第32回 四方山話(15) キャリアを考えないとどうなるか
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
このコラムではITエンジニアのキャリアについて語らせてもらっています。今回はちょっと趣向を変えて、キャリアを考えないとどうなるのかを考えてみたいと思います。
■キャリアを目指す動機
ITエンジニアが自身のキャリアを考え、目指すキャリアに近づくために仕事や自己啓発にいそしみ、そのキャリアに到達する。この場合、ITエンジニアには目指すキャリアに到達したいという明確な目標があり、その目標を実現させるために行動します。さらにいえば、目指そうとするキャリアに到達することで、ITエンジニアには得るモノがあります。それは、お金かもしれません。働きがいのある仕事という職位や役割かもしれません。それらに価値を見いだし目標にするからこそ、目指そうとするキャリアが明確になるのであり、それがキャリアを目指す動機になります。
■キャリアの「身に付き方」
それでは、次にキャリアがどのようにして身に付いていくものなのかを考えてみます。一般的に考えれば、キャリアはその人の職歴とイコールといってもいいでしょう。データベース技術者の仕事を10年間やってきたのであれば、データベース技術者として(10年の)キャリアがあるといえるでしょう。Androidアプリ開発の仕事を2年間やってきたのであれば、Androidアプリの開発者として(2年の)キャリアがあるといえるでしょう。しかし、プロジェクト管理の経験のないITエンジニアがプロジェクト・マネージャのキャリアがあるとはいえないはず※です。
※キャリアがあるといえないはず:このような場合、仕事に類似する経験や教育研修によって業務経験に近い擬似的なキャリアを身に付け、実際のキャリアに近づけるやり方もあります。
このように考えれば、キャリアと職歴は関連性がある、いい方を変えると、職歴がその人のキャリアを作り出しているともいえます。
《仕事に類似する経験の例》
- Androidアプリの自作
- OJTによる社内業務の経験
《教育研修の例》
- Javaを使ったWebアプリケーションプログラミングの研修
- ワークショップによる体験的業務経験
■キャリアを考えない仕事のやり方
キャリアを目指す動機、キャリアの身に付き方が分かったところで、キャリアを考えない仕事のやり方を考えてみます。キャリアを目指す動機を持つことがキャリア形成につながるのであれば、キャリアを考えないことは目指すキャリアを持たないということになります。それは、自分がこの先どうありたいかと考え仕事をするのではなく、目の前にある仕事だけを考え、日々の仕事をするようなイメージになるでしょう。ただし、ここで注意したいこととして、
「私はこの会社に骨を埋めるつもりだから、どんな仕事でもやるのでキャリアのことは考えなくてもいいよ」
このような考え方はキャリアを考えていないことにはなりません。一見すると、どのような仕事にもより好みせず引き受ける姿はキャリアを考えていないように見えますが、この考え方の根底には定年まで会社に居続けるというキャリアがあり、そのキャリアに到達するためにより好みをせずに仕事をしているととらえられます。従って、(定年まで同じ会社に居続けるので)何も考えずに仕事をすることと、キャリアを考えずに仕事をすることとは違います。
あくまで、キャリアを考えない仕事のやり方とは、目指すキャリアを持たず、日々、目の前にある仕事を行う仕事のやり方です。ただ、本人がこのように考えていても、キャリア=職歴である以上、その仕事によって何かしらのキャリアはおのずと当人が望む望まないにかかわらず身に付いてきます。
目標になるキャリアがあってもなくても、仕事を続けている以上、その人には必ず何かしらのキャリアは身に付いてきます。だとすると、キャリアを考えないで仕事をするということは、これまでの仕事によって身に付いたキャリアがどのようなキャリアであっても受け入れることを意味しています。
将来のことを考えず、ただ愚直に目の前の仕事だけを考える。そうやって築き上げられたキャリアは立派なモノと思いますし、それを当の本人が受け入れられるのであれば何の問題もありません。しかし、そのキャリアが何かしらの理由で気に入らないとしても、そのキャリアを受け入れなければなりません。つまり、
目の前の仕事をする
↓
仕事で経験した内容がキャリアとなる
↓
何かのタイミングで、今の仕事が終わってしまった!
↓
新しい仕事は、以前の仕事で経験した内容に基づいて決められる※
↓
その仕事を受け入れられる
このように考えられることがキャリアを考えない仕事のやり方だと筆者は考えます。
※決められる:一般的に、新しい仕事を探す場合、前職の経験を生かす仕事に就くことになります。そうでない場合は未経験での仕事になりますが、年齢が上がってくると未経験での仕事が取りにくくなる可能性が高くなります。
■キャリアを考えないことの功罪
キャリアを考えないということは、新しい仕事が自分にとって不本意な内容であったとしても、それを受け入れることです。この考え方はITエンジニア個人にとっては不利益のようにも見えますが、企業には歓迎される傾向にあります。それは、キャリアを考えない仕事のやり方が、会社に文句を言わず、会社の指示で仕事をし続ける社員の姿そのものだからです。
だからこそ、多くの会社は社員であるITエンジニアのキャリアを真摯(しんし)に考え、各社独自のキャリアプランを設けるようにしています。そして、日々の仕事と会社が望むキャリアプランの整合を取ることで、社員は目の前の仕事に集中でき、会社が与える新しい仕事に就いていても、会社が敷いたキャリアプランを登っていけるようになっています。これが、社員にとって定年まで会社に居続けるキャリアにつながります。
しかし、もし社員のキャリアプランを考えていない会社でキャリアを考えない仕事のやり方をしていたらどうなるか? 恐らく、そのITエンジニアは一貫性のない場当たり的なキャリアになることでしょう。そして、そのITエンジニアはそのようなキャリアを受け入れて日々仕事をしているのです。
■あなたを守るのは誰?
これがどういうことになるのか? 筆者はITエンジニアの間口を狭くしているように感じます。もちろん、間口が狭くなっているだけなので、いきなり仕事がなくなることはないでしょう。しかし、その間口は歳を追うごとにどんどん狭くなっていき、人によっては間口がほとんど開いていない状態になるかもしれません。
その状態になったとき、本当に会社はあなたを助けてくれますか?
助けてもらえないとしたら、誰があなたを守ってくれますか?
キャリアを考えるということは、あなた自身を守ることにつながると筆者は考えます。