第6回 あなただけのキャリアを設計する(2)
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
前回より「意思決定」の段階に入りました。意思決定には3つのフェイズがありましたね。思い出してください。
■意思決定の3フェイズ
第1フェイズ:目指すキャリアを考える
第2フェイズ:目指すキャリアに必要な能力・スキルを考える
第3フェイズ:目指すキャリアに就く方法を考える
前回は第1フェイズである「目指すキャリアを考える」ことをお話ししました。今回はその続きである第2フェイズ「目指すキャリアに必要な能力・スキルを考える」に進みましょう。
第1フェイズでは目標とするキャリアが定まりました。言い方を変えれば、あなたが本当に望む具体的な仕事が何であるかを明確にしたといってもよいでしょう。
いきなりですが、ここで質問です! あなたは、今この瞬間からその“具体的な仕事”をすることになりました。あなたはその仕事を遂行することができるでしょうか?
………………
この質問に対して、
「もちろん! 何の問題もないです!」
と言い切れるあなたにとっては第2フェイズは不要です。次の第3フェイズに進みましょう。
「いきなりやれってのは、いくらなんでもちょっとつらいよ……」
「これから知識や技術を身に付ける段階なんで、今すぐってのは無理だねぇ……」
と思われているあなた! そんなあなたのために第2フェイズがあるんです! 安心してください♪
そもそも第2フェイズは、目指すキャリアに必要な能力やスキルが何かを考えることが目的ですので、「何の問題もない」と答えられるあなたはすでにその目的が達成できていると捉えてよいでしょう。
しかし、それ以外の場合は、あなたが望む仕事を遂行する上で何かしらの能力やスキルが不足しているはずです。ここではその不足しているモノを補う術を考えます。
それでは、不足しているモノとは何だと思いますか? いろいろな考え方があるとは思いますが、筆者は以下の2点が必要だと考えます。
■目指すキャリアに必要な能力・スキル
a.汎用的能力・スキル
b.実務的能力・スキル
「a.汎用的能力・スキル」とは、目指すキャリアを業種や職種で捉えた場合に最低限必要だろうと思われる汎用的な能力・スキルのことを言います。
この汎用的能力・スキルを習得するための効果的な方法は、資格取得、研修の受講などがあげられます。ここでは汎用的能力・スキルの習得に有効な資格を一部ご紹介しましょう。
■汎用的能力・スキルの習得に有効な資格
《業務知識》
・ビジネスキャリア検定
・日商簿記検定試験《設計能力》
・基本情報技術者試験
・応用情報技術者試験
・UMLモデリング技能認定試験
・OMG認定UML技術者資格試験(OCUP)《コーディング能力》
・Java関連試験
・Microsoft関連試験
・PHP技術者認定試験
・Ruby技術者認定試験
・Android技術者認定試験《テスト実施能力》
・JSTQB認定テスト技術者資格
これらの資格は本当にごく一部ですが、ここでの目的はあくまで汎用的能力・スキルの習得であり、資格の取得が目的ではないことに注意してください。
例えば、《設計能力》にある基本情報技術者試験、応用情報技術者試験を見てください。情報処理技術者試験は共通キャリア・スキルフレームワークに基づいたIT人材像を国が認定するための試験でしたよね(忘れた人は「第4回 あなたが望む仕事とは?」にダッシュです)。
これをもう少し細かく見ると、試験要項にはこんなことが書かれています。
2.試験の対象者像
(2)基本情報技術者試験(p.2)
(期待する技術水準)
2.システムの設計・開発・運用に関し,担当業務に応じて次の知識・技能が要求される。
② 上位者の指導の下に,システムの設計・開発・運用ができる。
③ 上位者の指導の下に,ソフトウェアを設計できる。
④ 上位者の方針を理解し,自らソフトウェアを開発できる。(3)応用情報技術者試験(p.3)
2.システムの設計・開発・運用に関し,担当業務に応じて次の知識・技能が要求される。
① アーキテクチャの設計において,システムに対する要求を整理し適用できる技術の調査が行える。
……(中略)……
④ 情報システム,ネットワーク,データベース,組込みシステムなどの設計・開発・運用・保守において,上位者の方針を理解し,自ら技術的問題を解決できる。
ここからいえることとして、これらの試験では上記のような設計知識が問われることが分かります。ということは、これらの試験対策として市販されている書籍には上記のような設計知識に関する説明がなされていると考えられます(そうでないと問題が解けないので)。そこだけをチョイスして習得するのです。
例えるならば、設計に関する教科書を情報処理試験のテキストで代用してしまおう!ということです。だから、ここでの目的はあくまで汎用的能力・スキルを修得することと考えてください。
ただ、資格の話をし出すと、ほぼ決まり文句として出てくるフレーズがありますよね。アレですよ、アレ。
「いくら資格を持ってても、実務じゃ役に立たないって。やっぱり、現場で覚えてナンボでしょ!」
この考え方は正論を示している部分もあると思います。このように言われる人は、恐らく資格を持っていても実際の現場ではパフォーマンスを発揮できていなかった人をたくさん見てきた経験から言われているのではないかと思います。
しかし、このフレーズを字面どおりに受け取ってしまうと、「知識も経験もない状態でどうやってその仕事ができるようになるのか?」という新たな問題が出てきます。こうなってくると、解決策は「未経験でも仕事ができる現場に就く」しかなくなってきますが、会社や組織で制度や仕組みが確立されている場合を除いて、ほぼ運に左右されるのではないでしょうか。そういった運に頼ったキャリア形成を考えてしまうと、目指すキャリアに到達するかどうかも運任せになります。これは如何ともしがたいです。だからこそ、まずは資格や研修を使って最低限必要な汎用的能力・スキルを習得するのだと考えてください。
それでは、次に行きましょう。汎用的能力・スキルを身に付けたとして、それだけで目指すキャリアで仕事ができるでしょうか。答えはNoですよね。だって、さっきお話ししたようにどれだけ汎用的能力・スキルを修得したとしても、所詮は未経験なわけですから……。
ここで2つめの質問です。なぜ、未経験だと仕事に就けないのでしょうか?
