第33回 四方山話(15) 未経験がゆえに
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
ITエンジニアであれば、新たな案件に就くときに経験がない領域の対応しなければならないことがあります。今回はITエンジニアの未経験について考えてみたいと思います。
■未経験であることをプロジェクトに伝えるタイミング
未経験の仕事をすることになった場合、最初に未経験であることをステークホルダー※に伝えておくことはプロジェクトを遂行する上でリスクを下げることにつながります。しかし、この事実をどのタイミングで伝えるかによってプロジェクトとして対応の仕方が変わってきます。
※ステークホルダー:プロジェクトを遂行する上で関係する人のことで、利害関係者と訳されます。ここではプロジェクトのリーダーやメンバーを指しています。
プロジェクトがスタートする前、プロジェクトメンバーを集めている段階に未経験であることを伝えることができれば、プロジェクト・マネージャは未経験であることのリスクを踏まえた上でそのITエンジニアをプロジェクト・メンバーとして招集していることになるので、それほど気にする必要はないでしょう。
しかし、プロジェクトがスタートした後に伝えられた場合。例えばキックオフ※のタイミングで未経験である事実が伝えられたりすると、ちょっと問題が出てきます。未経験の程度にもよりますが、その経験がなければ仕事が進められない場合、これはリスクとしてすぐさま対応が必要になります。このようにプロジェクト開始後に未経験であることを伝えることは、それ自体がプロジェクトのリスクとなり対応を検討しなければならず、そこにプロジェクトの工数を割くことになります。
これらのことから、未経験であることをプロジェクトに伝えるタイミングは、原則としてプロジェクト(もしくはその作業)が始まる前に伝えておくべきでしょう。
※キックオフ:プロジェクトの立ち上がりに行うプロジェクトメンバーの集まりのこと。キックオフ・ミーティングともいいます。
■未経験であることの伝え方
それでは次に、未経験であることの伝え方を考えてみます。未経験であることを伝える場合、どのような伝え方になるでしょう?
「100人月程度の案件に対するプロジェクト・マネージャの経験がありません」
「生産管理に関する業務知識がありません」
「UMLを使った要件定義の仕方が分かりません」
「Catalyst※のL3スイッチは触ったことがありません」
「struts2※のフレームワークの開発経験がありません」
※Catalyst:Cisco Systems社が製造販売しているネットワークスイッチのこと。ネットワークスイッチにおける事実上のデファクトスタンダードといえる製品です。
※struts2:Apache Struts(アパッチ・ストラッツ)のことで、オープンソースで開発が進められているJava Webアプリケーションフレームワークです。
これらの伝え方は、伝えるタイミングによってはもう少し細かく、もしくは粗く伝えることはあるでしょうが、伝え方としては間違っていないように思います。ただ、これだけだと伝わっていないことが一つあります。それは…、
未経験であることを伝えて、あなたはどうしたいのか?
です。経験の浅いITエンジニアほど多い傾向があるように思いますが、未経験である事実を伝えることに意識が集中してしまい、そこで話が完結してしまう場合が見受けられます。これは、未経験である事実をステークホルダーに伝えた上で、ステークホルダーに判断をゆだねようすることを意味しています。実際にはそのようなケースもありますが、もし、未経験の状態で仕事をしようとするのであれば、そこからもう一歩踏み込んで、あなたはどうしたいのかを未経験であることと一緒に伝えるべきです。
「100人月規模のプロジェクト・マネージャ経験はありませんが、20人月程度のプロジェクトを管理した経験はあり、進ちょく管理、品質管理、要員管理の経験はあります」
「生産管理の業務知識はありませんが、ビジネスキャリア検定※の生産管理プランニング2級(生産システム・生産計画)の資格は持っており、生産管理の概要は理解しています」
「UMLによる要件定義の経験はありませんが、DOA※にもとづいた要件定義の経験はあります」
「CatalystのL3スイッチは触ったことがありませんが、Ciscoのルーターなら触ったことがあります」
「struts2のフレームワークを使ったことはありませんが、今度研修を受講し知識を習得する予定です」
※ビジネスキャリア検定:国が整備した「職業能力評価基準」に準拠した事務系職務(人事・人材開発、総務、経理、営業等)に関する公的資格です。事務系職務の業務知識を補完する意味で、非常に役立つ資格の一つです。
※DOA:Data Oriented Approach(データ中心アプローチ)のこと。業務で扱うデータの構造や流れに着目し、システム設計を行う手法。企業内の統一的なデータベースを作成し、データを一元化することで個々のシステム設計をシンプルにするというアプローチです。
この例では、経験がないことを何か別のことで補おうとしていますが、この例以外に、
- 経験がある領域だけ対応させてもらう
- 経験のない領域についてサポートを依頼する
などの考え方もあるでしょう。このように、ただ単に未経験であることを伝えるだけではなく、未経験だからこそどうやってプロジェクトに関与するのかを伝えることこそが大事なことなのではないかと筆者は考えます。
■未経験が故に
ここまで、未経験の場合に考えなければならないことを、未経験であることを伝えるタイミングと内容から考えてみました。
しかし、もう一つ未経験だからこそできることがあるように思います。それは、分からないことをどうやって対処するか? その対処方法をアピールすることです。
この人は分からないことがあったときにどうするのか? これはある意味、リスク管理につながります。また、対処方法をみれば、この人の問題解決能力が分かりますし、アピールの仕方でコミュニケーション能力を計ることもできます。
このように、未経験が故に未経験というネガティブな情報を使って、より多くのポジティブな情報を伝えることもできるのです。自分のキャリアを実現させるためには、こういった考え方をもつことも必要なのではないかと思います。