第590回 7つの習慣とアジャイル
こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。
最近はプロマネ系の研修を多く担当させてもらっておりますが、その流れでアジャイルやスクラムについてお話しすることが増えてきています。このアジャイルという考え方はソフトウェア開発に留まらず、広く汎用的に使われる仕事への取り組み方だと私は思っています。
一方、私は7つの習慣のファシリテーターも務めさせてもらっているのですが、最近アジャイルの話が増えてきたことで、7つの習慣をアジャイルを通してみてしまう所があります。そうした所、私の中では7つの習慣はアジャイルを取り入れているのではないか、と思うようになりました。そこで今回は7つの習慣とアジャイルについてお話ししたいと思います。
■アジャイルとは
アジャイルについては過去のコラムで書いていますので一部抜粋して再掲します。
このウォーターフォールの考え方は計画が前提にあります。しっかりとした計画を立てその計画の通りにプロジェクトを進めていくことで成果物を作成する。このような手法を予測型アプローチと呼ばれています。
なぜ「予測型」なのか? それは計画を立てるという行為が未来を予測して立てるからです。色んなことが起こることを想定し、それを計画に盛り込む行為は予測そのものですよね。このような予測型アプローチでのプロジェクトを多くの結果を残した半面、ある課題を生み出すことになります。
それは「計画外のことが起きたらどうするのか? 」です。これに尽きます。
(中略)
アジャイルはこの問題に対して真っ向から取り組んでいる手法です。
アジャイルは想定外のことが起こる前提で考えられています。想定外の出来事を不確実性と呼んだりしますが、アジャイルはこの不確実性を踏まえた上でプロジェクトを進めていきます。それは、
「求められていることをいち早く提供することで価値を創出する」
(中略)
この方法はその場その場で最適な方法を検討し適応させていくということで適応型アプローチと呼ばれます。
このようにアジャイルは早期に価値を生み出す仕組みであり、既にアメリカではウォーターフォールよりもアジャイルの方が開発の主流になっているそうで、テスラやアマゾンなどの企業は完全にアジャイルの手法で開発が進められているのだそうです。
ちょっと長くなってしまいましたが、アジャイルはウォーターフォールに対する概念として生まれ、計画重視で物事を進めていくことで価値を生み出すのではなく、求められていることをいち早く提供することで価値を生み出そうとする考え方です。
■7つの習慣における私的成功の流れをアジャイルに重ねてみる
一方、7つの習慣では依存から自立に至る人格の成長として、
第1の習慣:主体的である(すべての習慣の土台)
↓
第2の習慣:終わりを思い描くことから始める(知的創造)
↓
第3の習慣:最優先事項を優先する(物的創造)
という流れを踏みます。第1の習慣はすべての習慣の土台となる習慣で、この習慣を身につけることで次に第2の習慣で自分の目指すべき姿をミッション・ステートメントという形で明確にします。これを知的創造と言います。そして、次の第3の習慣では知的創造を現実にするための活動を行っていきます。これを物的創造と言います。例えるならば、この知的創造と物的創造の関係は、建物の設計図が知的創造(第2の習慣)で、実際に建物を建てることを物的創造(第3の習慣)のようになります。
ここで、第3の習慣である物的創造をもう少し詳しく見ていきます。こちらも過去のコラムがありますので、その内容を一部抜粋して再掲します。
7つの習慣では重要なことにフォーカスし、重要でないことを無くしていくことを勧めています。ここでいう「重要でないこと」とはQ3領域、Q4領域を表しています。そして、この第3の習慣「最重要事項を優先する」の「最重要事項」とはQ2領域のことを表しています。
(中略)
何が私たちにとって最重要事項になり得るのか? それはミッション・ステートメントに基づいた行動です。第2の習慣では私たちの目指したい姿、なりたい自分、到達したい場所をミッション・ステートメントとして表しました。
(中略)
このQ2領域の活動を増やすための考え方に「大きな石」があります。例えば、ここにバケツがあるとします。このバケツは私たちの1日の時間を表しています。そして、そのバケツにはたくさんの石が入るようになっています。この石は私たちの普段の活動を表しています。「大きな石」もあれば「小さな石」もあります。ここでいう大きな石はQ2領域の石、小さな石はQ3領域、Q4領域の石だとします。
(中略)
だから、大きな石は最初に入れなければなりません。最初に大きな石を入れた後、小さな石を入れる。その結果、小さな石はバケツから溢れてしまうかもしれません。しかし小さな石はQ3領域、Q4領域だから入らなくても構わないのです。例えば、目的もなくダラダラ動画を見て過ごす時間はQ4領域です。こういった活動は別に私たちの生活から溢れてしまっても特に大きな影響はないですよね。
(中略)
この考え方を実際に行うには1週間の計画にあらかじめ大きな石(Q2領域)をあてはめてしまえばできます。週の初めにその週に行うQ2領域を1つか2つ程度をスケジューリングしておきます。そうして、後の時間はその時々に応じた活動をすれば、自然と私たちは私たちは最優先事項を優先することができるようになります。
こちらも少し長くなってしまいましたが、要するに重要なことと緊急なことを洗い出し、重要なこと(=ミッション・ステートメントに関する内容)を優先してやっていこうということです。そのためには、1週間という枠の中で最も重要なことである「大きな石」を最初に1つか2つ入れるようなスケジューリングである「週間計画」を立てることを推奨しています。
実はここがアジャイルと非常にマッチしているのです。
アジャイルでは同じタイミングのサイクルを回しながら作業が進んでいくのですが、このサイクルのことをイテレーションやスプリントと呼びます。その期間は概ね1~4週間程度です。アジャイルにおける詳細なスケジュールはそのイテレーション/スプリントの範囲内で作られます。そのため、次のイテレーション/スプリントの詳細なスケジュールはそのイテレーション/スプリントがスタートするまで決まってないのです。
これを先ほどの週間計画に置き換えてみると、週間計画もその週のスケジュールしか立てず、翌週、翌々週といった先々のスケジュールは立てません。あくまで直近の週に限定したスケジュールです。しかも、週間計画の期間である「1週間」という期間はイテレーション/スプリントで用いられる期間でも用いられます。
勿論、週間計画とイテレーション/スプリントが完全に同義であるとは言い難い部分はあるかもしれません。しかしながら、「1週間」というサイクルで繰り返しスケジュールを立てその中で重要なことを実践して行こうという考え方は、アジャイルにおける短い期間で繰り返しながら早期に価値を創出しようとする概念と非常に近しいモノであると私は考えます。
私たちの目指す姿であるミッション・ステートメントを実現するために、繰り返し短い期間(=1週間)で価値(=大きな石)を実現し続けること
これは最早アジャイルと呼べるのではないでしょうか。
■7つの習慣とアジャイル
7つの習慣は1989年に発刊されており、それはアジャイルソフトウェア開発宣言が出された2001年よりも10年以上も前になります。そのため、7つの習慣の著者であるコヴィー博士はアジャイルという概念を知らなかったはずですが、それでもアジャイルに近しい概念が7つの習慣に組み込まれているのは感慨深いものがあります。
7つの習慣は様々な方が研究されていますが、こうしたアジャイルという側面から7つの習慣を照らしてみるとまた新しい発見があるのだなぁと感じました。そして、この発見はこれからも7つの習慣の実践を続けていきたい、そんな気持ちにさせてくれました。