第75回 コーチングのススメ8
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
現在は4Sコーチングの「話す」スキルについて紹介しています。前回は話す方法について「質問」のスキルをお話ししましたので、今回は話す内容の「考察」のスキルについてご紹介していきたいと思います。
■話す内容 ~考察~
話す内容とはクライアントに伝える発言内容のことですが、この発言内容を考える上で「考察」「承認」「意見」のスキルを使います。今回紹介する「考察」とは、クライアントに何かしらの考えを促すような発言内容のことで、この内容を「考察」のスキルを使って考えます。
4Sコーチングには、主体のスライドと客体のスライドという2種類の考察のスキルがあります。主体とは「みるもの」を表し、客体とは「みられるもの」を表します。この「みるもの」と「みられるもの」の捉え方(視点)を自由自在に変化させることが、考察のスキルです。
普段、私たちは自分自身が意識している、意識していないに関わらず、ある程度偏ったモノの見方をしています。それによって、自分自身が気づかない、気づけないことがたくさんあります。そこに、この考察のスキルを使うことで、普段気づかない、気づけないことを一つずつ気づかせていくことができるようになります。
コーチングを行うことで気づきを得られたという話をよく聞きますが、これは普段なら到底考えもしないことを、コーチによって深く考えさせられることで気づきが得られるというしくみになっています。
■主体のスライド
Wikipediaによると、主体とは「感覚を受け取るものであり、意識である」と定義されています。これを4Sコーチングに置き換えると、クライアントの視点となります。主体のスライドでは、対象物(キーワード)の状態はそのままにしておき、クライアントの視点(主体)だけをスライドさせます。例えば、次の例をみてください。
- 「彼はいつも遅刻するなぁ! まったく、こっちのことも考えて欲しいよ! 」(主体は自分自身にあり、自分の意識で物事を考えようとしています)
- 「彼はいつも遅刻するなぁ! 彼は何を考えて遅刻をしてるんだろうなぁ? 」(主体は彼にあり、彼の意識で物事を考えようとしています)
- 「彼はいつも遅刻するなぁ! 一般的には彼の態度はどう評価されるんだ? 」(主体が一般(第三者)にあり、第三者の意識で物事を考えようとしています)
この例のように、誰の視点で考えるかによって、同じ人が考えたとしても違う答えになることがあります。これを主体のスライドといいます。
主体のスライドを作るためには、話そうとするキーワードとスライドのレベルを組み合わせることで質問の内容を作り出します。このスライドのレベルには以下のようなモノがあります。
スライドのレベル
- 人称レベル … 視点を「人」に向ける
- 原因レベル … 視点を「原因」に向ける
- 結果レベル … 視点を「結果」に向ける
人称レベルとは、キーワードを人称のレベルでスライドさせる方法で、一人称、二人称、三人称のレベルに分かれています。人が物事を考えるとき、通常は一人称(自分)の視点で物事を考えます。これを二人称や三人称の視点へ強制的にスライドさせることで、クライアントに新しいモノの見方を促します。
- 「クライアント自身だったら…」(一人称のレベル)
- 「相手の立場だったら…」(二人称のレベル)
- 「第三者だったら…」(三人称のレベル)
少し分かりづらいと思いますので、人称レベルを使った主体のスライドの例をあげてみます。
主体のスライド(人称レベル)の例(キーワードを「電話」しています)
- 電話 + 一人称
→ (オープン・クエスチョン)「あなたにとっての電話の重要性を教えてください」
→ (クローズド・クエスチョン)「あなたは、本当に電話が必要なのですか? 」
- 電話 + 二人称
→ (オープン・クエスチョン)「電話が喋れるとしたら、あなたにどんなアドバイスをするでしょうか? 」
→ (クローズド・クエスチョン)「壊れている電話が、寂しいといっているように感じませんか? 」
- 電話 + 三人称
→(オープン・クエスチョン)「あなたの電話料金を、親御さんはどう思うでしょうね? 」
→(クローズド・クエスチョン)「あなたの電話の通話時間は、一般的に長い方ではないですか? 」
原因レベルとは、キーワードを原因のレベルでスライドさせる方法で、自己原因、他者原因、環境原因のレベルに分かれています。これは、強制的にクライアントの視点を原因に向けさせることで、キーワードが発生した起因を考えさせることを狙っています。
- 「あなたに原因があるとしたら…」(自己原因のレベル)
- 「他人に原因があるとしたら…」(他者原因のレベル)
- 「環境に原因があるとしたら…」(環境原因のレベル)
この原因レベルについても、例をあげてみます。
主体のスライド(原因レベル)の例(キーワードを「電話が繋がらない」にしています)
- 電話が繋がらない + 自己原因
→ (オープン・クエスチョン)「電話が繋がらない原因があなた自身にあるとしたら、それは何だと思いますか? 」
→ (クローズド・クエスチョン)「あなたが電話番号を掛け間違えたのが、電話が繋がらない原因ではないですか? 」
- 電話が繋がらない + 他者原因
→(オープン・クエスチョン)「電話が繋がらない原因が他の人にあるとしたら、それは何だと思いますか? 」
→(クローズド・クエスチョン)「相手が携帯電話の電源を切っているのが、電話が繋がらない原因ではない ですか? 」
- 電話が繋がらない + 環境原因
→(オープン・クエスチョン)「電話が繋がらない原因が環境にあるとしたら、それは何だと思いますか? 」
→(クローズド・クエスチョン)「電波の届かない範囲に相手がいるのが、電話が繋がらない原因ではないですか? 」
結果レベルとは、キーワードを結果のレベルでスライドさせる方法で、プラス、マイナスのレベルに分かれています。これは、強制的にクライアントの視点を結果に向けさせることで、キーワードの未来を考えさせることを狙っています。
- 「良い方向だったら…」(プラスのレベル)
- 「悪い方向だったら…」(マイナスのレベル)
結果レベルについても、例をあげてみます。
主体のスライド(結果レベル)の例(キーワードを「ホウ・レン・ソウ」にしています)
- ホウ・レン・ソウ + プラス方向
→ (オープン・クエスチョン)「ホウ・レン・ソウがうまく行くと、状況はどう変化しますか? 」
→ (クローズド・クエスチョン)「ホウ・レン・ソウがうまく行けば、状況は改善しますね? 」
- ホウ・レン・ソウ + マイナス方向
→ (オープン・クエスチョン)「ホウ・レン・ソウがうまく行かないと、どのような状況になりますか? 」
→ (クローズド・クエスチョン)「ホウ・レン・ソウがうまく行かないと、状況は悪化しますね? 」
■気づき促そう!
今回は話す内容の「考察」のスキルから主体のスライドという方法を紹介しました。この方法は次回紹介する客体のスライドとともに、コーチングでは非常によく使われる代表的なスキルです。こういったスキルは普段使うことがないため難しく感じるかもしれませんが、訓練することで使えるようになってきます。実際、プロのコーチは訓練によってこの手の質問を作れるようなスキルを身に付けています。
コーチングをやってみたいなぁと思われる方は、普段の会話に主体のスライドを取り入れてみてください。そうして、相手の反応をじっくり観察してください。もし、あなたの質問によって相手が何かしらの気づきを得られたとき、あなたは相手にコーチングのスキルを使ったことになります。それは、あなたに何かしらの変化を与えてくれるキッカケになるかもしれません。興味のある方はチャレンジしてみてくださいね。