第7回 あなただけのキャリアを設計する(3)
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
「意思決定」のフェイズも第3フェイズまでやってきました。ここまでの流れで、あなたは本当に望む具体的な仕事が何であるかを明確し(第1フェイズ)、その仕事をするために必要な能力やスキルを汎用的能力・スキル、実務的能力・スキルの視点から明確にしました(第2フェイズ)。
この段階まで来たあなたは、目指すキャリアで仕事をするための準備を整えたといってもよいでしょう。それでは、早速第3フェイズの「目指すキャリアに就く方法を考える」に進みましょう!
そういえば、「第5回 あなただけのキャリアを設計する(1)」でこんなことをお伝えしました。
目標とするキャリアに必要な能力やスキルを身につけることと、そのキャリアで仕事に就くこととはまったく意味が違う
ご丁寧に太字+朱書きまでしていますが、今回の第3フェイズはこのことが密接に絡んできます。
そもそも、第2フェイズでは汎用的能力・スキルと実務的能力・スキルを身につける術を考えました。一見すれば、第2フェイズまで達成し、汎用的能力・スキル、実務的能力を習得できていれば、仕事には就けそうです。
しかし、「仕事に就けそう」と「仕事に就く」とは全く意味が違います。前者は仕事に就ける可能性を示しており、後者は仕事に就くという事実を示してます。つまり、どれだけ能力・スキルを身につけた所で、仕事に就くための行為をしなければ、いつまで経っても仕事に就くことはできず、目指すキャリアに到達することができません。だからこそ、この第3フェイズで実際に仕事に就く方法を考えるのです。
それでは、仕事に就く方法をもう少し細かく見てみましょう。例えば、これまで経験したことがない仕事に就こうとする場合、どんな方法が考えられるでしょうか?
「上司にお願いする!」
「社内の部署を変えてもらう!」
「転職する!」
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うーむ、いろいろと出てきますが、まだありそうな雰囲気がしますね……。このままだとちょっとまとまらないので、「就業場所」と「仕事の有無」で分類分けをして考えてみましょう。
■目指すキャリアに就くための方法(条件)
【1】目指す仕事の就業場所が会社内にある場合
【2】目指す仕事の就業場所が会社内になく、会社外にある場合
【3】目指す仕事の就業場所が会社内、会社外にない場合
これは、目指す仕事の就業場所で、実際にあなたが働くためにどのような行動を取ることが効果的かを考えようというものです。具体的には就業場所の雇い主※にあなたを雇ってもらったり、受け入れてもらうことが目的となります。この分類に基づいて、1つずつ見ていきましょう。
※ここでいう雇い主とはあなたと直接の雇用関係にある人のことではなく、あなたが目指す仕事にあなたを就かせることができる権限を持つ人のことをいいます。
【1】目指す仕事の就業場所が会社内にある場合
この場合、会社の中に目指す仕事がありますので、その部署に配置転換や部署異動することで実現させます。雇い主はその部署やプロジェクト・チームの責任者になることが多くなります。雇い主に対するアプローチは、あなたが所属する部署やプロジェクト・チームの責任者を通じて依頼していただくことが一般的ではないかと思います。ただ、もしあなたが積極的に動ける立場にいるのであれば、その雇い主に対して積極的にアプローチし、希望する部署やプロジェクト・チームへの異動を打診するのも1つの方法です。(ただし、あなたの所属する部署やプロジェクト・チームに迷惑をかけないことが大前提です!)
