネジメント知識体系」と呼ばれ、アメリカのPMI(プロジェクトマネジメント協会)が約4年に一度発行しています。凡そPMBOKはプロジェクトマネジメントの世界標準に位置付けられており、その注目度も高いです。そんなPMBOKですが、現在は第7版がリリースされています。実はこの第7版ですが、これまでのPMBOKの概念を根底から変えるような版になっているのをご存じでしたか?

 元々、PMBOKというのは新しい版が出る際は過去の版をアップデートする形で登場していました。第2版は第1版のアップデート、第3版は第2版、第4版は第3版...という具合です。そうして登場した第6版は過去の版を踏襲した結果、約750ページにもなる巨大な書籍になってしまいました(実際、本当に大きくて重たいです...)。

 ところが、第7版になりPMIはPMBOKの方向性を大きく変えてきました。その結果、第7版のページ数は何と約250ページという1/3の分量まで圧縮されることになります。この第7版というのはこれまでのPMBOKの歴史を大きく変えることになった版で、これまで踏襲してきた過去の版のアップデートという形を取らず、別の概念で構築されることになりました。

 そもそも、PMBOK第6版までの考え方において、プロジェクトマネジメントは「計画ありき」で考えられている所がありました。未来に起こることでできる限り予測し、それを計画として盛り込み、その計画通りに実行させようとします。だから計画段階とても肥大しており、これが良くも悪くもPMBOKの特徴と言われてきました。

 こうした計画をベースに考えるアプローチを予測型アプローチと呼ぶのですが、このアプローチは未来に起こることをどれだけ予測し計画として盛り込めているかに力を注ぎます。そのため、想定内の出来事が起こる分には対応できるのですが、想定外の出来事(「不確実性」と呼びます)が起こってしまうと、対処が難しくなるという側面を持っていました。

 しかし、実際にプロジェクトを回していると不確実性な出来事は結構頻発します。。。そうした場合、プロマネが対応に苦慮しながらも機転を利かたり工夫したりしながら対応する訳ですが、こうしたことが続くとPMBOKそのものへの信頼性が薄れてきます。そうなってくると「所詮、PMBOKは学術的なモノだから実践では使えないよね」みたいな考えになってしまいます。実際、私もプロマネをやっていた時にこうしたことを感じたことがありました。

 PMBOK第7版はそうした声を反映してか、アプローチの方法を全く変えてきました。これまでに培ってきた予測型アプローチではなく、その場その場で起きた出来事に対して、最適解を考えて行動しようという考え方に変わったのです。これを適応型アプローチと呼ぶのですが、そのために必要な考え方として原則(プリンシプル)を重んじ、原則に基づいて価値を最大化させるために行動する手法に変えてきたのです。

■これからの時代に求められる考え方

 私自身、予測型アプローチでプロジェクトマネジメントをやってきた人間ですので、最初に適応型アプローチと言われてもストンと腹落ちはしませんでした。しかし、適応型アプローチのことを深く知るようになり、この考え方が今の時代にマッチしているのではないかと思うようになりました。

 第6版までの予測型アプローチはプロセスを重視しており、言うなればウォーターフォールの形でプロジェクトが進んでいきます。一方、第7版の適応型アプローチは原則や価値を重視するため、その場その場でトライアンドエラーを繰り返しながら前に進もうとするアジャイルの形でプロジェクトが進んでいきます。

 アジャイルは従来の開発手法であるウォーターフォール型開発の問題や課題を解決する手法として発生し発達してきました。それは、アジャイルソフトウェア開発宣言という形で一つの思想として確立されました。

アジャイルソフトウェア開発宣言

私たちは、ソフトウェア開発の実践
あるいは実践を手助けをする活動を通じて、
よりよい開発方法を見つけだそうとしている。
この活動を通して、私たちは以下の価値に至った。

プロセスやツールよりも個人と対話を、
包括的なドキュメントよりも動くソフトウェアを、
契約交渉よりも顧客との協調を、
計画に従うことよりも変化への対応を、

価値とする。すなわち、左記のことがらに価値があることを
認めながらも、私たちは右記のことがらにより価値をおく。

Kent Beck
Mike Beedle
Arie van Bennekum
Alistair Cockburn
Ward Cunningham
Martin Fowler
James Grenning
Jim Highsmith
Andrew Hunt
Ron Jeffries
Jon Kern
Brian Marick
Robert C. Martin
Steve Mellor
Ken Schwaber
Jeff Sutherland
Dave Thomas

(c)2001, 上記の著者たち
この宣言は、この注意書きも含めた形で全文を含めることを条件に自由にコピーしてよい。

 ITエンジニアの時分にもこのアジャイルソフトウェア開発宣言のことは知ってましたが、今ほど意識をしたことはありませんでした。しかし、今PMBOKを学び直す中で第7版の中核的な考えであるアジャイルに触れ、この考え方の深遠さがほんの少しだけ理解できたような気がしています。

 過去にサーバントリーダーシップのお話をしましたが、実はサーバントリーダーシップはアジャイルにおいて重要な概念の一つでありPMBOK第7版にも出てきます。そのように考えると、アジャイルという思想はソフトウェア開発の領域だけに留まらず多くの領域で活用できる普遍的な考え方のような感じがしています。

 こうしたことについてもこれからは積極的に関わり、自分なりの形を作っていきたいと思っています。

Comment(0)

コメント

コメントを投稿する