第5回 あなただけのキャリアを設計する(1)
こんにちは、キャリア・コンサルタント高橋です。
キャリア発見の流れもいよいよ「意思決定」まで進んできました。ここまでの流れ、ちゃんと覚えてますか? 「意思決定」に進む前に軽く復習しておきましょう。
まず最初は「自己理解」でしたね。ここでは、自分が何のために仕事をしているのか? あなた自身の心の奥にある想いを知ることでした。あなたを仕事に突き動かす力は一体何か? それをじっくり考えてもらいました。
その次は「仕事理解」。ここでは、仕事をあなたの想いを具体化するための手段と捉えました。自己理解で得られたあなたの想いを、どのような仕事だったら叶えられるのか? それをじっくり考えてもらいました。
ところで、ここまでこのコラムにはよく“想い”というキーワードが出てきました。でも、想いだけで本当にキャリアを作れるモノなのでしょうか? ひょっとしたら、これまでのコラムをお読みいただいた方の中には、
「その人の想いや考えを大事にしろとか言うけど、そんな夢みたいなことばかりで、やりたい仕事に就けりゃ世話ないよ!」
と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、想像してみてください。
もし、その想いを本当に現実のキャリアとすることができる術があるとすれば、あなたはどうしますか? もし、そんな方法があるならば、その想いは、その人にとって本当に重要な価値になるのではないでしょうか? それを可能にするのが、この「意思決定」の段階なのです。それでは、ぼちぼち場も暖まってきた(?)ことですし、「意思決定」について考えてみましょう!
さて、「意思決定」ですが、これまでの話を摘まんでみると「自己理解」「仕事理解」で得られた内容を統合して現実のモノとする、というのは何となくお分かりになると思います。ですが、これだけだと曖昧な感じがしますので、もう少し細かく考えてみましょう。
これは筆者が普段から行っている意思決定のやり方ですが、ここでは意思決定を3つのフェイズに分けて考えます。
■意思決定の3フェイズ
第1フェイズ:目指すキャリアを考える
第2フェイズ:目指すキャリアに必要な能力・スキルを考える
第3フェイズ:目指すキャリアに就く方法を考える
第1フェイズでは、「仕事理解」で得られた仕事や職業をあなたの周りにある現実に置いてみた場合、どのような仕事や職業になるかを考えます。ここで決められた仕事や職業こそが、本当にこれからあなたが目指すべきキャリアとなります。
第2フェイズでは、目指すべきキャリアと現状のあなたとの間に能力やスキルに差がある場合、その差をどうやって埋めるかを考えます。自分の能力と目指すべきキャリアに差がある場合、「未経験OK! あなたのやる気のみを求む!」のような根性論を語っているだけでは、目指すキャリアに到達することは難しいでしょう。ここでは、目標とするキャリアで仕事をするためには、そのキャリアで仕事が行えるだけの十分な能力やスキルを有していることを前提に考え、足りない能力やスキルをどうやったら補えるかを考えます。
第3フェイズでは、実際に目指すキャリアで仕事をするために、どうやったらその仕事に就くことができるのか、その方法を考えます。目指すキャリアが決まり、そのキャリアで仕事をするだけの能力やスキルも身に付けました。しかし、それだけではその仕事はできませんよね? だって、具体的にその仕事に「就く」ことをしていないから……。ここでは、目標とするキャリアが決まり、そこで仕事をするための十分な能力やスキルを有することができたとして、どうやったら目標とするキャリアで仕事に就くことができるのか、その方法を考えます。
これが意思決定の3フェイズの概要ですが、ここで1つ覚えておいていただきたいことがあります。それは、
目標とするキャリアに必要な能力やスキルを身につけることと、そのキャリアで仕事に就くこととはまったく意味が違う
ということです。
これは、IT系の資格取得などで言えることですが、資格を持っていることでその資格に関連する仕事が行える業種独占資格と違い、IT系の資格は自己能力やスキルの客観的判断として位置づけられています。そのため、資格を取っただけでは、その資格に関連する仕事に就くことができません。ですので、キャリア形成を考えた場合、資格は取得することも大事ですが、資格を修得した後にその資格をどうしたいのかを考えておく必要があります。