また、一般派遣など派遣契約で仕事をされているITエンジニアの場合、直接的な雇い主は派遣契約を結ぶお客様になりますが、その前段としてあなたを担当される営業職の方がいるはずです。まずは、その人に対してアプローチしてみましょう。
【2】目指す仕事の就業場所が会社内になく、会社外にある場合
この場合、2つのケースが考えられます。1つは会社の中で新たに目指す仕事を行う部門・部署を立ち上げるケース。もう1つは目指す仕事のある会社へ転職するケースです。どちらのケースを選択するかは、すでに意思決定の第1フェイズで決まっていますので、それぞれのケースに対応する動きを取っていきます。
【2-1】社内で新たに目指す仕事を行う部門・部署を立ち上げるケース
このケースにおける雇い主は、部門・部署を立ち上げる権限を持つ人ですので、一般的には部門長・所属長といった人に対するアプローチを行い、新たに部門・部署の設立し、その部門・部署に就くことで実現させます。
アプローチの方法については一概に決まったやり方はなく、その時々に応じた方法を考える必要があります。その中でも、企画書を作成し、雇い主に対してプレゼンテーションをするなどの方法は比較的行われることが多いと思われますので、ここでは、企画書の一例をご紹介します。
■社内で部門・部署を立ち上げる場合の企画書の例
・新たな部門・部署の業務内容(何をする部門・部署を立ち上げるのか?)
・新たな部門・部署を設立する意図(なぜ新たに部門・部署を設立する必要があるのか?)
・新たな部門・部署を設立するメリット(新たに部門・部署を立ち上げることで、会社や組織はどのようなメリットがあるのか?)
・新たな部門・部署を設立するデメリット(新たに部門・部署を立ち上げることで、会社や組織はどのようなデメリットがあるのか?)
・新たな部門・部署の設立コスト(新たに部門・部署を立ち上げる時の想定コスト)
・新たな部門・部署の設立メンバ(新たに部門・部署を立ち上げる時の設立メンバ・体制図)
・新たな部門・部署の設立スケジュール(新たに部門・部署を立ち上げる時の想定スケジュール)
【2-2】目指す仕事のある会社へ転職するケース
このケースにおける雇い主は、転職先の人事担当者(採用権を持つ人)になりますので、採用面接などでその人にアピールを行い、転職することで実現させます。ここでは、汎用的能力・スキルを習得していること、未経験だけどそれに替わる実務的スキル・能力を有していることをアピールすることで、採用確度を上げていきます。
また、採用に関してはヒューマン・スキル(コミュニケーション・スキル)を重視されることも多いため、それらのスキルも磨いておくことでアピールポイントを増やすことも効果的です。
【3】目指す仕事の就業場所が会社内、会社外にない場合
この場合、どこにも求めている仕事がないので、あなた自身が仕事を作り出さなければなりません。そのため、独立という選択を取ることで実現させます。従って独立に際して必要となる雇い主はいませんが、実際に仕事を始める上で、あなたに仕事を依頼する人が依頼主になります。
ここでの対応方法はその時の状況によって変わるため一概には言えませんが、これまでの【1】【2】の対処方法から最も合致するケースのアプローチを行います。
尚、この独立という選択肢は必ずしも現職を辞めて独立することだけではありません。状況に応じて、現職に就いたまま独立するということもあります。
ここまで、目指すキャリアに就くための方法を就業場所の視点から一つずつ取り上げてきましたが、これらを図でまとめると以下のようになります。
ちなみに、「第5回 あなただけのキャリアを設計する(1)」では、「理想とする仕事が会社や組織に存在しない場合の考え方」についてお話ししました。
ひょっとしたら、この考え方と今お話ししている「目指すキャリアに就くための方法」はどう紐づいているの? と思われる方がおられるかもしれませんね。このことに気付いたあなた、鋭いですっ!
