第73回 コーチングのススメ6
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
現在、4SコーチングのSkillについて紹介しています。前回までに「場」「流れ」のスキルを紹介しましたので、今回は会話の主要素である「聞く」スキルについて考えてみたいと思います。
■コーチングにおける「聞く」ということ
日常会話における「聞く」という行為にはどのような意味があるでしょうか。いろいろな考え方があるとは思いますが、概ね以下のような回答になるのではないでしょうか。
日常生活における「聞く」という行為
相手の話に聞き入り、相手の考え、意見、心情を理解し、感情を示すこと
それに反して、4Sコーチングにおける「聞く」という行為には以下のような思惑があります。
4Sコーチングにおける「聞く」という行為
コーチングを進める上で、クライアントが発する情報を収集する行為
ここでいう「クライアントが発する情報」は、大きく分けると3つあります。
クライアントが発する情報
- 言葉
- 仕草
- 感情
つまり、クライアントが発する「言葉」「仕草」「感情」を聞き取ることを、4Sコーチングでは「聞く」と呼んでいます。
コーチはクライアントが発する「言葉」「仕草」「感情」を聞き取り、それらの情報とコーチングの戦略※とを照らし合わせて、どのような言葉をクライアントに返せば、がクライアントが目標に近づけるかを考えます。コーチにとって「聞く」という行為は、いかにしてクライアントが目標に辿りつけるか、その情報を収集することにあるのです。
※コーチングの戦略:詳細は、Strategy(戦略)編でご紹介します。
■「聞く」スキル
それでは、コーチングにおける「聞く」という行為で必要なスキルを考えてみます。「聞く」とは文字どおり相手の話を聞くことですが、そのために必要なことは3つあります。
「聞く」スキル
- 相手を受け入れる態度(受容)
- 相手の感情を共有する態度(共感)
- 相手の回答を待つ態度(待機)
相手を受け入れる態度(受容)とは、クライアントの話を否定せず、そのままの言葉で相手の話を聞き取ることです。この「そのままの言葉」は中立の立場※に立つことで実現させます。
相手の感情を共有する態度(共感)とは、クライアントがみせる喜怒哀楽の感情に対して同調することです。このとき、コーチは中立の立場※に立ちつつ相手の感情には同調するという、少し難しい立ち位置に立つことが求められます。
相手の回答を待つ態度(待機)とは、クライアントは何かしらの発言をするものとして、その回答を待つことです。クライアントはコーチの質問によって答えに窮することがあります。そのような場合であっても、クライアントは必ず何かしらの回答をするものだと信じ、その間一言も話さず、じっとくクライアントの回答を待ちます。
※中立の立場:詳細は、『第70回 コーチングのススメ3』をご参照ください。
受容と共感については、一般的な傾聴のスキルと同じですので、訓練されている方は多いかもしれません。ただ、待機だけは慣れていない人だと恐らく3分も持たないと思います。「聞く」スキルは普段の会話の中でも十分練習することができますので、聞くことが苦手だと思われる方はぜひチャレンジしてみてください。
■聞いた後はどうするのか?
「聞く」スキルによって、クライアントの情報を入手したとしましょう。そうすると、次はその情報はどうすればよいかという問題が出てきます。コーチングはクライアントが目標に辿り付けるよう、戦略に基づいて行われますので、その戦略から考えられる言葉をコーチがクライアントに返します。そのために必要なこととして、ユニット※の繋げ方(=会話の流れ)をここで考えておきます。
相手から聞き出した言葉からどうするか?
- 話題をさらに掘り下げてみる(深化)
- 話題をクライアントに委ねてみる(委譲)
- 話題をこちらから振ってみる(提示)
※ユニット:詳細は、『第72回 コーチングのススメ5』をご参照ください。
このユニットの繋げ方である「深化」「委譲」「提示」について、具体的にどのような言葉で返すのかについては、「話す」スキルでご紹介します。ここでは、クライアントの言葉を聞いて、
「この話、もっと掘り下げた方がいいな」(深化)
「これはクライアントに話を広げてもらった方がいいな」(委譲)
「少し違う話題をこちらから振ってみよう」(提示)
のように考える所までをイメージしていただければ結構です。
■「聞く」こととシーン、スキルの関係
ここまで「聞く」スキルについて紹介してきましたが、「聞く」スキルの最後にシーン※との関連性をお話しします。
※シーン:詳細は、『第72回 コーチングのススメ5』をご参照ください。
会話の要素である「聞く」「話す」と会話を構成するユニット内のシーンとの関連は前回のコラムでお話ししましたが、ここにスキルを絡めると、以下のようになります。
こうやってみると、聞くという行為には聞取シーンで「受容」「共感」「待機」のスキルを使い、検討シーンの前半で「深化」「委譲」「促進」のスキルを使うことが分かります。この図の灰色の部分は「話す」スキルに関連する内容ですのでここでは伏せていますが、話すスキルについても同じようにスキルがあります。
このように「聞く」という行為を一つとっても、コーチングではこれだけのスキルを使います。普段の会話ではこのようなことを意識することはないと思いますが、コーチングの最中、コーチは常にこのようなことを考えながらクライアントと会話をしています。これは、一日二日で身につくようなスキルではありませんが、継続して訓練することで、自然にこのような考え方ができるようになってきます。
■コーチングで聞いてみる
とはいえ、このエッセンスは普段の日常会話でも十分使うことができます。相手と会話をする中で、受容的に、共感的に接することはできるでしょうし、相手の発言を待つことも(がんばれば)できると思います。また、相手の話からどのような言葉を返せばいいかと考え、深化、委譲、提示を使い会話をコントロールすることもできると思います。このようなことは体験によって身についていくものですので、もし気になるスキルがあれば、ぜひ実践で試してみてください。
それでは、次回からはコーチングの「話す」スキルについて少しずつご紹介していきたいと思います。