第74回 コーチングのススメ7
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
4Sコーチングのネタも7回目になりました。前回まではSkillについて、「場」「流れ」「聞く」スキルまで紹介しましたので、今回から「話す」スキルについて考えてみたいと思います。
■コーチングにおける「話す」ということ
まず最初に、「聞く」スキルのときと同様に、コーチングにおける「話す」ということも考えてみます。日常会話における「話す」という行為は、概ねこのような意図があるのではないでしょうか。
日常生活における「話す」という行為
自分の考え、意見、想いを相手に伝えることで、自分の意思を相手に分かってもらおうとする行為
一方、コーチングにおける「話す」という行為には以下のような意図があります。
コーチングにおける「話す」という行為
コーチングを進める上で、クライアントに考えや気づきを促す行為
この2つの違いですが、前者が「自分」のために話すことに対して、後者は「相手」のために話しています。これは、コーチングにおける「話す」という行為が、コーチのためではなく、クライアントのために行われていることを表しています。
■「話す」スキルの構造
このような「話す」という行為ですが、これをスキルとして考えた場合、4Sコーチングでは以下のような構造になっていると考えます。
話す内容 + 話す方法 ⇒ 話す
実は、この考え方は過去にこのコラムで少し紹介したことがあります※。このときは、話すということを「話す内容」と「話す方法」に分け、効果的に相手に伝える方法を紹介しましたが、4Sコーチングでは「話す方法」「話す内容」に対し、以下のようなスキルを使います。
※紹介したことがあります:詳細は、『第20回 四方山話(3) コミュニケーションをキャリアっぽく考えてみる』をご参照ください。
話す方法:発言内容をクライアントに伝える話し方のこと
- 質問のスキル … クライアントに発言内容を問いかける話し方
話す内容:クライアントに伝える発言内容のこと
- 考察のスキル … クライアントに考えを促す発言内容
- 承認のスキル … クライアントの発言を認める発言内容
- 意見のスキル … コーチの意見を述べる発言内容
4Sコーチングでは、クライアントに話す内容を「考察」、「承認」、「意見」いずれかのスキルで考え、それを「質問」のスキルを使ってクライアントに話します。そのため、話す内容のスキルはユニットにおける検討シーン、話す方法は発言シーンで使うことになります。これを、図に表すと以下のようになります。
■話す方法 ~質問~
それでは、話す方法から考えてみます。話す方法では「質問」のスキルが使われますが、 「質問」とは発言する内容をクライアントに問い掛け(質問)の形で伝える話し方のことをいいます。
通常、人は何か質問をされると、その質問に対する答えを頭の中に思い巡らし、考え、答えを導き出そうとします。このことを利用し、コーチングではクライアントに考えを促すような質問をたくさん投げかけます。そうすると、クライアントはコーチの質問に答えようと、普段なら考えもしないようなことも考えだします。その積み重ねによって、クライアントに気づきが促されます。よくコーチングを受けた人の中には、「コーチングでいろいろなことを考えさせられ、脳が疲れてしまった」と感じられることがあります。それくらい、クライアントはコーチングの最中、ずっと脳を働かせて考えてもらうようにします。
このような「質問」ですが、クローズド・クエスチョン、オープン・クエスチョンという2種類の方法があります。
- クローズド・クエスチョン(閉じられた質問) … 限定された範囲の中から回答を求める質問(回答内容は、クライアントによって一意に決まります)
- オープン・クエスチョン(開かれた質問) … 限定されない範囲の中から回答を求める方法(回答内容は、クライアントによって一意に決まりません)
これらはそれぞれ期待される効果が違います。そのため、コーチがクライアントに質問をする場合は、それぞれの質問でどのような効果が期待できるかを意識した上で行うようにします。
■クローズド・クエスチョン
クローズド・クエスチョンとは、限定された範囲の中からクライアントに回答を求める質問の方法です。コーチングの文献によっては、クローズド・クエスチョンを「はい」か「いいえ」で回答できる質問方法と定義されている場合がありますが、4Sコーチングでは回答内容がクライアントによって一意に決まる質問を、すべてクローズド・クエスチョンと呼んでいます。例えば、以下の例はすべてクローズド・クエスチョンです。
クローズド・クエスチョンの例
- 「あなたは男性ですか? 」(はい、いいえのどちらかに決まる)