それでは、ここからは意思決定の3フェイズを1つずつ見ていくことにしましょう。
意思決定の最初のフェイズは「目指すキャリアを考える」でした。意思決定の前の仕事理解の段階では、理想とするキャリアを考えてもらいました。ここでは、その仕事が本当に目指すに値する仕事かどうかを吟味します。もし、その仕事があなたの会社や組織に存在する仕事であるなら、その仕事に就ける可能性はあるかもしれません。しかし、その仕事があなたの会社や組織に存在しない仕事だった場合はどうすればいいでしょうか? この場合、2通りの考え方があります。
■理想とする仕事が会社や組織に存在しない場合の考え方
a.その仕事に類似する仕事を探す
b.新たにその仕事を会社や組織に作り出す
要するに、あなたが望む仕事が会社や組織にないのであれば、望む仕事に近い別の仕事に切り替えるか、望む仕事を会社や組織に作り出すか、このいずれかで目指すキャリアを探し出します。
「a.その仕事に類似する仕事を探す」場合、望む仕事に込めているあなたの想いを実現できる、別の仕事を考えることになります。この時、その仕事は会社や組織ですでに行われている仕事が望ましいです。
例えば、斉藤さんというITエンジニアに登場してもらいましょう。斉藤さんはWebアプリケーション開発を10年経験してきたベテランエンジニアです。その斉藤さんが自己理解、仕事理解を行った結果、このように考えになりました。
自己理解:人と接することが好きで、人に何かを教えることに喜びを感じる
仕事理解:教師のような仕事をやりたい
でも、斉藤さんの周りには、教師のような仕事はありません。そこで、教師のような仕事に類似する斉藤さんの想いから外れない別の仕事を探してみました。そうした所、社内の研修組織の一員となり、Webアプリケーション開発を指導する講師になるという仕事を探し出しました。斉藤さんはこの仕事に就いた自分の姿を想像するとワクワクするそうです。つまり、この仕事こそが斉藤さんにとっての目指すべきキャリアとなった訳です。
ところで、もし斉藤さんのケースで社内に研修組織がなかった場合を考えてみましょう。この場合、「b.新たにその仕事を会社や組織に作り出す」を使って考えます。これは、既に仕事理解で考えられている仕事や「a.その仕事に類似する仕事を探す」で会社や組織にその仕事がなかった場合に、会社や組織で新たに作り出すことができないか? と考えます。
斉藤さんはITエンジニアですので、ITエンジニアに何かを教える教師のような仕事をやりたいと思っています。しかし、社内や組織には研修組織がありません。そこで、斉藤さんは社員教育の重要性を会社や組織に訴え、研修組織を新たに作ることを計画しました。そして、研修組織ができた暁には自らそこで教鞭を奮うことを考えています。斉藤さんはそんな自分の姿を想像すると、またもやワクワクするそうです。つまり、この仕事も斉藤さんにとって目指すべきキャリアとなりました。
さて、今回はここまでにしましょう。最後に、毎回登場していただいている田中さんにも意思決定の第1フェイズまでを考えてもらうことにしましょう。
(仕事理解)
「ITエンジニアとしてモノづくりを続けていきたい。しかし、大きなシステム構築より、自分1人の力で何とかなるレベルの方がより実感が湧くと思う。だから、思い切ってAndroidアプリの開発を仕事にできたらいいなぁと思う。Androidアプリを作ってスマートフォンを使う人の利便性を向上できたら最高じゃないか!」
(意思決定:第1フェイズ)
「Androidアプリを作る部署はうちの会社にはない。だったら、いっそのこと仕事から離れた所で、独自でAndroidアプリを開発し、リリースするような方法はどうだろうか? 例えば、Androidアプリ開発コミュニティを立ち上げ、そこで気の合う仲間たちと、社会のニーズに合うAndroidアプリを作って提供する。そこにいる自分の姿を想像すると、やってみたい! という気持ちが高まってくる。それを目指すべきキャリアに定めてみよう!」
それでは、また次回お会いしましょう!