これらの関連については、以下のように考えてください。
■「理想とする仕事が会社や組織に存在しない場合の考え方」と「目指すキャリアに就くための方法」の関連
a.その仕事に類似する仕事を探す
(社内で探す場合)【1】目指す仕事の就業場所が会社内にある場合
(社外で探す場合)【2-2】目指す仕事のある会社へ転職するケースb.新たにその仕事を会社や組織に作り出す
(社内に作り出す場合)【2-1】社内で新たに目指す仕事を行う部門・部署を立ち上げるケース
(社外に作り出す場合)【3】目指す仕事の就業場所が会社内、会社外にない場合
第3フェイズの注意事項として、第3フェイズでは実際に仕事に就くことを考えるため、他のフェイズと比較して難易度が高くなります。そのため、ある方法でうまくいかないと感じた場合は、別の方法を考えるなどして継続したアプローチを行う必要があります。
また、これは筆者の感覚ですが、キャリア・コンサルティングで意思決定まで進まれた人の中には、第3フェイズの途中で止まってしまうことがあります。これは、先ほどお話ししたように第3フェイズ自体の難易度が高いことも理由の1つとしてあげられますが、第2フェイズで自己の能力・スキルが上がったことに満足してしまい、そこから先の行動を起こさない(起こせない)ことも理由の1つとしてあるようです。
もし、第3フェイズで止まってしまい進めなくなった場合、無理に遅れを取り戻そうとするよりは、キャリアプランを練り直し、再スタートを切った方が効果的な場合もあります。
さて、ここまで6回に渡ってキャリア発見の流れを1つ1つ見てきました。ここで大切なことを1つ。キャリアというものは生きています。日々、常に形を変え、姿を変え、あなたの中でどんどん成長しています。常に同じ状態のままで居続けることはありません。
今回あなたが一生懸命に練りに練って作られたキャリアプランは、あくまでその時点でのキャリアプランです。あなたが前に進む限り、あなたの実情に沿ぐわないキャリアになってくることもあります。しかし、それは決しておかしなことではなく、自然なことなんです。その時は過去のキャリアプランをブラッシュアップして、また新たなキャリアプランを作り直しましょう。
キャリアプランは都度変わっていくものという認識を持ち、半年~1年に1度程度はあなたのキャリアの見直しを行うようにしてください。その積み重ねこそが、あなたを望むキャリアに近づけていく強い力となります。
それでは、毎回最後に登場していただいている田中さんのケースについて、意思決定の第1~第3フェイズまでを通して見てみましょう。
(意思決定:第1フェイズ)
「Androidアプリを作る部署はうちの会社にはない。だったら、いっそのこと仕事から離れた所で、独自でAndroidアプリを開発し、リリースするような方法はどうだろうか?
例えば、Androidアプリ開発コミュニティを立ち上げ、そこで気の合う仲間たちと、社会のニーズに合うAndroidアプリを作って提供する。そこにいる自分の姿を想像すると、やってみたい! という気持ちが高まってくる。それを目指すべきキャリアに定めてみよう!」
(意思決定:第2フェイズ)
a.汎用的能力・スキル
・Java言語の習得:Android技術者認定試験ベーシック
・設計能力の習得:UMLモデリング技能検定L2
b.実務的能力・スキル
サーバと連動するAndroidアプリを自作してみたい。例えば、Androidと連動するグループウェアを社内で呼び掛けて有志で作ってみる。その際、設計書は必ず作成し、実際のアプリ開発に極力近い状態でやってみることで、実務経験の代わりにもなるんじゃないだろうか?
(意思決定:第3フェイズ)
「目指すキャリアに就くということは、社外に新たにAndroidアプリ開発コミュニティを立ち上げ、そこでAndroidアプリを開発することになるな。
コミュニティツールには利用者も多いFacebookがいいかな。そこで参加者を募ってみよう。
そうなると、開発のスタイルは個人に開発を委ねることになるので、できれば定期的に集まれるよう近場の人たちを集めた方がいいなぁ。
また、開発をするにあたって、開発のルールや取り決め、資産の考え方をちゃんとしとかなきゃならない。
でき上がったAndroidアプリをどのように展開させるかも考えなくちゃ。
これらコミュニティ発足に必要な条件を洗い出して、1カ月後には開発がスタートできるよう、早速今から準備を始めよう!」
次回からは題名にあるとおり、ITエンジニアに対するキャリア・コンサルティングについて筆者の経験や考えを交えてお話ししていきたいと思います。(もちろん、5分で読める分量です♪)
それでは、また次回お会いしましょう!
コメント
Miguel-san
Thank you for having a column read!
Since I'll write a column useful from now on, please read.
Best regards
Career consultant Takahashi