- 「今、何時ですか? 」(時間が一意で決まる)
- 「これは何ですか? 」(物が一意で決まる)
- 「ヨーグルトを食べたのは誰ですか? 」(人物が一意で決まる)
- 「13:00はどこにいましたか? 」(場所が一意に決まる)
- 「今、100円玉を何枚持っていますか? 」(枚数が一意に決まる)
コーチがクライアントにクローズド・クエスチョンを使う場合、クライアントにある事実を認識してもらう場合に行われます。例えば、コーチと会話を続けていくうちに、クライアントの口からふとした何気ない一言が、非常に大きな意味をもつことがあります。そのような言葉は、クライアント自身も意識していない場合があり、それをクローズド・クエスチョンによって気づいてもらったりします。
クローズド・クエスチョンを作る場合、聞こうとするキーワードに対してクローズド・クエスチョンの質問要素を組み合わせることで作成します。クローズド・クエスチョンの質問要素には以下のようなものがあります。
質問要素(クローズド・クエスチョン)
- Yes/No … 真偽を問う
- 誰(who) … 人物を問う
- 何(what) … 物を問う
- どこ(where) … 場所を問う
- いつ(when) … 時間を問う
- 数量(number) … 数を問う
クローズド・クエスチョンの作り方例(キーワードを「海」しています)
- 海 + Yes/No → 赤色の海があるのを知っていますか?
- 海 + 誰(who) → 海には誰と一緒に行きたいですか?
- 海 + 何(what) → 海水が塩からいのは何が原因でしょう?
- 海 + どこ(where) → 自宅から一番近い海はどこですか?
- 海 + いつ(when) → 海開きは、毎年いつ頃でしょうね?
- 海 + 数量(number) → 地球上に海はいくつありますか?
■オープン・クエスチョン
オープン・クエスチョンとは、限定されない範囲の中からクライアントに答えを求める質問の方法です。コーチングの文献によっては、5W1Hを問う質問方法をオープン・クエスチョンと定義されている場合がありますが、4Sコーチングでは、5W1Hを問う質問であっても、回答内容がクライアントによって一意に決まる質問はクローズド・クエスチョンに位置づけられます。
オープン・クエスチョンの例
- 「どうして、この仕事を選んだのですか? 」(どうして(理由)に対する回答は、人それぞれ異なる)
- 「どのようにして、今の地位まで登りつめたのですか? 」(どのように(方法)に対する回答は、人それぞれ異なる)
- 「あなたの思うところを、聞かせてください」(思う(思考)に対する回答は、人それぞれ異なる)
コーチがクライアントにオープン・クエスチョンを使う場合、クライアントに何かしらの考えや創造(イメージ)を促す場合に行われます。また、オープン・クエスチョンは回答が一意に決まらないため、クライアントの考え方によってさまざまな回答が生み出されます。それは時として画期的な考え方、創造性の満ちたモノになることがあります。それをコーチが拾い上げることで、クライアントが想いもよらなかったモノを形づくることができます。
オープン・クエスチョンを作る場合、クローズド・クエスチョンと同様に、聞こうとするキーワードに対してオープンクエスチョンの質問要素を組み合わせることで作成します。オープン・クエスチョンの質問要素には以下のようなものがあります。
質問要素(オープン・クエスチョン)
- どうして(why) … 理由を問う
- どのように(how) … 方法を問う
- 思う、考える(think) … 思考を問う
オープン・クエスチョンの作り方例(キーワードを「山」にしています)
- 山 + どうして(why) → どうして、山は多くの人に愛されるのでしょうか?
- 山 + どのように(how) → あなたはどのようにして山に魅せられたのですか?
- 山 + 思う、考える(think) → 山にゴミを捨てられている事実をどう思いますか?
■質問してみよう
今回は、「話す」スキルから、話す方法について「質問」のスキルを紹介しました。「質問」のスキル自体はそれほど目新しいモノではなく、普段の日常会話でもよく使われています。しかし、これを意識して使うことで、会話をコントロールしている実感が湧いてくると思います。「自分がこのような質問をしたら相手はどのような言葉を返すのか? 」こんなことを考えながら会話ができるようになってくると、自然とユニットの繋がりや流れを意識できるようになります。それは、もうあなたの脳がコーチ脳としてでき上がってる証拠です! 興味のある方は、ぜひ、やってみてくださいね。
次回は「話す内容」の1つ目のスキルである「考察」を紹介していきたいと思います。