…………
この答えはいろいろあると思いますが、集約すると、独力で仕事を遂行する能力・スキルがないと雇い主※に思われているからではないでしょうか。だとすれば、これを逆手に取って、雇い主に対して「独力で仕事を遂行する能力・スキルがある」と認めてもらうことができればよいわけです。この「独力で仕事を遂行する能力・スキル」をここでは「b.実務的能力・スキル」と呼びます。
つまり、実務経験がないのであれば、実務経験と同等の「実務的能力・スキル」を何かしらの方法で習得し、それを実務経験の代替として“雇い主”に認めてもらうのです。
※ここで言う“雇い主”とは、あなたが目指す仕事にあなたを就かせることができる権限を持つ人のことをいいます。
実務的能力・スキルは、目指すキャリアによっていろいろと変わってきますが、要求される実務経験の最初に「独力での~」、最後に「~経験」と付けてみるとそれが何か浮かび上がってきます。
実務経験:Linuxサーバ構築
↓
実務的能力・スキル:独力でのLinuxサーバ構築経験実務経験:プロジェクト・マネジメント
↓
実務的能力・スキル:独力でのプロジェクト・プロジェクト経験
ここで浮かび上がる実務的能力・スキルを何かしらの方法で実現させるのです。その方法は内容によって大きく変わってきますので一概には言えませんが、その人の置かれている状況から独力で経験を積める内容を考えていきます。筆者の経験上、OJT(On-the-Job Training)に近い内容になることが多いですが、対象が会社や組織内に限定されず、独力で行う点が少し違ってきます。
実務的能力・スキル:独力でのLinuxサーバ構築経験
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実現方法:普段使われていないPCにCentOSを独力でインストールし、用途に応じたWebサーバ(メールサーバ、ファイルサーバなど)を構築してみる実務的能力・スキル:独力でのプロジェクト・プロジェクト経験
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実現方法:簡単な開発プロジェクトを有志で立ち上げ、プロジェクト・マネージャとしてプロジェクト・マネジメントを行ってみる
尚、この実務的能力・スキルは想定する実務経験によって大きく内容が変わるため、単純に「独力での~」「~経験」では成立しないこともあります。その場合は、目標とするキャリアに到達する何段階か前の状態を暫定的なキャリアと見立て、そこに対して同様のアプローチして考えてみます。
それでは、今回も田中さんに意思決定の第2フェイズを考えてもらい、締めくくりましょう。
(意思決定:第1フェイズ)
「Androidアプリを作る部署はうちの会社にはない。だったら、いっそのこと仕事から離れたところで、独自でAndroidアプリを開発し、リリースするような方法はどうだろうか? 例えば、Androidアプリ開発コミュニティを立ち上げ、そこで気の合う仲間たちと、社会のニーズに合うAndroidアプリを作って提供する。そこにいる自分の姿を想像すると、やってみたい! という気持ちが高まってくる。それを目指すべきキャリアに定めてみよう!」
(意思決定:第2フェイズ)
a.汎用的能力・スキル
・Java言語の習得:Android技術者認定試験ベーシック
・設計能力の習得:UMLモデリング技能検定L2b.実務的能力・スキル
サーバと連動するAndroidアプリを自作してみたい。例えば、Androidと連動するグループウェアを社内で呼び掛けて有志で作ってみる。その際、設計書は必ず作成し、実際のアプリ開発に極力近い状態でやってみることで、実務経験の代わりにもなるんじゃないだろうか?
それでは、また次回お会いしましょう!