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第587回 オウム返しを考える

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 こんにちは、キャリアコンサルタント高橋です。

 Kyonさんのコラムを読ませていただきました。このことは私も良く指導させてもらう内容なので、今回はKyonさんのコラムから私の見解を書きたいと思います。

■傾聴の構造を整理する

 まずはKyonさんのコラムをご覧ください。

正しく情報を受け取れているか

 この内容は本当に的を得ており、傾聴のトレーニングをされる方は誰しもが通る道だと私は思います。

 この話に対して私の見解をお話しする上で、なぜ正しく情報を受け取れている必要があるのかを考えてみたいと思います。

 この話をする上で不可欠なのは傾聴の構造です。ちょっと話がずれますが、日本語で「きく」という言葉には3つの漢字が当てはまるのだそうです。

訊く(ask)」...尋ねる、質問、能動的な表現
聞く(hear)」...音が耳に入ってくる状態、受動的な表現
聴く(listen)」...自ら聴こうとする行為、能動的な表現

 一般的に傾聴というと「聴く(listen)」をイメージされる方が多いのではないかと思いますが、これだけだと絶対に会話は成立しません。なぜなら、聴いた後にこちらから言葉を発しなければならないからです。それが「訊く(ask)」なのです。

 つまり、傾聴とは相手の話を「聴く(listen)」できいて、「訊く(Ask)」できく行為なのです。この「聴く(listen)」も「訊く(Ask)」もどちらも能動的な表現であることから傾聴をアクティブ・リスクニング(Active Listening)と呼んだりもします。

 そして、この「訊く」つまり質問には型があります。それはこのようになっています。

質問=内容+訊き方

 質問の内容は会話の数だけありますので、ここでは訊き方をみています。

オープン・クエスチョン(開かれた質問)
クローズド・クエスチョン(閉じられた質問)

 訊き方(質問)はこの2種類しか存在せず、必ずどちらかの方法を使います。ここで重要になるのはそれぞれの役割です。

 オープン・クエスチョンは「開かれた質問」とあるように相手の答えを限定せず自由な発想で答えてもらう質問の仕方です。例えば、「今回のコラムはいかがですか?」のように訊くと、読まれた方は思い思いに答えられますよね。そのため、この訊き方は傾聴に向いているとされています。

 一方、クローズド・クエスチョンは「閉じられた質問」とあるように相手の答える範囲を限定する質問の仕方です。こちらは「今回のコラムは良かったですか?」のように訊くと、読まれた方は「はい」か「いいえ」のどちらかで答えます。これは答えを限定していると言えます。

 そして、ここが重要なのですが、このクローズドクエスチョンは質問ではなく確認をするためにあります。例えば、

「明日、10時集合ですよね?」

 この質問に対する答えは「はい」か「いいえ」ですが、これは質問ではなく10時集合であることを確認していますよね。このようにクローズド・クエスチョンというのは確認のために使われます。そのため、傾聴においてはオープン・クエスチョンの後に使うことが望ましいです。

 なぜならば、オープン・クエスチョンでは自由な発想で答えてもらうため、答えた当人もうまく理解できていないことがあるのです。そのため、オープン・クエスチョンで答えた内容をクローズド・クエスチョンで確認することで、相手は自分が話した言葉を自分自身で確認し腹落ちさせることができるのです。

 これが傾聴の構造です。

■オウム返しを考える

 ここからが本題です。例えば、このようなやり取りがあったとします。

「これから先やってみたいことを教えてください」(オープンクエスチョン)

「そうですね...、やっぱり自分をもっともっと表現できる生き方がやりたいですし、同時にお金も欲しいです。友人関係も充実させて週末にはみんなが集まってワイワイできるような生き方もしたいし、それで一人でじっくり学びを深めていくようなこともやってみたいです。あっ、こう見えて多趣味なので趣味の時間も欲しいですね。こうやってみると、色々ありますね(笑)」

 このように答えられたとします。この言葉は相手にとってイメージの中から生み出された言葉なので、まだ相手自身もはっきり理解できておらず腹落ちしていません。そこでクローズド・クエスチョンで確認してみたいのですが、あなたならどうやって返しますか?

 恐らく、多くの方が話の内容を要約して返されるのではないでしょうか?

 では、なぜ要約で返すのでしょうか?

 要約が便利だから? 私の考えは違います。それは、オウム返しができないからです。

 本来、相手の言葉をまっすぐ返すなら相手の言葉をそのまま返すオウム返しが最も適しています。しかし、実際にやってみると分かりますが、オウム返しという技法は結構難易度が高く、訓練していないとまともにできません。

 確かに要約は便利なのですが、要約を使う場合考えなければならないことがあります。それは、要約するポイントによって確認する内容が変わってしまう可能性があるため、対話を進める上でどこを要約するかを考えなければならないのです。こうしたことをせずにただ要約だけをやってしまうと、話が長かった場合に話の最後の部分だけを要約しようとします。これだと傾聴の真似事をしているに過ぎません。。。

 こうしたことから、私が指導する場合、オープン・クエスチョンの後のクローズド・クエスチョンでは極力オウム返しをすることを勧めています。技術的には難しくなりますが、これができるようになると相手の話を正しく受け取り返すことができるようになるからです。

■基本に忠実であること

 オウム返しという技法は誰でも知っている基本的な技法ですし、一見すると簡単のように見えます(実際にはかなりの難易度です)。しかし、こうした基礎的な技法こそ何度も訓練する必要があると私は思います。

 そして、基礎を重視している人は会話が丁寧になります。相手の話す話題をこぼすこともないですし、事柄、気持ち、意図と言った部分への深掘りもしっかりできています。

 どんなことでもそうですが、まずは基本に忠実であること。そしてそれを何度も繰り返し行い、意識せずとも自然に出せるようにすること。結局のところ、こうしたことが対話の技術を高めていく近道のような気がしています。

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