第502回 イメージを促すことの重要性
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
私は仕事柄キャリコンのトレーニングをさせてもらうことが結構あります。特に国家資格キャリアコンサルタントやキャリアコンサルティング技能検定のような試験が近くなると、面談ロールプレイをさせてもらう機会が多くなってきます。そうしたトレーニングの場では、私はキャリコンを実演することも心がけています。それは受験対策として伝えている内容を実際に見てもらうことで、具体的な方法をイメージしてもらうためです。
このようなイメージを促すことはキャリコンをする上では結構重要な事だったりするのですが、今回はこのイメージを促すことについて思うことを書いてみました。
■熟練者と初学者が行う傾聴の違い
キャリコンの試験には「関係構築力」という評価項目があります。これは、目の前の相談者に対して信頼関係を築くための振る舞いをしていたかという評価項目です。この項目の点数を上げるためには傾聴技法を使いながら相談者と信頼関係を高めるような質問や応答が求められます。
そのためには、過去のコラムでも書いたことがありますが、傾聴の段階を深めていく必要があります。具体的には相談者の身の上に起こっている事柄や事実を話してもらいながら、少しずつそこで感じたことや考えたことなどを話してもらいます。そして、その内容を受容や共感の姿勢を示していくことで、相談者のやろうとしたことを受け止めていきます。そうした応答を繰り返していくことで、相談者は「この人は私のことが分かってくれているなぁ」と感じてもらうようになり、それが信頼関係となっていきます。
このような傾聴を使った信頼関係の構築はキャリコンにおいては基礎中の基礎で、凡そほとんどのキャリコンは最初にトレーニングします。そのため、どのキャリコンでもある程度傾聴の技量は持っています。しかし、それでも熟練者が行う傾聴と初学者が行う傾聴とでは傾聴の深度が大きく違ってきます。。。例えば、相談者が転職の相談に来た設定を考えてみます。初学者のキャリコンの場合、
「職場の人間関係で悩まれていて、転職を考えられているんですね」
のように相談者の気持ちを汲み取るような傾聴をされるケースが多くなりますが、これを熟練者が行うと...、
「職場でお仕事をする中で気持ちが憂鬱になり、そのような状況が3カ月も続く中で働くことが辛くなられたんですね。でも、誰にも相談できず一人でずっと悩まれ、今日この場にいらしたんですね」
のように気持ちの細かい部分まで返してきます。実際のキャリコンにおいても熟練者が行うとこのような応答になってくるのですが、初学者はここまで深く相談者の状況を返すことができません。というか、そこまで意識が向かないのだそうです。
それでは、なぜ熟練者だとこうした傾聴ができるようになるのか? それは相談者の置かれている状況を自分事として捉えることができるようになるからです。もし自分が相談者と同じ状況ならどういう気持ちになるか、どういう感情の変化が起こるか。そうした中で何が辛く、何に我慢して、今この場に相談に来ているのかといったことなどを考えます。
初学者と熟練者の違いはこうしたイメージを自分の中に描き出すことができるか否かといった部分が大きいのではないかと思います。
■イメージを促すことの重要性
ですので、私はキャリコンのトレーニングをさせてもらう時は必ずイメージを促すことをお勧めしています。相談者の身の上に起こっていることや感じていることを自分事として自分の中にイメージしてもらいます。そのイメージがリアルであればリアルである程、
「職場の人間関係で悩まれていて、転職を考えられているんですね」
のような杓子定規的な言葉は出てこなくなり、もっと感情や気持ちに深く寄り添った言葉が出てくるようになります。私はイメージを促す力を持つことがキャリコンにおいて何より必要な事ではないかと思っています。
そして、このことはキャリコンだけに留まらず、すべての人間関係において言えることだと思います。「相手を慮(おもんばか)る」という言葉がありますが、相手を慮るというのは相手のことに思いを巡らせることです。それによって相手に対する配慮や思いやりといった心を育つようになります。それが相手との信頼関係を築く一つのきっかけになります。
そのためには、相手のことを強くイメージを促すことが必要です。それは相手への感度を高めていくことです。そのイメージがリアルであればある程、慮る力は強まり、相手のことを受け止める力となっていくのではないかと思います。
イメージを促すことは誰にでも簡単にできる一方で、とても強い効果を発揮します。もし興味のある方はぜひやってみてくださいね。